笑顔戦記 

零式菩薩改

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魔物軍団の進行

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 明るい! 俺達が降り立った場所は、まだ闇におおわれてないようだ。王都周辺を先行してやられたのか……。
 この辺りは巨大な岩がそこら中に見える。それに比べて、花はおろか雑草も生えてない。不毛の土地と呼ばれる訳だ……。
 遠くの方に建造物が見える。おそらく廃墟はいきょだった神殿だろうな。そこから、何やら集団がこちらの方に行進のように向かって来ている。

「遂に魔物の進行が始まりやがったな。皆、あの岩陰に隠れるぞ。走れ」

 予想は、していたけど……あの集団は、魔物軍団だった。ぱっと見て、魔物は、数えられない程の大軍だ。
 しかめっ面の表情をしたラピーチは、即座に指示した。皆は、無言で直ぐに大きな岩に走り、隠れた。

「ラピーチ、これからどうするんだ? まさかやるしかねぇとか言わないよな?」
 
「いくら俺でも、あの数に正面から突撃するほど無謀むぼうじゃないぜ。取りえずはこの岩陰に隠れて、様子を見ながらやり過ごすか」
 
「了解」

 無謀な戦闘をしない考えのようで、ホッとした。このまま何事もなく隠れ通せれば良いのだけれど……。
 まぁ、大事の前の休憩きゅうけいと思えば気持ちは楽だ。この場所の地べたに座り込んで体力温存だな。俺がそうすると、他の仲間も後に続いて座るのであった。


 *****

 しばらくすると、俺達の足元が地響きで揺れるのを感じる。魔物軍団が近くまでやって来たからだ。
 魔物軍団は、醜い怪物のオークの大部隊。その最後尾に巨人で角が有るサイクロプスの一匹で構成されているのが確認できた。そのサイクロプスが大将である事は、一目瞭然いちもくりょうぜんだった。

「あいつらは、恐らく、ナンギーナ村に向かっているんだわ。昔に旅の途中で寄ったことある。魔物共が、あのまま進むと村に行き当たるはず」

 険しい表情のリーエルの呟きが、俺の耳に聞こえてきた。すると、俺の気持ちは沈んでいく……あのまま魔物の軍団が村まで進行すれば、多大な犠牲者が出るだろう。おそらくは、村の壊滅かいめつとまでなるはずだ。なのに俺達は、ただ通るのを見ているだけしか出来ないとは……。うなだれた。

「あ、見て。馬車よ」

 美姫の小さな声が聞こえて、俺は、直ぐに目で捜すと、確かに一台の馬車が魔物軍団の正面から、魔物の方へと近づいて行くのが見える。

「あの馬車は何なんだ? 死ぬ気か?」

 ラピーチが呆れた感じで言う。馬車は、魔物軍団からある程度の距離をとった所で止まると、直ぐに方向転換ほうこうてんかんして荷台を魔物軍団に向けた。荷台には、レザーアーマーを着用した女性五人が立ち上がり、弓を構えだした。

「女性ばかりだぞ」

「ナンギーナ村の自警団ってところね。あそこの村は、貧しいから男性は王都などに出稼ぎ労働に行っている。だから女性しかいないのよ」

 俺の呟きを聞きいたリンが冷静に分析ぶんせきして答えを言った。

 馬車の女性達は、矢を射った。無謀とも思える攻撃を開始した様だ。魔物軍団先頭のオークが矢の餌食えじきになり倒れていく。
 仲間が殺されて、怒り狂ったのか? オーク達は、彼女達目掛けて突撃し始めた。馬車は、ゆっくり動いて距離をたもちながら、弓の攻撃を続けている。今のところ戦法的には、うまくいっているようだけど……。

「ウガー!」

 サイクロプスの咆哮ほうこうが周辺に響き渡る。それは、無様ぶざまに死んでいく不甲斐ふがいないオーク達を見ていて、怒ったかのように感じた。
 サイクロプスは、右手で大きな岩をつかむと馬車目掛けて勢いよく投げやがった! 俺は、馬車の事を思うと恐怖した。あんな岩をまともにらえば、一撃で終わりそうだ。

