正しい竜の育て方

夜鷹@若葉

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第二章「灰の竜と黒の竜騎士」

第8話「竜の地に生きる者達」

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 林間学習の宿舎から荷馬車を引いた馬を連れ、歩く事一時間。山岳の中でも比較的なだらかな斜面を切り開いて作られた、小さな村が見えてくる。

 人気をほとんど感じさせない山の中、ぽつぽつと人の生活感を漂わせる家々が立ち、風車や畑などを見ることができる光景は、どこか不思議な光景だった。

 ゆっくりと、荷馬車を引いた馬を連れ、アーネストとリディアは高地で外敵が少ないためか防護柵が無く、どこからが外でどこからが中なのか、判断が付き難い村の中へと入っていく。

 村の中は、外から見たものより確りと舗装されており、大分歩きやすいものだった。話に聞いていた以上に、確りとした作りだった。

 けれど、さすがに人口が少ないのか、村の中に生活音は殆どなく、人の姿もほとんど見ることができなかった。

「こんな所にも、人は住んでいるのですね」

 静かな村の中を歩きながら、アーネストの隣を歩くリディアがそう感想を漏らした。

 ここへ来るまでの間、リディアが無言を貫いてきただけに、口を開いてくれたことで、少しだけ安心する事ができた。

「林間学習が始まる前に、近隣に人が住んでいると説明があったと思うけど」

「話は聞いていました。けれど、実際に目にするまで、とても人が住んでいるとは想像できなかったもので……」

「アルフォードは、王都から出たのは初めてか?」

「幼少はアルフォード領のイーシスで育ちましたよ。けれど、都市から離れた地へ訪れるのは、初めてです」

「そっか」

「先生は、こういった場所へは来たことが有るのですか?」

「俺が育ったオーウェル領は殆ど田舎だったし、遠隔地の砦なんかに居た事もあるから、ゼロと言うわけでは無いかな」

「そうですか、やはり竜騎士となると、こういった場所で過ごす事もあるのでしょうか?」

「有るだろうな。だからこうして、慣れるための訓練をしているんだろ」

「そう、でしたね」

 アーネストの返事に、リディアはうなずき、少し考え込むように口を閉ざした。

「ま、いろいろ思うところが有るかもしれないが、とりあえずやるべき事をやってしまおう。行くぞ」

 リディアが反応を返してくれたことは嬉しかったが、このまま話し込むわけにもいかず、やるべき事をこなすため、買い出しに付いて書かれたメモを取り出し、歩みを進めた。


 静かな村の中をアーネストとリディアは、買い出しに付いて書かれたメモを頼りに歩く。

 「敵意」そう表現したアルミメイアの言葉の意味が、この静かな村の中を歩いていると良く判った。

 静かで人影は殆どない。けれど、彼方此方からじっと此方を見ている視線を多く感じる。それらは、まるで此方を敵視するように、監視しているようだった。

 それからもう一つ、分かる事があった。

 灰の竜への信仰。村の彼方此方に灰色の悪竜を模したものと思われる石像や、刺繍が施された布などが多く見られた。

 高地で有るためそれに適した建築様式の建物、村の彼方此方で見られる信仰などの風習、そして向けられる視線。それらは、王都で見られる元のは大きく異なっていて、この地がマイクリクス王国国内で有るにもかかわらず、まるで自分たちが別の国へ迷い込んだ異邦人なのではないかと思わせるものだった。

「なんなのですか? この視線は」

 さすがに辺りの異様な視線に気付いたのか、リディアが不満を口にした。

「同じ国の中と言っても、いろいろあるのだろう。アルフォード、君は『灰の竜』と言うものの話を聞いたことは有るか?」

「『灰の竜』……聞いたことないですね。なんですか? それは」

「俺も、此処へ来るときに初めて聞いた話だから詳しくは知らないけど、この地で神として信仰されていた強力な悪竜が居たらしい。その悪竜が『灰の竜』と呼ばれていたそうだ。
 200年ほど前に国の竜騎士達によって討伐されたらしいけどな」

