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第二章
Curry du père 其の十九
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――――真っ暗な空間。
目を閉じたはずなのに、あたかも暗闇の中に立っているような錯覚を覚える。
何故自分がここにいるのか分からない状態のまま呆然としていると、後ろから真っ直ぐな光が伸び始め、その先に映像が映し出された。
(これって、サン・フイユの店内?)
モノクロで映し出されたその映像は、さっきまで私がいた場所。
(あれは?)
カウンターの中に、背を向けた男性の姿が映し出される。
一瞬、圭吾さんかと思ったけど、あれは……
(オーナー?)
彼はカウンターに背を向けて何かを見ていた。
ビデオカメラで撮影しているかのように、その映像がオーナーへと近づいていく。
彼が見てるのは……
(写真……)
壁に掛けてある、幼い圭吾さんが写った家族写真。
オーナーは暫く目を細めながらそれを見ていたかと思うと、ゆっくり壁から取り外し、裏返した。
そして……
(何か、貼り付けてる?)
それが何なのか確認しようとすると、映像が遠退き始める。
『待って! もう少しだけっ』
映像と共に光も消え始め、再び辺りは暗闇に包まれてしまう。
そして代わりに誰かの叫ぶ声が聞こえ始めた。
――――
――――
――――か
「ん……っ」
「大丈夫か!!」
「あ……」
両肩を揺さぶりながら叫ぶ、圭吾さんの慌てた声で目が覚めた。
「わ……たし……? 今……何を……?」
「びっくりしたよ、急に固まったように動かなくなったからさ」
「大丈夫か? どこか具合でも……」
「あ、いえ……大丈夫ですからっ」
慌てて手を振って答えながら、さっき見たものを思い出す。
モノクロの映像……。
まるで過去を映し出していたかのような……。
「――っ!!」
「あのっ、ちょっと失礼します!」
「え?」
心配する彼の横をすり抜け、カウンターの中へと足早に移動する。
そして壁に掛けられた写真立てを慎重に取り外し、裏返すと……
「……これ……」
「一体どうしたんだ急に」
駆け寄ってきた彼に、私は剥がしたそれを見せた。
「――――鍵?」
裏に張り付けられていたのは、小さな鍵。
「これ、何の鍵でしょうか?」
圭吾さんは鍵を受け取り少し考えてから、もしかして……と、入口近くのレジカウンターへと向かった。
そのカウンターの内側には引き出しが二つ付いており、一方にだけ鍵がかかるようになっていた。
「ここの鍵だけどうしても見つからなかったんだ」
「どうせ大したものは入ってないだろうと思って、そのままにしてたんだけど」
そう言いながら鍵穴に差し込むと、カチリ……と鍵が開く音がした。
私達は顔を見合わせた後、ゆっくりと引き出しを開けて中を確認する。
中に入っていたのは……
「……写真?」
そこにはコックコートを着た年配の男性と、同じような恰好をした若かりし頃の圭吾さんが写っていた。
「ああ……これ、料理長と一緒に撮ったやつだ。懐かしいな……ここを出てすぐ働き始めた頃のだ」
「お袋に心配するなって、手紙と一緒に送ったんだっけ」
圭吾さんはフッと笑みを浮かべながらそれを眺める。
「この頃は失敗ばかりして、何度も料理長に怒られたっけ」
「凄く厳しい人だったんだけど、褒めてくれる時は凄く褒めてくれてさ……」
嬉しそうにその当時の事を語り出した彼に、私は少し安堵する。
(本当に料理が好きなんだな……)
「あ、ごめん。一人でペラペラとしゃべって」
「いえ、圭吾さんの昔話が聞けて良かったですよ?」
ふふっ……と笑みを浮かべて答えると、彼は微かに顔を赤らめたかと思うと慌てたように引き出しの中に手を入れる。
「あーっと……他には何かあるかなー……」
「ん? これは……」
手に取ったのは、少し分厚い1冊のファイル。
圭吾さんはパラリと中を確認する。
「ああ、これ親父のレシピ集だ。ないと思ってたらこんな所に入ってたのか」
中にはオーナーが手書きで書いたと思われるレシピが、文字とイラストで書き記されていた。
所々専門用語らしき文字が使われている為、素人の私には難しくて分からないけど、とても丁寧に書き込まれているのは雰囲気から分かった。
圭吾さんはそれを真剣に読み進めていく。
そして最後の方のページをめくっていた時、何かが床に滑り落ちた。
「あ、私が……」
腰を屈め、落ちた物を拾い上げる。
それは小さく折り畳まれた薄用紙だった。
古い物なのか、紙の端が茶色く変色している。
私は破かないよう、ゆっくりと開いて中を確認する。
「これ……作文……?」
小学生のころ何度も書いた記憶のある、大きなマス目のついた作文用紙。
「これ、圭吾さんが書いたものじゃないですか?」
そこには3年6組 匡木圭吾、と彼の名前が大きく書いてあった。
題名は……。
目を閉じたはずなのに、あたかも暗闇の中に立っているような錯覚を覚える。
何故自分がここにいるのか分からない状態のまま呆然としていると、後ろから真っ直ぐな光が伸び始め、その先に映像が映し出された。
(これって、サン・フイユの店内?)
