backdoor 

零式菩薩改

文字の大きさ
上 下
2 / 4

プリンダル酒場とニヒルン酒場

しおりを挟む
「いらっひゃーいませぇ。ういっく。ってなんだよぉ。カフェオかよぉ」

「なんだとは、なんだ。俺だって客なんだぞ。とても店員とは、思えんな……ギルドの仕事あがりに、気持ち良く酔いたかったんだがな」

 プリンダル酒場に入店した直後。カフェオは、思わずムッとした。なんだと言われた事と、ダルの妻が経営しているとはいえ、酒場の店員をしているダルが、カウンター席に座り込んでいる態度。しかもエールを大ジョッキで飲みながらの客の出迎えに、あきれたためである。
 少し前までは、ちゃらんぽらんな生活をする事しか出来なかったダル。その男が、真面目に働きだした事を友人のカフェオは、喜んでいたのだ。それゆえ、今夜のダルに幻滅げんめつしてしまったのだ。
 カフェオは、ダルの横の席に座る。そして、酒場の女将おかみのプリンダに中ジョッキのエールを注文した。直ぐにエールが出された。カフェオは、取り合えず横のダルとジョッキ同士をくっつけて、乾杯の行為をする。それで、二人の男の不機嫌な気持ちはと消えるのだ。

「なぁ、ダル。今夜の店は随分ずいぶんと静かだな。前に来た時は活気が有ったと思うんだが。客も大勢おおぜいいただろう?」

「ああ、そうだぜ。前は大勢の客がいたんだ。でもよぉ。少し前に、ニヒルンって酒場が出来たんだ。そこは、男前の店員達が接客するってんで、女達に人気でな。若い女で、毎日通い詰めているらしい。それと、男の客にはオッパイ丸出しの、ねぇちゃんが接客しに来るらしいからな。男にも大人気だ。だから此処は、閑古鳥かんこどりが鳴くしまつってぇ訳だ。飲まなきゃ、やってられねぇぜ! ちくしょう、俺もオッパイ見てえよぉ……」
 
 ダルのなげきの最後の言葉を聞いた御蔭おかげで、疑問が解けたカフェオ。しかし、プリンダのダルを見る目が鋭くなったのに気が付いた。

「プリンダ、心配しなくても俺とダルとで、その酒場に行ったりしないから。誓うよ。何ならダルにも誓わせよう。破れば絶交だ」

「是非とも、そうしておくれよ。そのニヒルン酒場について小耳にはさんだんだけど、飲食の値段が法外なんだって。それに高額な品物なんかも有るらしい。若い女性達は、一晩で大金を使ってるんだとさ。払えない者は、借金してる。それでも行くのを止めない。で、最後は身体を売ってるそうよ……」

「お前の旦那だんなみたい……そ、そんな事が起きてるのか? 一大事だな」
 
 プリンダの話しを聞いて、昔のダルみたいな奴が増えるなとカフェオは、思った。それを妻である彼女が聞けば、気を悪くするだろう。慌てて口ごもったカフェオだった。どうやら聞こえなかったようである。それには、ほっとした彼だ。しかし、平穏だった街が乱れていくのではないか? と不安な気持ちを抑えられないでいた。


 








 
しおりを挟む

処理中です...