Destiny one‘s whereabouts

上社玲衣

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第Ⅴ.Ⅰ 「笛の音の脅威」前編

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夜、街に笛の音が聞こえる。
住民のほとんどが寝静まり、起きているものは浮浪者かスラムの者たちくらいだ。
それでも大人はこの笛の音には反応しない。
ただお腹を空かせてゴミ箱を漁る子供たちの手が止まり、その音につられてふら、ふらりと歩みを寄せていく。
ぞろぞろと集団を作る光景が異様なのに大人たちは無関心でそれを眺めている。
そして、たどり着いた先でフードを着たのピエロが嗤う。

「やぁ、君たちは良い子だね。」

昼間、調査に乗り出したディトリッヒとソニアは町が異様に静かなのに首を傾げる。
商いをしているエリアから離れるとそこはスラムなのだが、まず子供を見かけることが少なかった。
「ソニア、こんなにスラムの子供っていなかったけか?」
「いいえ。ここのスラムの人口の4割は子供だと教会の調査書には書かれています。毎年一度だけの調査とはいえ此処まで減ることはおかしい。」
「んー・・・おい、じいさん。」
と近くに座り込んでいる細身の老人に声をかける
「ここいらで子供がいなくなる事件とかあったのか?」
「んぁ・・・・しらんのう・・・。それより、水・・・もっておらんか・・・。」
「ぁ?んだよ。水なら・・・。」
「待ちなさい、リヒト。」
「お、おう。」
ソニアに制止されて止まる
「忘れたの?ここはスラムよ。人にやさしくするのは構わないけれどこの状態をごらんなさい。」
というと向こうの壁からギラギラと獲物を狙うようにしてじっと他の浮浪者たちが二人をみている。
此処は、スラム街。不用意になにかを施せばたちまちに彼らの餌食とされて身ぐるみもすべて奪われる、弱肉強食の世界だ。
故に、教会という施しをする場から派遣されているのを隠すため二人もボロボロの布を身に纏っているのだ。
「・・・持ってねぇよ。」
と苦々し気にディトリッヒが言うとその殺気立った気配たちは各々にひっこんでいった。

しばらく歩いても子供には中々会うことが適わず途方に暮れている。
すると、路地裏で小さなうめき声が聞こえた。
傍によると苦し気な表情の子供が倒れこんでいる。

「お、おい。どうしたんだ!?」
とかけよる二人

「お・・・にぃちゃ・・・。」
ぜぇぜぇと苦し気に呼吸をするのにソニアが額に手を当てる。
「風邪を引いているようですね。体力もないみたいですし、先生に診せた方がいいのでは?」
「そうだな。俺の治癒魔法じゃ完治は無理だしな。」
と頷いてスラムから出て町の医者に診せにいく。

