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冒険者ギルド世界を変える
153 花より武器な女性たち
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工房区画
ラ・メイズの工房区画は外壁から外側に無秩序に広がっている。
装備を新調したい冒険者や、それを相手にする職人たち、彼らに衣食住を提供する商人たちでひしめき合い、冒険者区画の賑わいに勝るとも劣らない活気に溢れていた。
鍛冶仕事をしているのだろう、道の両脇に立ち並ぶ工房からは熱い空気が流れてくる。
道行く二人の前の工房から出て来た冒険者の背では、傷一つない大剣が誇らしげに存在を主張していた。
「とても賑やかです」
シオンの耳がピクピクと動く。
コレットには微かにしか聞こえないが、【超感覚】を持つシオンの耳には今も至る所から熱した金属を打つ音が鳴り響いているのだろう。
「すごい熱気。まるで季節が逆戻りしたかのようですわ」
秋が深まり少しずつ気温の下がってきたラ・メイズだが、この区画は真夏のような熱を放っている。
活気あふれる雰囲気は、室内で書類に埋もれて過ごすことが多いコレットにとって歩くだけでも元気を分けてもらえるようで心地が良いものだった。
「それで、このまま工房区画を見て回るんですの?」
珍し気に周囲を見回しながら訪ねるコレット。
「ううん、職人の皆さんが祖白竜の装備を見てみたいとギルドに依頼を出してきたらしいんです」
きょろきょろしているのはシオンも同じだが、どうやら目的地があるらしかった。
「それは仕事でしょう。休日ならば普通にお店を見て回るべきだと思いますわ。工房区画には武器屋以外にもたくさんお店があるのでしょう?」
「うーん、ついでだし良いかなって。いろんな武器も見せてくれるそうです。それにお休みよりもご主人様とギルドのために働いていたいから」
「シオンは働き者ですわね」
「うん、ご主人様のために働けるのは素晴らしいことです。それにいろいろな装備を見てみたいの。ご主人様から頂いた【無限工房】と武器があるから装備を買うことはないけど、見ているだけでもワクワクするから」
「ふふ、その気持ちはよくわかりますわ。美しい装飾品も良いけれど、やはり実用的な装備の方が見ていて楽しいですわよね。よし、じゃあ今日は徹底的に工房巡りですわ!」
「うん!」
街頭に並ぶ装備の数々に目を輝かせるシオンを微笑ましく見守るコレット。
高級な装備は店の奥で厳重に保管されているのが普通であり、今シオンたちが見ているのは安物の数打ち品だ。
二人の身に着けている装備に比べればガラクタと言っても過言ではない品々だが、独特な用途を持つ装備も多く、見ているだけでも楽しいものであった。
シオンとコレットはトシゾウのスキルである【無限工房】へ限定的にアクセスすることができる。
【無限工房】には装備の修復機能があるため、メンテナンスは必要ないのだ。
さらに装備一式はトシゾウから与えられているため、新たな装備を求める必要はない。
そのため仕事以外で工房区に用事はないのだが、それでも二人は少し物騒なウィンドウショッピングを楽しんだ。
「あの槌は先が尖っているからゴーレムの関節を砕きやすそうです」
「そうですわね、ドワグルの槌に少し似ていますわ。でも突起がある槌は良い素材を使っていないとすぐにダメになってしまうから、あれだとマッドゴーレム相手がせいぜいかしら。それよりシオンは爪を使わないんですの?」
「私は小さいから爪よりも短剣の方が良いとご主人様が言っていました。それに短剣の方が狙ったところを斬れるんです」
美しい少女たちが、やけに生々しい武器談議に花を咲かせながら工房区を歩いていく。
すれ違った人々は、まず美しく透き通った金髪と白髪が目の端に映り、下げていた目線を上げる。そして二人の美しい顔立ちに視線を盗まれ、漏れ聞こえてくる血生臭い会話と滲み出る強者のオーラに気付いて再び目線を下げるのだ。
ああ、あれは気軽に接触しない方が良い、と。
それは正解でもあるし間違いでもある。
シオンとコレットは基本的には面倒見が良くて優しい。
しかし悪意ある存在に容赦はしないし、決して怒らせてはいけない保護者が後ろについているのだ。
☆
「職人の皆さんが喜んでくれて良かったです」
