色々物語

静かな革命

ミライは完成したドローンの映像を、匿名で編集し、
"FutureKey" の名義で動画投稿サイトとSNSにアップした。
ただし、位置情報や個人情報はすべて巧妙に隠し、背景も加工済み。

翌日――
「すごい…これ、本物？」「完全自立飛行って無理じゃない？」
コメント欄は数時間で埋め尽くされ、再生数は桁違いの勢いで増えていく。

ニュースサイトも取り上げ、テック系フォーラムでは議論が加熱した。
「開発したのはどこの企業だ？」「軍事用か？」「まさかAIが設計？」
中には、大手企業の公式アカウントが「FutureKeyさん、もし見ていたら連絡を」と投稿するほどだった。

ミライは机に頬杖をつきながら、パソコンの画面を見つめていた。
完成したドローンの写真と、簡単な説明文が並んでいる。

「……まぁ、このまま置いておくのももったいないし」

軽い気持ちで、フォルダの中から設計図や回路図、プログラムコードの一式を取り出す。
ネジ一本の長さまで細かく書き込まれたそのデータは、素人目にも本物だとわかるだろう。

ユメが机の端から覗き込んだ。
「本当に全部上げるの？ これ、かなり高度だよ」

「見たい人がいれば作れるようにすればいいじゃん。困ってる人が使えたら、それでいいんだし」

それから、何の迷いもなく、ミライは"FutureKey"のアカウントにログインした。
アップロードボタンを押すと、ファイルは数秒でネットの海へと溶け込んだ。
タグには〈フリー設計〉〈DIY〉〈ドローン〉とだけ付けられている。

投稿を終えると、ミライは椅子を回して立ち上がった。
「よし、今日はもうおやつにしよっと」
その足取りは、まるで何の大ごともしていないかのように軽い。

一方その頃——
海外のDIYフォーラムに、その投稿が翻訳付きで転載されていた。
「これは革命的だ！」
「このサイズで完全自律飛行だと！？ 信じられない！」
数時間のうちに、世界中のエンジニア、ホビイスト、研究者たちがデータを保存し、試作を始める。
SNSでは〈#FutureKeyDrone〉のタグが爆発的に拡散され、動画共有サイトには試作機の映像が次々と上がり始めた。

しかし、ミライはその渦中にいることを知らない。
彼女は静かな部屋で、クッキーをかじりながらユメに言った。
「ね、これで誰でも楽に空を飛ばせるよ。きっと、ちょっとだけ世の中便利になるよね」

ユメは少し間を置き、低く呟いた。
「……“ちょっと”じゃ、済まないかもしれない」