「うん、二人のおかげでとりあえずこの子は大丈夫だよ。」
町医者のフリード・シェアラは微笑んだ。
丸眼鏡をかけて少しくせ毛のパーマがかった茶色の髪を持つ男性の医者だ。
教会からよく要請を受けて対魔師たちの治療も手伝っている顔なじみであった。
「ありがとうございます。シェアラ先生。」
「えーっと、お代はおいときますんで。」
「あはは、街を守護してくれる司教さんと対魔師さんだからお安くしておきたいんだけど。ここも経営が厳しくて・・・申し訳ないね。」
「いえ、ところで先生も最近のスラム街についてご存知ですか?」
「ああ、噂程度には聞いているよ。子供の数が減っているんだってね。」
「はい、実際に見てみましたがたしかに子供たちの数がかなり少なかったのです。」
「先生もスラムの往診にはよく行くっていってなかったか?」
「ああ、そうなんだけど最近はなんだか大人たちの警戒がすごくてね・・・前よりはいけてないんだ。」
「そっかぁ・・・。」
「そういえば、さっきの子。お兄ちゃんって言ってたわ。何か知ってるかもしれないから聞いてみましょう?」
「お、じゃあ先生。ちょっとスペース借りるな。」
「わかったよ。でも他に患者さんが来たら声をかけるかもしれないからね。あと、さっきの子は緊急の事態は脱したといっても病人なんだから無茶はさせないでね。」
「おいーっす。」
と簡易的に仕切りで分けられたベッドの方へ向かう。
男の子はベッドの上で目を開けていた。
「あ・・・・えと。」
「よぅ、ちょっとは回復したみたいでよかったな。」
「う・・・うん、ここ・・おいしゃさん?」
「そうだぜ。スラムだと風邪ひいたらかなり危険だしな。」
「ごめんなさい・・・ぼく、お金なくて・・・。」
「いいんだって、俺たち教会の・・・。」
「リヒト。」
ディトリッヒの足を思いっきりソニアが踏んづけて悶絶する。
「おにいちゃんたち・・・きょうかいのひと?」
「・・・そうね、こっちのお馬鹿さんがバラしたから言うけど、そうよ。」
「きょうかいのひと、おねがいきいてくれるってきいた!ぼくのおにいちゃんを助けてください!」
「お兄ちゃん?そういやなんか言ってたな。」
「おにいちゃんとぼく、いつもあそこにいたの。でも昨日からぼく、熱が出てて、おにいちゃんが一緒にいてくれたんだけど夜に笛の音がきこえてきて・・・そしたらおにいちゃんがきゅうにそっちにふらふら~って歩いていっちゃったの。何度もよんだのに、おにいちゃんきづいてくれなくて・・・。」
「・・・その笛の音を聞いたの昨日が初めてでしたか?」
「うん、それまではきいたことなかった。・・・あ、でもあそこにいた他の子たちのうわさにはなってたよ。夜に笛の音をきいたらそこにいる案内人にたのしいばしょに連れて行ってもらえるって・・・。」
「楽しい場所・・・ねぇ。」
「他に知ってそうな子たちってどの辺にいるかわかるか?」
「んと・・・いつもは開けたばしょのところであそんでるよ。」
「よし、わかった!サンキューな!」
と子供の頭をわしわしと撫でてディトリッヒとソニアは診療所を出た。

それから半刻後・・・・・
「うぇー、疲れたぁ。」
と教会で自分用に割り当てられた机にディトリッヒは突っ伏していた。
下級の司祭と対魔師は個人の執務室も個人の寝床も割り当てられていない。
なので同僚たちで各々の仕事を仕切りで分けられた広い机が並ぶ場所でしているのだ。

「・・・報告書に書けるだけの情報を探してみたはいいものの、ざっくりとしかまだなにも出てきていませんね。」
「笛の音が聞こえてたのもまちまち・・・流石に全員がいなくなるとかはなかったらしいが基本的に大人には絶対聞こえないみたいだな。」
「スラムに住む子供の年齢層も一度洗ってみないと・・・どの年齢が聞こえているというのもわかりませんね。」
「うへぇ・・・そんなんしてたら何か月かかるんだよぉ。」
「泣き言を言ってないでやりますよ。」
とソニアが叱責する中
「おお、すげぇ~!!」
と同僚たちがざわめているのを聞いた
「なんだ?」
「ヴァネッサが使い魔の契約に成功したんだって!」
「うそ、すごいじゃん!」
「みせてもらおーっと」
と中心の話題は司教のヴァネッサ・キャンベルが使い魔を使役したという話だった。
下級司教として使い魔を使役するのは憧れの的であり、一定実力を自分より上の階級のもらわなければ使役をする資格はもらえないのだ。
「・・・!そうか!」
ガタッと立ち上がるディトリッヒにソニアは怪訝そうな顔をして
「何がです?」
「使い魔だよ、使い魔!オレたちに聞こえなくてもそういう耳がいい使い魔を使役することができたら・・・!」
「あのですね、リヒト。貴方この半年でその試験をどれだけ落ちてきたと思ってるんですか?」
リヒトには司教として使い魔を使役する権利こそあるものの、ことごとく失敗してきたのだ。
「こ、今度こそちゃんとできる・・・!気がする!!」
「そんなにホイホイとできたら苦労しないでしょう。それに、貴方の試験官はどうするんです?」
「心当たりがあるから大丈夫だ!」
とブイサインをするディトリッヒに不安しかないソニアだった。
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