モノクロで映し出されたその映像は、さっきまで私がいた場所。
(あれは?)
カウンターの中に、背を向けた男性の姿が映し出される。
一瞬、圭吾さんかと思ったけど、あれは……
(オーナー?)
彼はカウンターに背を向けて何かを見ていた。
ビデオカメラで撮影しているかのように、その映像がオーナーへと近づいていく。
彼が見てるのは……
(写真……)
壁に掛けてある、幼い圭吾さんが写った家族写真。
オーナーは暫く目を細めながらそれを見ていたかと思うと、ゆっくり壁から取り外し、裏返した。
そして……
(何か、貼り付けてる?)
それが何なのか確認しようとすると、映像が遠退き始める。
『待って! もう少しだけっ』
映像と共に光も消え始め、再び辺りは暗闇に包まれてしまう。
そして代わりに誰かの叫ぶ声が聞こえ始めた。
――――
――――
――――か
「ん……っ」
「大丈夫か!!」
「あ……」
両肩を揺さぶりながら叫ぶ、圭吾さんの慌てた声で目が覚めた。
「わ……たし……? 今……何を……?」
「びっくりしたよ、急に固まったように動かなくなったからさ」
「大丈夫か? どこか具合でも……」
「あ、いえ……大丈夫ですからっ」
慌てて手を振って答えながら、さっき見たものを思い出す。
モノクロの映像……。
まるで過去を映し出していたかのような……。
「――っ!!」
「あのっ、ちょっと失礼します!」
「え?」
心配する彼の横をすり抜け、カウンターの中へと足早に移動する。
そして壁に掛けられた写真立てを慎重に取り外し、裏返すと……
「……これ……」
「一体どうしたんだ急に」
駆け寄ってきた彼に、私は剥がしたそれを見せた。
「――――鍵?」
裏に張り付けられていたのは、小さな鍵。
「これ、何の鍵でしょうか?」
圭吾さんは鍵を受け取り少し考えてから、もしかして……と、入口近くのレジカウンターへと向かった。
そのカウンターの内側には引き出しが二つ付いており、一方にだけ鍵がかかるようになっていた。
「ここの鍵だけどうしても見つからなかったんだ」
「どうせ大したものは入ってないだろうと思って、そのままにしてたんだけど」
そう言いながら鍵穴に差し込むと、カチリ……と鍵が開く音がした。
私達は顔を見合わせた後、ゆっくりと引き出しを開けて中を確認する。
中に入っていたのは……
「……写真?」
そこにはコックコートを着た年配の男性と、同じような恰好をした若かりし頃の圭吾さんが写っていた。
「ああ……これ、料理長と一緒に撮ったやつだ。懐かしいな……ここを出てすぐ働き始めた頃のだ」
「お袋に心配するなって、手紙と一緒に送ったんだっけ」
圭吾さんはフッと笑みを浮かべながらそれを眺める。
「この頃は失敗ばかりして、何度も料理長に怒られたっけ」
「凄く厳しい人だったんだけど、褒めてくれる時は凄く褒めてくれてさ……」
嬉しそうにその当時の事を語り出した彼に、私は少し安堵する。
(本当に料理が好きなんだな……)
「あ、ごめん。一人でペラペラとしゃべって」
「いえ、圭吾さんの昔話が聞けて良かったですよ?」
ふふっ……と笑みを浮かべて答えると、彼は微かに顔を赤らめたかと思うと慌てたように引き出しの中に手を入れる。
「あーっと……他には何かあるかなー……」
「ん? これは……」
手に取ったのは、少し分厚い1冊のファイル。
圭吾さんはパラリと中を確認する。
「ああ、これ親父のレシピ集だ。ないと思ってたらこんな所に入ってたのか」
中にはオーナーが手書きで書いたと思われるレシピが、文字とイラストで書き記されていた。
所々専門用語らしき文字が使われている為、素人の私には難しくて分からないけど、とても丁寧に書き込まれているのは雰囲気から分かった。
圭吾さんはそれを真剣に読み進めていく。
そして最後の方のページをめくっていた時、何かが床に滑り落ちた。
「あ、私が……」
腰を屈め、落ちた物を拾い上げる。
それは小さく折り畳まれた薄用紙だった。
古い物なのか、紙の端が茶色く変色している。
私は破かないよう、ゆっくりと開いて中を確認する。
「これ……作文……?」
小学生のころ何度も書いた記憶のある、大きなマス目のついた作文用紙。
「これ、圭吾さんが書いたものじゃないですか?」
そこには3年6組 匡木圭吾、と彼の名前が大きく書いてあった。
題名は……。
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