52 / 61
――シコウキ試練編――
――第52章・リングに上がれ――
しおりを挟む
リカ、ザリア、ノノカの三人は、檻の屋根の上に残っていた。リカは不安げに、周囲を回り続けるサメの背びれを見つめている。
「ハン……お願い、早くして……」
ノノカは水面に浮いていた小石を拾い、ぽいっと投げた。サメがそれを追って離れていく。
「で? あのチビ眼鏡は無能なの? なんでまだここにいんの」
「“無能”じゃねえ」ザリアが訂正する。「ただ、ムード悪いだけだ」
「結果、まだここ」
背びれがすっと近くを横切り、リカは思わず檻の中央へ下がった。
「オマリロ様が一緒だもん。絶対なんとかしてくれるよ!」
「するだろうね」ノノカは鼻で笑う。「しなきゃ困る」
――
一方――
オマリロはコーヒーをすすりながら、頭を抱えて崩れかけているハンを眺めていた。
「サー……お願いです」ハンが縋る。「答え、教えてください」
オマリロはもう一口飲む。
「男、ひとりで解く」
「でも間違えたら、俺ら正気失うか石にされるんですよ!?」
「答え、隠れている。男、見つけろ」
「私、答えていい?」レイが手を挙げる。
「うっ……」ハンは焦って首を振る。「次、次で……!」
スフィンクスが睨みつける。
「……無駄だ、少年。時間を浪費した。答えは?」
「あと五分だけ――」
「ない」スフィンクスが冷たく言う。「一つだ」
「くそ……!」
オマリロが空のカップを置く。
「男にはチームがいる。使え」
「でもサー、俺が解けないなら、あいつらが解けるわけ――」
ソウシンが勢いよく手を挙げた。
「わかったかも! 真でも嘘でもない文を言えばいいんだよ、友ハン!」
レイも頷く。
「私もそう思った! 相手が“真偽を確定できない”文ならいいの」
「どうやってだよ」ハンが焦る。「文は真か嘘しかないだろ!」
「“誰が判断するか”に依存する文なら違うよ」レイが言う。「確定しようとすると矛盾が起きる文!」
スフィンクスが告げる。
「時間だ。答えを言え」
ハンは頭を掻きむしる。
(矛盾する文……でも何が――)
石化が腰まで迫る。
「大丈夫!」ソウシンが元気に叫ぶ。「友ハンならできる!」
ハンは石になりかけた脚を見て、はっとした。
「……そうか。二人の言う通りだ。答え、ある!」
スフィンクスが目を細める。石化が止まった。
「言え、少年」
ハンは息を吸い、言い切った。
「石だ。お前は俺たちを石にする」
スフィンクスは長い沈黙の後、低く唸った。
「……ほう。お前の文を“真”と判定すれば、私は石にせねばならぬ。だが“偽”と判定すれば、お前は心を裂かれる。……しかしその真偽は、論理ではなく私の“判定”に依存する。確定すれば、私が矛盾する」
スフィンクスは背筋を伸ばした。
「見事だ、少年」
石が消え、ハンは膝から崩れ落ちた。
「……通った? 正気失ってないよな?」
「通過だ。心の試験、合格」
「っしゃ……」
レイとソウシンがハンを支えて立たせる。
「すごいよハン!」レイがはしゃぐ。
「友ハン、かっこいい!」ソウシンも満面の笑み。
ハンは咳払いして目を逸らした。
「……悪かった。お前らを役立たず扱いした」
「役立たず?」レイが首を傾げる。「ううん、大丈夫!」
オマリロが杖を鳴らす。
「男、理解した。チーム、できる。弱点はない」
「……はい」ハンは素直に頷きかけて、ぼそっと付け足す。「まあ、リカは別かもしれませんけど、それ言ったのは内緒で」
「ふむ」
スフィンクスが立ち上がり、扉へ向かう。
「来い、老いぼれ。次は“肉体”だ」
オマリロはチームに目配せし、扉をくぐった。
――
扉の先には、中央にプロレス用のような大きな金網リングがあり、周囲にはシコウキの観客がぎっしりと取り囲んでいた。
「……何だ、ここ」ハンが呟く。
「わあ!」ソウシンが跳ねる。「シコウキ・リングだ! エリートチームが殴り合う所!」
「その通り」スフィンクスが頷く。「ここへ来る道は三つ。お前たちは一つを見つけた。だが――三人、足りないな」
