Destiny one‘s whereabouts

上社玲衣

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第Ⅴ.Ⅱ「笛の音の脅威(中編)」

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「ふふふーん。」
ニヤニヤしながら街中を歩くディトリッヒ
頭にはぷっくりとしたネズミがのっかっている。
結果論からして、ディトリッヒは使い魔を使役する試験には合格した。
ただし、自分たちより上のものに試験を見てもらうと決めごとに対し、無謀にもシルヴァに頼もうとしたのだが断られてしまい、その場に居合わせたメニスに見てもらうこと三日、ようやく使役できたのがこの野ネズミ一匹というわけだ。
「リヒト・・・・あなた、調子に乗ってないですか?」
とパートナーのソニアが隣でため息をつく
「なんだよ~。こうして無事に使い魔を手に入れられたんだからいいだろ?」
「私たちの任務は街で起こっている行方不明事件の捜索であって、使い魔を使役することではありません。」
「うっ・・・そりゃ、そうだけどよ。」
「とにかくさっさと、片付けないと三日も時間をとってしまっているのですからね。」
と不機嫌なソニアとスラムへ入る。

「ん・・・?なんだ、こりゃ。」
スラムにある大きな広間、三日前には異常はなかったのだがそこには大きなクリスタルが生えていた。
「これは・・・・本当になんでしょうか。」
「いや、つかそれよりも・・・えらく静かじゃないか?」
近くにみえるところに浮浪者の姿はない。
「何が、起きているのでしょうか。」
「っ、おい!ソニアあぶねぇ!!」
と背中を突き飛ばすのと黒い影が二人の間を通るのはほぼ同時だった。

「きゃっ、リヒト。なにを・・・!っ!?」
つんのめって転びそうになったソニアが振り向くとそこには犬のように似た顔、ヒヅメ状に割れた足、手には鋭いかぎ爪を持つ、化け物。
大災厄によって齎されたいくつかの災厄のひとつ、亜人種とも呼ばれるそれがそこにいた。

「・・・・食屍鬼グール。」
「そんな、食屍鬼の住処はこれまでは墓場であると歴史書に書いてあったのに・・・。」
「とりあえず、臨戦態勢をとれよ。一匹くらいならなんとかなるがこいつらに群れられたらどうにもならねぇからな。」
「はい、そうしましょう。」
とソニアは懐から銀色に輝く銃身を持つ、愛銃「GOTUE-5」を取り出す。
「いくぜ、『御使いの手ヴァレッシュ・シール!!』」
とディトリッヒの声と共に光の壁が張られる。広間から出さないようにと守護の壁は一帯の建物と広場へ通じるすべての道とをふさいだ。

「おまけに【聖灰デモリッシュ・バインド】も喰らえ!」
と懐から出した小さな麻袋の中身をかける。
聖灰・・・デモリッシュ・バイントとは教会に所属する司教のみが持つことを許される対災厄用の道具の一つである。効果は死霊系ならば浄化を、亜人系ならば動きを鈍らせるといった様々な効果が期待できる。ただし、その製法は秘密とされており、ディトリッヒもよくわかっていない。

聖灰を喰らった食屍鬼は動きを鈍らせて身体がしびれているようだ。

「『滅理弾ヴォ―プス・ガイア!!』」
とソニアの銃口が火を噴く。弾丸は食屍鬼の頭蓋を打ち砕くと銀の弾丸に込められた術式によりその死体は残らずに消え去る。

「よっし、スターレイザーに記録されたぞ!」
腰に下げていた皮袋からオレンジ色の機械を出す。
初心者用のスターレイザーは記録としての機能も持ち、災厄をどれだけ討伐したのか消える際の瘴気で判定している。そのために災厄への攻撃は専用の術式が組み込まれている弾丸を持つ対魔師による銃撃を推奨されているのだ。

