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冒険者ギルド世界を変える
143 白銀の白狼VS灰狼部隊
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「トシゾウ様、私しばらく席を外しますわ」
「そうか、ほどほどにな」
「はい」
試合の直前、コレットが離脱した。
ゆっくり試合を見物していれば良いのに、友人想いなことだ。
「はじめ!」
戦闘班のかけ声が大通りに響き、戦いが始まった。
その場にいるのは獣人が19人。対するシオンは一人だ。
「いきます!」
先に仕掛けたのはシオン。
目にも留まらぬスピードと直観力がシオンの武器だ。
わざわざ相手の攻撃を待つ理由はない。
腰を深く落とし、地面を蹴る。蹴られた地面が爆発したように爆ぜる。両手に握り込んだ祖白竜の短剣は白銀の尾を引き、その柄が走り来る先頭の獣人のみぞおちを強打した。
「ッガアァ…」
鈍い音が響く。衝撃に悲鳴を上げることもできない獣人。
体がくの字に折れ曲がり、その勢いのまま吹っ飛び――
吹っ飛ばない。
自らの腹に埋まった柄とシオンの手を掴み、身体全体でシオンを抱き込みながら崩れ落ちる。
「っ、放してください!」
膂力に任せて獣人を振り回すシオンだが。
獣人は息も絶え絶えだが、必死にシオンに絡みつき離れない。
いや、あれは絡みついているというよりは引っかかっていると言ったほうが近いか。
あの武器の爪は…おそらくゴルオンの装備していたマッドマンティスの鎌の下位装備だな。
獣人の装備している爪はノコギリ状になっており、それがシオンの手と短剣の柄に引っかかるように食らいついているらしい。
もちろんシオンの肌と祖白竜の短剣はその程度で傷がつくほど軟弱ではない。
だが、それは獣人たちも理解しているだろう。これは明確な意図があっての行為だ。
先頭の獣人は犠牲前提の囮か。
いや、どの獣人を狙っても最初の者は囮になる作戦なのだろう。
文字通り聞き耳を立て情報を収集していた獣人は、シオンの初動にあたりをつけ見事に対応して見せたのだ。
さて、ここからどう出る。
「よくやった、今だ!」
灰狼の長が叫ぶ。
同時に獣人たちは腰から皮の袋を取り出し、シオン目掛けて一斉に投擲した。
【超感覚】により違和感を感じ取ったか。
シオンは皮袋を迎撃しない。
代わりに自分に纏わりついている獣人を持ち上げ、皮袋への盾とした。
ボフンッ
皮袋が弾け、着弾した一帯を黄色の霧が覆う。
おそらくは体の動きを阻害する薬品だろう。
距離をとって観戦している俺たちの方にも、風に乗って臭気が漂ってくる。
さすがにこの距離では一般人にも影響はないが、直撃すればそれなりに強力な麻痺毒だ。
シオンに盾にされた獣人は即座に体が弛緩し動きを止める。
袋を剣で切り払えばその麻痺毒はシオンに直撃していただろう。
だが灰狼の長が麻痺毒を使ったのはシオンを麻痺させるためだけではないのだろう。
「この匂いは麻痺毒ですね。私に状態異常は効きません」
シオンの装備した【永久の指輪】が柔らかな光を放つ。
スタンピードの後に俺がシオンに渡した装備だ。その効果は装備者を常に最良の状態に保つこと。多少の傷なら自動で回復し、状態異常の類はほぼ完全に遮断する。
「ちっ、やはり楽には終わらんか。だが想定済みだ」
灰狼の長は麻痺で勝負が決まらなかったことに舌打ちするが、やはり策はそれだけではないらしい。
「何かが…っ」
黄色の霧が立ち込める中、不穏な気配を察知したように周囲を警戒するシオン。
スキル【超感覚】による第六感とでも言うべき力が警告を発しているのだろう。
やっかいなことに、シオンの最大の武器ともいえる五感の多くが黄色の霧によって阻害されている。
次の瞬間、霧の中でも正常に働くシオンの聴覚が獣人たちの次なる投擲の音を捉えた。
「…できれば斬るのは避けたかったのですが、仕方ないです」
シオンは次の攻撃に対処するために、空いた片手に握った短剣で絡みつく獣人の腕を爪ごと切断した。
だがその判断は少々遅かったようだ。
その場から離れようとしたシオンは、上空から迫る次の一手を回避できないことに気付いた。
