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――シコウキ試練編――
――第39章・島――
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夜明け、竹芝駅――
天川リカ、竹野ザリア、葉山レイが、人でごった返す竹芝駅に入ってきた。三人とも背中にバッグを背負っている。
「ここ?」レイが首を傾げる。
リカは頷いた。
「夜明けって言ってたけど……早すぎ? それとも遅すぎ……?」
「両方じゃない?」ザリアが肩をすくめる。
「クランの連中ってそういうノリだし」
そこへハン・ジスが、床をガラガラ鳴らしながらスーツケースを引きずって現れた。
「来た」
「起きてたんだ、寝坊助」ザリアがからかう。
ハンは視線すら向けない。
「……どこだよ、あいつ」
「分かんない」リカが言う。
「もう三周は見たけど、見当たらない」
「くだらね」ハンが小さく吐き捨てる。
「……キューブ。スキャン」
キューブをかざすと、周囲を走査し――すぐに通知音が鳴った。
【解決策:1件】
「お、何て?」レイが身を乗り出す。
「……後ろ」
三人が振り向く。
そこには、ソレンが座ってソーダを啜っていた。
「よくできた」
「君がハンだな?」
「そう」
「感覚が一番鋭い」ソレンは淡々と言う。
「コウビシャの才能――というところか」
「へえ」
ソレンは立ち上がった。
「だが、気づくのが遅い」
そして三人へ指を向ける。
「君たち少女は……やることが山ほどある」
ソレンは彼らの横を通り過ぎる。
「来い」
「シコウキ島へフェリーで向かう」
「島って、あるの?」ザリアが眉を上げる。
「ある」
「本土の沖合、かなり離れている」
「到着まで時間がかかる。腹は満たしてきたか?」
「大丈夫」ザリアが頷く。
「案内して」
ソレンに続き、四人は私用フェリーに乗り込んだ。
船は日本の沿岸を離れ、外洋へ向かって走り出す。
「忠告しておく」ソレンが言う。
「ここでは“公平”は美徳ではない」
「折れるか、伸びるか――それが我らの流儀だ」
「じゃあ、手取り足取りは無しってことね」リカが言う。
ソレンは小さく笑った。
「面白い娘だ」
船は二時間以上、水面を切って進む。
やがて――巨大な島影が見えた。
そこには、変形する建造物と、技術都市のような高層ビル群がそびえていた。
フェリーが桟橋に着く。
「ようこそ、シコウキ島へ」
ソレンが降りる。
「来い。鍛錬が待っている」
四人も後に続き、島のゲートをくぐった。
街では、白と灰の上品な衣装をまとった島民が、道路を掃除し、車を磨いている。
島の中央には、巨大な邸宅のような建物。
その周囲を遠巻きに、三つの塔が囲んでいた。
「あれが我らの家だ」ソレンが指差す。
「そして道場でもある」
歩くほどに視線が刺さる。
屋敷へ近づいたところで、白装束の侍たちが行く手を塞いだ。
「ソレン様」
「そちらの……旅人は?」
「本土からだ」ソレンが答える。
「身体は弱いが、成長の意志はある」
「失礼だな」ザリアが小声で言う。
「でも事実」リカがささやき返す。
侍たちは一礼した。
「どうぞ」
二人が扉を開ける。
中は巨大な道場だった。
七本の柱が立ち並び、すべて淡い水色に発光している。
中央で、白髪交じりの女性が座禅を組み、瞑想していた。
「愛しい人よ」ソレンが声をかける。
「息子を連れて戻った」
女性はゆっくり立ち上がり、髪を払う。
ソレンがスマホを差し出すと、画面のソウシンがぱっと明るくなる。
『ママ!』
「……ソウシン」
女性はスマホを手に取った。
