SNG ~その青年の進む道は救済か滅亡か~

上社玲衣

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最終章 誰がために彼は往く

第二十一話「殉愛と復讐」

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第二十一話「殉愛と復讐」

 フォルナウスの爆撃によって起こった混乱に乗じて戦場を抜け出したデヴォイ達は、ミゼルにいるマイア達と合流する。
 パラライザーとしてのマイアを知っている者も多かったので、彼女は謝罪し、今の境遇も説明しなければならなかった。エイジス達のように瀕死の重傷を負わされた者も多かったので、彼女らは納得は出来なかった。しかし今は心強い味方であるのでそれ以上責めはしなかった。
「しかし、一体どういう事なんだ…?」
 状況を完全に理解している者は誰も居なかった。それを見越していたのか、先程の大爆発の犯人であるフォルナウスが現れた。
「私が説明しましょう。」
 そうして彼は、以前ランガム導師から聞いた真実を彼らに打ち明けた。
 しばらく誰も開いた口が塞がらなかった。
「私欲の為に俺達の命は弄ばれてたってのか?」
 そう言ったのは名も知らぬソルジャーであったが、たった一人の男の仕業によって最も翻弄される運命にあったのはデヴォイであった。その彼が口を開く。
「何にしても、だ。彼らは俺達の命を狙っているんだろう? 撒いたところでまた足がつくからな。この街にも迷惑はかけられないし、こちらから打って出よう。」
 彼は、その事に関しては今は深く考えずに最良の選択をする、そうプラス方向へと自分を持っていった。彼の決意に、皆腹を決めた。
「俺は初めからそのつもりだ。」
 と、ラルフ。戦う意義を見出している訳ではないが、降り懸かる火の粉は払うしかあるまい、と重い腰を上げる。
「ただ…私達、戦術を立てて陣形を組んだり出来ないし、アップシーツホルンは相手方の方が地形をよく熟知しているだろうし…。」
 エイジスが考え込む。
「北の大平原か…。」

 心ばかりの魔法薬をクレアはその日の内に調合し、出来るだけ多くの者に配った。
「俺は?」
 デヴォイは何一つも貰っていない。以前貰った物のストックも底をついている。
「あなたは自己再生するでしょ?」
「あ、ひっでぇな。」
 二人はお互いふざけて笑い合うが、すぐに真面目な顔に直る。
「必ず帰って来てね。」
「ああ、そしてちゃんと君を送り届ける。これでも俺はソルジャーなんでね。」
 サングラスの奥で、彼の瞳が炯々と光っている。この細い綱渡り、正直言って厳しいが、未来を、信じている。そんな目だ。

 次の日の正午、大平原。
 こちら側は選ばれなかったソルジャー達と、デヴォイ、トリニティ、マイア、フォルナウスが戦闘員である。
 相手側は選ばれたソルジャー達に、ウォッシュ、イオ、飛行スキーで駆けつけたパラライザー、そして…。
「間にあったようね、ジオンハート。」
「選別の儀式には遅れたがまさかこんな大舞台が用意されていたとはな。さすがに儂等が遅れるわけにはいくまい。」
  中空には、飛行スキーに乗り、厚き鎧に身を固めたシーマとジオンハートの姿が。
「姉さん…。」
 その姿を認めたエイジスは彼女を厳しく睨む。デヴォイは父ジオンハートを、フォルナウスもまた妹フィアーの姿をそれぞれ見つけていた。エルザレブでは戦意の見えないユージンだけが唯一いるのをラルフは確認する。
 太陽が南中する。光は照り返し、空気が地面から次第に暑くなっていく。
 戦場の空気を感じてか、生き物達の鼓動は去って行き、感じられない。…ただ、ここにいる彼らのものを除いては。