咄嗟に短剣をクロスさせ防御態勢をとる。
バサッ
「…これは、網?」
予想していた衝撃がやってこないことに安堵するも、シオンは事態が自分の想定していたよりも悪い方向に転がっていることに気付いた。
投じられたのは幾重にも重なる網。
獣人たちは麻痺の霧でシオンの視界が潰されるまで、背負い袋の中に畳まれた網を隠していたのだ。
「こんなもので!」
網を断ち切ろうとするシオン。
祖白竜の短剣が連続で閃き、次々と投じられる投網を切り裂いていく。
だが網は切られた端から周囲の糸と再び結合し、ついにはシオンを何重にも重なる網で押さえつけた。
「勝てるぞ!動きを封じればこっちのものだ!」
「ああ、これだけ重ねれば荒野の化け物ですら脱出は不可能だ。俺たちの勝ちだ!」
シオンの速度と力を目の当たりにし、内心焦燥感に駆られていた獣人たちは作戦が成功したことに沸き返っている。それは灰狼の長も同じようだった。
「軽々と切断するとはなんたる技術、なんたる業物か。だがこの網はヘルビクス・ラーヴァの紬糸でできている。断面は特殊な粘着素材で、切られても再び結合する。そして一度絡みつけば最後、動くほど獲物の動きを阻害する。我らの切り札だ。痛い出費だが勇者が敵ならばやむを得まい。脱出は不可能だろうが…念のためだ、多めに投げておけ」
長の指示を聞いた獣人たちが追加で網を放る。土埃が舞う。
「霧が晴れるまでは近づくな」
灰狼の長は余勢をかって追撃をかけようと走り出した獣人たちを押しとどめた。
舞い上がった土の粉塵が黄色の霧と混ざり合い、獣人たちの視界を遮る。
「まだ見えないのか。麻痺の霧はすぐに霧散するはずなのに」
「焦るな、多く網を投げたから土煙で視界が戻るのに時間がかかっているのだろう。俺たちは完全に包囲している。万が一霧を抜けてくれば必ず見える」
獣人たちは焦れた様子で自分たちの成果を見届けようとする。
全てが見えている俺からすれば、少し滑稽な光景であった。
黄色の霧が晴れた時、一帯はヘルビクス・ラーヴァの紬糸で足の踏み場がない状態だった。
その場に立っている者はいない。
「俺たちの勝利だ!」
「うぉおおお!」
勝利に沸く獣人たち。
灰狼の長が勝ち誇った顔でこちらに近づいてくる。
「そうか、ほどほどにな」
「はい」
試合の直前、コレットが離脱した。
ゆっくり試合を見物していれば良いのに、友人想いなことだ。
「はじめ!」
戦闘班のかけ声が大通りに響き、戦いが始まった。
その場にいるのは獣人が19人。対するシオンは一人だ。
「いきます!」
先に仕掛けたのはシオン。
目にも留まらぬスピードと直観力がシオンの武器だ。
わざわざ相手の攻撃を待つ理由はない。
腰を深く落とし、地面を蹴る。蹴られた地面が爆発したように爆ぜる。両手に握り込んだ祖白竜の短剣は白銀の尾を引き、その柄が走り来る先頭の獣人のみぞおちを強打した。
「ッガアァ…」
鈍い音が響く。衝撃に悲鳴を上げることもできない獣人。
体がくの字に折れ曲がり、その勢いのまま吹っ飛び――
吹っ飛ばない。
自らの腹に埋まった柄とシオンの手を掴み、身体全体でシオンを抱き込みながら崩れ落ちる。
「っ、放してください!」
膂力に任せて獣人を振り回すシオンだが。
獣人は息も絶え絶えだが、必死にシオンに絡みつき離れない。
いや、あれは絡みついているというよりは引っかかっていると言ったほうが近いか。
あの武器の爪は…おそらくゴルオンの装備していたマッドマンティスの鎌の下位装備だな。
獣人の装備している爪はノコギリ状になっており、それがシオンの手と短剣の柄に引っかかるように食らいついているらしい。
もちろんシオンの肌と祖白竜の短剣はその程度で傷がつくほど軟弱ではない。
だが、それは獣人たちも理解しているだろう。これは明確な意図があっての行為だ。
先頭の獣人は犠牲前提の囮か。
いや、どの獣人を狙っても最初の者は囮になる作戦なのだろう。
文字通り聞き耳を立て情報を収集していた獣人は、シオンの初動にあたりをつけ見事に対応して見せたのだ。
さて、ここからどう出る。
「よくやった、今だ!」
灰狼の長が叫ぶ。
同時に獣人たちは腰から皮の袋を取り出し、シオン目掛けて一斉に投擲した。
【超感覚】により違和感を感じ取ったか。
