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――沖縄ダンジョン編――
――第16章・雷鳴墜つ――
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――沖縄ダンジョン・最終階。
稲妻のような速度で、老人と竜は激しくぶつかり合っていた。
なお生き残っていた竜たちは、その余波に耐えきれず、じりじりと後退する。
「滅びろ!」
ライゼンの大剣が弾丸のように振り抜かれ、オマリロの頭めがけて飛ぶ。
「ジュゲン操運者《ソウンシャ》:呪速移動《カースド・ムーヴメント》」
オマリロの姿がふっと掻き消え、次の瞬間にはライゼンの頭上に現れていた。
「その歳で、まだその速度か」ライゼンが言う。「いつまで持つ?」
雷をまとった爪がオマリロを掴もうと伸びるが、オマリロは弓を構え、矢でその爪を吹き飛ばした。
〈ボスHP:1,500%→1,200%〉
ライゼンは腕を突き出し、失われた爪を再生させる。
〈ボスHP:1,200%→1,500%〉
「続けるぞ」
稲妻のごとき速さで、ライゼンがオマリロの隣へ現れる。大きく口を開き、口腔から雷の奔流をぶちまけた。
ドゴォン。
爆雷がオマリロを直撃し、彼の身体を地面へ叩きつける。
衝撃と熱で全身を焼かれ、服は焼け爛れてぼろぼろになった。
「……臭い。服、終わった」
オマリロがぼそりと呟く。
ライゼンはふわりと降り立ち、オマリロの前に着地した。
「あの一撃は、人間なら千回は殺せる威力だ」竜王は言う。「それなのに、なぜ立っていられる?」
オマリロは破けた上衣をびりっと引き裂き、やせ細った上半身を晒す。
ライゼンは目を細める。その身体に残る傷が、ゆっくりと再生していくのが見えた。
「……そういうことか」ライゼンが悟ったように呟く。「お前、簡単には死なん。七つのクラスをすべて持ちながら、回生者だけは一度も使ってこなかった……」
「つまりそれは、常時発動の能力――違うか?」
オマリロは地に落ちていた杖を拾い上げた。
「竜、物わかり良い」
ライゼンはくつくつと笑う。
「だが、お前も所詮は人の身。歳はごまかせん」
「いずれ肉体は朽ちる。ここでお前を引き裂いた後、あの小僧どももまとめて殺してやろう」
オマリロの瞳がギラリと光る。
「竜、やれるものなら、やってみろ」
白髪が逆立ち、空気が震えた。
「ジュゲン回生者《カイセイシャ》:呪不死《カースド・イモータリティ》」
オマリロの肉体はさらに老いさらばえたように見え、その変化にライゼンが目を見開く。
「……何をした?」
次の瞬間、さきほどまでを上回る速度でオマリロが踏み込み、杖の一撃でライゼンを空へ吹き飛ばした。
ドゴォン。
ライゼンは遠くの神殿へ叩き込まれ、石造りの建造物を粉々に砕く。
オマリロはすぐさま上空から降下し、今度は刀を構えて地に降り立つ。
ライゼンが放った衝撃波が神殿の残骸を巻き上げ、瓦礫が宙に浮かび上がる。
「何をした、ニュガワ……?」
オマリロの身体が鎧に覆われていく。
「回生者は〈誓約〉を打ち消す。身体は老いる。だが――力は増す」
ライゼンの翼が大きく羽ばたいた。
「見事だ、老人。だが叡智でダンジョンに勝てると思うな」
〈規則:死ね〉
真上から巨大な雷が落ち、オマリロの姿を完全に呑み込む。
そこに残ったのは、黒い灰の山だけだった。
「さらばだ、オマリロ・ニュガワ」
ライゼンは月光の差し込むトラップドアの方へと向き直る。
「さて、今度は小僧どもの番だ」
竜王の拳がトラップドアの周囲の地面を粉砕する。
「月は、再び檻に戻る」
足を一歩、内部へ踏み入れようとしたその時――尻尾に何かが引っかかる感覚が走った。
「……ん?」
「悪い竜だ」
ライゼンが振り返ると、そこには灰の山のはずのオマリロが、何事もなかったかのように立っていた。
「な――何だと?」
オマリロは尻尾を掴んだまま、ライゼンの巨体をぶん回し、周囲のビル群へ次々と叩きつける。
最後に勢いよく放り投げると、ライゼンは数度瞬きをして信じられないように叫んだ。
「たしかに焼き尽くした……灰になるのを見たはずだ! 規則は絶対のはず!」
「規則は“逆らう”ものではない」オマリロが淡々と告げる。「“ぶち破る”ものだ。……次は竜の番」
