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第五章
加茂倉少年の恋 其の十六
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その後、出口でプリプリと怒る宗近くんに出迎えられながらお化け屋敷を後にした私達は、俊介くん達が売店に向かった事を確認し、じゃあ自分達もと、イスとテーブルが設置されたスペースへと移動する。
「もうっ! エージもユミちゃんもぜんっぜん俺に気付かないんだからっ!」
テーブルを挟んだ私の前で浮かびながら怒る……というより拗ねた様子の宗近くんを宥めながら、俊介くん達の後に続いて飲み物を買いに行った栄慶さんを待つ。
「ごめんね、宗近くん。てっきり史真さんと一緒に居るとばっかり」
「そう! ずっと本堂に閉じ込められてあの無慈悲坊主の読経に付き合わされてたんだよっ! 俺神道なのにっ!」
「何とか隙見て逃げてきたんだからねっ! それなのに二人ってば俺のことなんか忘れて楽しんでるしさー、ひどくな~い?」
「ごめんねー」
悪いことしちゃったなぁと思いながら、私は手を合わせ謝っていると
「そもそもお前が来ても意味ないだろうが」
と、会話を遮るように栄慶さんは飲み物が入ったカップを私の目の前に差し出す。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言いながらカップに両手を伸ばすと、一瞬……側面を持っていた彼の指先に手が触れてしまい、思わず手を離してしまった。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですっ」
私がちゃんと受け取ったのを確認してから、栄慶さんはゆっくりと手を離す。
そんな彼のスラリとした指先を目で追いながら、私はお化け屋敷での事を思い出し頬を染める。
結局、繋いでいたのは出口を出るまでの短い距離だったけど、それでも私にとっては幸せだと感じる時間だった。
(またいつか恋人繋ぎができたらいいなぁ……)
――なんて思っていると。
「何かさ~さっきから思ってたんだけど、ユミちゃん、お化け屋敷出てからやけに嬉しそうじゃな~い?」
中で何かあったの? と、探るような目を宗近くんに向けられ、私は慌てて否定する。
「べ、別に何もなかったってっ」
「その割には出てくるの、かーなーりっ、遅かったんだけどっ!」
「そ、それは……ほらっ! お化け屋敷だしっ、怖いし暗くて歩きにくかったしっ、ねっ!」
そう言って隣に座った栄慶さんに同意を求めると、彼は目を細め、無言で笑みを浮かべながら見つめ返してきた。
「――っ!」
「何っ! そのアイコンタクトっ! やっぱり二人で何かして……」
「何もしてないってば――っ」
栄慶さんバカ――っ、と心の中で叫びながらカップに口付けていると、こちらに向かってくるエリナちゃんの姿が視界に入った。
「そのユーレイ、あんた達の知り合いだったんだ」
そう言ってカップを二つ持ちながら近づいてくる彼女の近くに、俊介くんがいない事に気づく。
「あれ? 俊介くんはどうしたの?」
「俊くんは親とはぐれた子供、迷子センターに連れてったわ」
彼女は俊介くんの分であろうカップをテーブルの上に置く。
「相変わらず、お人よし少年だよね~」
「俊くんは誰よりも優しいのよ!」
エリナちゃんは宗近くんを睨みつけながら空いたイスにドカリと座ると、もう片方の手に持っていた飲み物を口に含む。
「そうだよ宗近くんっ! そこが俊介くんのいい所なんだからっ」
エリナちゃんに賛同するように私も強めの口調で注意すると、彼女はカップを膝の上に置きながら「あの時もそうだったわ……」と微かに笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「もうっ! エージもユミちゃんもぜんっぜん俺に気付かないんだからっ!」
テーブルを挟んだ私の前で浮かびながら怒る……というより拗ねた様子の宗近くんを宥めながら、俊介くん達の後に続いて飲み物を買いに行った栄慶さんを待つ。
「ごめんね、宗近くん。てっきり史真さんと一緒に居るとばっかり」
「そう! ずっと本堂に閉じ込められてあの無慈悲坊主の読経に付き合わされてたんだよっ! 俺神道なのにっ!」
「何とか隙見て逃げてきたんだからねっ! それなのに二人ってば俺のことなんか忘れて楽しんでるしさー、ひどくな~い?」
「ごめんねー」
悪いことしちゃったなぁと思いながら、私は手を合わせ謝っていると
「そもそもお前が来ても意味ないだろうが」
と、会話を遮るように栄慶さんは飲み物が入ったカップを私の目の前に差し出す。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言いながらカップに両手を伸ばすと、一瞬……側面を持っていた彼の指先に手が触れてしまい、思わず手を離してしまった。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですっ」
私がちゃんと受け取ったのを確認してから、栄慶さんはゆっくりと手を離す。
そんな彼のスラリとした指先を目で追いながら、私はお化け屋敷での事を思い出し頬を染める。
結局、繋いでいたのは出口を出るまでの短い距離だったけど、それでも私にとっては幸せだと感じる時間だった。
(またいつか恋人繋ぎができたらいいなぁ……)
――なんて思っていると。
「何かさ~さっきから思ってたんだけど、ユミちゃん、お化け屋敷出てからやけに嬉しそうじゃな~い?」
中で何かあったの? と、探るような目を宗近くんに向けられ、私は慌てて否定する。
「べ、別に何もなかったってっ」
「その割には出てくるの、かーなーりっ、遅かったんだけどっ!」
「そ、それは……ほらっ! お化け屋敷だしっ、怖いし暗くて歩きにくかったしっ、ねっ!」
そう言って隣に座った栄慶さんに同意を求めると、彼は目を細め、無言で笑みを浮かべながら見つめ返してきた。
「――っ!」
「何っ! そのアイコンタクトっ! やっぱり二人で何かして……」
「何もしてないってば――っ」
栄慶さんバカ――っ、と心の中で叫びながらカップに口付けていると、こちらに向かってくるエリナちゃんの姿が視界に入った。
「そのユーレイ、あんた達の知り合いだったんだ」
そう言ってカップを二つ持ちながら近づいてくる彼女の近くに、俊介くんがいない事に気づく。
「あれ? 俊介くんはどうしたの?」
「俊くんは親とはぐれた子供、迷子センターに連れてったわ」
彼女は俊介くんの分であろうカップをテーブルの上に置く。
「相変わらず、お人よし少年だよね~」
「俊くんは誰よりも優しいのよ!」
エリナちゃんは宗近くんを睨みつけながら空いたイスにドカリと座ると、もう片方の手に持っていた飲み物を口に含む。
「そうだよ宗近くんっ! そこが俊介くんのいい所なんだからっ」
エリナちゃんに賛同するように私も強めの口調で注意すると、彼女はカップを膝の上に置きながら「あの時もそうだったわ……」と微かに笑みを浮かべながら言葉を続けた。
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