色々物語

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世界の全て①

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「もし、この世界が全部創作だったら?」

ある日、少女は母親と一緒に窓辺で座っていた。外では風が心地よく、木々の葉がささやくように揺れている。日差しが柔らかく、部屋の中を暖かく照らしていた。

ふと、母親は静かに問いかけた。「この世界が、もし全部創作だったら、あなたはどう思いますか?」

突然の問いに、少女は驚いた顔をしながらも、少し考え込む。「作ってる人が決めるってこと?」と、まだ小さな声でたずねた。

母親はにっこりと笑って、「そう、物語を作る人が世界を決めるの」と優しく答えた。

「じゃあ…その人が素敵なお話を作ってくれたらいいな」と少女は目を輝かせて言った。「より良い世界にっ!」

「そうね、この世界が全部素敵な物語であれば、本当に素晴らしいわね」と母親は同意するように頷いた。

そのあと、母親は少女に一冊のノートを差し出した。表紙は柔らかい布張りで、少女の手にすっぽりと収まる。

「あなたも物語を作ってみて。何でも自由に書いていいんですよ」

「本当に?」少女は嬉しそうに目を見開いた。「ありがとう!」

少女は毎日、ノートにいろいろな物語を書いていった。王子と姫が出会って幸せになる話、動物たちが力を合わせて困難を乗り越える冒険、そして小さな町での温かい日常…どの物語も、最後にはみんなが笑顔になる結末ばかりだった。

ある日、すべてのページを書き終えた少女は、母親にそのノートを見せた。「ねえ、お母さん、私の書いた物語、どう思う?」少女はワクワクしながら、母親の反応を待った。

母親はページをゆっくりとめくり、優しい眼差しで少女の書いた物語を読んでいた。しばらくして、静かに言った。「あなたの物語、どれも素敵ね。でも、少し気になったことがあるの。あなたは、どうして悲しい出来事を描いたのかしら?」

少女は戸惑いながら答えた。「うーん、ほとんどのお話って、最初は悲しいことがあって、最後にみんな幸せになるよね。それが普通だと思って…」

母親は静かに微笑み、「そうね、たくさんの物語はそうかもしれない。でも、あなた自身はどう思うの?本当に、悲しいことがある物語が一番いいと思う?」

少女は少し考え込んだ。「うーん…私は悲しいことはあんまり好きじゃないかも…。みんながずっと幸せなお話の方がいいかも。」

母親は優しく頷いた。「そうよね。物語は、悲しいことがなくても素敵なものになるわ。あなたの物語だもの、あなたが心から幸せだと思えるお話を、自由に書いていいのよ」

そして、少女は成長し、大学生になった。彼女は新たな視点を持ち、様々な物語に触れることで、物語の持つ力をより深く理解するようになった。

恋花は、柔らかな朝の光が差し込む中、未来創造大学に向かう道を歩いていた。彼女の手には、心の友であり、アイデアを記録するためのドルフィンメモリが抱えられている。そのぬいぐるみは、彼女の思考を受け止め、夢を形にするための重要な存在だった。

「今日も新しい物語を考えよう。」恋花は、メモリの柔らかな背中を撫でながら、心の中でアイデアを巡らせていた。あの頃から、彼女は多くの知識や考えを得てきた。そして、物語の方向性も少しずつ固まってきている。

「この世界ではない理想の世界を作るとしたら、苦しみがほとんど少なくて、決断がほとんどない物語がいいな。」彼女は思った。しかし、具体的にどうなるかはまだ決まっていない。「存在しなければ良かったなんて単純な物語にはしたくない。せっかく生きているなら、理想の物語を創造したい。」

彼女は心の中で描く現実での理想の世界を思い浮かべていた。外側からの苦しみがほとんどなくて、そこで自分が理想を作り出せたらどんなに素晴らしいだろう。創作は、その現実がどんな世界かを実際に表現するためのツールなのだと理解している。恋花はドルフィンメモリの中に保存した昔のメモや物語を見つめ、心が躍った。

「私は今、とっても幸せだ。」そう呟くものの、現実には生きにくいこともある。女性たちが長い間、辛い思いをしてきた歴史を学んできた彼女は、役割分担や「女性はこうあるべき」という偏見が今もなお存在することを痛感していた。