「なんて……奇妙な“器”なの」
「どうしてこうなった?」
『ダンジョンで負けた!』
「……負けた?」
『うん! でも今は友だちと旅してる!』
女性の視線が四人へ移る。
ハン以外が、ぎこちなく手を振った。
「……友だち」
「オマリロの弟子たちだ」ソレンが紹介する。
「竹野ザリア、天川リカ、葉山レイ、ハン・ジス」
女性は穏やかに微笑む。
「こんにちは、子どもたち」
「私はソラ・シコウキ」
「見ての通り、こちらが夫。これが息子」
「はい」ザリアが即答する。
リカが肘で小突いた。
「本日はお世話になります」
「まずは息子を人間の姿に戻す」ソレンが言った。
「ええ」ソラが頷く。
「セリカ」
長い白髪の若い女性が入ってきて、二人に礼をする。
「はい、母上」
「これ」
「弟を奥へ。ジュゲン反転術を使う」
セリカは頷き、ソウシンのスマホを受け取ると、裾を翻して去った。
「反転術って何?」ザリアが訊く。
「聞いたことない」
「ソウンシャの派生だ」ソレンが説明する。
「ダンジョン効果の“逆転”が可能になる」
「全ジュゲンクラスに派生はある」
「そして変性者と同じく、システム・ロードアウト――お前たちが見た“ロードアウト”も扱える」
ソラが自分の前の床を軽く叩いた。
「座りなさい、子どもたち」
四人が正座すると、ソレンが手を振る。
「ジュゲン・コウビシャ:標的走査」
子どもたちの頭上にUIが浮かんだ。
〈竹野ザリア レベル:2,055〉
〈天川リカ レベル:3,051〉
〈ハン・ジス レベル:2,053〉
〈葉山レイ レベル:47,000〉
ソレンが眉を上げる。
「……あの少女は突出している」
「他の三人より、はるかに」
レイは月の紋章を作り、元気よく頷いた。
「うん!」
ザリアがリカの数字を見て目を見開く。
「リカ、レベル上がってる?」
「え、たぶん……?」
「新しいスキル解放しただけだけど」
「スキル解放がレベルを押し上げる」ソラが言う。
「身体がその力を保持するために“適応”するの」
「じゃあ私、リカより弱いってこと?」ザリアが固まる。
「何それ」
「全員が火力担当じゃないのよ、親友」リカがわざとらしく言う。
「誰かは後部座席」
「は?」
「その通りだ」ソレンが言い切った。
「ダンジョンでは役割がある」
七本の柱がより強く灯り、柱面に各ジュゲンクラス名と、下の文字が浮かび上がる。
【ジュゲン闘士――戦闘役割:DPS/サブDPS】
【ジュゲン魔法士――戦闘役割:防御/DPS】
【ジュゲン操運者――戦闘役割:機動/バッファー】
【ジュゲン回生者――戦闘役割:回復/バッファー】
【ジュゲン後備者――戦闘役割:支援/オフフィールド】
【ジュゲン滅者――戦闘役割:サブDPS/DPS】
【ジュゲン変性者――戦闘役割:DPS/防御】
「質問は?」ソラが尋ねる。
「一つ」ザリアが手を挙げる。
「“DPS”って何?」
「秒間ダメージ」ソラが即答する。
「簡単に言えば、チームの主火力」
「闘士と変性者はメインDPSに向く」
「魔法士と滅者はサブDPSに向く」
「サブって?」
「副攻撃」
「主火力より専門的で、精密」
「もちろん、どのクラスも攻撃はできる」
「ただ、期待される役割があるという話」
リカが別の言葉に反応した。
「バッファーって……私、強化できるの?」
「一種の強化だ」ソレンが頷く。
「お前が一時的に、オマリロの“全盛”を戻したのと同じ」
ソラが手を叩いた。
「最後に警告する」
「この鍛錬は、失敗すれば危険――時に致命的」
「それでも参加する?」
全員が頷く。
ただハンだけは目を閉じていた。
ザリアが肘で突く。
「おい」