「うーん、私には泣いているように見えましたわ。でもシオンがそう感じたなら喜んでいたのかもしれないですわね」
「うん、泣いて喜んでいました!さすがご主人様です」
満足げに尻尾を揺らすシオン。
一点の曇りもない紫の瞳を、七色に輝かせて主人を誇る親友は今日もブレない。
「たしかにトシゾウ様がすごいのは間違いないですが、人泣かせなのも事実ですわよね」
忠犬と化した親友に生暖かい視線を向けつつ、コレットは先ほどの職人たちの様子を思い返した。
シオンとコレットは、トシゾウから許可を受けた祖白竜の武器をサンプル…、ありていに言えば“お手本”として職人たちに手渡してきたところだ。
最初は素材の美しさと強靭さに圧倒されていた職人たちだったが、その素材を加工する高度な技術と装備そのものの完成度の高さに意識が移るにつれ、声にならない悲鳴を上げていた。
わざわざギルドに依頼を出してくるほど行動力と向上心がある職人たちだ。
今すぐには難しいかもしれない。その技術の差に落胆するかもしれない。
だがいずれ過去の技術を継承し、より良い宝を生み出すことを期待したトシゾウは祖白竜の装備を快く貸し出した。
祖白竜の装備は、かつてのドワーフが鍛え上げたものだ。
他種族との交流が希薄になっていた人族にとって、その技術は真新しく目を見張るものがある。
しかもトシゾウはそれを超えるもの、価値ある宝を創造することを望んでいる。
「レンタル料は不要だ。その代わり…期待しているぞ。だそうです」
「お、おう…。弟子たちは優秀だ。きっとやってくれるさ」
シオンが伝えたトシゾウの言葉に、どこか他人任せな返答をする親方。
多くの職人たちを束ねる親方は、老いの混じり始めた今でも現役で鎚を振るう腕利きの鍛冶師である。
数多くの業物を世に生み出してきたという自負を持っている。
期待している、と言われてプレッシャーを感じるような青二才ではないはずなのだが。
「親方!?そりゃないぜ!」
「そうですよ。俺たちの力で冒険者ギルドのやつらを驚かせてやりましょう!」
渡された装備に籠められた技術をしっかりと理解できていない若い職人たちが威勢よく声を出す。
一方で熟練の職人たちは、偉業の達成に必要な壁の枚数を頭の中で数え上げていた。
「その代わり…期待しているぞ。だそうです」
「わ、わかった。何度も言わないでくれ」
カセットテープのごとく、主の言葉を二度にわたり抑揚まで完璧に再現して見せたシオンに、親方は額から滝のような汗を流していた。
飛ぶ鳥を落とすどころか、捕まえて繁殖させて数を増やしてもう一度撃ち落とす勢いの冒険者ギルドの長は、職人たちの両肩をガッチリと捕まえて放さないことだろう。
「人泣かせですが、誰も悲しみで泣いていないあたりが絶妙ですわね」
悲嘆に暮れていたころの自分を思い出し、ふと可笑しい気持ちになるコレット。
シオンほど妄信していないにしろ、自分も主人に対して大きな信頼を寄せているのは認めざるを得ない事実であった。
冷や汗を流している職人の親方も、きっと依頼を出したことが英断だったと思う日が来るのだろう。それがいつの日になるのかはわからないが。
冒険者ギルドの躍進により、工房区画に流通する素材の量は目に見えて増加している。
さらに冒険者の数も増え、迷宮攻略が活発化したことで職人の仕事も活発になっている。
良い素材を安く使えるというのは大きい。
影響が出始めているのは工業分野だけではない。
冒険者の質の向上を目指したトシゾウの改革は、迷宮に関わりのあるすべての産業に影響を波及させていた。
迷宮から持ち帰られた素材は、やがて強力な道具となり迷宮へ挑む者の力となる。
ひょっとすると、祖白竜級の装備が出回るのもそう遠くない未来の話かもしれない。
「コレット、お腹が空いたから何が食べよう」
シオンがお腹に手をやりながら提案する。
なんだかんだとありつつも、二人の工房区画での目的は終了した。
時間は昼を少し過ぎたところである。
「そういえばそうですわね。串焼きを食べたのはお昼前だし、また小腹が空いてきましたわ。でも昼食には少し遅いですわね」
「私はお腹ペコペコです」
「その体のどこにそれだけ入るのか不思議ですわ」
やはりこの親友はダイエットをする女性の敵であると、シオンのほっそりしたウエストを恨みがましく見やるコレット。
