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第二章
Curry du père 其の九
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「親父は客の事しか考えてなかったんだよ」
「毎月手元に残る金はわずかで、バイトも雇えずお袋も働きづめ。大学に進学する費用さえなかった」
(そんな……)
美味しい料理を作ってくれるオーナーに、いつも笑顔の奥さん。
私には二人がとても幸せそうに見えていたのに……。
「親父もこの店も嫌になって、高校卒業してすぐ住み込みできるレストランに就職して金貯めて、フランスに渡ったんだ」
「でも……圭吾さんはまたここに戻ってきて、お店を継いだじゃないですか……」
本当に嫌なら店を継ごうなんて……お父さんの後を継ごうだなんて思わないんじゃないだろうか。
本当はお父さんの事……。
そんな心情を見透かしたかのように、彼は違うと笑った。
「この店に思い入れなんてないよ。二人が居なくなって店も畳もうとしたけど……ふと思ったんだ。俺が親父のやり方は間違いだったと証明しようって」
「証明……ですか?」
「そう、証明。親父よりも美味しい料理を作って客を喜ばせる。もちろん食材にもこだわるよ、でも俺は親父みたいに利益を考えずに作ったりしない」
そう言うと圭吾さんは席から離れ、レジ横に置かれた缶詰を持ってくる。
「例えばこれ、農家の人が作った惣菜の缶詰」
「直売所で販売してて、他にもジャムとかお菓子もあって結構人気なんだ」
「形が悪いものでも調理して付加価値をつければ高値で売れる。その為のレシピを考える代わりに仕入れ単価を下げてもらってるんだ」
「農家も助かるし俺も助かる、一石二鳥だろ?」
「他の食材も新鮮なものを出来るだけ安く手に入るよう考えてる。俺は親父みたいにはならない、お袋が倒れるまで働かせようとした親父にはね。客も家族も幸せになれるような店を作るんだ。それを証明する為にこの店を再オープンさせたんだ」
そう言って笑顔を見せる圭吾さん。
でも、なぜだろう……その表情はぎこちなく感じる。
漠然とした気持ちのまま見つめていると、彼は困ったような表情を浮かべ、溜息をついた。
「そんな顔で見つめられると困るんだけど……」
「え…?」
「見透かされてるような気持ちになる……」
圭吾さんはもう一度溜息を付いてから、椅子をくるりと回し店内を眺めた。
「……店を再オープンさせて、親父の常連客だった人も俺の作る料理を美味しいって言ってくれたんだ」
「でもみんな……最後は親父の料理をもう一度食べたいって言うんだよ。特にあのカレーが食べたいって」
〝みんな同じ事言うんだな〟
以前、彼が呟いた言葉を思い出した。
「だから作ろうとしたんだ! あのカレーをっ! いや! それ以上のカレーを!!」
「……だけど、なぜかできないんだ。同じように作っても……何か物足りない。どうすればあれ以上のものが作れるのかも分からないっ! どうして……どうしてできないんだっっ!!」
彼はドンッ、とカウンターに握り拳を叩きつける。
(圭吾さん……)
私の何気ない一言が彼を傷つけてたんだ。
(もしかしてあの時、栄慶さんが帰ろうって言ったのはその事に気づいたから? あれ以上私が何か言わないように止めてくれたの……?)
「ごめんなさい、私……何も分かってなくて……」
「あ、いや、こちらこそごめん。君が悪いわけじゃないから、気にしないで? 別に意地になって作るものでもないんだからさ」
彼はハハハと笑いながら席を立ち、カップを持ってカウンターの中へと戻る。
その横顔はあの時と同じ……寂しそうな顔だった。
きっと本心から言ってるんじゃない。
「諦めちゃ駄目です!!」
私はカウンターに両手をついて立ち上がり、圭吾さんに向かって叫んだ。
「私オーナーのカレーが凄く好きでした。でも圭吾さんが作る料理も凄く好きです! だから貴方が作ったカレーも食べてみたいっ! 私、一緒に考えますからっ!! 何かできる事があれば言ってくれたら……」
そこでハッと我に返り、困惑した顔をしている彼に気づく。
「ご、ごめんなさい。私じゃ役に立たないですよね」
あーもうっ! 私ってば、何でこう勢いで言っちゃうのよっ!!
