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宝箱は冒険者ギルドを立ち上げる
43 宝箱は奴隷を買う 前
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うむ、スッキリした。
空の色がいつもより青く見える。
迷宮を出た時も飛び込んでくる情報の多さに驚いたものだが、今はまた別の景色を見ているようだ。
アイシャは実に強敵だった。また戦わねばならないだろう。
益体もないことを考えながらスラムを歩き、次の目的地に到着する。
「ここがビッチの言っていた奴隷商館か」
周囲と同じ木組みの掘っ立て小屋に変わりはない。若干造りがしっかりしているくらいか。
「いらっしゃいませ。当商館へようこそおいでくださいました」
奴隷商館の主らしき人物が出迎える。
至って普通の紳士だ。高級宿の主人であるラザロには及ばないものの、所作は丁寧であり、清潔感のある衣服を身に着けている。
「うむ、今日は奴隷を買いに来た。可能か?」
「もちろんでございます。手前ども、品揃えの良さは人族一と自負しております。他店とのつながりもありますし、必要ならば外部から調達することも可能です。かならずやお眼鏡に叶う奴隷を提供できるでしょう」
「期待している。ではさっそくだが商品を見せてもらえるか」
「かしこまりました。まずは当館に置いている奴隷たちをご覧頂きましょう。君、整列させてきなさい」
奴隷商人の指示を受けた従者が先行して駆けていく。
「準備が整うまでこちらでお待ちください」
待合室のような場所に通される。無駄に広めのスペースがある室内に、ソファとテーブルがポツンと置かれている。
「整列する前に、どのような奴隷を求めているのか聞かないのか?条件に合う奴隷だけを連れてくる方が手間もかからないだろう」
ソファに腰かけ出されたお茶を飲みつつ、ふと気になったので聞いてみる。
「お客様の中には、当初の希望とは大きく異なる奴隷を買い求められる方がいらっしゃいます。希望をお聞きして融通することも可能ですが、まずは今いる奴隷を一通りご覧頂き、気に入った奴隷がいないか確認して頂くほうが手前どもにとってもメリットが多いのです」
「そういうものか」
予算を決めていても、実際に良いものを見せられれば、高くても良い方を購入したくなることもあるだろう。
逆に予算に見合ったものを見つけた後に、その下のものを買おうとはならない。
それに今から買うのは物ではなく人間だ。
自分の好みをよく把握していない客も多いのだろう。
出す条件にもよるが、自分の好みを話して連れてこられた奴隷が気に食わなければ険悪になるだけだ。
それならばたくさんの中から選ばせるほうが双方にとって納得しやすい。
多少の手間をかけてでも全てを見せ、交渉し利益のある商品を売る。
これも商人の知恵ということか。素晴らしいことだ。
「お客様は奴隷を購入されるのは初めてですか?」
「うむ。人を所有できることを最近知ったのでな」
「左様でございますか。よろしければ奴隷の種類や管理についてお話いたしましょうか?」
「ありがたい申し出だ。頼む」
おそらく、今後も奴隷を購入していくことになるだろう。必要な知識を早めに仕入れられるのは悪くない。
俺は奴隷の準備が整うまで、奴隷についての知識を仕入れた。
話を聞くことしばし。奴隷商人の従者が戻ってきた。
「用意が整ったようです。正面をご覧ください」
「正面…?」
ソファから立ち上がろうとした俺を奴隷商人が制止し、正面を見るように促す。
俺が座っているソファの正面の壁には、大きな幕がかかっている。
開演前のコンサートホールのようだ。
奴隷商人が合図すると、幕が開いていく。
「これは…」
幕の奥はひな壇のような段々構造になっており、そこに多くの奴隷たちが整列していた。
ざっと50人はいるだろうか。100を超える目が俺に視線を向けている。
「いつのまに。これは、おもしろい趣向だな」
「お気に召して頂けたようでなによりでございます」
奴隷商人がニカリと笑う。
奴隷商人の話に集中していたとはいえ、俺の気配察知能力は普通の人間より高い。
【蒐集ノ神】は使用していなかったが、それでも俺に気づかれないように奴隷を移動させるとは。奴隷商人のこだわりが伺えた。
「奴隷ごとに服装が異なるようだが」
奴隷と言えば粗末な貫頭衣、そんなイメージがあったのだが。