シオンはお腹がペコペコだと言うが、コレットはまだ小腹が空いた程度だ。
「それなら食事もお茶もできるお店を探して…」
工房区にも飲食店はたくさんある。
さてどこへ入ろうかと二人が周囲を見回すのと、騒ぎが起こるのは同時だった。
ラ・メイズの工房区画は外壁から外側に無秩序に広がっている。
装備を新調したい冒険者や、それを相手にする職人たち、彼らに衣食住を提供する商人たちでひしめき合い、冒険者区画の賑わいに勝るとも劣らない活気に溢れていた。
鍛冶仕事をしているのだろう、道の両脇に立ち並ぶ工房からは熱い空気が流れてくる。
道行く二人の前の工房から出て来た冒険者の背では、傷一つない大剣が誇らしげに存在を主張していた。
「とても賑やかです」
シオンの耳がピクピクと動く。
コレットには微かにしか聞こえないが、【超感覚】を持つシオンの耳には今も至る所から熱した金属を打つ音が鳴り響いているのだろう。
「すごい熱気。まるで季節が逆戻りしたかのようですわ」
秋が深まり少しずつ気温の下がってきたラ・メイズだが、この区画は真夏のような熱を放っている。
活気あふれる雰囲気は、室内で書類に埋もれて過ごすことが多いコレットにとって歩くだけでも元気を分けてもらえるようで心地が良いものだった。
「それで、このまま工房区画を見て回るんですの?」
珍し気に周囲を見回しながら訪ねるコレット。
「ううん、職人の皆さんが祖白竜の装備を見てみたいとギルドに依頼を出してきたらしいんです」
きょろきょろしているのはシオンも同じだが、どうやら目的地があるらしかった。
「それは仕事でしょう。休日ならば普通にお店を見て回るべきだと思いますわ。工房区画には武器屋以外にもたくさんお店があるのでしょう?」
「うーん、ついでだし良いかなって。いろんな武器も見せてくれるそうです。それにお休みよりもご主人様とギルドのために働いていたいから」
「シオンは働き者ですわね」
「うん、ご主人様のために働けるのは素晴らしいことです。それにいろいろな装備を見てみたいの。ご主人様から頂いた【無限工房】と武器があるから装備を買うことはないけど、見ているだけでもワクワクするから」
「ふふ、その気持ちはよくわかりますわ。美しい装飾品も良いけれど、やはり実用的な装備の方が見ていて楽しいですわよね。よし、じゃあ今日は徹底的に工房巡りですわ!」
「うん!」
街頭に並ぶ装備の数々に目を輝かせるシオンを微笑ましく見守るコレット。
高級な装備は店の奥で厳重に保管されているのが普通であり、今シオンたちが見ているのは安物の数打ち品だ。
二人の身に着けている装備に比べればガラクタと言っても過言ではない品々だが、独特な用途を持つ装備も多く、見ているだけでも楽しいものであった。
シオンとコレットはトシゾウのスキルである【無限工房】へ限定的にアクセスすることができる。
【無限工房】には装備の修復機能があるため、メンテナンスは必要ないのだ。
さらに装備一式はトシゾウから与えられているため、新たな装備を求める必要はない。
そのため仕事以外で工房区に用事はないのだが、それでも二人は少し物騒なウィンドウショッピングを楽しんだ。
「あの槌は先が尖っているからゴーレムの関節を砕きやすそうです」
「そうですわね、ドワグルの槌に少し似ていますわ。でも突起がある槌は良い素材を使っていないとすぐにダメになってしまうから、あれだとマッドゴーレム相手がせいぜいかしら。それよりシオンは爪を使わないんですの?」
「私は小さいから爪よりも短剣の方が良いとご主人様が言っていました。それに短剣の方が狙ったところを斬れるんです」
美しい少女たちが、やけに生々しい武器談議に花を咲かせながら工房区を歩いていく。
すれ違った人々は、まず美しく透き通った金髪と白髪が目の端に映り、下げていた目線を上げる。そして二人の美しい顔立ちに視線を盗まれ、漏れ聞こえてくる血生臭い会話と滲み出る強者のオーラに気付いて再び目線を下げるのだ。
ああ、あれは気軽に接触しない方が良い、と。
それは正解でもあるし間違いでもある。
シオンとコレットは基本的には面倒見が良くて優しい。
しかし悪意ある存在に容赦はしないし、決して怒らせてはいけない保護者が後ろについているのだ。
☆
「職人の皆さんが喜んでくれて良かったです」
「うーん、私には泣いているように見えましたわ。でもシオンがそう感じたなら喜んでいたのかもしれないですわね」