ライゼンは腕を振るい、残っていた竜たちを自分のもとへ集める。
「ならば見せてみろ」
「子らよ、融合せよ!」
竜たちは次々とライゼンの身体へ吸い込まれていき、赤い光が溢れ出す。
その光の中で、ライゼンの姿はさらに巨大に、さらに異形へと変貌していった。
そこに立っていたのは、もはや“ライゼン”と呼んでよいのか分からぬ存在だった。
黒と深紅に染まった巨竜。三つの頭、六枚の翼、八本の腕。全身を鎧が覆い、両手には超巨大な大剣が握られている。
〈規則:雷鳴ダンジョンの皇竜神《コウリュウシン》――ライゼンを倒せ〉
〈ボスHP:1,500%→20,000%〉
ライゼンは大地を揺らしながら身を屈め、低く、底冷えする声で告げる。
「祝福してやろう、人間」
「お前は、皇竜神の“怒り”を受ける資格を得た」
〈ドメイン効果:〈オースキーパー〉・クリムゾンレイン。説明:10秒ごとに〈クリムゾン・サンダー〉を発動し、“フューリアス・ドラゴンズベイン”を召喚。彼らの攻撃は追加で20,000%のダメージを与える〉
「もう手加減はしない、オマリロ・ニュガワ。ジ・エンドレスが見ている」
言い終えるより早く、ライゼンの大剣が振り下ろされる。
オマリロは瞬間移動で刃をすり抜け、矢の雨を皇竜神へ撃ち込んだ。
〈ボスHP:20,000%→15,000%〉
ライゼンは愉快そうに笑う。
「それでこそだ」
〈〈フューリアス・ドラゴンズベイン〉発動〉
荒れ狂う雷光から、二体の巨大な竜の構造体が現れ、オマリロめがけて急降下する。
「ジュゲン滅者《メツシャ》:オブリタレイト!」
オマリロが手を打ち鳴らした瞬間、二体の竜は音もなく消滅した。
だがライゼンはすかさず蹴りを叩き込み、オマリロの身体を空へ吹き飛ばす。
ドゴォン、ドゴォン、ドゴォン――。
ライゼンの攻撃は、先ほどまでとは比べものにならないほど荒々しく、重く、速い。
オマリロは紙一重で避け、受け、いなし続ける。
「我が子らよ!」ライゼンが咆哮する。「力を貸せ! 父は決して敗れぬ!」
その呼びかけに応じるように、さらに多くの〈フューリアス・ドラゴンズベイン〉が形成され、紅い雷でオマリロを焼こうとする。
「ジュゲン闘士《トウシ》:聖刃乱撃《セイジン・ランゲキ》!」
オマリロの周囲に無数の黄金の刃が形成され、紅雷とぶつかり合い、雷鳴と光の大爆発を引き起こす。
「消え失せろ」
ライゼンが再び肉薄し、斬撃を浴びせようとするが、オマリロは地面に着地すると、そのまま全力疾走を始めた。
ライゼンも地へ降り立ち、背後から雷を吐きながら追いかける。
「ジュゲン後備者《コウビシャ》:禁忌牢獄《フォービドゥン・プリズン》!」
オマリロの展開した封印が、後方から迫る雷を丸ごと呑み込み、消し去る。
それでもライゼンは斬撃の雨を浴びせ続け、オマリロは走りながらこれを捌いていく。
(この男……)ライゼンは内心で唸る。(こんなにも老い、こんなにも脆く見えるのに。いったいどれほどの戦いを潜ってきた……)
(これはもはや、人の域ではない)
ライゼンはさらに刃を増やしながら追走する。
「……怪物だ」
また一撃が振り下ろされるが、オマリロは腕でそれを受け、刃は鋼に弾かれたかのように跳ね返った。
オマリロは角を曲がり、ライゼンがすぐさまその後を追う。
皇竜神が紅い雷の奔流を放つが、オマリロはその合間を縫うように転移する。
「なぜ逃げる、人間!」ライゼンが怒鳴る。「正面から立って死ね!」
オマリロは後ろをちらりと振り返り、次の瞬間にはライゼンの頭上へ転移していた。
そして、その頭を掴んで地面に叩きつけ、そのまま引きずるようにして突っ走る。
〈ボスHP:15,000%→13,500%〉
そこへ〈フューリアス・ドラゴンズベイン〉の一体が突っ込み、オマリロの腕を奪い去る。
「追い詰めたぞ」ライゼンが宣告する。「ここが貴様と私の、最終決戦の場だ」
オマリロの腕はすぐに再生し、彼は腰をさする。
「腰、限界。さっさと終わらせる」
「安心しろ」ライゼンが嗤う。「腰だけでは済まさん。身体ごと灰にしてやろう。遺言は?」
オマリロは背骨をボキボキと鳴らし、刀をライゼンへ向けて突きつける。
「竜、目が悪い」
「……何?」
ライゼンが顔をしかめ、ゆっくりと振り返った瞬間――