 最終決戦が始まった。

 最初に鉢合わせしたのは、フォルナウス、マイアとウォッシュ、イオのペアであった。
 この即席タッグには理由があった。
「戦術は…ない事もないっすよ。少なくとも二人以上でペアを組んで下さい。即席ペアなら仕方ないっすけど、出来るだけ小さな連携を考えておきましょう。少しでも戦況は変わるはずです。」
 いつもトリニティとしてグループを組み慣れているシローの案だ。
「じゃあ、私はアデューとね!」
 マイアの言葉に、しかし、デヴォイは、
「俺は…一人の方がいい。」
 と言った。
「まだ能力の全てを制御出来るようになったわけじゃない…もしもの事を考えて、皆は出来るだけ俺から離れてくれ。」
「アデュー…。」
 そういう事でマイアはデヴォイが推薦する魔法の使い手フォルナウスと組むことに。
「やあ、お前等も運が悪いな、最初からジョーカーを引いてしまうなんてよ。」
「さあ、それがどちらの台詞だかは分かりませんけどね!」
 いくらフォルナウスやマイアが優秀な魔導師であるとは言え、相手は神の力そのものを有した者達である。分が悪いのは明らかにフォルナウス達だ、しかし彼らは退かない。
「アデューの邪魔をする人は誰だって生きては帰さない!残酷輪風《ハルトヘルツィヒ クヴィルル》 !」
 相手を輪切りにする無慈悲な魔法をマイアは唱える。
「はは、恐い事言うな、だがそんなものでは俺の【土】の壁は破れないし、何よりも…」
「私の【風】の相手なんて出来ないわ!」
 イオが能力で風の輪を全て跳ね返す。
「こんなに早く使う気はなかったのですが…相手が相手ですからね。」
 どうやらフォルナウスが呪文を完成させたようだ。レクイード秘伝の魔法が発動される!
氷河《グレッチャー》!」
 風の輪を氷の壁が防ぎ、そしてそのまま前進しますます大きくなっていき、ある高さに達すると崩れ出し、目の前の彼らを飲み込もうとする。
「兄さん、掴まって。」
「ん、ああ、すまない。しかし…」
 二人は高速で後ろに退く。フォルナウスの正面は敵も味方も氷河に巻き込まれ、熱い気候とは思えない光景を生み出していた。
「とんでもない事するわね…。」
 マイアが呆れる。
「良くも悪くもこれが私の戦い方ですから。」
 敵に回すと恐い男だ、マイアはそう思った。
「でも、問題の彼らはあんなとこにいるんだけどね。どうしようかしら、私達は。」
 そう言って彼女は上空を指差す。
「美味しい場面ばかり盗られるのは癪ですが…彼らの狙いはきっと…。」
 フォルナウスは、ふっ、と微笑む。私が見つめるべき運命はこれではない…。
「アデューね。」
「ええ。ならば私達は…私達が話をすべき相手と向かい合わなければいけませんね。」
 そう言い彼は遠くのフィアーを見つめた。

 銀髪の兄妹はフォルナウス達の予想通り、デヴォイの姿を見つけると急降下した。
「イオ、ウォッシュ!」
「待ってたかしら、弟君?」
「派手な兄弟喧嘩と行こう!」
 三人は能力を再び解放する。そうなった彼らには、もう、誰も近づくことは適わない。

 一方こちらはエイジス、バンとシーマ。
「どうして、姉さん!?」
 エイジスの形相は今までにない恐ろしさだ。流石にバンも顔を向けられない。しかしシーマは冷静に落ち着いて答える。その表情には、いつもなら感じ得ない慈悲深さと甘さがある。
「ごめんね、私はあなた達が選ばれないとは思っていなかったの。出来れば私達とこれからも一緒にいられたら良かったんだけど…。けど、あの方と共に遂行する計画の前では、親子の情も兄妹の情も、そして師弟の情もないのよ…。」
 最後は低く冷たい声に戻る。彼女の長槍の矛先がエイジスに向けられる。エイジスもまた銃を構えてはいるが、見竦められてしまっている。
「うぃいいいっ!」
 バンは横から仕掛けるがすぐに方向転換したシーマの槍に一突きにされる! 
 …と、いう様な直感をバンは感じ得る。彼は運命を視る瞳は確かに持ってはいないが、動物的本能が彼にそのヴィジョンを見せたのだ。彼はシーマの現在の攻撃対象には入っていないのだが、彼女の槍の間合いに一歩でも入れば命は確実に無いことを感じている。あまりにも段違いだ!