「女どもをどう戻す?」ハンが問う。
「簡単だ」スフィンクスは背を丸め、背中からシジルを“吐き出す”ように出した。ハンが受け取る。
〈シジル能力:召還
説明:使用者の場所へ、パーティメンバー全員を呼び戻す〉
「……回収するか」
ハンがシジルを握り潰す。
〈シジル:起動〉
次の瞬間、ザリア、リカ、ノノカが空中からぽんっと出現し、重なって転がった。
「いっで!」ザリアがうめく。「降りろって――!」
「私じゃない!」リカが叫ぶ。「その女!」
ノノカは即座に起き上がり、二人を押しのけて距離を取る。
「ふぅ。近寄んな、落ちこぼれ」
勢いで壁にぶつかる。
「……ああ、これが通常運転か」ハンが呆れる。
オマリロが杖を軽く鳴らす。三人は立ち上がった。
「サー?」ザリアが周囲を見回す。「ここ、どこ――」
「修羅場」
オマリロはリングへ向かって歩き出した。全員、顔を見合わせて付いていく。リカがハンの耳元で小声。
「ハン、えっと……何するの?」
「論理的に考えて、殴り合いだろ」
――
リングの端にはソレンとソラが待っていた。
「遅い」ソレンが肩をすくめる。「でも来てよかった」
「パパ! ママ!」ソウシンが手を振る。「見に来たの?」
「違うよ、ソウシン」ソラが微笑む。「私たちも試験に参加するの」
「え、ほんと!?」
「待って待って待って」リカが手を振る。「“参加”ってどういう――」
「肉体試験は、最も苛烈だ」ソレンが説明する。「お前たちが“ひとつのユニット”として戦えるかを見る」
「そして」ソラが続ける。「あなたたちは私たちのチームと戦う。3対3、50点先取」
「は?」子どもたちが声を揃える。
「ルールは簡単」ソレンが指を立てる。「相手を場外ゾーンへ落とせば1点。3点ごとにリング内のメンバーは交代だ」
ザリアがソウシンに耳打ちする。
「なあ……お前の親、強いの?」
「カイダンチョウ級!」ソウシンが即答。
「……は?」
「生涯で何人も鍛えてる!」
「ちなみにチームはそれだけじゃない」ソラが指を鳴らす。
ソウジ、コマチ、ハクリュウが歩み寄り、さらにセイヤとセリカも現れた。
「はあ?」ザリアが声を荒げる。「最初からハメられてたのかよ!」
ソレンが愉快そうに笑う。
「幸運を祈る。準備できているといいな」
ザリアはオマリロの腕を掴む。
「サー、俺たちのマスターも出られる!?」
「もちろん」ソレンが頷く。「彼抜きでは難しすぎる。ただし――アツシとの戦いで見ただろ。彼は同時に全てを守れない」
リング入口へ導かれ、レイはシズル、セイラン、サリナを見つけて手を振った。
「みんな! ここで何してるの?」
「審判!」シズルが胸を張る。「アウト判定、得点、交代の合図!」
「いいなあ!」
「がんばって、レイさん!」サリナが応援する。「こっちは味方!」
「ありがと!」
ハンがぼそっと言う。
「バイトか?」
「ちょっとだけ!」
――
ソレン、ソラ、セリカが片側に入る。ソレンがオマリロを見て笑う。
「最初の三人は?」
「私。女。男」
「……具体的に」
オマリロが杖先でハンとリカを指す。
「あっ」リカが息を呑む。「サー、私スタメンでいいの……?」
「ビビるな」ハンが言う。「怖がってるのが一番ダサい」
「……うん」
セイランが手を挙げる。
「5……4……3……2……1……」
両チームが構える。
「開始!」
ソレンが腕を上げる。
「ジュゲン後備者:鬼骨印の柱!」
巨大な柱が出現し、回転しながら巻物を撃ち出す。オマリロは杖で弾く。
「アレ何、サー!?」リカが叫ぶ。
「封印。触れたら終わり。捕まる」
返事の直後、巨大な石板がリカの顔面をかすめる。ハンがワイヤーで引っ張り、避けさせた。
「何してんだリカ! 棒立ちすんな!」
「じゃあ!」リカが歯を食いしばる。「あなたの背中に乗る! シジル作る!」
「クールダウン終わったのか?」
「完全じゃないけど、二個はいける!」
「じゃあ外すな!」
