救いの声

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3章 加護を受けた人

母の影

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あかりと別れたあの日から、また静かな空が続いていた。
けれど、どこか心の奥がぽっかりと空いたような気がしていた。
それは、きっと「終わり」のあとの静けさのせいだけではなかった。

みことは雲を抜ける風の中で、ふと口を開いた。

「……そういえば、あかりのお母さんを探すのって、
あなたに頼めばよかったんじゃないかな?」

背中で揺れる光の羽音。女神様は静かに応える。

「もちろん、できましたよ。最初から私に言ってくだされば」

「えー、ずるい。じゃあ最初からそうしてくれればよかったのに」

「でも、たくさん冒険したでしょう?」

「……うん、確かに。いろんな場所に行けたし、出会いもあったし。楽しかったから、まぁ、いっか」

風がくすぐるように笑い、ふたりはしばらく沈黙する。

そのときだった。ぽつりと、みことが呟いた。

「ところでね……私のお母さんも、小さい頃の記憶しかないの」

女神様が、ゆるやかに目を細める。

「最後に見たのは、私がまだ小さかったとき。
何かに呼ばれてるって言って、どこかへ行ってしまったの」

ふと、試練のときに見た夢が脳裏をよぎる。
あの、冷たい声。

――「あなたのことなんて、嫌いよ」

あれは幻か、記憶か。現実か、それともただの恐怖の象徴か。

みことは頭を振った。

「……会ってみないと、わからないよね。本当にそう思ってたのか、ただの幻だったのか」

そして、あかりの泣き顔と笑顔が脳裏に浮かんだ。

「会えたとき、あの子、すごく嬉しそうだったな……」

沈黙のあと、みことは振り返る。

「ねえ、女神様。私のお母さんのことも、探せますか?」

女神様は微笑んだまま、頷いた。

「もちろん、できます」

みことは喜んだ。

けれど、ほんの数秒後、その言葉が続く。

「――いえ、ごめんなさい。やっぱり……できません」

「……え?」

みことの表情が曇る。

「もしかして……もう、お母さんは……」

「いいえ。生きています。今も、どこかで、たしかに」

「じゃあ、どうして――」

女神様は、はっきりと答えなかった。

「うまく説明できません。けれど、私の力では、
あなたをそこに導くことが……できないのです」

風が、ほんの一瞬止まった気がした。

みことは、瞳を閉じた。

沈黙の中に、答えはすでにあるように思えた。

「……わかった。だったら、私が自分で探すよ」

ゆっくりと瞼を開け、まっすぐ前を見据える。

「世界のどこにいたって、私はお母さんに会いに行く。
だって、ちゃんと聞きたいもん。私のこと、本当に――」

風が再び吹いた。

「――どう思ってたのかって」

空の向こうにはまだ、見ぬ地平が広がっている。
みことの新しい旅が、静かに始まっていた。
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