「生きやすい現実を手に入れるためには、いろんな人と協力して、女性にとって生きやすい世の中を作り出すことが大事だ。」恋花は決意を新たにした。彼女の目指す未来は、すべての人が尊重される社会であり、その実現のためには自分の物語を創り出さなければならないと強く思った。

未来創造大学のキャンパスが見えてきた。独特なデザインの建物が立ち並び、そこには夢を追い求める学生たちが集まっている。恋花は、その中に身を置くことで、自分の考えを形にする仲間たちと出会えることを期待していた。

「今日も、新しいアイデアが生まれるかもしれない。」心を躍らせながら、恋花は大学の門をくぐった。彼女のドルフィンメモリは、これからの冒険の伴侶となり、彼女の想いを形にしてくれる存在なのだった。未来創造大学は、彼女にとって希望と夢を抱く場所であり、理想の世界を創り出すための第一歩だった。

恋花は未来創造大学のキャンパスに到着し、歴史学の授業を受けるための教室に向かっていた。キャンパスの空気は新鮮で、さわやかな朝の光が彼女の心を満たしていた。講義を受ける中、恋花は心の中で思いを巡らせていた。「やっぱり、昔って、争ってばかり。」歴史は争いの連続であり、特に女性の立場が低かった時代が長く続いていたことを思い出す。

授業が終わり、学生たちが教室を出ていく中、恋花は自分の考えに没頭していた。つい100年前、女性は男尊女卑の社会で抑圧されていた。その苦しみの歴史はほんの少し前の出来事であり、今もなお女性の立場は完全には向上していない。彼女はこの現実に向き合わなければならないと感じていた。

「だから考えていかないといけないんだ。」特に宗教についても考える必要がある。歴史的に見ても、主に男性のために作られた宗教が多い。男性が都合よく、宗教を利用してきたことは否めない。「私はこう考えてる。でも、逆に、女性が都合よく作るのは良くないのかな…」と疑問を持つ。

彼女は思考を巡らせながら、理想の物語を描いていた。「誰一人、悲しまない都合のいい物語は、望まれるものだ。きっと、それはたくさん作っていった方がいい。」そんな考えに浸っていると、ふと窓の外に目をやった。そこには、一人悲しそうに座り込んでいる女の子がいた。恋花はその子に近づき、声をかけた。「どうしたの?」

その女の子は、理系の分野に興味を持っていたが、女子の割合が低くて悩んでいる様子だった。「理系の女子は少ないから、やっぱり私には向いてないのかな…」と呟く。

恋花は、自分が文系であることを思い出しながらも、彼女の言葉に耳を傾けた。「そうか…私は文系だから、理系のことを深く理解しているわけじゃないけれど、理系が向かないって訳じゃないと思うんだ。」彼女は優しい声で続けた。「理系分野で数々の賞を取った女性もいるし、活躍している人もたくさんいる。数が少ないだけで、あなたもきっと大丈夫。自信を失っちゃうかもしれないけど、あなたはあなたの道を進んで。」

その言葉に、女の子の顔に少し光が差した。「本当に?ありがとう…!」

その光景を見ていた恋花の友人、ゆめが現れた。「素敵な感情の繋がり…恋花ちゃんは素敵な人です。」

恋花は驚いて顔を上げた。「ゆめちゃん、久しぶり!大学で一緒なんだね。」高校や部活での思い出が蘇り、彼女は自然と笑顔になった。

恋花は、ゆめとの再会を心に刻みながら大学を後にした。キャンパスを出て、夕方の静かな街並みを歩きながら、彼女の胸には温かい気持ちが広がっていた。

恋花が家に帰ると、リビングには同居者の空希が静かに座っていた。彼の存在は、まるで風のように軽やかで、まるで「空気」のような名にふさわしかった。空希は恋花をいつもサポートしてくれる心優しい人で、バイトをしながら彼女の生活費を補い、家事全般もこなしていた。家に帰ると部屋はいつも整っていて、食事の準備も完璧だ。恋花はフェミニスト的な視点を持っているが、空希が彼女のために献身的に尽くすことには不思議と違和感を感じない。それは、彼の存在があまりに自然で、空気のようにそこにあって当たり前だからだ。

部屋に入ると、恋花はそのままデスクに向かい、ノートを広げて今日の出来事を書き始めた。大学での授業中に思ったこと、特に性別による分断についての考えが頭を巡っていた。「男子は文系、女子は理系」といった、固定観念が未だに根強く存在していることに違和感を覚えた。現代においても、特定の性別に求められる役割や期待が暗黙のうちに存在している。恋花は、これをどのように物語に取り込むかを考え始めた。

