色々物語

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大切な人

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ある日、エルネはぽつりと呟いた。

「昔、僕の母が言っていたんだ。“幸せになるには、何かを手放さなきゃいけない”って。  それが、ずっと心に残ってて……魔法もそういうものだと思い込んでた」

せんえは静かに首を横に振った。

「でも、失わなくても得られる幸せ、たくさんありますよ。  誰かの笑顔とか、心がふっと軽くなる瞬間とか――  それって、何かを“失った代わり”じゃなくても、自然に生まれるものだと思います」

エルネは目を伏せていたが、やがてふっと笑った。

「そうか……そういう魔法が、君の中にはあったんだね。  僕はそれを、ただ見ようとしていなかっただけだったんだ」

その日から、エルネの魔法は変わりはじめた。

薬草を摘む手つきがやわらかくなり、 人に渡す言葉に、選ぶような慎重さが宿った。

万能薬は“その人に合わせて作る個別の処方”へと変わり、 「奪うこと」ではなく「寄り添うこと」を考えるようになった。

せんえとせいまが村を離れる日、 エルネはふたりを見送る門の前で、静かに頭を下げた。

「ありがとう。君たちのおかげで、僕はようやく“見る”ことを知った。  これからは、本当に人を救える魔法使いになれる気がするよ」

風がふわりと吹いて、花びらがひとひら、空へ舞った。

せんえは微笑んで言った。

「大丈夫です。エルネさんなら、もう大丈夫です」

せいまは、せんえの肩に軽く手を置いて、にっこり笑った。

「せんえちゃん、本当にすごいよ。魔法だけじゃなくて、エルネさんの心まで変えちゃったんだね」

せんえは少し照れたように笑いながらも、目には確かな誇らしさがあった。

「ありがとう、せいま。みんなが幸せになるために、ちゃんと向き合いたかったんだ」

そのとき、柔らかな風が吹き、月夜が静かにせんえの前に現れた。

「よく頑張ったわね、せんえ」

月夜は優しい眼差しでせんえを見つめ、微笑んだ。

「あなたの成長を、私はずっと見守ってきた。ここまでたどり着いたこと、本当に誇りに思うわ」

せんえは深く頭を下げた。

「師匠……ありがとう。まだまだだけど、もっともっと強くなりたい!」

月夜は力強く頷いた。

「その気持ちがあれば、必ず大丈夫。これからも、あなたの歩みを私はずっとそばで見守っているわ。」

せいまとせんえは互いに顔を見合わせ、未来への希望を心の中に新たな一歩を踏み出した。


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