闇とワルツを

山岸ンル

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闇とワルツを05

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 勇者ルーダンによって魔王フーラの手首に嵌められた革製の腕輪には、三つの呪詛が込められている。
 ひとつは、魔王の魔力の抑制。
 ひとつは、勇者ルーダンへの服従。
 最後のひとつは、その身に与えられる快楽の増幅。
 すべて、黒魔術を極めた異色の勇者によるものだ。経験値を重ね、圧倒的な力を有したルーダンだからこそ魔王を打ち倒し、屈服させることができたのだ。

「ん……はぁ、あ」

 舌を絡めとられ、唾液を送り込まれて、フーラの顔は紅潮している。
 ルーダンがフーラを自室軟禁してから一週間ほど経っていた。このところのルーダンは、魔王に性行為を強要することはあったが、その尊厳を踏みにじるというよりは、まるで少々強引な恋人のようだった。
 その態度が何をもたらしたかというと、魔王の懐柔である。
 十四歳の少女にとって、背も高く精悍な勇者との蜜月はずいぶんと夢心地だったといえよう。多少歳がいって見えたが、ルーダンは整った顔立ちをしていたし、逞しかった。
 下賤な人間の男に逆に支配されることを、既に敗北した魔王の精神は受け入れてしまっていた。

「んっ、あ、はぁ、あはぁ、ああ」

 これまでとは違う丁寧な愛撫に、フーラはとろけるような気持ちになっていた。
 隷属する喜び。ルーダンは決して陳腐な言葉を使わなかった。ただ、その手で、身体で、いっそそれは愛ではないかと思うほどの快楽をフーラに与えた。
 魔物に傅かれるではない、人間を足蹴にするではない、奇妙な感覚。
 生まれてより愛を知らぬフーラに、ルーダンの腕の中は心地よいものだった。

「ルーダン……っ、おねがい、きてぇ……っ」

 フーラは艶めいた声で男を誘う。
 ルーダンはフーラの腰を捉え、彼女の望み通り自身をフーラの中に埋め込んだ。

「あぁあっ、ルーダン……!」
「……くっ」

 勇者が魔王の中を出入りするたび、嬌声が響き、蜜があふれる。結合の悦びに震えるフーラはルーダンにしがみつき、自ら腰を振って男を喜ばせた。

「ルーダン、お願い、ずっとここにいて。ずっと」

 魔王らしからぬ、人間の男への懇願を聞いて、ルーダンは頷いた。

「ああ」

 寝台脇に立てかけてある霊剣を横目で見る。神の加護。光の象徴。

「ここにいよう……永遠にな」





 魔王城の影の主として、ルーダンはフーラを操った。フーラはこの頃になると、もはやルーダンに心酔しているとさえ言えた。部屋から出ることは許されなかったが、可能な限り勇者に尽くした。
 ルーダンの心変わりを恐れるかのように、フーラはルーダンに服属していた。
 欲しい。欲されたい。捨てられたくない。なんでもするから。
 フーラの態度の端々にそれが露出していた。
 もう、かつて人間を恐怖に陥れた魔王の姿はない。
 しかし、フーラの手首にはやはりルーダンの腕輪が掛けられている。魔物たちは、その強固な呪詛に歯ぎしりした。魔王本人に失望を抱くよりも、ルーダンへの憎しみを募らせていった。
 奴さえ居なければ、人間は我が魔王軍のもとにひれ伏すことになろうものを。
 それほどまでに、魔王とは魔物たちを魅了し、鼓舞する生き物だったのだ。


 ルーダンが割れた魔王の角に舌を這わせると、フーラは肌を粟立たせた。

「……っ、はっ、ルーダンん……」
「情けない有様だな、魔王フーラ」

 幼い肢体をくねらせて、フーラはルーダンに「おねだり」をする。

「おねがい、触ってぇ……」

 すっかりルーダンのものになった身体は、既に勇者を受け入れる準備が整いつつある。フーラは自分の指で秘裂をなぞり、ぬめりを確かめる。
 ルーダンのズボンのベルトに手をかけ、それを外して、フーラはまだ硬くなっていないルーダン自身に口唇を寄せた。
 小さな口と男のものとの間で、ぴちゃぴちゃと淫猥な音が響く。不思議な色合いの瞳が、上目遣いにルーダンを見た。
 どこか寂しげな、しかし慈しむような目がフーラを見つめ返す。徐々に硬度を増す陰茎を、フーラは愛おしげに舐め上げた。
 大きな手が、少女の身体を撫でさする。それだけで、フーラは嬉しそうに声を漏らした。

「あっ」

 フーラを寝台に横たえさせ、ルーダンは大きな身体でのしかかる。わずかに恥じらうフーラの脚を開くと、桃色の陰唇は既に濡れていた。





 産毛の一本も見当たらない恥丘を焦らすようにルーダンが舐めると、フーラは幸せそうに指を噛んだ。その下にある花芯に舌をずらす。人間のものと変わりないそこを舐め、口唇で吸うと、フーラはたまらず声を漏らした。
 そのまま指をフーラの体内に押し進める。フーラの脚が揺れた。何度か膣壁をこすり、体液の導くままに奥まで指を押し入れた。くぐもった声がフーラの口唇から漏れる。
 指の腹を使ってこねくり回す。このひと月で、ルーダンはフーラの身体を熟知していた。