「……ああ」ハンが眠たげに言う。
「どうでもいい」
「よろしい」ソラが淡々と言う。
「では分ける」
「分ける?」リカが聞き返す。
「実力別」
ソラが指示する。
「レイは第三柱へ。ソレンが見る。スキル解放が三つある」
「リカは第二柱へ。私が見る」
「残り二人は――」
影から、尖った髪の若い男が現れ、両親へ一礼した。
そしてザリアとハンを見る。
「お前らは俺だ」
「第一柱へ来い、チビども」
「全員、健闘を」ソラが言う。
「最善を尽くしなさい」
◇
一方――
オマリロは丘の上で、燃えるような朝日を眺めていた。
「太陽、眩しい」
背後で足音。
振り向くと、ノノカが警戒しながら近づいてくる。
「少女」
「オマリロ・ニュガワ、で合ってる?」
「少女、何の用」
「“父”にここへ来いって言われた」
「あなたに鍛えてもらえ、って」
「……サンハラ」
ノノカが隣に座る。
「そう」
「父が最強だと思ってた」
「でも……あなたを見た」
オマリロはほとんど反応せず、太陽を見続ける。
(静かで、落ち着いてる)
(でも戦ってる時――生の力が漏れてた)
(アツシも、あの狩人女も、一瞬で殺せたはず)
(言い方は慎重に……)
「で」ノノカは探るように言う。
「何を教えてくれるの?」
「何も」
オマリロは立ち上がる。
「お前に、何も」
崖を下り始めると、ノノカが追う。
「待って!」
「私、あなたの弟子たちより上だし!」
「バフもできる!」
「役に立つでしょ!?」
オマリロは近くのコーヒー店を指差した。
「行け。コーヒーを買え」
「コーヒー?」
「それで“祝福”もらえるの?」
「コーヒー」
「……はいはい」
ノノカは丘を下り、店へ向かう。
(老体の必需品ってやつ? コーヒー。ちっ)
買い終えて戻る。
「ほら。コーヒー」
「で、教えて――」
そこにいたのは――オマリロではない。
黄金の鎧に包まれた人物が座っていた。
「……は?」
近づいた瞬間、ノノカは止まる。
「待って、あなた――」
黄金の人物が剣を抜き、袋ごと斬り裂いた。
「うわっ! 何すんの!?」
次の一撃が首をかすめる。
ノノカは後退する。
「誰だお前」
「ジジイはどこだ」
黄金の人物は答えず、ノノカを蹴り落とす。
転がり、踏ん張って立つ。
「……ふざけんな」
ノノカは構える。
「ジュゲン操運者:呪いのスキル強化!」
〈バフ付与:200% 対象:現在パーティメンバー〉
心臓が速く打つ。
(アツシは言ってた)
(まず殴れ。質問は後)
拳を叩き込むが、相手は前腕で受けた。
蹴りも入れる。
しかし、ほとんど揺れない。
「……鉄かよ」
相手は脚を掴み、投げ飛ばす。
さらに斬撃が肩を裂いた。
「っ……痛!」
「今の、後悔させる」
足で押さえつけられ、刃が振り下ろされる。
ノノカの鼓動がさらに加速する。
怒りが沸騰した。
(軽々しく使うな、って言われた)
(でもこれは“軽い”状況じゃない)
目を閉じ、全力で押し込む。
額に血管が浮いた。
「ジュゲン操運者:人間性投棄!」
咆哮。
黒と灰の装甲が全身を覆い、黒いヘルメットが顔を隠す。
〈人間性:破棄〉
〈バフ残り時間:1:30〉
歪んだ声が漏れる。
「……九十秒で、お前を沈める」
剣が振られる。
肘で受け止め、拳で刃を叩き――亀裂を走らせた。
「――グルル……!」
相手の裏拳で地面に叩きつけられ、腹を蹴られる。
襟元を掴まれ、頭突きが顔面に刺さる。
それでもノノカは掴み返し、腕を地面に叩きつけた。
そして相手の剣を奪い、ヘルメットへ突き立てる。
黄金の人物が震え――動かなくなる。
〈残り時間:0:16〉
ノノカが崩れ落ちる。
装甲が砕け散り――その前に、コーヒーを啜るオマリロが立っていた。
