憑かれて恋

香前宇里

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第四章

親友 其の十九

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 家を後にした私達は、その足で神社へと向かう。
「もう一度、今度はちゃんと下に降りて見たいんだ」
 という、彼の最後の願いを聞き入れる為に。


 時刻はもう深夜0時を回っている。
 数時間前に来たときとは違い、真上に昇った満月の光が神社全体を覆うように照らされていて、とても神秘的な感じがした。
 宗近くんは賽銭箱の前に立ち、手を合わせながら拝殿を眺める。
 今の彼なら鍵のかかった建物の中に入る事が出来るはずだけど
「いいのいいの、勝手に入ると神様に怒られちゃうからっ。父さんと正近のこと宜しくお願いしますっ!!」
 と、大きな声で神様に伝えるように言った。
「さてと、そろそろ逝こっかな」
 宗近くんは振り返ると、身体をふわりと浮かせ始める。
「向こうでも元気でね」
「うんっ」
「……」
「栄慶さん?」
 宗近くんが逝ってしまうというのに、栄慶さんは何も声を掛けない。
 ただ私の隣で、ジッと宗近くんを見つめ続けている。
「エージ?」
 宗近くんもそんな彼の姿を不思議に思ったのか、心配そうに呼びかけると
「また会いに来ればいい」
 と栄慶さんは宗近くんから顔を背け、聞こえるか聞こえないかぐらいの大きさで言った。
「うんっ!」
 その声はちゃんと宗近くんの耳に届き、彼は嬉しそうに返事をすると、「じゃあまたねっ」と手を振って、月光に誘われるかのように空へと昇って行った。





「行っちゃいましたね……」
 宗近くんの姿が見えなくなるまで見届けてから、私達は帰路につく。
「全く、騒がしい夜だったな」
 そう言って栄慶さんは笑みを浮かべるが、その横顔がどことなく陰って見えるのは満月の光のせいではないだろう。
「やっぱりいなくなっちゃうと寂しいですよね」
「まぁな。……だが、しばらく会っていなかったんだ、今だけそう感じるのだろう」
(でも……生きていればいつか会えるのと、亡くなってもう会えないのとじゃ感じ方は違うから……)
 だから栄慶さんは別れの時ああ言ったのだろう。
 また会えると信じていたいのかもしれない。
 宗近くんも「またね」と言って昇って行った。
 きっと思いは同じなのだろう。
「宗近くん、栄慶さんのこと親友だって言ってましたよ。栄慶さんは?」
 答えは分かっているけど、つい聞いてしまう。
「さて、どうだろうな」
「ただ……昔は嫌な事があってもあいつといると忘れられたな」
「それ、宗近くんも言ってましたよ」
 ふふっ、と私は笑う。
(素直じゃないなぁ)
 そんな風に思いながら、ふと……今はどうなんだろうと考えてしまう。



 嫌な事があった時……それを忘れさせてくれるような誰かはいるのだろうかと。



 支えてくれる誰かがいてくれるのだろうかと……。



 そして……



 私がそんな存在になれる日は



 いつかくるのだろうかと……。
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