月光の一撃が真正面から顔面を撃ち抜いた。
〈ボスHP:13,500%→12,000%〉
「へへっ! ど真ん中、命中!」
オマリロが目を向けると、月光を纏った裸足の少女がふわりと降り立つところだった。
その背後には、ハン、リカ、ザリアの三人が控えている。
「師匠!」ザリアが叫ぶ。「戻りました!」
「援軍、連れてきました!」ハンが続ける。
「しかも、たぶん幽霊!」リカが言う。
ハンとザリアが同時に振り返る。
「は?」
レイはぴょんぴょんとスキップしながらオマリロに駆け寄り、その腕を掴んでじっと観察する。
「あなたが最強? すっごい! ちっちゃい! しわしわ! でも超カッコいい!」
「少女、ベタベタ触るな」オマリロは淡々と言う。「鬱陶しい」
彼がふっと転移すると、レイはその場でズルッと転び、床を転げ回った。
「いったぁ……でもサイコー!」
子どもたちが合流する頃には、ライゼンも体勢を立て直し、怒りに満ちた視線をレイへ向けていた。
「レイ……」
レイはくるっと振り向き、ひらひらと手を振りながら鼻歌まじりに言う。
「やっほー、ライゼン! ついに自由の身だよ!」
「檻に戻れ」
レイは指を左右に振ってニヤリと笑う。
「やーだ。ノー。絶対。ムリ」
ライゼンの爪が伸びる。
「愚かな小娘。二度は言わん」
「おお、やる? 殴り合い?」レイは両拳を構え、ぴょんぴょん跳ねる。「じゃ、私から!」
パーティ全員が若干引いた目で彼女を見る。
「変な人だな……」ハンが小声で。
「だね……」ザリアも同意する。
「裸足だし……」リカが付け加えた。
ライゼンは口を大きく開く。
「まずは貴様から始末してやる」
口腔から稲妻が放たれるが、レイは手のひらを突き出し、不敵な笑みを浮かべる。
「ジュゲン魔法士《マホウシ》:月の明幻華《ツキノ・メゲンカ》!」
手のひらから放たれた月光のビームが雷を押し返し、そのままライゼンの胸を撃ち抜いた。
〈エラー:〈オースキーパー〉との接続が切断されました〉
「よっしゃ!」ザリアが拳を握る。「やっちゃえ、お姉さん!」
ライゼンは大剣の一本を地面に突き立てた。
「主に背くか、レイ……首を刎ねて檻に吊るしてやろう」
彼はもう片方の大剣を投げつけるが、レイは笑いながらステップを踏む。
「ジュゲン魔法士:無尽の夜の三日月《ムジンノ・ヨルノ・ミカヅキ》!」
宙に巨大な三日月の紋章が現れ、その一振りで飛来した大剣をはじき返した。
ライゼンが咆哮し、空から凄まじい量の雷を降らせるが、レイは指を二本立てる。
「ジュゲン魔法士:月光の護光《ゲッコウ・ノ・ゴコウ》!」
月光の防壁がパーティ全員を包み込み、雷撃を完全に遮断した。
オマリロは周囲を一瞥してから、再びレイへ目を向ける。
「少女、かなり強い」
レイは顔を赤くして足先で床をつんつんと突く。
「えへ……ありがと」
ライゼンは雷刃でシールドを斬り裂くが、その刃をオマリロが受け止める。
「竜、弱った。ここからは――墜ちる番だ」
ライゼンの翼が広がり、雷の鎖が発生。
パーティ全員を拘束しようとするが、オマリロはザリアの腕を掴んで彼女だけを外へ引きずり出した。
「その程度の鎖がなくとも、お前たちを塵にできる。買いかぶりすぎるな」
「どうします、師匠?」ザリアが訊く。
「背中に乗れ」
「……え? い、今なんて?」
「背中に乗れ。竜を斬る」
ザリアの顔が一瞬で真っ赤になり、次の瞬間ぱっと笑顔が弾ける。
「は、はい!」
躊躇なくオマリロの背中へ飛び乗ると、ライゼンは鼻で笑った。
「滑稽だな」
ザリアは槍を呼び出しながら尋ねる。
「作戦は?」
「槍を投げろ。何があっても」
「投げるだけ?」
「投げろ」
ライゼンが大地を叩き割るが、オマリロの姿はすでに消えている。
「ジュゲン闘士:呪槍射出《カースド・スピア》!」
右側から槍が飛来し、ライゼンの右目をえぐり取った。
〈ボスHP:12,000%→11,999%〉
ライゼンは反射的に目を閉じ、怒鳴る。
「ぐっ……どこだ、人間!」
その隙にオマリロが右脇腹へ突っ込み、深々と刀で斬り裂く。
〈ボスHP:11,999%→9,000%〉
「やった!」ザリアが叫ぶ。「今の、かなり入ったよ!」
ライゼンはすぐに体勢を立て直し、二人をはたき落とすが、オマリロは軽やかに着地し、ザリアも背中に乗ったままだ。