 戦場ではまだ多くのソルジャーが戦っているが、これはまさに少人数の戦争である。そんな中で唯一戦う意欲を見せないのがユージンである。
「そんな顔で戦場に出るんじゃねぇ!」
 デヴォイ達の側のソルジャーが彼に殴りかかる。しかしそこへ!
「ぼうっとするな!」
 ツバルのランチャーミサイルがソルジャーを吹き飛ばした。肉が四散する。
「俺…。」
「ユージン!」
 そこへトリニティが現れる。
「お前等かぁっ! 折角選ばれたものを、蹴りおってぇぇええっ!」
 ツバルが怒号と共にランチャーミサイルを放つ。
 だが、三人は悉くかわす。
「馬鹿にするなっ!」
 ツバルが装填無しに第三撃を放とうとする。まだミサイルの弾薬は底をつかない。
「ち…くっ、はぁああっ!?」
 けれども、発射前にヴォルドにランチャーを撃ち抜かれ、誘爆し、彼は手から粉砕され爆死した。爆風が押し寄せる。
「ユージン!」
 爆風が収まり、邪魔が無くなったのを確認すると、ラルフが彼に駆け寄り肩を掴む。
「どうして、ここに来た!」
「俺達は…ボスからは真相は聞かされていない…世界の中心という言葉しか…自分の目で“儀式”の先にある事を確かめてみようと思ったんだ。それにあんたらが裏切ったって聞いて…。」
 ユージンはラルフ達と敵対する理由はもう見出していないようだ。
「そうか、お前達も奴等の手駒にされていたんだな…。」
 ラルフの顔に翳りが浮かぶ。
「先輩。」
 シローが彼に声をかける。
「今は話し合ってる場合じゃないですので、取りあえず連れていきましょう。」
 そうしてユージンに向き直る。
「なぁ、ユージン、一体この戦場で何が起こってるのか、何のためにこの戦いがあるのか、“一緒”に確かめてみようよ?」
 一つ先輩の彼のその言葉に、ユージンは、迷うことなく頷く。
「それで…、どう動くんだ…ラルフさん?」
「この戦いの鍵を握っている奴が、二人いる。まずそのうちの一人に会いに行こう。」

 フォルナウスとマイアは、他のパラライザー仲間らと共に戦っているフィアーの元へと飛び込む。
「兄貴、マイア!?」
 驚いてる彼女を二人は小脇に抱えて、戦場の端へと避難する。話し合いの場所を設ける為に。
「一体どういうつもりなのよ!? 何!? 何よ! 話してよ!」
 フィアーは珍しく完全に気が動転している。二人は彼女を降ろす。
「どうして…マイア、裏切ったの!? それにどうして兄貴はかーさんを殺したあの男の味方をしてるの!?」
 マイアが喋ろうと思ったところをフォルナウスが制する。
「やはり…父から聞いているのですね…。」
 フォルナウスは両腕を彼女の小さい肩に乗せる。兄貴の大きな手の温もりと重さ…悲しみが伝わってくる…あの時と同じだ…あたしが物心ついた頃、ルデールの十二月革命の時、かーさんに託されたあたしを抱いていてくれた…微かだけど覚えている。悲しくて温かい手の温もり…。フィアーが目を閉じようとした時に、フォルナウスが話しかけ、彼女は、はっ、と目を開く。
「あなたはパラライザーの任務としてここにいるのですか?それとも父の“復讐の道具”としてここにいるのですか?」
「あたしは…。」