「で、でも、さっき言ったことは本心ですからっ、圭吾さんの料理、また食べに来ますからっ」
早口でそう言ってサイフを取り出す。
「あ、いいよ。今日は俺の奢り」
「え、でも……」
「その代わりと言っちゃ何だけど、まだ時間ある?」
「もう一度……作ってみようと思うんだ」
「ほっ、本当ですか!?」
「俺の料理がいいって言ってくれて嬉しかったよ。今なら……作れそうな気がするんだ」
「時間なら十分ありますっ、手伝える事があれば何でも言ってください!」
「ありがとう」
彼はとても嬉しそうにニコリと笑った。
「毎月手元に残る金はわずかで、バイトも雇えずお袋も働きづめ。大学に進学する費用さえなかった」
(そんな……)
美味しい料理を作ってくれるオーナーに、いつも笑顔の奥さん。
私には二人がとても幸せそうに見えていたのに……。
「親父もこの店も嫌になって、高校卒業してすぐ住み込みできるレストランに就職して金貯めて、フランスに渡ったんだ」
「でも……圭吾さんはまたここに戻ってきて、お店を継いだじゃないですか……」
本当に嫌なら店を継ごうなんて……お父さんの後を継ごうだなんて思わないんじゃないだろうか。
本当はお父さんの事……。
そんな心情を見透かしたかのように、彼は違うと笑った。
「この店に思い入れなんてないよ。二人が居なくなって店も畳もうとしたけど……ふと思ったんだ。俺が親父のやり方は間違いだったと証明しようって」
「証明……ですか?」
「そう、証明。親父よりも美味しい料理を作って客を喜ばせる。もちろん食材にもこだわるよ、でも俺は親父みたいに利益を考えずに作ったりしない」
そう言うと圭吾さんは席から離れ、レジ横に置かれた缶詰を持ってくる。
「例えばこれ、農家の人が作った惣菜の缶詰」
「直売所で販売してて、他にもジャムとかお菓子もあって結構人気なんだ」
「形が悪いものでも調理して付加価値をつければ高値で売れる。その為のレシピを考える代わりに仕入れ単価を下げてもらってるんだ」
「農家も助かるし俺も助かる、一石二鳥だろ?」
「他の食材も新鮮なものを出来るだけ安く手に入るよう考えてる。俺は親父みたいにはならない、お袋が倒れるまで働かせようとした親父にはね。客も家族も幸せになれるような店を作るんだ。それを証明する為にこの店を再オープンさせたんだ」
そう言って笑顔を見せる圭吾さん。
でも、なぜだろう……その表情はぎこちなく感じる。
漠然とした気持ちのまま見つめていると、彼は困ったような表情を浮かべ、溜息をついた。
「そんな顔で見つめられると困るんだけど……」
「え…?」
「見透かされてるような気持ちになる……」
圭吾さんはもう一度溜息を付いてから、椅子をくるりと回し店内を眺めた。
「……店を再オープンさせて、親父の常連客だった人も俺の作る料理を美味しいって言ってくれたんだ」
「でもみんな……最後は親父の料理をもう一度食べたいって言うんだよ。特にあのカレーが食べたいって」
〝みんな同じ事言うんだな〟
以前、彼が呟いた言葉を思い出した。
「だから作ろうとしたんだ! あのカレーをっ! いや! それ以上のカレーを!!」
「……だけど、なぜかできないんだ。同じように作っても……何か物足りない。どうすればあれ以上のものが作れるのかも分からないっ! どうして……どうしてできないんだっっ!!」
彼はドンッ、とカウンターに握り拳を叩きつける。
(圭吾さん……)
私の何気ない一言が彼を傷つけてたんだ。
(もしかしてあの時、栄慶さんが帰ろうって言ったのはその事に気づいたから? あれ以上私が何か言わないように止めてくれたの……?)
「ごめんなさい、私……何も分かってなくて……」
「あ、いや、こちらこそごめん。君が悪いわけじゃないから、気にしないで? 別に意地になって作るものでもないんだからさ」
彼はハハハと笑いながら席を立ち、カップを持ってカウンターの中へと戻る。
その横顔はあの時と同じ……寂しそうな顔だった。
きっと本心から言ってるんじゃない。
「諦めちゃ駄目です!!」
私はカウンターに両手をついて立ち上がり、圭吾さんに向かって叫んだ。
「私オーナーのカレーが凄く好きでした。でも圭吾さんが作る料理も凄く好きです! だから貴方が作ったカレーも食べてみたいっ! 私、一緒に考えますからっ!! 何かできる事があれば言ってくれたら……」
そこでハッと我に返り、困惑した顔をしている彼に気づく。
「ご、ごめんなさい。私じゃ役に立たないですよね」
あーもうっ! 私ってば、何でこう勢いで言っちゃうのよっ!!
「で、でも、さっき言ったことは本心ですからっ、圭吾さんの料理、また食べに来ますからっ」
早口でそう言ってサイフを取り出す。
「あ、いいよ。今日は俺の奢り」
「え、でも……」
「その代わりと言っちゃ何だけど、まだ時間ある?」
「もう一度……作ってみようと思うんだ」
「ほっ、本当ですか!?」
「俺の料理がいいって言ってくれて嬉しかったよ。今なら……作れそうな気がするんだ」
「時間なら十分ありますっ、手伝える事があれば何でも言ってください!」
「ありがとう」
彼はとても嬉しそうにニコリと笑った。
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