わたしの婚姻

山岸ンル

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三、花は秘めて

セシリア嬢の秘密 第三話

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 家人や使用人の目を盗み、セシリアは度々『雫の家』に赴いた。美しい少女は知られざる快楽の部屋で『秘密』の遊びに興じた。
 触手は最長で一メートルほど、太さはセシリアの指と同程度。十本程度が同時に動くことができる。柔らかいようで硬い芯があり、自在に動いて女陰を弄ぶ。岩から生える、奇妙な生き物だった。
 セシリアは触手の生える場所に跨るように四つん這いになり、尻を丸出しにして自らの中に触手を受け入れる。少女の未発達の膣を二本か三本の触手が這いずり回り、セシリアに未知の性感を与えた。

「あっ、ふ、あぅっ、んっ、うぁ」

 自分の他には何者もいない。思う存分喘ぎ、セシリアは何度も絶頂した。
 そのうちセシリアは、服も肌着も脱ぎ捨てて行為を行うようになった。膨らみかけの乳房を、口内を、陰核や肛門の皺をまさぐられる。狂乱とも言える有様で、セシリアは触手に自分の身体を提供した。流れるような金髪を乱し、空のような瞳に涙を浮かべ、自分ではどうすることもできない快感の波に身を任せた。

「あっ、あぁ、そこ、あっ、あはぁ、気持ちいいっ」

 ねだるように腰を振り、まるで交尾を行うように交わって、果てる。

「んぅぅ……っ!」

 その度にセシリアは自分が罪深い、淫乱な姦婦だと思うのだが、きっとやめられないことも感じるのだった。



「その美しい、礼儀正しい、そしてお高く留まることを知っている令嬢が、一人でどんなことをしているか……」

 蒼白なセシリアに、ジャスティンは続けた。

「甘い秘め事、かな」
「やめ……やめて、ください」

 なぜ、この男は知っているのだろう。いや、理由などどうでもいい。あの痴態を知られてしまってるということは、自分が彼に楯突くことなどできようはずもない。

「もちろん誰にも言わない、ミス・ルーカス」

 優しげに、しかし冷徹にジャスティン・ハウエルズは微笑む。

「ただ、興味があるだけですよ」

 その言葉が意味するところを、セシリアは理解せざるを得なかった。

「なんだセシリア、まだバラ園をご案内していたのか。お茶にしましょうハウエルズ卿、いい茶葉が手に入ったのですよ」

 ゴードンが必要以上に大きな声で呼んだ。向き直ったジャスティンが、社交的な笑顔で応じる。

「いえ、私が引き止めていたのです。見事なバラだ。うちの園丁が見たら悔しがるでしょう」
「わははは、そうでしょうとも。ディナーは召し上がって行かれますな? コックが腕をふるいますぞ」
「ありがたい。その前に、散歩でもしてきたいと話していたところです。お嬢さんは海の見える秘密のロケーションをご存知のようですから」

 娘を気に入ってもらいたいゴードンは当然快諾し、二人を送り出した。


 暗い空間の湿った空気。かすかに聞こえる波音。セシリアは『雫の家』がまるで知らないところのように感じる。ジャスティンという異物を察知したこの隠れ家が、彼を拒絶しているのかもしれなかった。
 セシリアは一言も発することができなかった。

「なるほど、大昔の牢が入口になっているのか」

 感心したようにジャスティンが言う。
 密会の現場にたどり着いた。これからきっと、彼はわたしを脅迫する。セシリアはそう思った。

「さて……、セシリア嬢」

 ジャスティンがセシリアの肩を抱く。

「『それ』はどこにいるのかな」

 振り払うことなどせずにセシリアは答える。

「わかりませんわ。いつも……いつの間にか『い』ますので」

 自分でも驚くほど冷静な声だった。ジャスティンが岩陰に何かを見た。

「おや。呼び出すまでもなかったな。貴女を待っていたようだ……さあ、セシリア」

 ジャスティンは愉快そうに口角を上げた。

「『いつも』のようにしてもらいましょう」




「……っ、ハウエルズさま、その……」

 流石にうんとは言えなかった。セシリアは抵抗する。

「わたくし、その、あなたがお望みなら、あなたの妻になりますわ。だから、」
「もちろん私は貴女を娶るつもりでいますよ、セシリア嬢。だから、隠し事はなしにしたい。表向き良き淑女を演じる貴女の、素顔を見たい。貴女のスカートの中の秘密を……、それとも私の手で暴かれたいかな?」
「……!」

