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第一話 天国の庭
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僕は暗闇の中で、少しずつ自分が知らない場所を歩いているのに気が付いた。周りは真っ暗で、自分が目を開けているか閉じているかも分からないような闇が広がっている。ただただ真っ黒い世界を歩き続ける。
前方に少しずつ光が見えてきた。この光を見ているとなぜか強い安心感や幸福感を感じる。見ていると光はどんどん大きくなって広がっていき、僕は温かい光に包まれていく。
次の瞬間、僕は空中から6フィートほど下の地面に落ちた。顔を上げたら、今まで見たことも想像したこともないほど美しく清らかな眺めが広がっていた。
空は雲一つ無く真っ白で、遠くまで広がる地面もまた雪のように真っ白で柔らかな砂浜だった。その上には光の加減で何色にも見える不思議な光沢を持つ樹木たちや、どこまでも美しく澄み渡った池が庭園を造っている。爽やかな風が吹いて不思議な木々を揺らし、揺らされた葉や枝がぶつかったり擦れたりして、心を潤すような美しい音楽を奏でた。また、そのずっと向こうには金、銀、瑠璃、瑪瑙、虎目石、赤真珠、孔雀石、珊瑚など様々な宝石でできた壮大な宮殿がそびえ立っている。
「僕は...死んだのか。」僕はその荘厳な景色に呆然として立ち尽くし、無意識につぶやいた。「その通りです。」少し無機質な声が聞こえた。どこからきたのか、足下に一匹の猫がいて、僕の方を見つめて口をきいたのだ。僕は目の前のことに圧倒されているせいか、今更しゃべる猫にはあまり驚かなかった。それよりも自分の置かれている状況が何なのか知りたいと思った。
僕は尋ねた。「ここは、一体どこなんだ。」猫は答えた。「ここは、太古からの人間の集合意識が構成した、意識世界です。脳の電気信号としての貴方の意識が元の宇宙から失われたとき、エネルギー体としてこの空間に瞬時に転写されたのです。」僕は小難しい言葉を並べ立てる猫の話し方に少しむっとした。「よく分からないけど、ここは天国みたいな所なんだね?」「貴方の所属する文化圏ではそのように呼ばれています。ここは人間にとって苦痛、不快となるものが取り除かれていて、逆に快、幸福感をもたらすものだけが存在します。」「やっぱりそうか!」僕は少し興奮していった。ここは死んだ人が来る所なんだ。「じゃあ死んだおじいちゃんもここにいるんだね!今すぐにでも会いたい!」
「それはできません。」猫は否定した。「貴方のおじいさんは別の場所にいます。元いた宇宙を離れた魂は、皆それぞれ別の、こことそっくりな世界へ行くのです。意識を持つ生き物全ては、皆それぞれが作り出した世界に生きていて、魂同士が間に何も媒介するもの無しに直接関わることはありません。この空間でもそれは同じになるように作られていて、この世界で主観的な経験、つまり魂を持っているのは貴方だけです。」僕の中で期待が急速にしぼんでいった。「なら、会うことはできない...?」「それは...もしその方が"終着点"に着いていれば...」そこで猫は少し口をつぐんだ。「まあ、まず先にこの世界を案内します。あそこに見える宮殿まで行きましょう。付いてきてください。」猫は歩き出し、僕は慌ててついて行った。
どこまでも広がる砂浜は歩くと心地よく、踏むたびに不思議な音がした。美しい木々の間には時々、様々な色の綺麗なガラスでできた孔雀やオウムが歩いたり飛んだりしていた。
途中蓮の花が咲く美しい池を通りかかった。水は澄んでいて、底の砂に砂金が混じっているのが見える。猫は言った。「これは宝の池です。水はおいしく、いくら飲んでも無くなりません。」僕は試しに手のひらで掬って少し飲んでみて、感激した。水とはこんなに美味しいものだったのか。それは今まで飲んだどんな水より美味しかった。清らかで冷たく、つやがあり滑らかな、いくらでも飲んでいられるような水だった。
