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24. エピローグ
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別宅に移り住んで、も九すぐ九年になる。
変わらず旦那様は今も週末だけここへ帰る生活をしているが、それももう終わりを告げる。
この別宅に居を移してから、私はリハビリに打ち込んだ。
医師は治る見込みはないと言わないのだから、きっと大丈夫だとどこか楽観的に思える自分の考えに笑いも出そうになったが、その決意がプラスに働いたことは否めない。
結論からすると、一年が過ぎるころには一人で歩けるようにはなった。ほんの短い距離だけだが。
長い距離は杖をつけば一人でも歩けるがさすがに疲れるのであまり遠出はしない。みんなに迷惑をかけることは本意ではないのだから。
でも、旦那様と出掛ける時には腕を取って『俺がフェリを支えるから大丈夫だ』と満面の笑みで私の腕を取り、限界が来るとすぐに抱き上げるのだから、人前でそれはやめてほしいと思っている。
この別宅に来てからは社交の場に顔を出すことはせず、すべて義両親に任せていた。その会場で流れる私に対する否定的な噂や、社交もできない嫁は失格だと声高に言うような人たちには、旦那様が影からなんらかの制裁を加えているとかいないとか。
オリビアが面白いとばかりに教えてくれるので、社交の場に復帰しても話題に置いて行かれることはないだろうと思っている。
そしてここへ来て、怪我も良くなったころに私の懐妊が判明した。
旦那様は泣いて喜び、私は二度目の涙を見ることとなった。外では相も変わらず不愛想なのだがどうやら私の前では感情豊かになるようだ。
出産までは特段変わったこともなく、ここでゆっくりと過ごした。
そして初産の割には安産で、旦那様の色を持った男の子が生まれた。
エリオットと名付けた子の顔立ちはやはり旦那様似だろう。将来が心配だと思ったがそれは口に出さない。
そしてその三年後にはまた懐妊し、今度は女の子が生まれた。
今度は私に似た子で、ジュリアと名付けた。そして旦那様は私がエリオットが生まれた時に思ったことと同じことをぼそっと口にした。
キランやカイラには似たもの夫婦と言われているが、その通りだと思ってしまう。
そしてジュリアが三歳になる時に王都へと戻ることになり、もうすぐこの別宅を離れる。
お義父様がそろそろ当主の座を旦那様にお譲りになることと、旦那様が週末しか子供たちに会えないのは辛いと言ったからなのだが、そこで私は意地悪く『私には会いたくないのですか?』とそっぽを向いてみると、大慌てな様相で『それはない!フェリが一番に決まっている!』と私の前に跪き手を取りじっと見つめてきた。
私は意地悪なのかしら?と思いながら、もう旦那様の想いを疑うこともないし、旦那様も私の気持ちを疑うこともない。
社交界では私たちの不仲説が未だに消えないらしいから、この旦那様の姿を見せつけ、その時の周囲の反応が楽しみだとついつい想像してしまう。
眠る子供たちの顔を見ていると、この日も馬を駆けて戻ってきた旦那様がそっと部屋へと入ってくる。
「フェリ、ただいま」
「おかえりなさいませ。旦那様」
旦那様は私を抱きしめて、変わったことはなかったかと確認をされ子供たちの眠るベッドを覗き込んだ。
すやすやと眠る二人の子は、楽しい夢を見ているのか笑顔を浮かべている。
「半年後に王宮で王太子殿下の誕生会が開かれるんだが、そろそろ二人の仲を見せつけに行かないか?」
「旦那様、そんなことを考えていたの?」
「当たり前だろう?いいかげん寄ってくる夫人にうんざりなんだ」
旦那様は必要最低限の夜会には出席していたが、そのたびに私との不仲説を話題にされてない人穏やかではなかったのだ。出席した日の夜には必ずここに来ては文句を言っていたくらいだ。
いや、文句を言うというより、ただただ私の隣に座りそばを離れようとしなかったのだが、その姿を可愛いと思っていたのは内緒だ。
それに、私の怪我も今では普通に過ごせるほどに治り、長時間でなければ社交も厭わないほどだ。それに何かあっても、旦那様が気付いてくれるので、出掛ける時も安心なのだ。
「そうですね。その頃には本邸に戻っていますし、いい頃合ですわね」
「そうか!それならさっそくドレスの準備をしなければならないな」
旦那様はニコニコとご機嫌な様子を隠すこともなくそう言ったのだが、結婚した時のあの無表情で言葉の少ない旦那様の姿はいったいどこへ?という感じだ。
そして旦那様の言葉を聞いて、婚約してから今までの贈り物も全て旦那様が選んでいたと聞いて驚いたことも思い出した。
なんでもきちんと言葉にしなければわからないこともあるのだと、今更だが旦那様と今までの日々を振り返っている。
子供達には昔の私たちのようにならないように、年頃になった時にはどうしたらいいのかをしっかりと教えてあげなければとそんなことを思ったりもする。
それもまだまだ先の話だけれど。
「王都に戻ったら、揃いで仕立てよう。子供達にも必要なものも買わないといけないからな」
「そうね。みんなで一緒に出掛けましょうか」
そして王都に戻って家族で揃って出掛けた姿を見かけた噂好きの侯爵夫人が、その時の私たちの様子を吹聴するのはまだ先の話だ。
もちろん、その後の夜会での私たちの姿を目にした夫人方が旦那様に寄ってくるようなこともなくなった。
年齢を経ても衰えない魅力を持つ夫を持つと大変だが、その愛情が全て自分と子供たちに注がれていることを感じると幸せで、思わず笑みがこぼれる。
「旦那様。いつまでも側に居てくださいますか?」