「んんぁっ、そこ……っ、はぁ、ああ」

 少女のものとも思えない艶めかしい声でフーラは愛撫に応える。

「ん、あ、は、ぁあ、ルーダン、気持ちいい……っ、あ、あっ、あぁ……!」

 小さく絶頂したらしいフーラは、とろりとまぶたを閉じ、余韻を味わっている。
 ルーダンは力の抜けたフーラの中心に自身をあてがい、躊躇せずに貫いた。

「んあぁっ! あっ、は、ぐ」

 突然侵入した質量にフーラが息を吐く。ぐちゅぐちゅと数度抽送を行い、ルーダンはフーラの最奥まで自分をねじ入れる。

「ずいぶん奥まで咥え込めるようになったじゃないか」
「ふああ、あ、ルーダン……っ、あふ、あ」

 その目にうっすら涙を溜めながら、フーラは懸命にルーダンの肉の剣を身体に飲み込もうとする。ルーダンは露の溢れる秘裂に自身を打ち付けた。

「あぁあっ、はぁっ、あっ、ルーダン、あぁっ、んああっ!」

 身体の中を抉り取られてしまうのではないかと思うほどに、フーラはルーダンのなすがままになっていた。寝台が軋む。行なっていることはひと月前と同じだったが、フーラの意識は完全に違っていた。
 どうして、あの時はあんなに嫌がったのだろう。こんなに気持ちよくて、幸せなのに。
 誰かに従い、愛を乞うことの幸福を、なぜ恐れていたのだろう?

「ああっ、はぁぁ、ルーダン、気持ちいい、いいよぉっ! 好き、好きぃぃ……」

 何度も何度も体内を打ち据えられて、フーラは泣きながらルーダンに縋った。

「おい、お前」

 いつぞやのように、ルーダンが部屋の隅に待機していた女悪魔を呼びつける。

「扉を開けろ」
「は……っ、は、はい」

 召使いは慌てて扉の鍵を開け、ノブを回し押す。そこにはやはり魔物たちが、フーラを救出せんとばかりに詰めかけていた。

「……っ、んっふ、う、ルーダン……っ?」
「安心しろ、前みたいなことはしない。見せつけてやるだけだ」
「はぁああっ! あっひぁ、あーっ、ルーダンんんんっ」

 律動は一層激しさを増す。魔物たちは何もできず、ただその痴態を見ている。

「ん……っ、く」
「あ、はあ、んっ、ん……ぅ! あ……っ!!」

 声も出ないほどの快感がフーラの背筋を這い上がり、ルーダンがフーラの内部に吐精したとき、それは一気にのぼり詰め、フーラの頭の中を白く染め上げた。




 魔物たちが口唇を噛む。

「はあっ、はぁっ、あっ、はぁ」

 荒い息遣いに喘ぎながら、フーラはルーダンを見た。
 ルーダンはしばらくフーラの中に居たが、やがてそれを抜き取ると、翳りのある目でフーラに尋ねた。

「お前……、俺のことを愛しているか?」

 横たわったまま、フーラは首肯する。
 魔王さま――おいたわしや。悪魔の嘆きがさざめきとなって部屋に流れ込む。

「はい……、愛してる、ルーダン」
「……そうか」

 次の瞬間、神の加護を受けた聖剣の切っ先が、フーラの子宮の真上に位置していた。

「……え?」
「悪いな、魔王フーラ」

 どず、と文字通り、フーラの身体を剣が貫いた。たった今自らの精を放った場所を、ルーダンは霊剣で寝台に縫い付けたのだ。

「あ゛っ。あ、え、……なん、」

 ずず。骨も、シーツもまるでバターにナイフを立てるように剣の餌食になる。フーラは何が起こったかわからない、と言う顔でルーダンを見ている。

「がはっ」

 ぶしゅ、と傷口から血が吹き出し、フーラの膣口からは血液混じりの精液が流れ出た。

「あ゛、あ、ルー、ダン」
「これが目的だったんだ」

 ルーダンが呟くように言った。

「これが俺の最後の望みだ。魔王フーラ、お前に絶望を与える、ただそれだけのために」

 神々の力の化身は魔の力を急速に奪い取っていく。人々の悲しみを、嘆きを、恐れを、絶望を、そして命を糧にしてきた魔王の身体から、生命の力が消えていく。

「ルー、ダ、ン」

 ……最期に勇者の名前を呼び、――そして何も伝えることができずに、フーラは絶命した。指先が、髪が、身体全体が、空間に溶けていく。

「『そなたの心に正義のある限り――』」

 神託を思い出しながら、ルーダンは呆然と様子を見ていた魔物たちに目線をやった。

「『その行路を照らすであろう』」

 もはや、勇者の心に正義はなかった。魔王を殺したとき、皮肉にも最後の光が消え失せた。
 剣は曇り、とうとう勇者は加護を失った。

「ま、魔王、さま」

 誰かが言った。
 魔王は応えなかった。
 勇者は少し笑った。

「おおおおおおおおおおおおおっ!!」

 魔物たちの怒号が部屋を揺らした。
 勇者はうろたえなかった。
 誰かが踏み込みんだことを皮切りに、魔物たちが襲いかかった。
 勇者は満足そうに、しかし寂しそうに、うっすらと笑みを浮かべていた。

 それから後のことを、誰も伝えていない。



 魔王軍は司令官も統率も喪い、徐々に戦線は縮小していった。占領地となっていた場所は人間の手に戻り、復興を待つばかりとなった。
 魔王城の混乱に乗じて逃げ出した奴隷も多数いた。その多くの者は故郷に帰り、家族や友人との再会を喜んだ。
 デラキル王女シュリンタは王都ウィンカルで勇者のために祈りを捧げる。
 彼女は魔祓いによって自己を取り戻し、魔族の子を産みはしたが、それをあえて殺すこともなく、道案内をした下級悪魔に託して魔の領域に還した。

 王女の、人々の祈りは勇者には届かない。

 復讐によって誰が救われたのかを知る術なく、勇者は還らざる者となった。




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