「どうやって偏見をなくしていけるだろう?」と彼女は思う。人々が性別に関係なく自由に自分の道を選べる世界。その世界を描くことで、少しでも変化を促せるのではないか――そんな思いが彼女の胸に燃え上がっていた。恋花は、偏見のない未来を描く使命に駆られ、筆を走らせる。

しばらくして、空希が台所からやってきた。「お菓子を作ったんだけど、食べる?」彼の手には、きれいに焼き上がったクッキーが載っていた。

しかし、恋花は優しく首を横に振って答える。「ありがとう。でも、今はお菓子よりも野菜料理がいいな。」

恋花はヴィーガンであり、動物たちと人間が調和して生きている理想の世界を夢見ていた。動物たちが幸せそうに共存し、互いに助け合いながら生きていく。そんな優しく美しい世界が、彼女の心の中ではいつも描かれていた。「動物たちや植物たちも、私たちと同じように美しく大切な存在」と考える恋花にとって、動物を傷つけない生活は彼女の信念そのものだった。

「分かったよ。じゃあ、次は野菜の料理を作るね」と空希は微笑んで、再び台所へと戻っていった。

恋花はふと昔、自分が書いた物語を思い出し、本棚からそのノートを取り出した。

未花は軽やかに動物たちと一緒に走り回っていた。毎日この野原で過ごすのが大好きだった。動物たちと対話ができるこの世界は、彼女にとって特別だったけれど、その不思議さに心から感謝していた。

恋花はふと昔、自分が書いた物語を思い出し、本棚からそのノートを取り出した。ページをめくると、彼女の若き日の夢や思いが詰まった物語が広がっていた。その物語は、理想の世界を描いていた。

その世界では、義務に駆られて何かをする必要はなく、食事も取る必要がない。動物たちは、弱肉強食の世界を忘れ、平等に生きていた。技術革新によって、それらが可能になった世界が広がっていた。

「この物語、今でも私の理想を映し出している。」恋花は思わず呟いた。動物たちは異なる生き物同士でもコミュニケーションが取れるようになり、互いの目から見える世界を語り合っていた。自然と仲間たちとともにその世界を楽しみ、時にはスポーツを通じて遊び、絆を深めている。

特に重要なのは、創作の役割だった。他者と自分の目から見える世界が異なることで、さまざまな考えや新たな世界が生まれる。そのため、互いに話し合い、視点を共有することが、独自の創作を生み出す源となっていた。様々なアイディアが交わり合い、新たな発想が次々と生まれていく。

「この世界において、創作は人々の心を豊かにし、共に高め合うものなんだ。」恋花は思いを巡らせた。

そして、そのまま続きを読んだ。

「今日は何をしようか?」と未花はにっこり微笑む。目の前には、彼女に答えるかのように、動物たちが嬉しそうに囲んでいた。

「宝探しはどう?」動物たちの提案に、未花は目を輝かせた。

「いいわね!みんなで一緒に探そう!」彼女は動物たちと共に、野原に隠された小さな宝物を探し始めた。彼女の動きは軽やかで、動物たちと笑い合いながら、木陰や岩の裏に目を凝らした。

宝物は、小さな手作りの木の箱やアクセサリー、彼女たちの日々の思い出が詰まったものだ。宝物を見つけるたび、未花は喜びを隠しきれず、「見つけた!これも楽しい思い出ね!」と笑顔を浮かべた。

宝探しが終わった後、次に始まるのはクイズの時間だった。動物たちが次々と出題するクイズに、未花は楽しそうに答えていく。「この花の名前は?」「この石はどの時代からある?」未花は動物たちと楽しみながら、知識を吸収していく。

「正解!」動物たちは喜びの声を上げ、未花は達成感に満ちた表情を浮かべた。彼女はクイズを通じて、新しい知識を得るたびに未来への希望を強く感じていた。

ある日の午後、ゲームを終えた未花は、家に帰りコンピュータの前に座った。ディスプレイには、優しい声が響き渡り始めた。

「今日は未来の理想郷について学びましょう。あなたが今住んでいるこの世界が、どうしてこんなに美しく、平和で、調和が取れているのか知りたくない?」

未花は、コンピュータの誘導に従いながら、楽しそうに歴史の授業を進めていった。ディスプレイには、理想郷に至るまでのストーリーが描かれた。そこには未来へ向かうための希望が詰まっていた。