「何を言ってる。そんなこと当たり前だろう?フェリもエリオットもジュリアも、俺の愛する大切な宝物だ」
fin
変わらず旦那様は今も週末だけここへ帰る生活をしているが、それももう終わりを告げる。
この別宅に居を移してから、私はリハビリに打ち込んだ。
医師は治る見込みはないと言わないのだから、きっと大丈夫だとどこか楽観的に思える自分の考えに笑いも出そうになったが、その決意がプラスに働いたことは否めない。
結論からすると、一年が過ぎるころには一人で歩けるようにはなった。ほんの短い距離だけだが。
長い距離は杖をつけば一人でも歩けるがさすがに疲れるのであまり遠出はしない。みんなに迷惑をかけることは本意ではないのだから。
でも、旦那様と出掛ける時には腕を取って『俺がフェリを支えるから大丈夫だ』と満面の笑みで私の腕を取り、限界が来るとすぐに抱き上げるのだから、人前でそれはやめてほしいと思っている。
この別宅に来てからは社交の場に顔を出すことはせず、すべて義両親に任せていた。その会場で流れる私に対する否定的な噂や、社交もできない嫁は失格だと声高に言うような人たちには、旦那様が影からなんらかの制裁を加えているとかいないとか。
オリビアが面白いとばかりに教えてくれるので、社交の場に復帰しても話題に置いて行かれることはないだろうと思っている。
そしてここへ来て、怪我も良くなったころに私の懐妊が判明した。
旦那様は泣いて喜び、私は二度目の涙を見ることとなった。外では相も変わらず不愛想なのだがどうやら私の前では感情豊かになるようだ。
出産までは特段変わったこともなく、ここでゆっくりと過ごした。
そして初産の割には安産で、旦那様の色を持った男の子が生まれた。
エリオットと名付けた子の顔立ちはやはり旦那様似だろう。将来が心配だと思ったがそれは口に出さない。
そしてその三年後にはまた懐妊し、今度は女の子が生まれた。
今度は私に似た子で、ジュリアと名付けた。そして旦那様は私がエリオットが生まれた時に思ったことと同じことをぼそっと口にした。
キランやカイラには似たもの夫婦と言われているが、その通りだと思ってしまう。
そしてジュリアが三歳になる時に王都へと戻ることになり、もうすぐこの別宅を離れる。
お義父様がそろそろ当主の座を旦那様にお譲りになることと、旦那様が週末しか子供たちに会えないのは辛いと言ったからなのだが、そこで私は意地悪く『私には会いたくないのですか?』とそっぽを向いてみると、大慌てな様相で『それはない!フェリが一番に決まっている!』と私の前に跪き手を取りじっと見つめてきた。
私は意地悪なのかしら?と思いながら、もう旦那様の想いを疑うこともないし、旦那様も私の気持ちを疑うこともない。
社交界では私たちの不仲説が未だに消えないらしいから、この旦那様の姿を見せつけ、その時の周囲の反応が楽しみだとついつい想像してしまう。
眠る子供たちの顔を見ていると、この日も馬を駆けて戻ってきた旦那様がそっと部屋へと入ってくる。
「フェリ、ただいま」
「おかえりなさいませ。旦那様」
旦那様は私を抱きしめて、変わったことはなかったかと確認をされ子供たちの眠るベッドを覗き込んだ。
すやすやと眠る二人の子は、楽しい夢を見ているのか笑顔を浮かべている。
「半年後に王宮で王太子殿下の誕生会が開かれるんだが、そろそろ二人の仲を見せつけに行かないか?」
「旦那様、そんなことを考えていたの?」
「当たり前だろう?いいかげん寄ってくる夫人にうんざりなんだ」
旦那様は必要最低限の夜会には出席していたが、そのたびに私との不仲説を話題にされてない人穏やかではなかったのだ。出席した日の夜には必ずここに来ては文句を言っていたくらいだ。
いや、文句を言うというより、ただただ私の隣に座りそばを離れようとしなかったのだが、その姿を可愛いと思っていたのは内緒だ。
それに、私の怪我も今では普通に過ごせるほどに治り、長時間でなければ社交も厭わないほどだ。それに何かあっても、旦那様が気付いてくれるので、出掛ける時も安心なのだ。
「そうですね。その頃には本邸に戻っていますし、いい頃合ですわね」
「そうか!それならさっそくドレスの準備をしなければならないな」
旦那様はニコニコとご機嫌な様子を隠すこともなくそう言ったのだが、結婚した時のあの無表情で言葉の少ない旦那様の姿はいったいどこへ?という感じだ。
そして旦那様の言葉を聞いて、婚約してから今までの贈り物も全て旦那様が選んでいたと聞いて驚いたことも思い出した。
なんでもきちんと言葉にしなければわからないこともあるのだと、今更だが旦那様と今までの日々を振り返っている。
子供達には昔の私たちのようにならないように、年頃になった時にはどうしたらいいのかをしっかりと教えてあげなければとそんなことを思ったりもする。
それもまだまだ先の話だけれど。
「王都に戻ったら、揃いで仕立てよう。子供達にも必要なものも買わないといけないからな」
「そうね。みんなで一緒に出掛けましょうか」
そして王都に戻って家族で揃って出掛けた姿を見かけた噂好きの侯爵夫人が、その時の私たちの様子を吹聴するのはまだ先の話だ。
もちろん、その後の夜会での私たちの姿を目にした夫人方が旦那様に寄ってくるようなこともなくなった。
年齢を経ても衰えない魅力を持つ夫を持つと大変だが、その愛情が全て自分と子供たちに注がれていることを感じると幸せで、思わず笑みがこぼれる。
「旦那様。いつまでも側に居てくださいますか?」
「何を言ってる。そんなこと当たり前だろう?フェリもエリオットもジュリアも、俺の愛する大切な宝物だ」
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