「剣、来ます!」
ライゼンは大剣を何度も地面に叩きつけ、地面から雷が噴き上がる。
オマリロはその間を縫うように跳び回り、ザリアは次の槍を構えた。
「ロックオン……はい、いただき!」
槍を投げると、ライゼンはそれを素手で掴み取る。
だが、ザリアはすでに次の槍を蹴り飛ばしていた。槍は左目を抉り取る。
「小娘……己の運命を、自分で決めおったな」
怒りに満ちた声と共に、ライゼンの腕が振るわれるが、オマリロが腕を斬り裂く。
〈ボスHP:9,000%→8,000%〉
「今の見た? ガチで刺した!」
オマリロは小さく頷く。
「よくやった」
そのタイミングで、他のメンバーを縛っていた雷鎖が消え、ライゼンはオマリロだけを掴み上げると瞬間移動で姿を消した。
「師匠!」ザリアが叫ぶ。
ハンとリカが駆け寄る。
「どこ行っちゃったの?」リカが焦る。
「キューブで位置を――」ハンが言いかけたところで、レイがくすくす笑う。
「必要ないよ」
レイは指をさす。
「あそこ」
遠く、巨大な竜の神殿から凄まじい雷と光が噴き上がっていた。
――竜殺しの神殿――
〈規則:生き残れるのは一人だけ〉
ライゼンはオマリロを床へ放り捨てると、神殿全体を雷の結界で包んだ。
「さっきの小細工は見事だった」ライゼンが言う。「あの娘の槍、視界にまだ残っている」
「少女たち、有能」オマリロも認める。「全員、伸びしろ充分」
「かもしれん」ライゼンは鼻を鳴らす。「だが、お前がいなければただの“餌”だ」
「規則はすでに発動している。この場から生きて出られるのは、我か、お前か――どちらか一人」
オマリロは鎧を霧のように消し去り、刀だけを手に残す。
「なら、決めようか」
二人の身体から、紅と金のオーラが立ちのぼる。
竜王と老人は、互いの全力をぶつけ合うようにして斬り結んだ。
その速さは、外からではとても追えない。
「この戦い!」ライゼンが吼える。「この死闘こそ、死ぬに値する!」
オマリロはライゼンの大剣を飛び越え、矢を一本構えると、そのまま竜の口内へ撃ち込んだ。
〈ボスHP:8,000%→4,000%〉
ライゼンの爪が横薙ぎに裂き、オマリロの顔面を切り裂いて視力を奪う。
「これで互いに、何も見えん」
「そうだな」オマリロは静かに呟く。「何も見えん」
視界を失ったオマリロは、耳を研ぎ澄ます。
耳の奥で、稲妻の弾ける音が膨れ上がり、肩先をかすめて雷が落ちる。
「ジュゲン操運者!」
オマリロは瞬時に位置をずらし、再び矢を放つ。
〈ボスHP:4,000%→2,000%〉
ライゼンの蹴りがオマリロをふっとばし、オマリロは床を滑りながらも刀を呼び出す。
腫れ上がった瞼の下で、目は完全に閉じていた。
「まだ出し惜しみか、ニュガワ」ライゼンが嘲笑する。「なら、見せてやろう」
〈ボスHP:2,000%→20,000%〉
〈ライゼンを“一手”で倒せ〉
「これで分かったろう」ライゼンの声が響く。「理解したか? ダンジョンには逆らえん!」
「違う」オマリロは首を横に振る。「“逆らえん”ではない」
「“超える”のだ」
オマリロの刀が変形を始め、黄金の輪状の武器へと姿を変える。
輪の四隅には異なる四枚の刃が生え、回転速度はライゼンの感覚をも上回った。
「ジュゲン闘士:無限環の黄金刃《ムゲンガン・ノ・オウゴンジン》!」
黄金の輪が光の軌跡を描きながら飛び出し、ライゼンの身体を縦横無尽に切り裂き、その巨体をまっぷたつにした。
〈ボスHP:20,000%→0%〉
ライゼンの身体が地面に崩れ落ちる。
「……ああ、これが“伝説”か」
上半身だけになった竜王は、ゆっくりとオマリロを見上げる。
オマリロは足音も静かに歩み寄っていた。
「お前は……最初から決めていたのだな」ライゼンが笑う。「いつでも、この一撃で終わらせられた」
「なのになぜ、ここまで引き延ばした……?」
「子どもたちのためだ」オマリロは短く言う。「全部見せねば、育たん」
「……それには同意だ」ライゼンはかすかに笑んだ。「おめでとう。ダンジョンを……攻略した」
ライゼンの身体がびくりと震える。
「最後に一つだ、ニュガワ」
「我が名を、忘れるな……いずれ、また聞くことになる」
「……雷象ドラゴンズベイン――雷の竜」
その名を聞いた瞬間、ライゼンの身体は稲妻となって弾け、完全に消滅した。
