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ハジマリ

第Ⅲ話 予兆

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フォースネル地区、貧民街『マモネス』
街灯のない裏路地で一人の人物が走り続けていた。

どうして、どうしてこうなったんだ・・・・!
ただの顧客だと思っていたのに一体いつの間にこんなことになったのだ。
よい金づるだと思っていた、自分の商品を大量に買い付けてくれていた
それなのに・・・・!

「きゃはは、みーつけた!」

屋根を飛び伝い、小さな影が二つ。男の前に立ちはだかった。
一人は茶色の短髪をした少年。もう一人は金髪のウエーブがかった長い髪の少女。

「くそっ、邪魔するな!!」
「おじさんこそ、ボクたちのこと邪魔しないでよね。お兄ちゃんがもう用済みだってそういったからって怖気づいちゃってさぁ。大方、警察ヤードに言いつける気だったんでしょ?」
「お、お前らのような腐った組織にやる武器も、商品もねぇよ!!このことは世間に公表してやる!」
「困ったなぁ、そんなことしちゃうとボクらがリーダーに怒られちゃうよ。」
「おいた、ダメ。邪魔するヒト、嫌い。」
「うん、ボクもだいきらいだよ。じゃあ、そろそろ始末しようね。」
少年が手を振るう。月光に煌めく透明な絲が男を締め上げる。

「くそ・・・てめぇらも。みんな・・・地獄におちちまえ・・・!」
「それはこっちのセリフだよ。おじさん。」
絲をクンと引くと男の首がゴトリと地面に落ちる。

「よし、これでお仕事おわり。帰ろうね、セリ。」
「・・・うん。」
そういってセリと呼ばれた少女は少年の手を取るとフッと消えた。

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翌日

「マモネス街で商人・ロベール・べネスティ氏が惨殺か・・・。」
号外で出されていた新聞を読んでルイスはため息をつく

「やだねぇ、どこでも物騒だ。」
「ロベール氏と言いますと、かなり法外な値段で品物を売りつける悪徳商人として同業者から煙たがられているという噂を聞いています。それに、かなり闇業者でもあるとか。」
「おかしなマフィアとかにでもなんか横流ししたのかねぇ。おお、こわいこわい。」
「どうでしょうか、マフィア程度でしたら特に何ともないとは思いますが・・・。」
「いや、張り合うなよ。あと真に受けるな。」
「失礼いたしました。・・・ですが、ロベール氏はたしか大侯爵家にもいくつか品物を卸していた業者の一人です。
そのうち警察ヤードから調べが来るのでは・・・?」
「残念ながらフォースネル地区の警察はよっぽどのことがない限り動かないぞ。
まぁ、原因は俺たち貴族が大勢此処にカントリーハウスを持っているから余計なごたごたを起こしたくないってことと、それに錬金術師や魔術師、魔女といった『一般的』では相手にしようがないやつらもごまんといる。
そんな奴ら相手に法が通用するわけないしな。ということで、うちの地区では警察は信用できません、以上。」
「・・・ルイス様が、警察を嫌っているというのは痛いほどわかりました。ですが、それだけではこの殺人事件の証人にはなれません。」
「いや、ならなくていいし。別に事件に首突っ込まなくていいだろ。」
「警察が宛てにならない以上。殺人事件が起きている地区でのんびりはできませんでしょう。警護を強化するか・・・もしくはこの事件についてなにかしら調べて証拠を突き出すのも貴族のお役目ではないでしょうか。」
「これ以上窮屈に警備されるのもヤダな・・・しょうがない。暇つぶしにだが事件とやらを追ってみるか。
・・・で、もちろん警護はお前がしてくれるんだろ?セルム。」
御意、ご主人様イエス、マイロード
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