「だからですか。さしずめ私達は、神殺しの大罪人、もしくはその末裔。そう思えば、この視線も納得できますね」

「悪いな。まさかここまで敵視されているとは思ってなかった。嫌な思いさせただろ」

「構いませんよ。悪意ある視線には、慣れていますから」

 素気ない返事を返すと、周りの視線をどこ吹く風と流すように歩みを進め、アーネストの少し先を歩いた。

 リディアは大きな不満を言わないものの、彼女をここへ連れてきたのは少し失敗だったのではないかと、アーネストは思った。


「おい、あんたら、ちょっといいか?」


 買い出しを終えるべく、再度歩き出すと、そう声が掛けられた。足を止め、声がした方へ振り返ると、そこには若い男性が三人ほど立っていた。

 三人の男性は、それぞれ、さすが険しい山で暮らす男と言う様に、厚手の服の上からでもわかるほど、鍛えられた大きな身体をしている事が見て取れた。

 これが友好的な態度で接してきてくれたらありがたかったが、どうやらそうではない様だった。

「何の用ですか?」

 声をかけてきた男性に返事を返したのはリディアだった。

「あんた等、竜騎士だろ?」

「そうですが、それが何か?」

 険のある態度で話しかけてくる相手に対して、リディアはそれを逆なでするような態度で応える。

「なら、とっとと出ていきな。此処はお前たちが居ていい土地じゃない」

「おかしいですね。此処はマイクリクス王国国王直轄領のはずですが?」

「そんな事、俺達は納得しちゃいない。とっとと出てけ」

 どすのきいた低い声で男性は威圧してくる。

「あなた方が認めようが、認めまいが事実は事実です。それが受け入れられないのなら、出ていくべきはあなた方の方ではないですか?」

「てめえ、何様のつもりだ!? ああ!? ここは俺達の土地だ! お前らよその人間が、好き勝手やっていい場所じゃねえんだよ!!」

 怒りのあまり男性は手を伸ばし、リディアの胸ぐらを掴もうと伸ばす。さすがにアーネストはそれを止めようと動くが、それよりも早くリディアは身体を大きく後ろへ引き、男性の手を躱した。

「あなた方もマイクリクス王国に生き、その法でまも――」

「アルフォード。それ以上は」

 相手の激怒した態度を見ても、態度を変えようとしないリディアを危険と判断し、アーネストは男性たちとリディアの間に割って入り、リディアの声を遮る。

「私達は目的を済ませたら、直ぐにこの場から立ち去ります。ですから、怒りを収めてください」

「てめえらが好き勝手出来ねえって言ってんだろ! 今すぐ出てけ!」

「村長から正式な許可は取ってあるはずです。それ以上の事をするつもりはありません。ですから――」

「俺達はそれを認めてねぇって言ってんだよ!」

 男性は大きく拳を振り上げ、そして、アーネストへと振り――


「やめないか! お前たち!」


 男性の拳が振り下される直前に、別の場所から大きな声が上がった。

 声がした方へ目を向けると、灰色のローブの様な衣服を身に纏った、一人の白髪の老人が立っていた。

「ファザー。なぜ止める。こいつらは侵略者だ。排除すべき対象だ」

「彼らは悪しき者達かもしれない。けれど、今ここへは、戦い、略奪に来たわけでは無い。そのような者達に手を出したところで、それはただ争いの火種を撒くだけだ。
 それともお前たちは、この地を再び火の海に沈めたいのか?」

 ファザーと呼ばれた老人は、男性たちを咎める言葉を口にすると、カツカツとアーネスト達の傍へと歩み寄った。

「君、大丈夫かね。怪我はないか?」

「大丈夫です。まだ、何もされていませんから」

「そうか、それはよかった」

 アーネストの様子を確かめると、老人はほっと息を付いた。

「ファザー、どいてください。俺達は――」

「聞こえなかったか? こやつ等を今ここで排除したところで、意味はないと。ちゃんと村長の許可も得ているのだろ?」

 同意を求めるように、老人は一度アーネストへと視線を向ける。アーネストはそれに頷いて返事を返す。

「しかし、それは――」

「裏で何かあったかもしれんが、今ここで彼らを排除する意味はない。それとも、わしの言葉が聞けんか?」

「いえ、それは……」

 老人一睨みされ、男性は委縮したように言葉を濁した。

「分かったのなら、とっとと行け。お前たち、まだやるべき仕事が残っているだろ」

 老人にそう言われると、男たちは苦々しそうな顔を浮かべ、舌打ちを一つしてから、その場を立ち去って行った。

 男性たちを見送ると、老人は再び息を付いた。

「すまんな。血の気が多い者達ばかりで」

「いえ、助かりました。まさか、ここまで嫌われているとは知らず、踏み入ってしまったこちらにも責任があります」

「ふむ、殊勝な態度だ。お主、名前は?」

「アーネスト・オーウェルです」

「ふむ、アーネスト。君はどのような用で、ここへ来た?」

 老人はアーネストを見定めるような、鋭い視線を向け、尋ねてきた。

「必要な物資を買い付けに来ました。これです」

「ふむ、なるほど」

 アーネストが買い出しに付いて書かれたメモを見せると、老人はそれを一読し、小さくうなずく。

「これは、少々骨が折れそうだな。今、君たちをそのまま村の中を歩かせるのは危険だ。少し、ついて来てくれぬか?」

 老人はそう言って、自分の後をつい来るように促す。アーネストは一度、どうすべきかとリディアに視線を向ける。リディアはそれに対し「あなたの判断に任せます」と言うような視線を返す。

 目の前の老人が、どういった人物かは分からない。けれど、先ほどの事もあり、闇雲にこの地を歩くのは危険と判断して、アーネストは老人の後に続き、リディアもそれに同意するように続いた。 
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