「サイクロプスの奴め。あの攻撃は慣れてやがるぜ」

 ラピーチがひたいから汗を流しながら言った。ラピーチも岩攻撃に恐怖したのだろう。緊張が俺にも伝わってくる。
 サイクロプスは、立て続けに岩を投げつけていた。
 やがて、バガーンと音がして馬車が倒れた。飛んできた岩の一つが馬車の車輪を直撃したのだ。すると、悲鳴を上げて女性達は荷台から地面に投げ出された。

「ウガガー!」

 サイクロプスが雄叫びを上げると、オーク達は、女性達目掛けて猛ダッシュし始めた。

「ギヒヒー! 俺が一番に女をもらう!」

 一匹のオークの叫び声が聞こえた。他のオークも興奮して、色々叫んでいる。

「やばいぞ。このままだと、あの女性達がオーク共にやられちまう」
 
「きゃっ」

 ラピーチが女性達の結末を想像した様な発言をする。それを聞いた美姫は声を上げたかと思うと、顔を手でおおっていた。
 ラピーチは無言で俺の顔をジッと見た。ラピーチの思いを瞬時に感じ取ると俺はうなずいた。見捨てる事は出来ない。戦ってみる!

「リン、マジカルサンボールをぶち込めれるか?」

 ラピーチがリンにたずねるまでもなかった。リンは杖を両手に握り、既に精神集中に入っているようなのだ。

流石さすがにリンだぜ。よし、リーエルは、サイクロプスを弓でやれ。その後は、俺達がクロスボウを打ちながら、女性達を助けに行く」

 皆は、黙って頷いていた。反対意見は出なかった。
 魔法攻撃の準備を終えたのか、リンは、魔物軍団の中心に杖を向ける。

「マジカルサンボール!」

 リンが叫ぶと、杖の先から巨大な火の玉が発射された。火の玉は、猛スピードで魔物軍団に向かって飛んでいく……。        
 まもなくして、火の玉がオークの集団の中に激突するのが見えた。ドゴゴーンとすさまじい爆音が辺りに響き渡る。爆風と炎でオークの何百匹かは即死したかに思えた。

 俺達に気づいたサイクロプスが、こちらを向いてにらむ。リーエルは、弓を構えている。

「やっと、私を見てくれたわね。プレゼントよ!」

 リーエルの待ってましたとばかりの発言。彼女は、かさずにロングボウで矢を放つ――矢は、サイクロプスの大きな瞳を貫いた。

「グギャー!」

 大きな低い声の叫び声がした。サイクロプスは、倒れこんでのたうち回っている。

「よし、皆行くぞ!」

 ラピーチの号令で俺達は、駆け出した。そして、女性達に向かうオークに、弾倉付きクロスボウの矢をお見舞いしてやった。
 そして、俺達は女性達の所へ辿たどり着いた。

「あ、ありがとう。私達は、ナンギーナ村の者です。村を守りたくて……。うっ」

 女性の一人が痛そうな表情で語る。やはりナンギーナ村の人々だったようだな。

「大丈夫か? リーエル、彼女達の治療をしてやってくれ」

 ラピーチの頼みを受けたリーエルは、回復魔法で女性達の治療を始めたようだ。

 俺達は、弾倉付きクロスボウの矢を打ち尽くした。すると、ひるんでいたオーク達が向かって来だしている。
 突然に無言で、ロゼルーナがオークに向かって走った。走りながら、バスタードソードを抜いたロゼルーナ。そして、踊るかのごとく、オークを次々に切り裂いていく。

「すげぇーな」

 ラピーチの感心している様子であるかの呟きをらす。
 
「ああ、流石と言うべきだな。あの辺境伯の娘だけの事はあるよ。ロゼルーナは」

 俺もロゼルーナの攻撃姿に見とれていた……。
 彼女は、凄まじい勢いでオーク達を倒していくのだ。でも、数が多すぎる……。
 危ない! ロゼルーナがオークに囲まれだした。そして、背後の一匹のオークの剣がロゼルーナの腹部を貫いた。

「ロゼルーナ!」

 俺は、ショックを受けて叫んでいた。猿ヤンの事をフラシュバックさせる光景だ。だが、ロゼルーナは、ひるむ様子など微塵みじんも見せない。目の前のオークを始末して前進し、腹部の剣を抜けさした。そして、ジャンプしたと思ったら身体を回転させて、己を刺したオークの首をねた。
 良かった問題ない様子だ。でも、やはり多勢たぜい無勢ぶぜいだろう。