シンプルな貫頭衣に身を包んだ男性もいれば、スラムで見た娼婦のように煽情的な衣装をした女性、なぜか大工が使うような道具箱や、剣と鎧を装備している奴隷もいた。
「奴隷たちに主人を選ぶ権利はありません。それでも可能なら自らの得意分野で働きたいと思っているものです。そちらの方が主人に高く評価してもらえますし、慣れない仕事で身体を壊すことも減りますから」
「剣を装備しているのは戦闘向けで、道具を持つ者は何らかの職人というわけか。では何も身に着けていない者は希望がないということか?」
「いえ、基本的に奴隷は財産を持たないため、装備を用意したのは手前どもです。その際、奴隷の希望は聞きますが、鍛冶志望というだけで鍛冶師として売るわけにはいきません。また逆に、秀でた能力を持つ者に、それに応じた服装をさせないわけにもいきません」
「なるほど、服装はあくまでも目安というわけか」
「左様でございます」
剣を身に着けている者は確かに戦えるのだろう。
だが奴隷の価値を高めるために、本人の希望でもないのに能力だけで身につけさせている可能性もあると。
その場合、本人にやる気はないだろう。
奴隷は奴隷の首輪を身に着けている。
無理矢理言うことを聞かせることもできるが、やはり自主性があるかないかは大きな違いがある。
俺は奴隷を買いに来た。買われた奴隷は俺の所有物となる。
それは屋台に陳列された果物や道具を買うのと同じ行為だ。
だが奴隷が他の物と異なる点がある。彼らにはそれぞれの意志があるということだ。
俺にとって宝を蒐集することが第一だが、それと同じく蒐集したものが最善の状態であることを望む。
剣ならば研ぎあげられた直後のように、宝飾品は磨き込み、陶磁器ならば欠けを埋める。
では人間は、どのような状態が最善であると言える?
俺は考えるが、明確な答えを出すことができない。
当たり前と言えば当たり前か。どこに価値を見出すかなど自分次第、気分次第だ。
価値など流動的なものだし、人間は歳を重ね変化していくものだ。
ともあれ、どのような扱いをするにしても、まずは所有物たちのやる気の有無は重要であろう。
かつて迷宮の最深層へ至った人間たちは、今思えば光り輝くほどの価値を持っていた。
彼らは誰に命じられたわけでもなく、彼らの意志でそこへ至ったのだ。
であるならば、俺が奴隷を所有し扱うにしても、本人たちのやる気を確認し、それを引き出す使い方をすることが重要だろう。
空の色がいつもより青く見える。
迷宮を出た時も飛び込んでくる情報の多さに驚いたものだが、今はまた別の景色を見ているようだ。
アイシャは実に強敵だった。また戦わねばならないだろう。
益体もないことを考えながらスラムを歩き、次の目的地に到着する。
「ここがビッチの言っていた奴隷商館か」
周囲と同じ木組みの掘っ立て小屋に変わりはない。若干造りがしっかりしているくらいか。
「いらっしゃいませ。当商館へようこそおいでくださいました」
奴隷商館の主らしき人物が出迎える。
至って普通の紳士だ。高級宿の主人であるラザロには及ばないものの、所作は丁寧であり、清潔感のある衣服を身に着けている。
「うむ、今日は奴隷を買いに来た。可能か?」
「もちろんでございます。手前ども、品揃えの良さは人族一と自負しております。他店とのつながりもありますし、必要ならば外部から調達することも可能です。かならずやお眼鏡に叶う奴隷を提供できるでしょう」
「期待している。ではさっそくだが商品を見せてもらえるか」
「かしこまりました。まずは当館に置いている奴隷たちをご覧頂きましょう。君、整列させてきなさい」
奴隷商人の指示を受けた従者が先行して駆けていく。
「準備が整うまでこちらでお待ちください」
待合室のような場所に通される。無駄に広めのスペースがある室内に、ソファとテーブルがポツンと置かれている。
「整列する前に、どのような奴隷を求めているのか聞かないのか?条件に合う奴隷だけを連れてくる方が手間もかからないだろう」
ソファに腰かけ出されたお茶を飲みつつ、ふと気になったので聞いてみる。
「お客様の中には、当初の希望とは大きく異なる奴隷を買い求められる方がいらっしゃいます。希望をお聞きして融通することも可能ですが、まずは今いる奴隷を一通りご覧頂き、気に入った奴隷がいないか確認して頂くほうが手前どもにとってもメリットが多いのです」
「そういうものか」