「うん、泣いて喜んでいました!さすがご主人様です」
満足げに尻尾を揺らすシオン。
一点の曇りもない紫の瞳を、七色に輝かせて主人を誇る親友は今日もブレない。
「たしかにトシゾウ様がすごいのは間違いないですが、人泣かせなのも事実ですわよね」
忠犬と化した親友に生暖かい視線を向けつつ、コレットは先ほどの職人たちの様子を思い返した。
シオンとコレットは、トシゾウから許可を受けた祖白竜の武器をサンプル…、ありていに言えば“お手本”として職人たちに手渡してきたところだ。
最初は素材の美しさと強靭さに圧倒されていた職人たちだったが、その素材を加工する高度な技術と装備そのものの完成度の高さに意識が移るにつれ、声にならない悲鳴を上げていた。
わざわざギルドに依頼を出してくるほど行動力と向上心がある職人たちだ。
今すぐには難しいかもしれない。その技術の差に落胆するかもしれない。
だがいずれ過去の技術を継承し、より良い宝を生み出すことを期待したトシゾウは祖白竜の装備を快く貸し出した。
祖白竜の装備は、かつてのドワーフが鍛え上げたものだ。
他種族との交流が希薄になっていた人族にとって、その技術は真新しく目を見張るものがある。
しかもトシゾウはそれを超えるもの、価値ある宝を創造することを望んでいる。
「レンタル料は不要だ。その代わり…期待しているぞ。だそうです」
「お、おう…。弟子たちは優秀だ。きっとやってくれるさ」
シオンが伝えたトシゾウの言葉に、どこか他人任せな返答をする親方。
多くの職人たちを束ねる親方は、老いの混じり始めた今でも現役で鎚を振るう腕利きの鍛冶師である。
数多くの業物を世に生み出してきたという自負を持っている。
期待している、と言われてプレッシャーを感じるような青二才ではないはずなのだが。
「親方!?そりゃないぜ!」
「そうですよ。俺たちの力で冒険者ギルドのやつらを驚かせてやりましょう!」
渡された装備に籠められた技術をしっかりと理解できていない若い職人たちが威勢よく声を出す。
一方で熟練の職人たちは、偉業の達成に必要な壁の枚数を頭の中で数え上げていた。
「その代わり…期待しているぞ。だそうです」
「わ、わかった。何度も言わないでくれ」
カセットテープのごとく、主の言葉を二度にわたり抑揚まで完璧に再現して見せたシオンに、親方は額から滝のような汗を流していた。
飛ぶ鳥を落とすどころか、捕まえて繁殖させて数を増やしてもう一度撃ち落とす勢いの冒険者ギルドの長は、職人たちの両肩をガッチリと捕まえて放さないことだろう。
「人泣かせですが、誰も悲しみで泣いていないあたりが絶妙ですわね」
悲嘆に暮れていたころの自分を思い出し、ふと可笑しい気持ちになるコレット。
シオンほど妄信していないにしろ、自分も主人に対して大きな信頼を寄せているのは認めざるを得ない事実であった。
冷や汗を流している職人の親方も、きっと依頼を出したことが英断だったと思う日が来るのだろう。それがいつの日になるのかはわからないが。
冒険者ギルドの躍進により、工房区画に流通する素材の量は目に見えて増加している。
さらに冒険者の数も増え、迷宮攻略が活発化したことで職人の仕事も活発になっている。
良い素材を安く使えるというのは大きい。
影響が出始めているのは工業分野だけではない。
冒険者の質の向上を目指したトシゾウの改革は、迷宮に関わりのあるすべての産業に影響を波及させていた。
迷宮から持ち帰られた素材は、やがて強力な道具となり迷宮へ挑む者の力となる。
ひょっとすると、祖白竜級の装備が出回るのもそう遠くない未来の話かもしれない。
「コレット、お腹が空いたから何が食べよう」
シオンがお腹に手をやりながら提案する。
なんだかんだとありつつも、二人の工房区画での目的は終了した。
時間は昼を少し過ぎたところである。
「そういえばそうですわね。串焼きを食べたのはお昼前だし、また小腹が空いてきましたわ。でも昼食には少し遅いですわね」
「私はお腹ペコペコです」
「その体のどこにそれだけ入るのか不思議ですわ」
やはりこの親友はダイエットをする女性の敵であると、シオンのほっそりしたウエストを恨みがましく見やるコレット。
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