「少女、強い」
「うわっ!」ノノカが跳ね起きる。
「いつ来た!?」
「見ていた」
「少女、珍しい力」
「さっきの? ただの技よ」
「人間の限界を超えるための……」
「長く使えば、正気が飛ぶし、戻れなくなるけど」
そして、オマリロの手のコーヒーを見る。
「……待って」
「これ、テストだった?」
オマリロが頷く。
地面の黄金の人物が、ゆっくり砂のように崩れていく。
「……それ、あなたの?」
「少女、鋭い」
オマリロが指を鳴らす。
黄金の装甲を纏った影が、さらに複数現れた。
「ジュゲン魔法士:天上の黄金分身」
「……えぐ」ノノカが息を呑む。
「どんだけ隠してんの」
オマリロが丘を上がっていく。
ノノカは慌てて追った。
「待って! じゃあ、合格?」
「悪くない」
「ってことは……」
「少女、弟子になる」
「見せてもらう」
「よし!」
「じゃあ、いつから?」
「今」
「来い」
指を鳴らす。
二人の姿が消えた。
◇
その頃――ヘルズフロア。
「警戒すべきだ。あの狩人は、作戦上の脅威となる」
「怖じ気づいたのか?」
「我らはいつも通り、“より大きな敵”として対処する」
「ニュガワは?」
「依然として障害だ」
暗い会議室。
紅い空の下、影の人物たちが集っていた。
扉が開き、ルイが入ってくる。
「やあ、親愛なる皆」
中央の影が言う。
「ルイ。ニュガワを止めるはずだったな。どうした」
「狩人が先に手を出した」
「だが問題ない」
「二人まとめて処理する手がある」
「……言え」
「鹿児島ダンジョンだ」ルイが言った。
「我らの主が眠る場所」
「良案だ」
「だが、確実に引き寄せられるのか?」
「引き寄せる」
「ダンジョン審判を起動する」
「そうすれば、二人とも――相応の結末に辿り着く」
中央に赤い球が浮かび、全員の身体が淡く光った。
「ならば、そうしよう」
次の瞬間、全員が消えた。
―――
天川リカ、竹野ザリア、葉山レイが、人でごった返す竹芝駅に入ってきた。三人とも背中にバッグを背負っている。
「ここ?」レイが首を傾げる。
リカは頷いた。
「夜明けって言ってたけど……早すぎ? それとも遅すぎ……?」
「両方じゃない?」ザリアが肩をすくめる。
「クランの連中ってそういうノリだし」
そこへハン・ジスが、床をガラガラ鳴らしながらスーツケースを引きずって現れた。
「来た」
「起きてたんだ、寝坊助」ザリアがからかう。
ハンは視線すら向けない。
「……どこだよ、あいつ」
「分かんない」リカが言う。
「もう三周は見たけど、見当たらない」
「くだらね」ハンが小さく吐き捨てる。
「……キューブ。スキャン」
キューブをかざすと、周囲を走査し――すぐに通知音が鳴った。
【解決策:1件】
「お、何て?」レイが身を乗り出す。
「……後ろ」
三人が振り向く。
そこには、ソレンが座ってソーダを啜っていた。
「よくできた」
「君がハンだな?」
「そう」
「感覚が一番鋭い」ソレンは淡々と言う。
「コウビシャの才能――というところか」
「へえ」
ソレンは立ち上がった。
「だが、気づくのが遅い」
そして三人へ指を向ける。
「君たち少女は……やることが山ほどある」
ソレンは彼らの横を通り過ぎる。
「来い」
「シコウキ島へフェリーで向かう」
「島って、あるの?」ザリアが眉を上げる。
「ある」
「本土の沖合、かなり離れている」
「到着まで時間がかかる。腹は満たしてきたか?」
「大丈夫」ザリアが頷く。
「案内して」
ソレンに続き、四人は私用フェリーに乗り込んだ。
船は日本の沿岸を離れ、外洋へ向かって走り出す。
「忠告しておく」ソレンが言う。