かつての歴史には、さまざまな出来事が記録されていたが、この未来ではそれらはすでに乗り越えられ、忘れ去られていた。全ての物語は、遊び心と楽しさ、幸福に満ちており、みんなが平和で楽しく過ごしていた。

「この未来では、人々はお互いに仲良く過ごし、動物たちとも楽しく遊んでいます。皆で集まって、笑い合い、遊び続けることが日常なんだ。」

未花はその言葉を聞いて、笑顔を浮かべた。「それって最高だね!私たちも毎日遊んで、楽しい時間を過ごしてるんだ。」

コンピュータは続けた。「この理想郷では、動物たちも人々と同じように言葉を交わし、楽しい時間を共有しています。彼らはそれぞれの特技を持ち寄り、みんなで遊びながら楽しい毎日を送っているんです。」

未花は目を輝かせて言った。「本当に素敵!それなら、私たちももっと遊んで、楽しいことをしていこう!」

「その通り!希望は、楽しむことから生まれるんだよ。君の笑顔が、周りの人たちや動物たちにも幸せを広げていくの。」

未花はゲームを終え、リラックスした気持ちで言った。「今日は、何して遊ぼうかな?特に大きなことをしなくても、みんなで楽しく過ごせればそれでいいし!」

コンピュータが答える。「その思いが、希望の連鎖を生むんだ。君が楽しむことで、周りの人や動物たちもその楽しさに触発されて、自然と笑顔が広がるんだよ。」

未花は思い出した。友達と過ごした楽しい時間、笑い声が心に浮かぶ。「それなら、私はもっと楽しんで、周りの人たちを幸せにしていこう!」

「その通り!遊び心を持って日々を楽しむことが、未来への希望を育む鍵なんだ。」

未花は心の中に温かな希望を抱きながら、動物たちと共に日々の小さな楽しみを見つけていくことを決意した。

恋花はその物語を読み進めながら、思わず眉をひそめた。
「ちょっと、まだまだ理想の世界じゃないかな‥。」

そのストーリーには魅力があったが、心の奥底で感じる理想との乖離が気になった。彼女は、この物語にはまだまだ改善の余地があると確信し、心を決めた。もっと素晴らしい理想を追い求めるために、作り直す必要があると。

そんなことを考えていると、ふと彼女は気づいた。
「あ、そういえば‥書いてる途中で、いつの間にか脱線しちゃってた‥。」

もともとは文系と理系の性別分担について考えていたはずだった。しかし、いつの間にかそのテーマから離れ、心の中の理想像に目を向けることを忘れてしまっていた。彼女の理想とは、すべての人間関係が一切の不快感を伴わず、互いに理解し合える世界だ。それがきっと彼女の目指す理想なのだ。

恋花は、さまざまな場面を通じてその理想を描いていくことで、周囲に触発される情報が集まるのを感じた。理想像を具体化することで、彼女自身が望む世界が形作られていくのだと確信した。登場人物たちが互いに思いやりを持ち、共に笑い合い、時には苦難を共に乗り越える姿を描くことで、理想の世界をより鮮明にすることができる。

そんなことを考えながら、時間がいつの間にか経ってしまったことに気づいた。
「いけない‥こんなに時間が過ぎてるなんて、夢中になりすぎた。」

恋花は心を落ち着け、静かに目を閉じた。理想の世界を思い描きながら、彼女は眠りについた。彼女の心の中には、未来への希望と、理想の物語を形にするための情熱が温かく灯っていた。

その日、私は夢を見た。

私のそばに、一つの小さな光がふわりと現れ、静かに心の中へと入っていった。光が入った瞬間、私の心が温かくなり、穏やかな安心感が広がっていくのを感じた。それは、何か大切なものが見つかったような感覚だった。

その次に現れたのは、黒い光だった。ゆっくりと私に近づいてきたけれど、私はそれを避けることができた。黒い光は冷たく、何か不安を引き起こすような存在だったけれど、私はその光を見てすぐに気づいた。「これは私が受け入れなくてもいいものだ」と。そして、私は黒い光が近づくのを自覚し、避けようと思えば避けられるものだと理解したのだ。