「馬鹿だな、お前も。家族を捨ててまで守ってやる程縁の深い奴らではあるまい。」
 ウォッシュが両手の深藍色の【土】の砲塔から絶え間なく超硬質弾を放つ。イオは【虹】の能力は封印し、いつも通り、【風】の能力で生み出された深藍色の三角形の刃で援護する。二人の攻撃を巧みに【斬】の鋏で切り払い、あるいはかわしながらデヴォイは反撃の機会をうかがう。
「よくやるわね…。」
 イオはその動きに感心しながらも攻撃の手を休めない。
「君達と違って能力だけに頼ってきたわけじゃないからな…!」
「と言いながらも成す術がないようだな…生半可な剣や魔法では俺達には通じないし、お前の持つ残り二つの能力、うち十二体の悪魔を生み出す【夜】は言葉通り夜にならねば使えないし、【破】はセーブが効かないから使いたくはない…お前の考えは筒抜けだ…残念だが。いい加減観念して投降しろよ。世界を動かすのも悪い話ではあるまいに。」
「期待に添えなくて悪いが、俺はあんたらと違って根っからのソルジャーでね。自分の雇われる仕事は自分で決める!」

「兄貴…あたし、どうしたらいいの?」
 フィアーは目に涙を溜めている。今までとーさんの言ってきた事、行った事を疑ったことなんてなかった…事はない。でも父さんはいつも悲しそうな顔をしていたから私はついてあげていた。なのに大人になった兄貴は自らとーさんとは違う道を選んだ。
「私に従え、などとは言いません。正しさが私にある、と思っていてもあなたに押し付けはしない。やりたい事をしたらいいんです。ただ、デヴォイを復讐鬼と化した父の元へ連れる、という選択肢をもし選ぶのなら、その時は私とマイアさんをあなたの短剣で刺してから行きなさい。」
 彼の覚悟を、彼女は理解したくない。
「どうして…。」
「マイアさんにとって彼は最愛の恋人…。」
 横で聞いていたマイアが、顔を赤らめる事なく、うんうんといとも平然に頷く。よっぽど自信あるのね。
「そして私にとっては確かに母の仇かもしれないが…同時にライバルであり、強さの所在であり、可能性…答えでもある。大切、というより貴重で重要な存在なんです。」
 無言でフィアーは彼の胸に顔を埋める。彼が大きな腕で彼女を抱き締めた時、彼女の短剣が手から離れて落ちる。ああ、あたしが求めていた人は、愛はここにあった…。そう、この温もりをとーさんにも取り戻して欲しかったのだ。今やっと気付いた。
「兄貴…。」
「ふふ、せめてお兄ちゃんとでも呼んで下さい。兄貴だなんて私には似合いませんよ。」
 お兄ちゃんも柄じゃないなぁ、とマイアは思うが、何か、孤児の彼女としては羨ましさを感じた。
「二人で…とーさんを変えてみようよ。今まで考えなかったことだけど、あたしも大人になるんだ。そしたら、復讐も何も考えない、普通の家族になれるよね…?」

 トリニティとユージンがシーマの元に駆け付けた時には、エイジスとバンは血を流し尽くし、既に息絶えていた。
 今までの戦場の中で最も強い“死”と“冷たさ”を放っていた。
 愛弟子を手にかけてさえ涙一つ流さないシーマを見た時には、彼等は人間相手をしている気にはならなかった。
「どうして…。」
 ユージンがかろうじて口を開く。
「ふふふ…。」
 たったそれだけの笑みで四人の背筋が凍り付いた。
「この世で私が信じられるものって何だと思う? はっきり言って、力でも仕事でも家族でも友人でもお金でもないの。使命だとか儀式だとか世界の中心だとかを、私は建て前にしてきたけれど、はっきり言って何も私にとって価値はないし、生き甲斐には成り得ない。あの方への愛に殉ずるという行為、ただそれだけの為に私がいる。私がしたいと欲する事、すべき事はそれ以外にはない。あなた達はこの戦いの意味を問いに私のところに来たんだと思うんだけど、見当違いだったようね。いいわ。ついでだからあの方のため、あなた達も私の槍の餌食にしてあげる。」
 反論も何も許さないまま再び彼女は構えた。
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