「・・・ですが、おかしなことです。食屍鬼は今まで墓場でかつ集団でのみ行動すると考えられてきました。それがこんなにも性質が違っているなんて。」
「そうだなぁ・・・うっし、このクリスタルの先も調べてみるか。チュウ助、よろしくな!」
と懐に隠れていた野ネズミを撫でる。
「リヒト・・・あなたのネーミングセンスにはあきれるのですが。」
「なんだよ、かっくいいだろ!」
「ちゅう!」
とチュウ助も心なしかドヤ顔のような感じの鳴き声を出したのにソニアは頭を抱える。
チュウ助の案内により、二人はクリスタルの下を探すために地下水路へきていた。
下水の臭いが鼻につく、
「こんなところにあのクリスタルの発生源があるのでしょうか。」
「さてな、けど・・・なんだ、やけに寒くねぇか?」
「そういえば、地下通路とはいえのこ寒気は異常な気がします。」
二人して首を傾げていると前方から影が見える。

「!?なにか、いる・・・!?」
戦闘態勢をとった二人の前に現れたのは全長3mほどの巨大な身体。そして大きな黄色い目と牙の生えた口。
緑色の肌をもつ、特異災害級巨人の【ヴォルボディア】だ。
おいそれと出会うこともないが、それでも司教と対魔師のコンビでは腐っても負けるはずが・・・なかった。

「きゃあっ!?」
「ソニア!?」
ヴォルボディアの一撃を受けてソニアが吹き飛ぶ。
それをディトリッヒが後ろに下がって危ういところでキャッチした。

「今のは…。」
「気を付けてください、リヒト。あのヴォルボディア…【速い】です。」
ソニアの声にディトリッヒの顔も強張る。
二人が驚くのも無理はない。ヴォルボディアないし、特異災害級巨人というものはこれまでの教会の記録によれば総じて【巨体から繰り出される破壊の一撃に比べ、脚は遅い】というものが一般的であった。ディトリッヒもソニアもそう信じて疑わなかったし。実際、何度か実物の巨人を見たことがあるがその足の遅さは理解していたはずだった。

「こんなの見たことねぇ…新手の新種か?」
「そんなことは後です、とにかくアレを市街地に出すのは不味い。」
「お、おう。」
「リヒト、強化魔法バフを下さい。失敗しても成功するまでかけ続けるくらいで。」
「んなっ、失敗なんかこんなとこでしてたまるかよ!ああ、もう!主よ。聖名みなにおいて我が相棒ソニア・ゴーマインを護り給え。【聖名の祝福をセイクリッド・フォール】!!」
その言葉の後に、ソニアの身体が緑、赤、青と光に一瞬だけ包まれる。
聖名の祝福をセイクリッド・フォール】はかけられた相手の身体能力を一時的に上げる司祭のみが使える信仰魔法だ。
強化魔法のおかげでヴォルボディアの速さを捕えることができるようになったソニアは突進を避けると空中で身体を捻りながら愛銃「GOTUE-5」を向ける。

「『流れ星の弾丸スターダスト・シューティングレイザー』」
力を込められて放った弾丸は名の通りに複数に別れてその身体を貫く。
この技は命中率が悪く、地上で使うにはあまりにもリスクが高いため好まれてはいない。
しかし、威力は大きく巨人族の肉体の中であっても生命維持をしている『コア』には届くほどの殺傷能力の高さを誇るのだった。
当然、生命維持をしているコアを破壊されたヴォルボディアは生きていられるはずもなく、煙を吐きながらブクブクと泡立って消えていく。

「ふぅ・・・ほんとうなんだったんだよ。今のは…ん?」
と思案顔になっているソニアの方を向いて

「どうしたんだ?ソニア。」
「…強化魔法で気づいたのですが…さっきからこの一帯に不可思議な笛の音色が聞こえるんです。」
「笛の音色?‥‥いやぁ、俺にはまったく聞こえないが。」
「ええ、一時的に身体能力が強化されたからでしょうか…これでもかというように聞こえるのですが…それと、うっすらと魔力の流れも見えます。」
「うむむ‥‥俺には全然見えないぞ。」
「チュゥ!」
ディトリッヒの服の袖に隠れていたチュウ助が飛び出ると走っていく。

「あ、待てって!チュウ助!!」
「リヒト、勝手に行かないでください!」

ソニアもまた相棒と使い魔を追い掛けていくのだった。
ヴォルボディアの解けた水が、逆流して二人の後を追い掛けるかのように流れていくのを気づかないまま。
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