憑かれて恋

香前宇里

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第三章

母と子 其の二十二

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(う~)
 背中越しに伝わる、微かな体温。
 私は丸くしていた身体をモゾモゾと動かしながら、布団の端ギリギリまで移動する。



 ……が。




「離れるな」
「ひゃあっ」
 腰を掴まれ、強引に引き戻されてしまう。
 そのせいがさっきよりも身体が密着してしまい、彼の体温を更に感じるようになってしまった。
「え、栄慶さんっ」
「寒いんだ、動くんじゃない」
「寒いって……」
「……」
「栄慶さん、寝る前エアコンの温度下げてませんでした?」
「そうだったか?」
「そうですよっ!」
「なら設定を間違えたかもしれんな」
「じゃあ上げに行けばいいじゃないですかっ」
「動くのが面倒だ。それにお前の体温でちょうど良くなる」
「私、湯たんぽじゃないですよっ!」
 羞恥心を誤魔化す為に、言葉を交わしながらジタバタと脱出を試みるが、腰に回された手がそれを阻み、びくともしない。
 それでもなお抵抗を続けていると、栄慶さんは私の耳に口を近づけ、囁いた。
「眠れないんだろう? 子守唄代わりに経でも読んでやろうか……」
「――っっ」
 その吐息交じりの甘い声に、私は思わず抵抗を止めてしまう。
「きょ……経って、私を昇天させる気ですかっ」
「昇天したいなら、別の方法を試しても構わないが?」
 そう言って、彼は私の腰に当てていた手を、少しずつ上へと移動させ始める。
「ひゃっ!?」
 私は息をのみ、微かに身体をのけ反らせた。
 浴衣の上からでも分かる、指先の熱と感触。
「んっ……」
 胸の下まで来た瞬間ゾクリと身体が震え、その反動で洩れそうになった声を、手の甲で塞いで抑える。
「――~っっ」



 ドクドクと早くなる鼓動。



 緊張……。




 不安……。





 ……期待。





 身体が小刻みに震え出す。
「栄慶っ、さん……」
 声までもが震えてしまう。
(どうしよう……どうしようっ)
 有無を言わさないこの状況に、戸惑いと焦りの感情がさらに加わってしまう。





 やっぱり……





 やっぱり……まだ……





「――……そう身構えるな、からかっただけだ」
「え……?」
「眠れるならいいんだ」
「……栄慶さん?」
「海で……怖い思いをさせてしまったからな……」
 彼は呟くようにそう言って、私の手の甲をギュッと握る。




 もしかして……





 あの時のこと……私が思い出して眠れないんじゃないかって




 心配してくれてたの……?





「あの女がそう簡単に改心するはずがないと分かっていたのに、隙を作らせてしまった」



 違う……あれは私が悪いのに……。



 間違った考えで彼女に近づいた私の自業自得なのに……。




 なのに……。




「危険な目に合わせてすまなかった」




 なんで……




 なんでそんなに優しいんですか……。
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