 悔しさに歯を食いしばりながら、セシリアはゆるゆると下着を下ろした。ジャスティンの灰色の目が満足そうに細められる。セシリアは跪き、岩肌から現れた触手に触れた。裾をめくり、ぎこちなく触手を導く。しかし触手はセシリアの脚や頬を撫でるばかりで、肝心の行為に進まない。このままでは、ジャスティンの要求に応えられない。
 じゃり、と靴音がして、振り返るとすぐ側にジャスティンがいた。

「ふむ……『それ』はどうやらまだ性的に興奮していないようだ」

 言うが早いか、セシリアが持ち込んだクッションを彼女の下に置いて体勢をひっくり返すと、ジャスティンはセシリアの両脚をぐいと開かせ、むき出しの秘部を眺めた。

「いやっ、やめ……っ、あぁっ!」

 セシリアが泣きそうな声で抗議しようとしたが、その前に男は少女の脚の間に顔を埋めていた。陰核を丁寧に舐め、吸い付き、舌で転がしていく。

「あっ、あ、あぅっ」

 たちまちセシリアの蕾は濡れ始めた。水気を帯びたそこに、男の指がずぶりと差し込まれる。

「んぁあぁっ!」

 触手とも、自分の指とも違う感触。セシリアの声に艶が増す。長く節くれだった指が、丹念に少女の中をほぐしていく。

「あっ……、あ、あぁあ、いやぁ……そこ、そこだめ……っ」
「ああ、ここがいいんだね。『あれ』にも同じように触ってもらったんでしょう。ちゃんと身体が覚えているようだね」

 執拗に繰り返し同じところを攻められて、セシリアは『それ』と交わっているときのように身体が熱くなるのを感じた。絶頂が近付いている。ジャスティンはそれを解っているかのようにセシリアの弱点を苛み、そしてセシリアが達しかけたところで、不意に指を引き抜いた

「あっ……、あ」
「どうしました? 私の指で気をやりたかった?」

 かあ、とセシリアの耳たぶが赤くなる。

「さあ、あとは『彼』にしてもらいなさい」

 ジャスティンの言葉に触手を見やると、それは明らかに充血し、まるで人間の男の性器のように(セシリアは実物を見たことはなかったが)腫れ上がっていた。ジャスティンが無理やりセシリアの脚を開かせ、ランプの灯りで濡れたそこを照らす。普段灯りを消し、闇の中でしかそういったことをしないセシリアは恥ずかしさで泣きそうだった。これが、一人で淫楽に耽った報いなのだろうか。

「ほら、彼も貴女の体内に入りたがっている」

 ジャスティンの言葉を証明するように、触手はすぐに濡れそぼった蜜壺に接し、二、三度入り口を浅く突いてから膣奥を深くえぐった。

「あっあぁあっ! う、あぁ」
「こうして大切なところを彼に貫かれているとき、何を考えている? 自分の淫らさについて? それとも、男の陰茎をねじ込まれる想像を?」
「ひっ、ぁぐ、ぁあっ、あ、あ」
「慎ましさのかけらもないな、セシリア。性器からよだれを垂らして、いやらしい娼婦のように浅ましく性欲に溺れて。ああ、けだものの交尾よりもずっと浅ましい」

 聞こえているのかそうでないのか、一度絶頂寸前まで追い込まれたセシリアは下腹部を痙攣させ、いとも簡単に達した。ジャスティンは愉しそうに結合部を見ている。

「セシリア……私は『彼』のような生き物について少し詳しいんだよ」
「はぁっ、はぁ、はぁ……」
「彼はまだ極めて若い個体だ。子供と言ってもいい。数本の細い触手しか現せないところを見ると、生まれて数年だ。だがもう性に目覚めている。とはいえまだ、交尾の仕方がわからない。本題だが、この触手は生殖器ではないんだ」
「…………?」

 肩で息をしながらジャスティンの言葉を聞いていたセシリアは、彼が何を言いたいのか解らなかった。
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