76 / 109
第四章
親友 其の十
しおりを挟む
「……ありがと、ユミちゃん」
「え?」
「嬉しいこと言ってくれたから」
「思ったこと言っただけだよ?」
「うん、でも嬉しかったから。ほんと……もっと生きてるうちに会えていたら……」
そう言って、宗近くんは私に向かって手を伸ばしてきた。
かと思うと、頬に触れるか触れないかの所で手を止め、一呼吸おいてから腕を引っ込めた。
「宗近くん?」
「さてとっ! やりたいことやったし、そろそろエージのとこ戻るかなー」
「え? やりたいことって……カップル潰ししかしてないよ?」
私は眉間に皺を寄せながら言うと
「そうだっけ? でももういいから。ユミちゃんと居て楽しかったし満足満足~」
彼はそう言って帰ろうと身体を浮かせ始めたが、私は思わずその腕を掴んで引き留めた。
なぜか「もういい」という言葉が胸に引っかかった。
まだ何かしたいことがあったんじゃ……。
「本当にもういいの? ほら、好きだった子に会いに行きたいとか他に何か……」
「……あの子はきっと今幸せなはずだよ。だから今更俺が行っても意味ないし、他にやりたいことも……」
「宗近くん……」
私はどうしても手を離す事ができず、無言で彼の顔をジッと見つめ続ける。
「――……ああ、じゃあ一か所だけ寄り道してってもいい?」
宗近くんが寄りたかった場所……車が行きかう大通りの途中にある、石階段の先にあったのは……
「神社?」
暗闇の中、静かに佇む神社だった。
規模的にはそれほど大きなものではないけれど、社の裏にある月明かりに照らされた巨大な楠がとても印象的だった。
「俺の父さん、ここの宮司なんだ」
「えっ? そうなの?」
なんか意外。ちょっとビックリしてしまう。
「じゃあ神主さんの息子さんって事は……宗近くんって跡継ぎ?」
「いや、俺は継ぐ気なかったから、ここは弟が継ぐはずだよ」
「そうなんだ……」
栄慶さんがお寺で宗近くんが神社、なんか不思議な巡り合わせだなと思いながら、明かりが灯されていない真っ暗な神社を二人で眺める。
って……あれ?
「確か……神社で葬儀ってしないんだよね?」
「そう、神道では死は穢れだとされてるから持ち込んじゃだめなの。だから俺の葬儀…神葬祭は家でやってんじゃないかな」
そう言って彼は神社近くに建てられた、平屋建ての小さな家を指差した。
するとちょうど中から喪服を着た男女が複数人出てくるところが見えた。
私達はゆっくり下に降りて近づいて行くと、家の前で話す年配の女性達の会話が聞こえてきた。
「バイク事故なんてねぇ……」
「即死だったらしいわよ。まぁあの息子さんならいつか何かしでかすとは思ってたけど……」
「ほら、あの子って弟君と違って……ねぇ?」
「ああ、弟の正近くんはK大、首席で卒業したのよね。それに比べて兄の宗近くんは大学中退。神社の手伝いもせずバイトしながら遊びほうけてたって話よー」
「今はどこの神社も後継者問題で頭を悩ませてるって言うじゃない? ほんと、亡くなったのがお兄さんの方で良かったわぁ~」
自分たちの声が大きくなっている事にも気づかず、彼女たちは言いたい放題言い合いながら笑っている。
「ちょっとっ!! そんな言い方ってっ!」
「いいよ、本当の事だから」
「でも……」
「自分勝手に生きて、最後は事故って死んだんだ。出来の悪い神主の息子、それが俺」
「さ、入って?」
彼は笑顔で私を招き入れた。
「え?」
「嬉しいこと言ってくれたから」
「思ったこと言っただけだよ?」
「うん、でも嬉しかったから。ほんと……もっと生きてるうちに会えていたら……」
そう言って、宗近くんは私に向かって手を伸ばしてきた。
かと思うと、頬に触れるか触れないかの所で手を止め、一呼吸おいてから腕を引っ込めた。
「宗近くん?」
「さてとっ! やりたいことやったし、そろそろエージのとこ戻るかなー」
「え? やりたいことって……カップル潰ししかしてないよ?」
私は眉間に皺を寄せながら言うと
「そうだっけ? でももういいから。ユミちゃんと居て楽しかったし満足満足~」
彼はそう言って帰ろうと身体を浮かせ始めたが、私は思わずその腕を掴んで引き留めた。
なぜか「もういい」という言葉が胸に引っかかった。
まだ何かしたいことがあったんじゃ……。
「本当にもういいの? ほら、好きだった子に会いに行きたいとか他に何か……」
「……あの子はきっと今幸せなはずだよ。だから今更俺が行っても意味ないし、他にやりたいことも……」
「宗近くん……」
私はどうしても手を離す事ができず、無言で彼の顔をジッと見つめ続ける。
「――……ああ、じゃあ一か所だけ寄り道してってもいい?」
宗近くんが寄りたかった場所……車が行きかう大通りの途中にある、石階段の先にあったのは……
「神社?」
暗闇の中、静かに佇む神社だった。
規模的にはそれほど大きなものではないけれど、社の裏にある月明かりに照らされた巨大な楠がとても印象的だった。
「俺の父さん、ここの宮司なんだ」
「えっ? そうなの?」
なんか意外。ちょっとビックリしてしまう。
「じゃあ神主さんの息子さんって事は……宗近くんって跡継ぎ?」
「いや、俺は継ぐ気なかったから、ここは弟が継ぐはずだよ」
「そうなんだ……」
栄慶さんがお寺で宗近くんが神社、なんか不思議な巡り合わせだなと思いながら、明かりが灯されていない真っ暗な神社を二人で眺める。
って……あれ?
「確か……神社で葬儀ってしないんだよね?」
「そう、神道では死は穢れだとされてるから持ち込んじゃだめなの。だから俺の葬儀…神葬祭は家でやってんじゃないかな」
そう言って彼は神社近くに建てられた、平屋建ての小さな家を指差した。
するとちょうど中から喪服を着た男女が複数人出てくるところが見えた。
私達はゆっくり下に降りて近づいて行くと、家の前で話す年配の女性達の会話が聞こえてきた。
「バイク事故なんてねぇ……」
「即死だったらしいわよ。まぁあの息子さんならいつか何かしでかすとは思ってたけど……」
「ほら、あの子って弟君と違って……ねぇ?」
「ああ、弟の正近くんはK大、首席で卒業したのよね。それに比べて兄の宗近くんは大学中退。神社の手伝いもせずバイトしながら遊びほうけてたって話よー」
「今はどこの神社も後継者問題で頭を悩ませてるって言うじゃない? ほんと、亡くなったのがお兄さんの方で良かったわぁ~」
自分たちの声が大きくなっている事にも気づかず、彼女たちは言いたい放題言い合いながら笑っている。
「ちょっとっ!! そんな言い方ってっ!」
「いいよ、本当の事だから」
「でも……」
「自分勝手に生きて、最後は事故って死んだんだ。出来の悪い神主の息子、それが俺」
「さ、入って?」
彼は笑顔で私を招き入れた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる