正しい竜の育て方

夜鷹@若葉

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第三章「騎士と姫と魔法使い」

第21話「黄金色の瞳」

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 夜。薄い明かりの燐光に照らされた、国王専用の執務室に国王であるスイラスが、両開きの大きな扉を開き中へと入る。

 誰も居ない静かな室内、そこへと入るとスライスは深く息を付いた。

 夏にある大きな仕事の一つを、今日無事に終わらせることができた。ここ最近の情勢不安から、多くの仕事が舞い込んできていたが、ひとまず一つ大きな仕事を終えることができ、落ち着く事ができそうだった。

 ゆっくりと執務机の傍へ置かれた椅子へと歩み寄り、座る。ふかふかの質の良いクッションが敷かれた椅子。そこへ深く身体を沈め、息を付く。そうすると、今まで溜まった疲れが何処かへ流れ出るような気がして、気持ちが楽になる。

 ふと、視線を感じた。

 誰も居ないはずの執務室。国王以外許可なく立ち入る事が許されない場所。その場所に自分以外の誰かの気配を感じた。

 最初、言い聞かせていても勝手に入り込んでくるフィーヤかと考えたが、いくらフィーヤであってもこの時間にここへ来ることは殆ど無い。それに、フィーヤなら必ず声をかけてくる。それすらも無い。

 不審に思い、スイラスは気配を感じた方へ視線を向ける。そこには、人が一人立っていた。

 執務室の窓の傍、黒地のローブを身に纏い、フードを目深く被った人の姿。背丈はフィーヤと似ているかもしれない。けれど、そこから醸し出される雰囲気は明らかに異質なもので、フィーヤのそれとは違っていた。

「誰だ?」

 スイラスは一度眉を顰め、それから相手を睨みつけると、声を低くし相手を威圧するようにして、告げる。

「私が誰かわからないか……哀れだな」

「知らんな。こんな時間に此処へ来る客人など、覚えがない」

 睨みつけ、警戒する。見たところ、目だった武器などは見当たらない。けれど、裾の長いローブ姿、その下に武器などを隠し持っていないとも限らない。

「それで、私に何か用かな? 私は忙しいんだ。別の日にしてくれるとありがたい」

 ゆっくりと、執務机の傍らに仕掛けられた、魔法による警報装置の傍へと、椅子を移動させていく。

「用ならすぐ終わる。お前がすべてを置き去り、消えてくれればそれでな」

 ゆっくりと動いていくスイラスの動きを気にも留めず、ローブの人物はそう告げる。

「消える……か、悪いが私にはやらねばならない事がまだ多くある。それは出来ない相談だ。御引き取り願おう」

 完全に警報装置の傍まで移動すると、魔法の起動装術式が込められた宝石に触れる。

 警報装置を作動させれば、暫くの間魔法による音が鳴り響き、外を警備している衛兵が、直ぐに室内へと入ってくる仕掛けとなっている。けれど、その警報装置の魔法は作動することが無かった。

つたなく、幼稚な魔法だ。破壊するのは簡単だったぞ。お前はもう、外へ助けを呼ぶことは出来ない」

 驚き、スイラスはもう一度警報装置を作動させようと試みる。けれど、やはり警報装置が作動することは無かった。

「貴様、何が狙いだ」

 怒気の孕んだ声で、問いただす。

「だから、言ったじゃないか、お前がすべてを置き去り、消える事。それが、望みだ」

 スイラスはローブの人物に目を向けたまま、退路を探す。窓? 出入り口? 大声を出して助けを呼ぶ? 策を思い浮かべ、選択を考える。

「けど、それは難しそうだ。だから、最も単純で、簡単な方法を取ることにする」

 ローブの人物が片手をスイラスの方へと伸ばし、手を開く。

「人の王を消すには、こうするのが一番なんだろ?」

 そして、伸ばした手を握りしめた。何もない、空を掴む。ただそれだけの動作。けれど、それによって変化が有った。

 スイラスは身体を大きく悶えさせ、胸と首を手で押させる。肺が急速に萎み、息を吐き出したかと思うと、急に喉が痙攣したかのように動かなくなる。口を大きく開き、必死に呼吸をしようとするが上手くいかない。助けを呼ぶ声を発する事すら出来ない。

 悶え、のたうつスイラスの姿を見て、ローブ姿の人物の辛うじて見える口元が笑う。

 意識が遠のき始め、視界に靄がかかり始める。

 消えていく意識の中、見上げた視線が、ローブ姿の人物の素顔を映す。

 長く鮮やかな青い髪に、白い肌。そして、が、部屋の明かりを集め、輝いていた。


「消えろ。愚かな人間。ここは私の領域だ。返してもらうぞ」
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