憑かれて恋

香前宇里

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第二章

Curry du père 其の十二

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 カタ……カタカタ……


     カタカタ……カタ……



 ネットの検索画面に、ノロノロと文字を打ち込み検索をかける。


『霊を視る方法』



『霊を感じる方法』



『霊と話をする方法』



 表示された検索結果を確認していくが、どれも信憑性のないものばかり。
「はぁ……」
 昨日、あれからずっと考えているが、解決方法はまだ見つからない。
 いつもより早く目が覚めた私は、まだ誰も出社していない編集部で一人、パソコンと向き合っていた。
 来月号に載せる記事のタイムリミットも差し迫ってるのに、焦りだけが募っていく。
 どうすれば視えない人が視えるようになるんだろう……どうすれば視えない人に伝える事ができるんだろう……。
 どうすれば圭吾さんに信じてもらえる?
「はぁ……、全然わかんない……」
 私は頭を抱え、画面から目をそらした。



「行き詰ってるようだね?」
「編集長!」
「おはよう、室世君」
 挨拶と同時に、彼は缶コーヒーを私のデスクに置く。
「え、あっ、おはようございますっ!」
(嘘、もうそんな時間!?)
 慌てて壁の時計を確認すると、まだ始業時刻より1時間くらい余裕があった。
 ほっと胸を撫で下ろし、ニコリと笑顔を向ける編集長にお礼を言いつつ、コーヒーを口に含む。
「あ、美味しい」
「でしょ? これ昨日発売されたばかりなんだ」
「僕はまだ飲んでないけど、今日からコレに変えようと思ってね」
「編集長……この前まで『極上の微糖が一番だ。他のコーヒーは飲めないねっ』って言ってませんでしたっけ?」
 その変わり身の早さに思わずプッと笑ってしまう。
「だってほら、ここに【極上のコクと旨みの最高傑作】って書いてあるんだよ? その名も【究極の微糖】、きっと美味しいに違いない」
「単純すぎますって!」
 アハハ、と声を出して笑ってしまった。
「うん、室世君は笑顔がよく似合うね」
 女性が落ちてしまうだろう定番のフレーズを、彼は恥ずかしげもなく言葉にして、優しい笑みを浮かべる。
(編集長……)
「そして僕も笑顔が似合うんだ」
(ナルシス編集長……)
 一瞬、胸がキュンとしたのは気のせいだという事にしておきます。
 ……でも、何だか気持ちが楽になったかも。
「一人で考え込んで、それで結論が出ないなら周りに聞いてみるのも一つの手だよ」
 そう言って編集長はPC画面に視線を移し、私が検索していた内容を確認する。
 確かにそうかもしれない。
 でも……ガイストに入社してから、栄慶さん以外の人に、自分が〝視える人間〟だと話した事はない。
 はたして信じてくれるのだろうか……。
「室世君……」
 う~んと悩む私に、彼は少し呆れたような表情を向けて名前を呼ぶ。
「僕、オカルト雑誌の編集、十年以上してるんだけど?」
「……あ」
 今更ながら、ここがどういう部署で、どういう人たちが集まってる場所なのか、改めて再認識する。
(っていうか、人の心読まないで下さいよ)
「君って、思ってる事、表情に出やすいんだよ」
 う~~。
 何か前にも同じようなやり取りした気がするんだけど……。
 思わず両手で頬を隠す。
(そんなに分かりやすい顔してるのかしら)
「それが君の良い所でもあり、悪いところでもある、かな?」
 編集長はクスクスと笑いながら隣の席に座り、聞く体制に入る。


 これはもう覚悟を決めるしかないよね。


 私は昨日あった事を包み隠さず話す事にした。
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