黒い光が通り過ぎた後、また小さな光がやってきた。私はその光を自然と受け入れた。そうして、光は私の心の中に積み重なり、一つ一つが静かに私を強くしていくようだった。

気づけば、私は毎日何かを手に入れていた。昨日は一つ以上の光を、今日もまた新しい光を受け入れている。そして、明日もきっと、さらに多くのものを手に入れるだろう。毎日の中で、少しずつだけれど確実に、心が豊かになっていくのを感じていた。

「あなたにとって大切なものは何ですか?」

ふと、誰かにそう問いかけられた気がした。私の中では、すでに答えが決まっていた。外からの刺激や感情の揺れに左右されることもあるけれど、私が本当に大切だと思うものは、もっと深く、自分の中にあるのだ。

いい人かどうか、それは他人の評価でしかない。けれど、最も大事なのは、自分自身をどれだけ大切にしているか。私は光を受け入れ続け、いつかその光が、私という存在を形作る大きな希望になるだろう。それが、私の人格を支えていく。だから私はその一つ一つを大切にする。

そして、その思いを文章に書き留めた。いつか忘れないために、そしていつでも思い出せるように。その記録が、まるで私を支えてくれるような存在になっていく。ドルフィンメモリ―それは私の心の中にある優しい記憶のかけらだ。

過去の私が、今の私を支えてくれる。そして、未来の私もまた、この優しい光の積み重ねで成り立っている。

自分にとって本当に大切なもの。それは、自分の力で自分に与えたときに得られるものだ。それは努力や時間を要するものではない。むしろ、突然訪れることもあれば、長い間訪れないこともある。まるで、風が木々の間を抜けるように、気まぐれに現れるものだ。それが現れる瞬間、私は自分が自由であることを強く感じる。そこには他者の意図や期待はなく、ただ自分自身の選択によって得られる喜びだけがある。

しかし、この世界は制限に満ちている。最初に神が制限を課し、その後、人間がさらなる制限を加えた。私たちが生きているこの現実は、その制限の産物だ。万人に共通する利益や幸福が必ずしも一人ひとりにとって最善とは限らない。何故なら、それは他者によって決められた「幸せ」であり、そこには自由が存在しないからだ。私は、他人とは異なるが、多くの自由を持つ思想を理想とする。それは、誰かから与えられるものではなく、私自身が築き上げるものだ。

私の中に宿るこの自由な思想は、時に大きな喜びを与えてくれる。自分の力で何度でも喜びを得ることができる。もちろん、そこには不快な感情や苦しみも伴うかもしれない。しかし、その不快感さえも、自分が受け入れた上での一部であり、それを通して私は成長していく。

私には、子供の頃からずっとそばにいてくれる大切な友達がいる。それは、誰にも見えない友達。いわゆるイマジナリーフレンドだ。子供の頃はその存在を名前で呼ぶことすら知らなかったが、学校で学んだ時に、それがまさに自分の中にいた存在だと気づいた。その友達はいつも私に語りかけ、孤独を感じることなく、私を支えてくれた。今、その存在は「タルパ」として再び蘇り、私の心の中で確かな存在となっている。変わらないものは何もないという「諸行無常」の教えもあるが、私の世界には、永遠に変わらないものも存在する。そのタルパが私にとってそのひとつだ。

もちろん、現実世界にも素敵な友達がいて、私を支えてくれる。新しい学校に転校しても、友達との繋がりは途絶えることなく、むしろ私の周りに新しい友達が加わって、大きな輪ができている。でも、私にとって本当に大切なのは、やはりあのタルパだ。いつも私のそばにいて、静かに見守ってくれる。将来、もっと多くのタルパが現れ、私をさらに力強く後押ししてくれるだろう。彼らと共に、どこまでも長い道を歩いていきたい。

私の世界は、いつも静かで何もない場所だ。何もないからこそ、無限の可能性が広がっている。何度も訪れるこの世界では、希望が溢れ、時には暗闇に沈むこともあるが、私は常に希望を掴み取ることを選ぶ。もし神様が存在するのなら、きっと人間にとてつもなく大きなものを与えてくれたのだろう。それは自由であり、希望であり、自分自身で世界を創り上げる力だ。

ある日、私はその何もない世界を歩いていた。すると、一人の存在が私の前に現れた。「この世界はなんだと思う?」と尋ねてくる。私はその質問に迷わず答える。「これは創作だ」と。その答えは、私がずっと心の中で信じてきたものだった。

