闇とワルツを

山岸ンル

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闇とワルツを02

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 勇者ルーダンは二十四歳の若者だった。日に焼けた肌を纏う肉体は逞しく、一切の無駄がなかった。ただし、黒魔術を極めた影響により、彼は幾分老けこんで見えた。
 明るい茶色の髪は陽光に透けると金色になり、深い紺色の瞳は鋭く、しかしどこか悲壮な雰囲気を持っていた。精霊の剣を腰に佩き、鎧はごく軽い革のものだった。
 傷は少なく、まさに彼は天性の勇者だと言えた。

 ルーダンは次々と、魔王軍によって陥落したはずの街々を解放していった。
 一つの街に二ヶ月以上とどまり、神の加護の秘術を以って街の守護を強化していった。人々を指導し、魔物に対する術を授けていった。
 ルーダンがデラキルの王都ウィンカルに立ち寄ったとき、国王自ら彼を出迎え、頭を下げて頼み込んだ。
 もう、人間に残された希望はあなたしかいない。
 魔王を倒して戻った暁には、いかなるものをも与えよう。
 勲章も、宝も、富も権利も。
 そう言って王は泣いた。
 彼の一人娘であるデラキル王女シュリンタは、保養地にいたところを魔物の大群に襲われ連れ去られていた。
「もう無事ではありますまい」
 王は疲弊し、諦めていた。
 幾度も出兵し、そのたびに大きな犠牲を払って何の収穫も得られず帰ってきたのだ。そのうちに王都も危険に晒されるようになり、王女救出は滞らざるを得なかった。

 ルーダンは王の手を取り言った。

「もし奴らが王女を亡き者にしていれば、必ずその証が王都に届く。だから王女は無事でいる。たとえ五体満足でないにしろ、絶対に生きている。だから、希望を捨ててはいけません、陛下」

 王はもう一度王女と会うことができるだろう。
 勇者はそう予言して、ウィンカルを発った。
 残された民衆はルーダンに夢を見出した。女達は旅立つ彼に祈りを捧げた。情愛を向ける者もいたが、彼は決して女達に触れなかった。
 高潔な救世主――誰もがその後姿に神の意思を見たことだろう。



「うんっぅ、うぐっ! うあぁっ!」

 フーラの華奢な肢体が跳ねた。人間のものとさほど変わりない、だが明らかに強度の違う肉体。どれほど乱暴に扱っても、壊れることを知らない。下半身を貫く剛直にはたっぷりと粘液が絡まっている。
 フーラを四つん這いにさせ、後ろから犯しながらルーダンはちらりと寝室の扉を見た。重厚な扉の向こうには魔物たちがいるはずだ。魔王を奪還しようと。しかしそれができずに。

「おい」

 部屋の隅で小さくなっていたメイド姿の下級悪魔がびくりと震えた。

「な、なんで、ございましょう」
「扉を開けろ」

 女悪魔は青ざめたが、それでもおずおずと内鍵を開け、ノブを回した。隙間が空く。どよめきが部屋に流れ込んだ。

(勇者が、扉を開けさせたぞ)
(ま、魔王サマ……!)

 城づとめの魔物どもが、魔王を組み敷く勇者を見て、どうすることもできずに拳を固めた。
 今ここで、魔王を人質に取る全裸の勇者を倒そうと襲いかかっても、おそらく敵うことはないだろう。魔王城にたどり着くまでの間に、勇者ルーダンの力量はそこらの魔物がまとめてかかっても太刀打ちできないまでに増していた。
 そう、魔王を倒し、その威風を粉々に砕くまでに。

「おい、お前」

 灰色の肌をしたオークを指差し、ルーダンが呼んだ。

「お前だけ中に入れ」

 指名されたオークはそろそろと部屋に足を踏み入れる。毛足の長い贅沢な絨毯に、靴も履かないオークの足が沈み込んだ。

「勇者……、ま、魔王さまを離してくれ」
「『勇者さま』だろ? 今は誰がこの城の支配者だと思ってるんだ?」
「う、うう……勇者、さま……頼む」
「お前」

 オークの言葉を無視して、ルーダンはオークの股間を見た。

「魔王の喘ぎ声聞いて興奮してるな?」




「あ゛っ、はぁあ、あんんっ!」
「……っく」

 フーラの体内に、ルーダンが吐精した。

「……っふう……」

 勇者が自身のものを抜き取る様子を、オークは否応なしに釘付けになって見ていた。
 人間の男の性器と、それが引き抜かれたばかりの魔王の蜜壺。その間に両者の体液が、艶かしく光っていた。勇者に言われたとおり、オークは興奮している。どくんと自分のものが疼いた。
 自分の上着を羽織った勇者が、オークを振り向いて言った。