セリカがさらに石板を飛ばし、ハンはワイヤーで回避。背中にはリカ。
ソラが優雅に言う。
「お手伝いしましょうか。うちの友に、少し見せたい技があるの」
「やれ」
ソラが瞑想姿勢を取る。
「ジュゲン魔法士:音楽の調和」
空気がねっとり遅くなり、巨大な音符が弾丸のように飛ぶ。
「はっ――?」
音符が二人を叩き飛ばし、金網へ激突させた。
シズルが旗を上げる。
「得点! パパチーム、2点!」
ザリアが歯噛みする。
「最悪……!」
オマリロがちらりと振り返る。
「……ふむ」
「今だ!」ソレンが叫ぶ。「全火力、オマリロへ!」
一斉攻撃。
オマリロは手に弓を形作る。
「ジュゲン魔法士:天翼弓」
黄金の矢が放たれ、攻撃を紙のように裂いた。
(厄介だ)ソレンが目を細める。(本気を出すしかない)
「彼を引きつけて」ソラが命じる。「私とセリカは子どもを潰す」
「了解」
ソレンが城壁を出現させ、その上に立って空中へせり上がる。
「ジュゲン後備者:罠のタレット!」
壁の両端に砲台が出現し、狙いを定める。
「冗談でしょ!」リカが叫ぶ。
「撃て!」
巻物弾が雨のように降る。一本がオマリロの足元に落ちる――が、オマリロはそれを杖で弾き、金網へ叩きつけた。
リカは手のひらにシジルを生成する。
〈生成シジル:吸収(サイフォン)〉
握り潰す。
「ハン、近づけて!」
「任せろ!」
セリカが手を壁へ叩きつける。
「ジュゲン魔法士:軸砕きの報復!」
地面の棘が螺旋状に伸び、ハンとリカに迫る。リカは背中から跳び下り、正面で受ける。
反発の衝撃が返り、セリカが金網へ吹き飛んだ。
「クリーン!」シズルが宣言。「2-1!」
「よし!」ザリアが思わず叫ぶ。「戻せる!」
セリカはすぐに体勢を戻す。
「……すみません、母上、父上。油断しました」
「いい」ソレンが笑う。「すぐ終わらせる」
ソラが再び瞑想しようとした瞬間――オマリロが刃を形成し、空中の壁ごと真っ二つに斬り裂いた。壁が崩れ、砲台が消える。
ソラが後転し、口を開いた。
「ジュゲン魔法士:音楽の狂気!」
轟音の音波が走り、三人が滑って押し戻される。オマリロは刃を地面へ突き刺して耐えるが、ハンとリカは場外へ滑り出た。
「4点目!」シズルが叫ぶ。
「交代!」サリナが合図する。
オマリロが杖を向ける。
「子ども。時間だ」
指されたのはノノカ、ソウシン、ザリア。
「任せてください、サー!」ザリアが叫ぶ。
「私がね」ノノカが前へ出る。「私は落ちません」
「友オマリロのために勝つ!」ソウシンが手を叩く。
三人がリングへ入った瞬間、ソレンが笑った。
「楽になるな」
ザリアが槍を形成し、投げる。だがソレンの柱が巻物を撃ち、攻撃は飲み込まれた。
「くそっ! 動きが読まれた!」
「基本すぎ」ノノカが鼻で笑う。「見てな」
ノノカは首に触れる。
「ジュゲン操運者:呪いのスキル強化!」
〈強化付与:現在のパーティメンバーに200%〉
「は!?」ザリアが顔をしかめる。「私たちは!?」
「スターに回す」ノノカは平然と言う。「勝つため」
巻物を回避し、セリカの石板もバク転で躱す。ソレンが小さく頷く。
「いい動きだ、ノノカ」
ノノカが得意げに口角を上げた――その瞬間。
「ジュゲン魔法士:音楽の狂気!」
ソラの音波が叩きつけられ、ソウシンが咄嗟にザリアを抱えて場外を防ぐ。ノノカだけが金網へ激突した。
「5-1!」シズルが叫ぶ。「続けて!」
「きっさまあ!」ノノカが怒鳴る。「今のは汚い!」
「現実へようこそ」ソレンが肩をすくめる。「セリカ!」
「ジュゲン魔法士:忘却の石槍」
無数の杭が飛ぶ。ソウシンが二人を引っ張って回避。
その最中、ザリアがノノカの腕を掴んだ。
「いい加減、見栄張るのやめろ! 集中しろ! あんた、別に大したこと――」
「触るな!」ノノカが振り払う。「あんた、何を“やった”のよ」
「お前よりはやってる!」
「家族が攻撃してくる!」ソウシンが慌てる。
「今じゃねえ!」二人が同時に叫ぶ。