シオンは皮袋を迎撃しない。
代わりに自分に纏わりついている獣人を持ち上げ、皮袋への盾とした。
ボフンッ
皮袋が弾け、着弾した一帯を黄色の霧が覆う。
おそらくは体の動きを阻害する薬品だろう。
距離をとって観戦している俺たちの方にも、風に乗って臭気が漂ってくる。
さすがにこの距離では一般人にも影響はないが、直撃すればそれなりに強力な麻痺毒だ。
シオンに盾にされた獣人は即座に体が弛緩し動きを止める。
袋を剣で切り払えばその麻痺毒はシオンに直撃していただろう。
だが灰狼の長が麻痺毒を使ったのはシオンを麻痺させるためだけではないのだろう。
「この匂いは麻痺毒ですね。私に状態異常は効きません」
シオンの装備した【永久の指輪】が柔らかな光を放つ。
スタンピードの後に俺がシオンに渡した装備だ。その効果は装備者を常に最良の状態に保つこと。多少の傷なら自動で回復し、状態異常の類はほぼ完全に遮断する。
「ちっ、やはり楽には終わらんか。だが想定済みだ」
灰狼の長は麻痺で勝負が決まらなかったことに舌打ちするが、やはり策はそれだけではないらしい。
「何かが…っ」
黄色の霧が立ち込める中、不穏な気配を察知したように周囲を警戒するシオン。
スキル【超感覚】による第六感とでも言うべき力が警告を発しているのだろう。
やっかいなことに、シオンの最大の武器ともいえる五感の多くが黄色の霧によって阻害されている。
次の瞬間、霧の中でも正常に働くシオンの聴覚が獣人たちの次なる投擲の音を捉えた。
「…できれば斬るのは避けたかったのですが、仕方ないです」
シオンは次の攻撃に対処するために、空いた片手に握った短剣で絡みつく獣人の腕を爪ごと切断した。
だがその判断は少々遅かったようだ。
その場から離れようとしたシオンは、上空から迫る次の一手を回避できないことに気付いた。
咄嗟に短剣をクロスさせ防御態勢をとる。
バサッ
「…これは、網?」
予想していた衝撃がやってこないことに安堵するも、シオンは事態が自分の想定していたよりも悪い方向に転がっていることに気付いた。
投じられたのは幾重にも重なる網。
獣人たちは麻痺の霧でシオンの視界が潰されるまで、背負い袋の中に畳まれた網を隠していたのだ。
「こんなもので!」
網を断ち切ろうとするシオン。
祖白竜の短剣が連続で閃き、次々と投じられる投網を切り裂いていく。
だが網は切られた端から周囲の糸と再び結合し、ついにはシオンを何重にも重なる網で押さえつけた。
「勝てるぞ!動きを封じればこっちのものだ!」
「ああ、これだけ重ねれば荒野の化け物ですら脱出は不可能だ。俺たちの勝ちだ!」
シオンの速度と力を目の当たりにし、内心焦燥感に駆られていた獣人たちは作戦が成功したことに沸き返っている。それは灰狼の長も同じようだった。
「軽々と切断するとはなんたる技術、なんたる業物か。だがこの網はヘルビクス・ラーヴァの紬糸でできている。断面は特殊な粘着素材で、切られても再び結合する。そして一度絡みつけば最後、動くほど獲物の動きを阻害する。我らの切り札だ。痛い出費だが勇者が敵ならばやむを得まい。脱出は不可能だろうが…念のためだ、多めに投げておけ」
長の指示を聞いた獣人たちが追加で網を放る。土埃が舞う。
「霧が晴れるまでは近づくな」
灰狼の長は余勢をかって追撃をかけようと走り出した獣人たちを押しとどめた。
舞い上がった土の粉塵が黄色の霧と混ざり合い、獣人たちの視界を遮る。
「まだ見えないのか。麻痺の霧はすぐに霧散するはずなのに」
「焦るな、多く網を投げたから土煙で視界が戻るのに時間がかかっているのだろう。俺たちは完全に包囲している。万が一霧を抜けてくれば必ず見える」
獣人たちは焦れた様子で自分たちの成果を見届けようとする。
全てが見えている俺からすれば、少し滑稽な光景であった。
黄色の霧が晴れた時、一帯はヘルビクス・ラーヴァの紬糸で足の踏み場がない状態だった。
その場に立っている者はいない。
「俺たちの勝利だ!」
「うぉおおお!」
勝利に沸く獣人たち。
灰狼の長が勝ち誇った顔でこちらに近づいてくる。
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