僕と猫はその後、美味しい蜜の川や飲んでも具合が悪くなることのない酒の流れる川を超えた。すると木々の向こうに少しずつ巨大な宮殿が見えてきた。
前方に少しずつ光が見えてきた。この光を見ているとなぜか強い安心感や幸福感を感じる。見ていると光はどんどん大きくなって広がっていき、僕は温かい光に包まれていく。
次の瞬間、僕は空中から6フィートほど下の地面に落ちた。顔を上げたら、今まで見たことも想像したこともないほど美しく清らかな眺めが広がっていた。
空は雲一つ無く真っ白で、遠くまで広がる地面もまた雪のように真っ白で柔らかな砂浜だった。その上には光の加減で何色にも見える不思議な光沢を持つ樹木たちや、どこまでも美しく澄み渡った池が庭園を造っている。爽やかな風が吹いて不思議な木々を揺らし、揺らされた葉や枝がぶつかったり擦れたりして、心を潤すような美しい音楽を奏でた。また、そのずっと向こうには金、銀、瑠璃、瑪瑙、虎目石、赤真珠、孔雀石、珊瑚など様々な宝石でできた壮大な宮殿がそびえ立っている。
「僕は...死んだのか。」僕はその荘厳な景色に呆然として立ち尽くし、無意識につぶやいた。「その通りです。」少し無機質な声が聞こえた。どこからきたのか、足下に一匹の猫がいて、僕の方を見つめて口をきいたのだ。僕は目の前のことに圧倒されているせいか、今更しゃべる猫にはあまり驚かなかった。それよりも自分の置かれている状況が何なのか知りたいと思った。
僕は尋ねた。「ここは、一体どこなんだ。」猫は答えた。「ここは、太古からの人間の集合意識が構成した、意識世界です。脳の電気信号としての貴方の意識が元の宇宙から失われたとき、エネルギー体としてこの空間に瞬時に転写されたのです。」僕は小難しい言葉を並べ立てる猫の話し方に少しむっとした。「よく分からないけど、ここは天国みたいな所なんだね?」「貴方の所属する文化圏ではそのように呼ばれています。ここは人間にとって苦痛、不快となるものが取り除かれていて、逆に快、幸福感をもたらすものだけが存在します。」「やっぱりそうか!」僕は少し興奮していった。ここは死んだ人が来る所なんだ。「じゃあ死んだおじいちゃんもここにいるんだね!今すぐにでも会いたい!」
「それはできません。」猫は否定した。「貴方のおじいさんは別の場所にいます。元いた宇宙を離れた魂は、皆それぞれ別の、こことそっくりな世界へ行くのです。意識を持つ生き物全ては、皆それぞれが作り出した世界に生きていて、魂同士が間に何も媒介するもの無しに直接関わることはありません。この空間でもそれは同じになるように作られていて、この世界で主観的な経験、つまり魂を持っているのは貴方だけです。」僕の中で期待が急速にしぼんでいった。「なら、会うことはできない...?」「それは...もしその方が"終着点"に着いていれば...」そこで猫は少し口をつぐんだ。「まあ、まず先にこの世界を案内します。あそこに見える宮殿まで行きましょう。付いてきてください。」猫は歩き出し、僕は慌ててついて行った。
どこまでも広がる砂浜は歩くと心地よく、踏むたびに不思議な音がした。美しい木々の間には時々、様々な色の綺麗なガラスでできた孔雀やオウムが歩いたり飛んだりしていた。
途中蓮の花が咲く美しい池を通りかかった。水は澄んでいて、底の砂に砂金が混じっているのが見える。猫は言った。「これは宝の池です。水はおいしく、いくら飲んでも無くなりません。」僕は試しに手のひらで掬って少し飲んでみて、感激した。水とはこんなに美味しいものだったのか。それは今まで飲んだどんな水より美味しかった。清らかで冷たく、つやがあり滑らかな、いくらでも飲んでいられるような水だった。
僕と猫はその後、美味しい蜜の川や飲んでも具合が悪くなることのない酒の流れる川を超えた。すると木々の向こうに少しずつ巨大な宮殿が見えてきた。
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