「ロゼルーナ、一旦いったんここにもどるんだ!」

 俺は、叫んでいた。ロゼルーナは、素早くこちらに駆け出した。良かった了解した様だ。だが、オーク共は見逃してくれそうもない。

「グギー! 追えー!」

 オーク共は、怒り狂い雄叫びを上げ、ロゼルーナを追って来る。このまま俺達が普通に迎え撃っても駄目なことは明らかだな……。俺は、覚悟を決めた。

「おい、腕輪。魔法を使うぞ。遠距離攻撃系魔法だ。大量に撃ちたいのだけど」

 俺は、呟いた。そしたら、左腕の生命の腕輪が銀色に光り出した。

『了解。だったら、ホウマジリヤが良いだろう。左手を握り、狙う相手に向けて、ホウマジリヤと唱えるのだ。ただ、使いすぎると――どうなるか分かっているな? 終わる時は掌を広げろ』

 腕輪は、そう答えた。ラピーチを見てみる。こちらを気にする様子は無いようだ。やはり俺だけに聞こえるのだな。まぁ、そんな事はどうでもいいか。余裕が無いんだ。
 腕輪に言われた通りに拳を握り、オーク軍団に左腕を向けた。頼むから上手くいってくれよと祈る思いだ。

「ホウマジリヤ!」

 俺は、思いっきり叫んだ。すると何だか俺の身体が銀色に輝き、握った拳から銀色の光の矢尻が次々に発射されだしたのだ。光の矢尻は容赦ようしゃなくオーク達に命中し、その身体を貫いていく。

「ブギャー!」

「ホンギェー!」

 様々な叫び声を上げて、血を吹き出しながら倒れていくオーク達。

「うおおおおおおおおおおお!」

 俺は気合を入れて声を上げた。オークのいる方向へ腕を動かしながら攻撃を続けた。だんだんと体が熱くなっていく……。
 やがて、オークの全てが倒れて、しかばねの山へと変わっていた。俺は、握った拳を広げることで魔法攻撃を解除した。すると、身体の輝きもおさまった。

「はぁはぁはぁ……」

 俺は、激しく呼吸が乱れて、息切れを起こしていた。
 あと、生き残っているのはサイクロプスのみ。目が見えなくなっていたサイクロプスは、オーク軍団の全滅したのを肌で感じたのだろうか? うろたえた感じの動きをしていた……が、手探てさぐりで岩を捜している様子に変わった。
 闇雲やみくもに投げられても厄介やっかいだぞと思った瞬間だ――火の玉が飛んで行くのが俺の目に映る。それは、サイクロプスの頭部に直撃し、爆発した……。リンの発射したマジカルサンボールだった。頭部を吹き飛ばされたサイクロプスの巨大な身体は、ドスーンと地面を鳴らして倒れ、戦闘の終わりを告げる……。

 なんとか勝利することが出来たな。そう思いホッとする。けれど、精魂せいこん使い果たした気がする程の疲労感ひろうかんだ。ただボーっと立っていた。

「蓮輔、すごいじゃないか。蓮輔、お前どうしたんだ?」

「えっ? ああ、魔法使用の一時的なものだろう。まぁ、大丈夫だよ」

 驚きの感じのような表情を浮かべて尋ねてきたラピーチ。俺の顔に変化が起きているようだが、俺は魔法使用の影響だなと思ったので、適当に軽く返答する。心配されたり、へんに気を使われたりするのが嫌だったんだ……。
 ラピーチは、それ以上は何も言わなかった。

 ロゼルーナが俺に歩み寄って来る。

「ロゼルーナ、大丈夫か?」

「大丈夫よ。もう何ともないわ。ほら」

 そう言ったはロゼルーナは、俺の手を取り自分の傷跡に当てた。彼女の言う通り、傷口だった場所は完治していた。流石に凄い生命力だな。俺は感心をしてしまう。

「それより、蓮輔こそ無理しちゃ駄目よ。普通の人間の一生は短いんだから……。使い過ぎは、危険よ。

 ロゼルーナは厳しい顔をして言った。おじ様って何だよ。そんなふうに見えてるのか? どうやら俺は、かなり老けたようだ……。

「ああ、忠告をありがとう」

 俺は、笑顔で答えた。少しショックだったが、覚悟はしていたことだ。例え、この身が燃え尽きたとしても、勝利をもたらせれば意味ある生き方だ。そう思うと、気持ちはおだやかだった。
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