ソレンは首を振る。
「……あれだけ鍛えたのに、この程度か。撃て!」
砲撃のような巻物が二人を直撃し、力が乱れて金網へ吹き飛ぶ。
「7-1!」シズルが宣言。「交代!」
リカはオマリロの袖を掴み、震える声。
「サー……どうすれば……」
「必要なことをする」オマリロが淡々と言う。「女たち、ベンチ」
ノノカとザリアは一瞬、言葉を失った。オマリロの杖先がサイドラインを指す。
「座れ。まだ早い」
——
「ハン……お願い、早くして……」
ノノカは水面に浮いていた小石を拾い、ぽいっと投げた。サメがそれを追って離れていく。
「で? あのチビ眼鏡は無能なの? なんでまだここにいんの」
「“無能”じゃねえ」ザリアが訂正する。「ただ、ムード悪いだけだ」
「結果、まだここ」
背びれがすっと近くを横切り、リカは思わず檻の中央へ下がった。
「オマリロ様が一緒だもん。絶対なんとかしてくれるよ!」
「するだろうね」ノノカは鼻で笑う。「しなきゃ困る」
――
一方――
オマリロはコーヒーをすすりながら、頭を抱えて崩れかけているハンを眺めていた。
「サー……お願いです」ハンが縋る。「答え、教えてください」
オマリロはもう一口飲む。
「男、ひとりで解く」
「でも間違えたら、俺ら正気失うか石にされるんですよ!?」
「答え、隠れている。男、見つけろ」
「私、答えていい?」レイが手を挙げる。
「うっ……」ハンは焦って首を振る。「次、次で……!」
スフィンクスが睨みつける。
「……無駄だ、少年。時間を浪費した。答えは?」
「あと五分だけ――」
「ない」スフィンクスが冷たく言う。「一つだ」
「くそ……!」
オマリロが空のカップを置く。
「男にはチームがいる。使え」
「でもサー、俺が解けないなら、あいつらが解けるわけ――」
ソウシンが勢いよく手を挙げた。
「わかったかも! 真でも嘘でもない文を言えばいいんだよ、友ハン!」
レイも頷く。
「私もそう思った! 相手が“真偽を確定できない”文ならいいの」
「どうやってだよ」ハンが焦る。「文は真か嘘しかないだろ!」
「“誰が判断するか”に依存する文なら違うよ」レイが言う。「確定しようとすると矛盾が起きる文!」
スフィンクスが告げる。
「時間だ。答えを言え」
ハンは頭を掻きむしる。
(矛盾する文……でも何が――)
石化が腰まで迫る。
「大丈夫!」ソウシンが元気に叫ぶ。「友ハンならできる!」
ハンは石になりかけた脚を見て、はっとした。
「……そうか。二人の言う通りだ。答え、ある!」
スフィンクスが目を細める。石化が止まった。
「言え、少年」
ハンは息を吸い、言い切った。
「石だ。お前は俺たちを石にする」
スフィンクスは長い沈黙の後、低く唸った。
「……ほう。お前の文を“真”と判定すれば、私は石にせねばならぬ。だが“偽”と判定すれば、お前は心を裂かれる。……しかしその真偽は、論理ではなく私の“判定”に依存する。確定すれば、私が矛盾する」
スフィンクスは背筋を伸ばした。
「見事だ、少年」
石が消え、ハンは膝から崩れ落ちた。
「……通った? 正気失ってないよな?」
「通過だ。心の試験、合格」
「っしゃ……」
レイとソウシンがハンを支えて立たせる。
「すごいよハン!」レイがはしゃぐ。
「友ハン、かっこいい!」ソウシンも満面の笑み。
ハンは咳払いして目を逸らした。
「……悪かった。お前らを役立たず扱いした」
「役立たず?」レイが首を傾げる。「ううん、大丈夫!」
オマリロが杖を鳴らす。
「男、理解した。チーム、できる。弱点はない」
「……はい」ハンは素直に頷きかけて、ぼそっと付け足す。「まあ、リカは別かもしれませんけど、それ言ったのは内緒で」
「ふむ」
スフィンクスが立ち上がり、扉へ向かう。
「来い、老いぼれ。次は“肉体”だ」
オマリロはチームに目配せし、扉をくぐった。
――
扉の先には、中央にプロレス用のような大きな金網リングがあり、周囲にはシコウキの観客がぎっしりと取り囲んでいた。