「雷象……」オマリロは小さく口の中で繰り返す。「……確かに、強かった」
――
稲妻のような速度で、老人と竜は激しくぶつかり合っていた。
なお生き残っていた竜たちは、その余波に耐えきれず、じりじりと後退する。
「滅びろ!」
ライゼンの大剣が弾丸のように振り抜かれ、オマリロの頭めがけて飛ぶ。
「ジュゲン操運者《ソウンシャ》:呪速移動《カースド・ムーヴメント》」
オマリロの姿がふっと掻き消え、次の瞬間にはライゼンの頭上に現れていた。
「その歳で、まだその速度か」ライゼンが言う。「いつまで持つ?」
雷をまとった爪がオマリロを掴もうと伸びるが、オマリロは弓を構え、矢でその爪を吹き飛ばした。
〈ボスHP:1,500%→1,200%〉
ライゼンは腕を突き出し、失われた爪を再生させる。
〈ボスHP:1,200%→1,500%〉
「続けるぞ」
稲妻のごとき速さで、ライゼンがオマリロの隣へ現れる。大きく口を開き、口腔から雷の奔流をぶちまけた。
ドゴォン。
爆雷がオマリロを直撃し、彼の身体を地面へ叩きつける。
衝撃と熱で全身を焼かれ、服は焼け爛れてぼろぼろになった。
「……臭い。服、終わった」
オマリロがぼそりと呟く。
ライゼンはふわりと降り立ち、オマリロの前に着地した。
「あの一撃は、人間なら千回は殺せる威力だ」竜王は言う。「それなのに、なぜ立っていられる?」
オマリロは破けた上衣をびりっと引き裂き、やせ細った上半身を晒す。
ライゼンは目を細める。その身体に残る傷が、ゆっくりと再生していくのが見えた。
「……そういうことか」ライゼンが悟ったように呟く。「お前、簡単には死なん。七つのクラスをすべて持ちながら、回生者だけは一度も使ってこなかった……」
「つまりそれは、常時発動の能力――違うか?」
オマリロは地に落ちていた杖を拾い上げた。
「竜、物わかり良い」
ライゼンはくつくつと笑う。
「だが、お前も所詮は人の身。歳はごまかせん」
「いずれ肉体は朽ちる。ここでお前を引き裂いた後、あの小僧どももまとめて殺してやろう」
オマリロの瞳がギラリと光る。
「竜、やれるものなら、やってみろ」
白髪が逆立ち、空気が震えた。
「ジュゲン回生者《カイセイシャ》:呪不死《カースド・イモータリティ》」
オマリロの肉体はさらに老いさらばえたように見え、その変化にライゼンが目を見開く。
「……何をした?」
次の瞬間、さきほどまでを上回る速度でオマリロが踏み込み、杖の一撃でライゼンを空へ吹き飛ばした。
ドゴォン。
ライゼンは遠くの神殿へ叩き込まれ、石造りの建造物を粉々に砕く。
オマリロはすぐさま上空から降下し、今度は刀を構えて地に降り立つ。
ライゼンが放った衝撃波が神殿の残骸を巻き上げ、瓦礫が宙に浮かび上がる。
「何をした、ニュガワ……?」
オマリロの身体が鎧に覆われていく。
「回生者は〈誓約〉を打ち消す。身体は老いる。だが――力は増す」
ライゼンの翼が大きく羽ばたいた。
「見事だ、老人。だが叡智でダンジョンに勝てると思うな」
〈規則:死ね〉
真上から巨大な雷が落ち、オマリロの姿を完全に呑み込む。
そこに残ったのは、黒い灰の山だけだった。
「さらばだ、オマリロ・ニュガワ」
ライゼンは月光の差し込むトラップドアの方へと向き直る。
「さて、今度は小僧どもの番だ」
竜王の拳がトラップドアの周囲の地面を粉砕する。
「月は、再び檻に戻る」
足を一歩、内部へ踏み入れようとしたその時――尻尾に何かが引っかかる感覚が走った。
「……ん?」
「悪い竜だ」
ライゼンが振り返ると、そこには灰の山のはずのオマリロが、何事もなかったかのように立っていた。
「な――何だと?」
オマリロは尻尾を掴んだまま、ライゼンの巨体をぶん回し、周囲のビル群へ次々と叩きつける。
最後に勢いよく放り投げると、ライゼンは数度瞬きをして信じられないように叫んだ。
「たしかに焼き尽くした……灰になるのを見たはずだ! 規則は絶対のはず!」
「規則は“逆らう”ものではない」オマリロが淡々と告げる。「“ぶち破る”ものだ。……次は竜の番」
ライゼンは腕を振るい、残っていた竜たちを自分のもとへ集める。
「ならば見せてみろ」
「子らよ、融合せよ!」
竜たちは次々とライゼンの身体へ吸い込まれていき、赤い光が溢れ出す。
