闇とワルツを

山岸ンル

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闇とワルツを01

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 まるで子供のような体躯の少女が、ベッドの上で身体をゆすられている。荒い息遣いと喘ぎが絶え間なく部屋にこだまし、じっとりとした空気と汗の匂いが入り交じっていた。

「あっ、ぁあ、ひあぁ、はあああああ……っ!」

 ひときわ大きな嬌声が上がり、少女の背骨がぐっと反った。びくびくと腰を震わせ、目尻からは涙が伝った。
 艶やかな黒髪はシーツの上で絡まり、緑と青の中間のような不思議な色の瞳は宙を彷徨っている。いかにも膨らみの足りない乳房は、息も絶え絶えに上下していた。
 組み敷くのは立派な体格の青年で、若いというにはやや年嵩のようだった。浅黒い肌に汗を流し、絶頂した少女の腰を掴んだまま性器で結合部分を弄んでいた。
 少女が意識を取り戻すと、まだ達していなかった己の昂ぶりをまた小さな孔の中に突き入れた。

「あうううっ、ん、ぁ、ぁあっはあ、あ、あ」

 抽送に合わせて、少女の口から力なく声が漏れる。

「だ、だめ、もう、もう……っ! お、ねが……、たす、たすけて」

 涙声の懇願を聞いて、男はより一層強く少女を突いた。

「助ける? 何の冗談だ」
「ひっ、んぎ、んんんんっ、んぁああ!」
「お前は自分がその言葉を聞いた時、『助け』たのか?」
「んいっ……、ぁあ、ごめ、なさ、あああっ!」

 少女の頭の両脇には、黒曜石に似た角が生えていた。しかし今はその片方が痛々しく割れている。
 細い両手首には黒い革の腕輪が嵌められている。その表面には複雑な幾重もの呪術が施されていた。
 男は少女の幼い乳房と陰核をそれぞれ両手で刺激し、あまりに体格の違う相手への責めを絶対に緩めない。

「みんな、お前に言ったよな? 『助けて』『お慈悲を』――ってよ」
「ひぎいっ、いやぁ、もう、あっ、あああああっ!」

 電流が走ったように全身を痙攣させると、少女はがくりとベッドの上に横たわった。焦点の合わない目がどこかを見ていた。
 男は少女の体内から自らをずるりと抜き取る。少女の体液にまみれたそれを何度か扱き、気を失った少女の首元に跨ると、先端を小さな口唇に含ませ、射精した。





 少女は悪の化身として君臨していた。
 魔族の中に時折現れる、極めて力の強い個体だった。しかしそれだけでは覇者とは成り得ない。少女を魔たらしめたのは、教育だった。周囲の悪魔は少女を御輿の上に乗せた。
 特に悪辣な者達が少女を理想の帝王にすべく、悪を教えこんだ。魔の君主として、少女は申し分ない素質を持っていた。
 この世に生まれ落ちてたった九年で、少女は人間たちから魔の暴君と呼ばれるようになった。
 魔王フーラの誕生である。

 フーラは美しかった。成長速度こそ人間のそれと同じだが、深い闇に包まれた独特の魅力があった。まだ幼い顔つきや肢体にすら、優美さと艶やかさを備えていた。
 だからこそ、一層人々は恐れた。
 天の御使いの如き容貌を持ちながら悪虐に耽る有り様に、一部の人間たちはむしろ恭順を示した。悪のカリスマ、と魔物たちは持て囃した。
 魔王フーラとその軍隊は、瞬く間に人間たちのすみかを侵略した。すべての人間を支配下に置くことを目的に、人間や妖精たちの権利を侵していった。
 フーラがいることにより統率のとれた魔物の群れは、人間のそれよりも数と力において優っていたのである。加えて魔物の繁殖周期は人間よりも短い場合が多く、戦線を拡大しても戦力を維持できるほどの増加率も魔物優位の一因だった。

 とはいえ、それを甘んじて受け入れるばかりの人間たちではない。多くの戦士がフーラを倒すべく旅立っていった。魔王城にたどり着くものもいなかったではない。
 しかし、皆敗れていった。
 ある者は無残にも手足を失った状態で故郷の村に置き去りにされていた。
 ある者は人間の最大の居処、デラキル国の王都ウィンカルの門の前に首だけが帰ってきた。
 圧倒的な魔力と残虐な性質を持つフーラとその眷属たちの前に、何の異能も持たぬ人間など遊び相手でしかなかった。
 飽きた人形を弄んで捨てるがごとく、魔物は人間たちを嘲笑い壊していった。

 誰もが、昏い不安と恐怖の中にいた。絶望のあまり自ら命を絶つ者すらあった。魔物の慰みものになって虫けらのように殺されるよりは、尊厳を選んだのである。

 そんな時、西の小さな村から勇者が旅立った、と噂が立った。魔王フーラに匹敵する力を持ち、神の加護を受けた予言の勇者が。
 彼の名はルーダン。精霊の力と黒魔術の知識を併せ持つ異彩の天才だった。


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