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ハジマリ
第Ⅰ話 彼からみた世界の話
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普通は普通じゃなくて、日常は唐突に非日常になって。
このまま続く現在なんてありはしない。
冷たくなっていく母さんも、誰も助けはなくて‥‥…
ただ一人、残酷な世界で生きていくことになった。
そうして生きていた世界だって、ある日突然足元から崩れて、日常だったものが180°回転してどこまでもどこまでも堕ちていく。
それが、俺が生きていた世界。そして・・・腹のたつくらい代わり映えはしない世界の真実なんだって思っていた。
「…様、イ…ス様。ルイス様。」
声を掛けられてはっと気づく。
揺れる馬車の中、うたた寝をしていたらしい。
「ああ、聞いてるよ。セルム。」
と目の前にいる左目にモノクルを付けた黒い髪、黒い右目。全身が黒づくめの執事服の男にため息交じりに声をかける。
…俺の名はルイス。ルイス・アークランド・プリンス。年齢は今年19歳になったばかり。この国で大公爵の爵位をもらっているいわゆるお貴族様だ。
目の前にいる黒づくめのやつは「アンセルム・バルフォア」23歳で大公爵家にいる俺専属の執事兼お目付け役。
年齢の割には小言しか言わないし、口うるさいやつだ。もっともこいつが饒舌なのは俺の目の前だけで基本的には寡黙を通しているらしい。
天は曇天、今にも雨が降りそうな日。
ズキリ、と不意に痛む背中で思わず前かがみになる。
「…ルイス様。」
と表情こそ崩さないが声色だけは心配そうに声をかけてくる。
「天気が悪いからちょっと痛むだけだ、別にどうってことはねぇよ。」
そう言うとセルムは手に持っている紙に再び目を落とし。
「帰宅しましたら、塗り薬を処方いたしますので。・・・先程も申し上げた通りですが、本日の夜会は女侯爵家の方々が主催のものでして・・・。」
と続ける。
別に慣れっこなんだ。世間にウソをつき続けることも。先代大公爵が自分を嫌っていることも、そして、毎夜「躾」をされることも。
「それと、ルイス様。先日に不慮の事故で壊されたブローチのお話ですが。」
「うげっ。」
先日の夜会で共に踊った婦人のブローチが床に落ちたのを気づかずに踏んづけてしまい、壊したという経歴があった。
「品物はリベット街にあります、宝石店【Arweiniad y ser】で修復させていただいております。」
「ああ、そうか。いつ頃できるんだ?」
「店主は留守だそうですが、出かける前に連絡があり、本日取りに来てほしいそうです。」
「ん。じゃあ…頼んだ。」
「はい。すでに進路はリベット街に向けております。」
揺れる馬車の中で考え事をする。
『本当に行くのか?』
紺色の長い髪の男が言う。
『ああ、オレはオレの運命にケリをつけにいく。…アンタには世話になったな。』
『そうか…。達者でな。』
そう、あの時誓った言葉は簡単に現実という悪に蝕まれて、永遠に敵わない夢となってしまった。
だから、俺はもう夢を見ることを諦めて、見えないモノに期待するのはやめたんだ。
このまま続く現在なんてありはしない。
冷たくなっていく母さんも、誰も助けはなくて‥‥…
ただ一人、残酷な世界で生きていくことになった。
そうして生きていた世界だって、ある日突然足元から崩れて、日常だったものが180°回転してどこまでもどこまでも堕ちていく。
それが、俺が生きていた世界。そして・・・腹のたつくらい代わり映えはしない世界の真実なんだって思っていた。
「…様、イ…ス様。ルイス様。」
声を掛けられてはっと気づく。
揺れる馬車の中、うたた寝をしていたらしい。
「ああ、聞いてるよ。セルム。」
と目の前にいる左目にモノクルを付けた黒い髪、黒い右目。全身が黒づくめの執事服の男にため息交じりに声をかける。
…俺の名はルイス。ルイス・アークランド・プリンス。年齢は今年19歳になったばかり。この国で大公爵の爵位をもらっているいわゆるお貴族様だ。
目の前にいる黒づくめのやつは「アンセルム・バルフォア」23歳で大公爵家にいる俺専属の執事兼お目付け役。
年齢の割には小言しか言わないし、口うるさいやつだ。もっともこいつが饒舌なのは俺の目の前だけで基本的には寡黙を通しているらしい。
天は曇天、今にも雨が降りそうな日。
ズキリ、と不意に痛む背中で思わず前かがみになる。
「…ルイス様。」
と表情こそ崩さないが声色だけは心配そうに声をかけてくる。
「天気が悪いからちょっと痛むだけだ、別にどうってことはねぇよ。」
そう言うとセルムは手に持っている紙に再び目を落とし。
「帰宅しましたら、塗り薬を処方いたしますので。・・・先程も申し上げた通りですが、本日の夜会は女侯爵家の方々が主催のものでして・・・。」
と続ける。
別に慣れっこなんだ。世間にウソをつき続けることも。先代大公爵が自分を嫌っていることも、そして、毎夜「躾」をされることも。
「それと、ルイス様。先日に不慮の事故で壊されたブローチのお話ですが。」
「うげっ。」
先日の夜会で共に踊った婦人のブローチが床に落ちたのを気づかずに踏んづけてしまい、壊したという経歴があった。
「品物はリベット街にあります、宝石店【Arweiniad y ser】で修復させていただいております。」
「ああ、そうか。いつ頃できるんだ?」
「店主は留守だそうですが、出かける前に連絡があり、本日取りに来てほしいそうです。」
「ん。じゃあ…頼んだ。」
「はい。すでに進路はリベット街に向けております。」
揺れる馬車の中で考え事をする。
『本当に行くのか?』
紺色の長い髪の男が言う。
『ああ、オレはオレの運命にケリをつけにいく。…アンタには世話になったな。』
『そうか…。達者でな。』
そう、あの時誓った言葉は簡単に現実という悪に蝕まれて、永遠に敵わない夢となってしまった。
だから、俺はもう夢を見ることを諦めて、見えないモノに期待するのはやめたんだ。
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