「ここでは“公平”は美徳ではない」
「折れるか、伸びるか――それが我らの流儀だ」
「じゃあ、手取り足取りは無しってことね」リカが言う。
ソレンは小さく笑った。
「面白い娘だ」
船は二時間以上、水面を切って進む。
やがて――巨大な島影が見えた。
そこには、変形する建造物と、技術都市のような高層ビル群がそびえていた。
フェリーが桟橋に着く。
「ようこそ、シコウキ島へ」
ソレンが降りる。
「来い。鍛錬が待っている」
四人も後に続き、島のゲートをくぐった。
街では、白と灰の上品な衣装をまとった島民が、道路を掃除し、車を磨いている。
島の中央には、巨大な邸宅のような建物。
その周囲を遠巻きに、三つの塔が囲んでいた。
「あれが我らの家だ」ソレンが指差す。
「そして道場でもある」
歩くほどに視線が刺さる。
屋敷へ近づいたところで、白装束の侍たちが行く手を塞いだ。
「ソレン様」
「そちらの……旅人は?」
「本土からだ」ソレンが答える。
「身体は弱いが、成長の意志はある」
「失礼だな」ザリアが小声で言う。
「でも事実」リカがささやき返す。
侍たちは一礼した。
「どうぞ」
二人が扉を開ける。
中は巨大な道場だった。
七本の柱が立ち並び、すべて淡い水色に発光している。
中央で、白髪交じりの女性が座禅を組み、瞑想していた。
「愛しい人よ」ソレンが声をかける。
「息子を連れて戻った」
女性はゆっくり立ち上がり、髪を払う。
ソレンがスマホを差し出すと、画面のソウシンがぱっと明るくなる。
『ママ!』
「……ソウシン」
女性はスマホを手に取った。
「なんて……奇妙な“器”なの」
「どうしてこうなった?」
『ダンジョンで負けた!』
「……負けた?」
『うん! でも今は友だちと旅してる!』
女性の視線が四人へ移る。
ハン以外が、ぎこちなく手を振った。
「……友だち」
「オマリロの弟子たちだ」ソレンが紹介する。
「竹野ザリア、天川リカ、葉山レイ、ハン・ジス」
女性は穏やかに微笑む。
「こんにちは、子どもたち」
「私はソラ・シコウキ」
「見ての通り、こちらが夫。これが息子」
「はい」ザリアが即答する。
リカが肘で小突いた。
「本日はお世話になります」
「まずは息子を人間の姿に戻す」ソレンが言った。
「ええ」ソラが頷く。
「セリカ」
長い白髪の若い女性が入ってきて、二人に礼をする。
「はい、母上」
「これ」
「弟を奥へ。ジュゲン反転術を使う」
セリカは頷き、ソウシンのスマホを受け取ると、裾を翻して去った。
「反転術って何?」ザリアが訊く。
「聞いたことない」
「ソウンシャの派生だ」ソレンが説明する。
「ダンジョン効果の“逆転”が可能になる」
「全ジュゲンクラスに派生はある」
「そして変性者と同じく、システム・ロードアウト――お前たちが見た“ロードアウト”も扱える」
ソラが自分の前の床を軽く叩いた。
「座りなさい、子どもたち」
四人が正座すると、ソレンが手を振る。
「ジュゲン・コウビシャ:標的走査」
子どもたちの頭上にUIが浮かんだ。
〈竹野ザリア レベル:2,055〉
〈天川リカ レベル:3,051〉
〈ハン・ジス レベル:2,053〉
〈葉山レイ レベル:47,000〉
ソレンが眉を上げる。
「……あの少女は突出している」
「他の三人より、はるかに」
レイは月の紋章を作り、元気よく頷いた。
「うん!」
ザリアがリカの数字を見て目を見開く。
「リカ、レベル上がってる?」
「え、たぶん……?」
「新しいスキル解放しただけだけど」
「スキル解放がレベルを押し上げる」ソラが言う。
「身体がその力を保持するために“適応”するの」
「じゃあ私、リカより弱いってこと?」ザリアが固まる。