その光の中で、ライゼンの姿はさらに巨大に、さらに異形へと変貌していった。
そこに立っていたのは、もはや“ライゼン”と呼んでよいのか分からぬ存在だった。
黒と深紅に染まった巨竜。三つの頭、六枚の翼、八本の腕。全身を鎧が覆い、両手には超巨大な大剣が握られている。
〈規則:雷鳴ダンジョンの皇竜神《コウリュウシン》――ライゼンを倒せ〉
〈ボスHP:1,500%→20,000%〉
ライゼンは大地を揺らしながら身を屈め、低く、底冷えする声で告げる。
「祝福してやろう、人間」
「お前は、皇竜神の“怒り”を受ける資格を得た」
〈ドメイン効果:〈オースキーパー〉・クリムゾンレイン。説明:10秒ごとに〈クリムゾン・サンダー〉を発動し、“フューリアス・ドラゴンズベイン”を召喚。彼らの攻撃は追加で20,000%のダメージを与える〉
「もう手加減はしない、オマリロ・ニュガワ。ジ・エンドレスが見ている」
言い終えるより早く、ライゼンの大剣が振り下ろされる。
オマリロは瞬間移動で刃をすり抜け、矢の雨を皇竜神へ撃ち込んだ。
〈ボスHP:20,000%→15,000%〉
ライゼンは愉快そうに笑う。
「それでこそだ」
〈〈フューリアス・ドラゴンズベイン〉発動〉
荒れ狂う雷光から、二体の巨大な竜の構造体が現れ、オマリロめがけて急降下する。
「ジュゲン滅者《メツシャ》:オブリタレイト!」
オマリロが手を打ち鳴らした瞬間、二体の竜は音もなく消滅した。
だがライゼンはすかさず蹴りを叩き込み、オマリロの身体を空へ吹き飛ばす。
ドゴォン、ドゴォン、ドゴォン――。
ライゼンの攻撃は、先ほどまでとは比べものにならないほど荒々しく、重く、速い。
オマリロは紙一重で避け、受け、いなし続ける。
「我が子らよ!」ライゼンが咆哮する。「力を貸せ! 父は決して敗れぬ!」
その呼びかけに応じるように、さらに多くの〈フューリアス・ドラゴンズベイン〉が形成され、紅い雷でオマリロを焼こうとする。
「ジュゲン闘士《トウシ》:聖刃乱撃《セイジン・ランゲキ》!」
オマリロの周囲に無数の黄金の刃が形成され、紅雷とぶつかり合い、雷鳴と光の大爆発を引き起こす。
「消え失せろ」
ライゼンが再び肉薄し、斬撃を浴びせようとするが、オマリロは地面に着地すると、そのまま全力疾走を始めた。
ライゼンも地へ降り立ち、背後から雷を吐きながら追いかける。
「ジュゲン後備者《コウビシャ》:禁忌牢獄《フォービドゥン・プリズン》!」
オマリロの展開した封印が、後方から迫る雷を丸ごと呑み込み、消し去る。
それでもライゼンは斬撃の雨を浴びせ続け、オマリロは走りながらこれを捌いていく。
(この男……)ライゼンは内心で唸る。(こんなにも老い、こんなにも脆く見えるのに。いったいどれほどの戦いを潜ってきた……)
(これはもはや、人の域ではない)
ライゼンはさらに刃を増やしながら追走する。
「……怪物だ」
また一撃が振り下ろされるが、オマリロは腕でそれを受け、刃は鋼に弾かれたかのように跳ね返った。
オマリロは角を曲がり、ライゼンがすぐさまその後を追う。
皇竜神が紅い雷の奔流を放つが、オマリロはその合間を縫うように転移する。
「なぜ逃げる、人間!」ライゼンが怒鳴る。「正面から立って死ね!」
オマリロは後ろをちらりと振り返り、次の瞬間にはライゼンの頭上へ転移していた。
そして、その頭を掴んで地面に叩きつけ、そのまま引きずるようにして突っ走る。
〈ボスHP:15,000%→13,500%〉
そこへ〈フューリアス・ドラゴンズベイン〉の一体が突っ込み、オマリロの腕を奪い去る。
「追い詰めたぞ」ライゼンが宣告する。「ここが貴様と私の、最終決戦の場だ」
オマリロの腕はすぐに再生し、彼は腰をさする。
「腰、限界。さっさと終わらせる」
「安心しろ」ライゼンが嗤う。「腰だけでは済まさん。身体ごと灰にしてやろう。遺言は?」
オマリロは背骨をボキボキと鳴らし、刀をライゼンへ向けて突きつける。
「竜、目が悪い」
「……何?」
ライゼンが顔をしかめ、ゆっくりと振り返った瞬間――
月光の一撃が真正面から顔面を撃ち抜いた。
〈ボスHP:13,500%→12,000%〉
「へへっ! ど真ん中、命中!」
オマリロが目を向けると、月光を纏った裸足の少女がふわりと降り立つところだった。