予算を決めていても、実際に良いものを見せられれば、高くても良い方を購入したくなることもあるだろう。
逆に予算に見合ったものを見つけた後に、その下のものを買おうとはならない。
それに今から買うのは物ではなく人間だ。
自分の好みをよく把握していない客も多いのだろう。
出す条件にもよるが、自分の好みを話して連れてこられた奴隷が気に食わなければ険悪になるだけだ。
それならばたくさんの中から選ばせるほうが双方にとって納得しやすい。
多少の手間をかけてでも全てを見せ、交渉し利益のある商品を売る。
これも商人の知恵ということか。素晴らしいことだ。
「お客様は奴隷を購入されるのは初めてですか?」
「うむ。人を所有できることを最近知ったのでな」
「左様でございますか。よろしければ奴隷の種類や管理についてお話いたしましょうか?」
「ありがたい申し出だ。頼む」
おそらく、今後も奴隷を購入していくことになるだろう。必要な知識を早めに仕入れられるのは悪くない。
俺は奴隷の準備が整うまで、奴隷についての知識を仕入れた。
話を聞くことしばし。奴隷商人の従者が戻ってきた。
「用意が整ったようです。正面をご覧ください」
「正面…?」
ソファから立ち上がろうとした俺を奴隷商人が制止し、正面を見るように促す。
俺が座っているソファの正面の壁には、大きな幕がかかっている。
開演前のコンサートホールのようだ。
奴隷商人が合図すると、幕が開いていく。
「これは…」
幕の奥はひな壇のような段々構造になっており、そこに多くの奴隷たちが整列していた。
ざっと50人はいるだろうか。100を超える目が俺に視線を向けている。
「いつのまに。これは、おもしろい趣向だな」
「お気に召して頂けたようでなによりでございます」
奴隷商人がニカリと笑う。
奴隷商人の話に集中していたとはいえ、俺の気配察知能力は普通の人間より高い。
【蒐集ノ神】は使用していなかったが、それでも俺に気づかれないように奴隷を移動させるとは。奴隷商人のこだわりが伺えた。
「奴隷ごとに服装が異なるようだが」
奴隷と言えば粗末な貫頭衣、そんなイメージがあったのだが。
シンプルな貫頭衣に身を包んだ男性もいれば、スラムで見た娼婦のように煽情的な衣装をした女性、なぜか大工が使うような道具箱や、剣と鎧を装備している奴隷もいた。
「奴隷たちに主人を選ぶ権利はありません。それでも可能なら自らの得意分野で働きたいと思っているものです。そちらの方が主人に高く評価してもらえますし、慣れない仕事で身体を壊すことも減りますから」
「剣を装備しているのは戦闘向けで、道具を持つ者は何らかの職人というわけか。では何も身に着けていない者は希望がないということか?」
「いえ、基本的に奴隷は財産を持たないため、装備を用意したのは手前どもです。その際、奴隷の希望は聞きますが、鍛冶志望というだけで鍛冶師として売るわけにはいきません。また逆に、秀でた能力を持つ者に、それに応じた服装をさせないわけにもいきません」
「なるほど、服装はあくまでも目安というわけか」
「左様でございます」
剣を身に着けている者は確かに戦えるのだろう。
だが奴隷の価値を高めるために、本人の希望でもないのに能力だけで身につけさせている可能性もあると。
その場合、本人にやる気はないだろう。
奴隷は奴隷の首輪を身に着けている。
無理矢理言うことを聞かせることもできるが、やはり自主性があるかないかは大きな違いがある。
俺は奴隷を買いに来た。買われた奴隷は俺の所有物となる。
それは屋台に陳列された果物や道具を買うのと同じ行為だ。
だが奴隷が他の物と異なる点がある。彼らにはそれぞれの意志があるということだ。
俺にとって宝を蒐集することが第一だが、それと同じく蒐集したものが最善の状態であることを望む。
剣ならば研ぎあげられた直後のように、宝飾品は磨き込み、陶磁器ならば欠けを埋める。
では人間は、どのような状態が最善であると言える?
俺は考えるが、明確な答えを出すことができない。
当たり前と言えば当たり前か。どこに価値を見出すかなど自分次第、気分次第だ。
価値など流動的なものだし、人間は歳を重ね変化していくものだ。
ともあれ、どのような扱いをするにしても、まずは所有物たちのやる気の有無は重要であろう。
かつて迷宮の最深層へ至った人間たちは、今思えば光り輝くほどの価値を持っていた。
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