「何それ」
「全員が火力担当じゃないのよ、親友」リカがわざとらしく言う。
「誰かは後部座席」
「は?」
「その通りだ」ソレンが言い切った。
「ダンジョンでは役割がある」
七本の柱がより強く灯り、柱面に各ジュゲンクラス名と、下の文字が浮かび上がる。
【ジュゲン闘士――戦闘役割:DPS/サブDPS】
【ジュゲン魔法士――戦闘役割:防御/DPS】
【ジュゲン操運者――戦闘役割:機動/バッファー】
【ジュゲン回生者――戦闘役割:回復/バッファー】
【ジュゲン後備者――戦闘役割:支援/オフフィールド】
【ジュゲン滅者――戦闘役割:サブDPS/DPS】
【ジュゲン変性者――戦闘役割:DPS/防御】
「質問は?」ソラが尋ねる。
「一つ」ザリアが手を挙げる。
「“DPS”って何?」
「秒間ダメージ」ソラが即答する。
「簡単に言えば、チームの主火力」
「闘士と変性者はメインDPSに向く」
「魔法士と滅者はサブDPSに向く」
「サブって?」
「副攻撃」
「主火力より専門的で、精密」
「もちろん、どのクラスも攻撃はできる」
「ただ、期待される役割があるという話」
リカが別の言葉に反応した。
「バッファーって……私、強化できるの?」
「一種の強化だ」ソレンが頷く。
「お前が一時的に、オマリロの“全盛”を戻したのと同じ」
ソラが手を叩いた。
「最後に警告する」
「この鍛錬は、失敗すれば危険――時に致命的」
「それでも参加する?」
全員が頷く。
ただハンだけは目を閉じていた。
ザリアが肘で突く。
「おい」
「……ああ」ハンが眠たげに言う。
「どうでもいい」
「よろしい」ソラが淡々と言う。
「では分ける」
「分ける?」リカが聞き返す。
「実力別」
ソラが指示する。
「レイは第三柱へ。ソレンが見る。スキル解放が三つある」
「リカは第二柱へ。私が見る」
「残り二人は――」
影から、尖った髪の若い男が現れ、両親へ一礼した。
そしてザリアとハンを見る。
「お前らは俺だ」
「第一柱へ来い、チビども」
「全員、健闘を」ソラが言う。
「最善を尽くしなさい」
◇
一方――
オマリロは丘の上で、燃えるような朝日を眺めていた。
「太陽、眩しい」
背後で足音。
振り向くと、ノノカが警戒しながら近づいてくる。
「少女」
「オマリロ・ニュガワ、で合ってる?」
「少女、何の用」
「“父”にここへ来いって言われた」
「あなたに鍛えてもらえ、って」
「……サンハラ」
ノノカが隣に座る。
「そう」
「父が最強だと思ってた」
「でも……あなたを見た」
オマリロはほとんど反応せず、太陽を見続ける。
(静かで、落ち着いてる)
(でも戦ってる時――生の力が漏れてた)
(アツシも、あの狩人女も、一瞬で殺せたはず)
(言い方は慎重に……)
「で」ノノカは探るように言う。
「何を教えてくれるの?」
「何も」
オマリロは立ち上がる。
「お前に、何も」
崖を下り始めると、ノノカが追う。
「待って!」
「私、あなたの弟子たちより上だし!」
「バフもできる!」
「役に立つでしょ!?」
オマリロは近くのコーヒー店を指差した。
「行け。コーヒーを買え」
「コーヒー?」
「それで“祝福”もらえるの?」
「コーヒー」
「……はいはい」
ノノカは丘を下り、店へ向かう。
(老体の必需品ってやつ? コーヒー。ちっ)
買い終えて戻る。
「ほら。コーヒー」
「で、教えて――」
そこにいたのは――オマリロではない。
黄金の鎧に包まれた人物が座っていた。
「……は?」
近づいた瞬間、ノノカは止まる。
「待って、あなた――」
黄金の人物が剣を抜き、袋ごと斬り裂いた。
「うわっ! 何すんの!?」