その背後には、ハン、リカ、ザリアの三人が控えている。
「師匠!」ザリアが叫ぶ。「戻りました!」
「援軍、連れてきました!」ハンが続ける。
「しかも、たぶん幽霊!」リカが言う。
ハンとザリアが同時に振り返る。
「は?」
レイはぴょんぴょんとスキップしながらオマリロに駆け寄り、その腕を掴んでじっと観察する。
「あなたが最強? すっごい! ちっちゃい! しわしわ! でも超カッコいい!」
「少女、ベタベタ触るな」オマリロは淡々と言う。「鬱陶しい」
彼がふっと転移すると、レイはその場でズルッと転び、床を転げ回った。
「いったぁ……でもサイコー!」
子どもたちが合流する頃には、ライゼンも体勢を立て直し、怒りに満ちた視線をレイへ向けていた。
「レイ……」
レイはくるっと振り向き、ひらひらと手を振りながら鼻歌まじりに言う。
「やっほー、ライゼン! ついに自由の身だよ!」
「檻に戻れ」
レイは指を左右に振ってニヤリと笑う。
「やーだ。ノー。絶対。ムリ」
ライゼンの爪が伸びる。
「愚かな小娘。二度は言わん」
「おお、やる? 殴り合い?」レイは両拳を構え、ぴょんぴょん跳ねる。「じゃ、私から!」
パーティ全員が若干引いた目で彼女を見る。
「変な人だな……」ハンが小声で。
「だね……」ザリアも同意する。
「裸足だし……」リカが付け加えた。
ライゼンは口を大きく開く。
「まずは貴様から始末してやる」
口腔から稲妻が放たれるが、レイは手のひらを突き出し、不敵な笑みを浮かべる。
「ジュゲン魔法士《マホウシ》:月の明幻華《ツキノ・メゲンカ》!」
手のひらから放たれた月光のビームが雷を押し返し、そのままライゼンの胸を撃ち抜いた。
〈エラー:〈オースキーパー〉との接続が切断されました〉
「よっしゃ!」ザリアが拳を握る。「やっちゃえ、お姉さん!」
ライゼンは大剣の一本を地面に突き立てた。
「主に背くか、レイ……首を刎ねて檻に吊るしてやろう」
彼はもう片方の大剣を投げつけるが、レイは笑いながらステップを踏む。
「ジュゲン魔法士:無尽の夜の三日月《ムジンノ・ヨルノ・ミカヅキ》!」
宙に巨大な三日月の紋章が現れ、その一振りで飛来した大剣をはじき返した。
ライゼンが咆哮し、空から凄まじい量の雷を降らせるが、レイは指を二本立てる。
「ジュゲン魔法士:月光の護光《ゲッコウ・ノ・ゴコウ》!」
月光の防壁がパーティ全員を包み込み、雷撃を完全に遮断した。
オマリロは周囲を一瞥してから、再びレイへ目を向ける。
「少女、かなり強い」
レイは顔を赤くして足先で床をつんつんと突く。
「えへ……ありがと」
ライゼンは雷刃でシールドを斬り裂くが、その刃をオマリロが受け止める。
「竜、弱った。ここからは――墜ちる番だ」
ライゼンの翼が広がり、雷の鎖が発生。
パーティ全員を拘束しようとするが、オマリロはザリアの腕を掴んで彼女だけを外へ引きずり出した。
「その程度の鎖がなくとも、お前たちを塵にできる。買いかぶりすぎるな」
「どうします、師匠?」ザリアが訊く。
「背中に乗れ」
「……え? い、今なんて?」
「背中に乗れ。竜を斬る」
ザリアの顔が一瞬で真っ赤になり、次の瞬間ぱっと笑顔が弾ける。
「は、はい!」
躊躇なくオマリロの背中へ飛び乗ると、ライゼンは鼻で笑った。
「滑稽だな」
ザリアは槍を呼び出しながら尋ねる。
「作戦は?」
「槍を投げろ。何があっても」
「投げるだけ?」
「投げろ」
ライゼンが大地を叩き割るが、オマリロの姿はすでに消えている。
「ジュゲン闘士:呪槍射出《カースド・スピア》!」
右側から槍が飛来し、ライゼンの右目をえぐり取った。
〈ボスHP:12,000%→11,999%〉
ライゼンは反射的に目を閉じ、怒鳴る。
「ぐっ……どこだ、人間!」
その隙にオマリロが右脇腹へ突っ込み、深々と刀で斬り裂く。
〈ボスHP:11,999%→9,000%〉
「やった!」ザリアが叫ぶ。「今の、かなり入ったよ!」
ライゼンはすぐに体勢を立て直し、二人をはたき落とすが、オマリロは軽やかに着地し、ザリアも背中に乗ったままだ。
「剣、来ます!」
ライゼンは大剣を何度も地面に叩きつけ、地面から雷が噴き上がる。
オマリロはその間を縫うように跳び回り、ザリアは次の槍を構えた。
「ロックオン……はい、いただき!」