「お前、魔王を犯せ」
「なっ……」
「そんな様子じゃやりたくてしょうがないだろ? お前らの大事な長の中に好きなだけぶちこめよ」

 意地が悪く勇者が嗤った。フーラは虚ろな目をしてどこかを見ている。

「そ、そんなこと、できるわけが」
「逆らうのか?」

 ルーダンが舌なめずりをした。

「嫌だと言うなら、魔王の身体から肉を削いでいく。いくら再生能力があると言っても、聖別された霊剣はさぞかし痛いだろうな」
「わ、わかった! わかったから、やめてくれ」
「敬語使えよな」
「やめて、ください……」
「慣らしてあるからお前の持ち物でも入るだろうよ」

 オークは精一杯抵抗するようにゆっくりとベッドに近付くと、魔王の身体を眺めた。
 魔王フーラは憧れだ。常に威厳を持ち、美しく、魔物たちを導いてきた。その天下は勇者に引きずり降ろされるまでのたった五年。
 生まれ落ちて十四年のその身体が一糸纏わずここにある。紛れも無い交接の痕を腿に残して。
 覚悟を決め、オークはフーラにのしかかった。



「え、え……」

 魔王は戸惑いを隠しもせずオークを見ている。至高の存在であるはずの自分から見て、奴隷にも等しいはずの低級魔族。それが今自分の足元で大事なところを見ている。
 何をするつもりなのか、途切れそうな意識の中でもはっきり解った。そもそも、オークの交接器は、人間サイズのフーラには明らかに大きすぎる。

「い、いや、いやあああっ!」
「申し訳ねえ、申し訳ねえ魔王さま。だけどこうしないと……っ」

 オークの両手がフーラの両脚を掴み、秘所を露わにさせた。勇者の痕跡でぬらぬらと濡れた外性器は、精液をこぼしながらも先程まで男のものを咥えこんでいたとは思えないほどぴっちりと閉じている。
 そこに、オークは既に先走りの溢れる自分のものを擦りつけた。「早くしろよ」……勇者の声に促され、オークは色素の薄い魔王の孔に侵入した。

「ひっぎ、ぃぃぃいいい……っ、あ、あ゛ーーっ、おっ、お゛……」

 尋常ではない質量に、フーラはのけぞる。横隔膜を押され大きく息を吐く。下賎な生き物の熱の塊が子宮を、内臓全体を押し上げる。

「ぃっ、やあぁ、あ、あ、……」

 息も絶え絶えにフーラは弱々しく首を振る。上級魔族の頂点である魔王が、下級の魔物と交尾させられている。その事実がフーラのプライドを完膚なきまでに打ち砕いた。
 家畜と侮っていた人間の男に純潔を奪われ、散々いたぶられた。そして今は絶対に交わるはずのなかったオークと繋がっている。魔王としての誇りは地に堕ちた。

「あ゛あぁは、あっ、はぁ、んんうう、はあぁ」

 律動のたびに、フーラの腹が大きくうねる。オークのものが大きすぎるのだ。このままでは息が続かないのではないかとオークは思ったが、やはりフーラは上級魔族。その程度ではただ苦しむだけの話だ。

「はぁ、あ、あ、あ」

 限界が近いのか、オークの腰使いが激しくなる。それに合わせてフーラの喘ぎも漏れる。

「う、う、ま、魔王さま、魔王さま……っ!」
「~~~~っ!」

 オークは魔王の中に白濁液を解き放ったらしい。
 ルーダンは聖剣の柄を持ち、曇ることのない輝きを自分の目に映した。
 悪に対する悪は、正義だろうか。
 加護は、失われていない。



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