次の一撃が首をかすめる。
ノノカは後退する。
「誰だお前」
「ジジイはどこだ」
黄金の人物は答えず、ノノカを蹴り落とす。
転がり、踏ん張って立つ。
「……ふざけんな」
ノノカは構える。
「ジュゲン操運者:呪いのスキル強化!」
〈バフ付与:200% 対象:現在パーティメンバー〉
心臓が速く打つ。
(アツシは言ってた)
(まず殴れ。質問は後)
拳を叩き込むが、相手は前腕で受けた。
蹴りも入れる。
しかし、ほとんど揺れない。
「……鉄かよ」
相手は脚を掴み、投げ飛ばす。
さらに斬撃が肩を裂いた。
「っ……痛!」
「今の、後悔させる」
足で押さえつけられ、刃が振り下ろされる。
ノノカの鼓動がさらに加速する。
怒りが沸騰した。
(軽々しく使うな、って言われた)
(でもこれは“軽い”状況じゃない)
目を閉じ、全力で押し込む。
額に血管が浮いた。
「ジュゲン操運者:人間性投棄!」
咆哮。
黒と灰の装甲が全身を覆い、黒いヘルメットが顔を隠す。
〈人間性:破棄〉
〈バフ残り時間:1:30〉
歪んだ声が漏れる。
「……九十秒で、お前を沈める」
剣が振られる。
肘で受け止め、拳で刃を叩き――亀裂を走らせた。
「――グルル……!」
相手の裏拳で地面に叩きつけられ、腹を蹴られる。
襟元を掴まれ、頭突きが顔面に刺さる。
それでもノノカは掴み返し、腕を地面に叩きつけた。
そして相手の剣を奪い、ヘルメットへ突き立てる。
黄金の人物が震え――動かなくなる。
〈残り時間:0:16〉
ノノカが崩れ落ちる。
装甲が砕け散り――その前に、コーヒーを啜るオマリロが立っていた。
「少女、強い」
「うわっ!」ノノカが跳ね起きる。
「いつ来た!?」
「見ていた」
「少女、珍しい力」
「さっきの? ただの技よ」
「人間の限界を超えるための……」
「長く使えば、正気が飛ぶし、戻れなくなるけど」
そして、オマリロの手のコーヒーを見る。
「……待って」
「これ、テストだった?」
オマリロが頷く。
地面の黄金の人物が、ゆっくり砂のように崩れていく。
「……それ、あなたの?」
「少女、鋭い」
オマリロが指を鳴らす。
黄金の装甲を纏った影が、さらに複数現れた。
「ジュゲン魔法士:天上の黄金分身」
「……えぐ」ノノカが息を呑む。
「どんだけ隠してんの」
オマリロが丘を上がっていく。
ノノカは慌てて追った。
「待って! じゃあ、合格?」
「悪くない」
「ってことは……」
「少女、弟子になる」
「見せてもらう」
「よし!」
「じゃあ、いつから?」
「今」
「来い」
指を鳴らす。
二人の姿が消えた。
◇
その頃――ヘルズフロア。
「警戒すべきだ。あの狩人は、作戦上の脅威となる」
「怖じ気づいたのか?」
「我らはいつも通り、“より大きな敵”として対処する」
「ニュガワは?」
「依然として障害だ」
暗い会議室。
紅い空の下、影の人物たちが集っていた。
扉が開き、ルイが入ってくる。
「やあ、親愛なる皆」
中央の影が言う。
「ルイ。ニュガワを止めるはずだったな。どうした」
「狩人が先に手を出した」
「だが問題ない」
「二人まとめて処理する手がある」
「……言え」
「鹿児島ダンジョンだ」ルイが言った。
「我らの主が眠る場所」
「良案だ」
「だが、確実に引き寄せられるのか?」
「引き寄せる」
「ダンジョン審判を起動する」
「そうすれば、二人とも――相応の結末に辿り着く」
中央に赤い球が浮かび、全員の身体が淡く光った。
「ならば、そうしよう」
次の瞬間、全員が消えた。
―――
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