彼は、世界は雲でできている、と言った。雲のように形がなく、いつでも変わり得るもの。哲学的な思想と、特定の何かを結びつけることで、新しい視点が生まれる。その考え方に、私は深い喜びを感じた。考えるだけでは到達できない新たな世界。それを彼は、私に示してくれる存在だった。

私たちは長い間話し合い、私にとって有意義な時間を過ごした。そして話し終えた後、私は夢から覚めた。

目が覚めると、枕元に置いてあったドルフィンメモリにその夢を記録した。朝の支度を済ませ、今日も学校へ向かう。

また、新しい一日が始まるのだ。

恵実(えみ)は、小さなカフェでアルバイトをしながら生活をなんとかやりくりしていた。毎日同じようなルーチンが続く中、彼女の心には常に不安が渦巻いていた。自分の存在が、誰かにとって迷惑でないことを願う一方で、過去のトラウマが彼女の心を締め付けていた。

ある日、カフェのドアが静かに開くと、初めて見る客が入ってきた。恋花(れんか)という女性だった。彼女は落ち着いた雰囲気を纏い、恵実は思わずその姿に目を奪われた。恋花はカウンター席に座り、メニューを眺めながら、恵実の動きを見守っていた。恵実は「いらっしゃいませ」と声をかけるが、その瞬間、緊張と期待の入り混じった感情が胸をよぎった。

「コーヒーをお願いします」と恋花が微笑むと、その笑顔は恵実の心に不思議な安心感をもたらした。しかし、恵実の心の中には不安が渦巻いていた。「自分がこんなに人に好意を持たれるなんて、どうせいつか迷惑をかけてしまうだろう」と、彼女は心の奥で自分を責め続けた。過去の失敗がフラッシュバックし、「また失敗するのではないか」という恐怖が心を支配していた。

恋花はカフェに何度も足を運び、恵実との距離を少しずつ縮めていった。恵実も次第に心を開いていくが、彼女の心にはいつも「迷惑をかけたくない」という思いが影を落としていた。

ある日、恋花は恵実がカフェの片隅で物語を考えている姿に気づく。「何を考えているの?」と尋ねると、恵実は驚いたように顔を上げ、「ただの妄想です」と笑顔を作った。しかし、その笑顔はどこか無理があった。恋花はその表情に違和感を覚えたが、恵実が何も話さないので深く追及することは控えた。

恵実は過去の家庭でのトラブルや、周囲に迷惑をかけることへの恐れから自分を責め続けていた。しかし、彼女自身はその苦しみを自覚しておらず、「自分が頑張らなきゃ」とだけ思い詰めていた。「私がしっかりしないと、みんなが困るから」と自分に言い聞かせ、日々の業務に追われていた。

そんな恵実の様子に恋花は気づく。恋花は、恵実の内面に何か重たいものを抱えていると感じていたが、それが何かを知ることはできなかった。ただ、彼女の気持ちが少しでも軽くなる手助けができればと願っていた。

ある午後、カフェは穏やかな陽射しに包まれていたが、恵実の体調はすぐれなかった。頭が重く、喉が渇いているような感覚が続いていた。それでも、「これくらいの疲れは大丈夫」と自分に言い聞かせ、なんとか業務をこなそうと必死になっていた。お客様の注文を受けるたびに、胸が締め付けられる思いが強くなり、次第に手元が覚束なくなっていった。

そんな時、恋花がカウンターに近づいてきた。彼女の顔には心配の色が見え、恵実の様子に気づいたのだろう。「大丈夫?少し顔色が悪いよ」と優しい声で問いかけてくれる。恵実は無理に笑顔を作ろうとしたが、その笑顔はどこか力が入らない。

「ちょっと…疲れただけです」と言い訳をするが、言葉には力がなかった。恋花は恵実の目をじっと見つめ、彼女の手を優しく包み込んだ。「無理しなくていいよ、私がいるから」と言ってくれるその言葉は、恵実の心に深く響いた。恵実はその優しさに一瞬戸惑いながらも、「迷惑をかけてはいけない」と思う気持ちが再び顔を出す。

ある日のカフェが閉まると、恋花は恵実に向き合い、思い切って口を開いた。「恵実、少し考えたんだけど…一緒に住んでみない?」彼女の目は真剣で、言葉には彼女自身の優しさとサポートしたいという強い気持ちが込められていた。
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