槍を投げると、ライゼンはそれを素手で掴み取る。
だが、ザリアはすでに次の槍を蹴り飛ばしていた。槍は左目を抉り取る。
「小娘……己の運命を、自分で決めおったな」
怒りに満ちた声と共に、ライゼンの腕が振るわれるが、オマリロが腕を斬り裂く。
〈ボスHP:9,000%→8,000%〉
「今の見た? ガチで刺した!」
オマリロは小さく頷く。
「よくやった」
そのタイミングで、他のメンバーを縛っていた雷鎖が消え、ライゼンはオマリロだけを掴み上げると瞬間移動で姿を消した。
「師匠!」ザリアが叫ぶ。
ハンとリカが駆け寄る。
「どこ行っちゃったの?」リカが焦る。
「キューブで位置を――」ハンが言いかけたところで、レイがくすくす笑う。
「必要ないよ」
レイは指をさす。
「あそこ」
遠く、巨大な竜の神殿から凄まじい雷と光が噴き上がっていた。
――竜殺しの神殿――
〈規則:生き残れるのは一人だけ〉
ライゼンはオマリロを床へ放り捨てると、神殿全体を雷の結界で包んだ。
「さっきの小細工は見事だった」ライゼンが言う。「あの娘の槍、視界にまだ残っている」
「少女たち、有能」オマリロも認める。「全員、伸びしろ充分」
「かもしれん」ライゼンは鼻を鳴らす。「だが、お前がいなければただの“餌”だ」
「規則はすでに発動している。この場から生きて出られるのは、我か、お前か――どちらか一人」
オマリロは鎧を霧のように消し去り、刀だけを手に残す。
「なら、決めようか」
二人の身体から、紅と金のオーラが立ちのぼる。
竜王と老人は、互いの全力をぶつけ合うようにして斬り結んだ。
その速さは、外からではとても追えない。
「この戦い!」ライゼンが吼える。「この死闘こそ、死ぬに値する!」
オマリロはライゼンの大剣を飛び越え、矢を一本構えると、そのまま竜の口内へ撃ち込んだ。
〈ボスHP:8,000%→4,000%〉
ライゼンの爪が横薙ぎに裂き、オマリロの顔面を切り裂いて視力を奪う。
「これで互いに、何も見えん」
「そうだな」オマリロは静かに呟く。「何も見えん」
視界を失ったオマリロは、耳を研ぎ澄ます。
耳の奥で、稲妻の弾ける音が膨れ上がり、肩先をかすめて雷が落ちる。
「ジュゲン操運者!」
オマリロは瞬時に位置をずらし、再び矢を放つ。
〈ボスHP:4,000%→2,000%〉
ライゼンの蹴りがオマリロをふっとばし、オマリロは床を滑りながらも刀を呼び出す。
腫れ上がった瞼の下で、目は完全に閉じていた。
「まだ出し惜しみか、ニュガワ」ライゼンが嘲笑する。「なら、見せてやろう」
〈ボスHP:2,000%→20,000%〉
〈ライゼンを“一手”で倒せ〉
「これで分かったろう」ライゼンの声が響く。「理解したか? ダンジョンには逆らえん!」
「違う」オマリロは首を横に振る。「“逆らえん”ではない」
「“超える”のだ」
オマリロの刀が変形を始め、黄金の輪状の武器へと姿を変える。
輪の四隅には異なる四枚の刃が生え、回転速度はライゼンの感覚をも上回った。
「ジュゲン闘士:無限環の黄金刃《ムゲンガン・ノ・オウゴンジン》!」
黄金の輪が光の軌跡を描きながら飛び出し、ライゼンの身体を縦横無尽に切り裂き、その巨体をまっぷたつにした。
〈ボスHP:20,000%→0%〉
ライゼンの身体が地面に崩れ落ちる。
「……ああ、これが“伝説”か」
上半身だけになった竜王は、ゆっくりとオマリロを見上げる。
オマリロは足音も静かに歩み寄っていた。
「お前は……最初から決めていたのだな」ライゼンが笑う。「いつでも、この一撃で終わらせられた」
「なのになぜ、ここまで引き延ばした……?」
「子どもたちのためだ」オマリロは短く言う。「全部見せねば、育たん」
「……それには同意だ」ライゼンはかすかに笑んだ。「おめでとう。ダンジョンを……攻略した」
ライゼンの身体がびくりと震える。
「最後に一つだ、ニュガワ」
「我が名を、忘れるな……いずれ、また聞くことになる」
「……雷象ドラゴンズベイン――雷の竜」
その名を聞いた瞬間、ライゼンの身体は稲妻となって弾け、完全に消滅した。
「雷象……」オマリロは小さく口の中で繰り返す。「……確かに、強かった」
――
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