「……何だ、ここ」ハンが呟く。
「わあ!」ソウシンが跳ねる。「シコウキ・リングだ! エリートチームが殴り合う所!」
「その通り」スフィンクスが頷く。「ここへ来る道は三つ。お前たちは一つを見つけた。だが――三人、足りないな」
「女どもをどう戻す?」ハンが問う。
「簡単だ」スフィンクスは背を丸め、背中からシジルを“吐き出す”ように出した。ハンが受け取る。
〈シジル能力:召還
説明:使用者の場所へ、パーティメンバー全員を呼び戻す〉
「……回収するか」
ハンがシジルを握り潰す。
〈シジル:起動〉
次の瞬間、ザリア、リカ、ノノカが空中からぽんっと出現し、重なって転がった。
「いっで!」ザリアがうめく。「降りろって――!」
「私じゃない!」リカが叫ぶ。「その女!」
ノノカは即座に起き上がり、二人を押しのけて距離を取る。
「ふぅ。近寄んな、落ちこぼれ」
勢いで壁にぶつかる。
「……ああ、これが通常運転か」ハンが呆れる。
オマリロが杖を軽く鳴らす。三人は立ち上がった。
「サー?」ザリアが周囲を見回す。「ここ、どこ――」
「修羅場」
オマリロはリングへ向かって歩き出した。全員、顔を見合わせて付いていく。リカがハンの耳元で小声。
「ハン、えっと……何するの?」
「論理的に考えて、殴り合いだろ」
――
リングの端にはソレンとソラが待っていた。
「遅い」ソレンが肩をすくめる。「でも来てよかった」
「パパ! ママ!」ソウシンが手を振る。「見に来たの?」
「違うよ、ソウシン」ソラが微笑む。「私たちも試験に参加するの」
「え、ほんと!?」
「待って待って待って」リカが手を振る。「“参加”ってどういう――」
「肉体試験は、最も苛烈だ」ソレンが説明する。「お前たちが“ひとつのユニット”として戦えるかを見る」
「そして」ソラが続ける。「あなたたちは私たちのチームと戦う。3対3、50点先取」
「は?」子どもたちが声を揃える。
「ルールは簡単」ソレンが指を立てる。「相手を場外ゾーンへ落とせば1点。3点ごとにリング内のメンバーは交代だ」
ザリアがソウシンに耳打ちする。
「なあ……お前の親、強いの?」
「カイダンチョウ級!」ソウシンが即答。
「……は?」
「生涯で何人も鍛えてる!」
「ちなみにチームはそれだけじゃない」ソラが指を鳴らす。
ソウジ、コマチ、ハクリュウが歩み寄り、さらにセイヤとセリカも現れた。
「はあ?」ザリアが声を荒げる。「最初からハメられてたのかよ!」
ソレンが愉快そうに笑う。
「幸運を祈る。準備できているといいな」
ザリアはオマリロの腕を掴む。
「サー、俺たちのマスターも出られる!?」
「もちろん」ソレンが頷く。「彼抜きでは難しすぎる。ただし――アツシとの戦いで見ただろ。彼は同時に全てを守れない」
リング入口へ導かれ、レイはシズル、セイラン、サリナを見つけて手を振った。
「みんな! ここで何してるの?」
「審判!」シズルが胸を張る。「アウト判定、得点、交代の合図!」
「いいなあ!」
「がんばって、レイさん!」サリナが応援する。「こっちは味方!」
「ありがと!」
ハンがぼそっと言う。
「バイトか?」
「ちょっとだけ!」
――
ソレン、ソラ、セリカが片側に入る。ソレンがオマリロを見て笑う。
「最初の三人は?」
「私。女。男」
「……具体的に」
オマリロが杖先でハンとリカを指す。
「あっ」リカが息を呑む。「サー、私スタメンでいいの……?」
「ビビるな」ハンが言う。「怖がってるのが一番ダサい」
「……うん」
セイランが手を挙げる。
「5……4……3……2……1……」
両チームが構える。
「開始!」
ソレンが腕を上げる。
「ジュゲン後備者:鬼骨印の柱!」
巨大な柱が出現し、回転しながら巻物を撃ち出す。オマリロは杖で弾く。
「アレ何、サー!?」リカが叫ぶ。
「封印。触れたら終わり。捕まる」
返事の直後、巨大な石板がリカの顔面をかすめる。ハンがワイヤーで引っ張り、避けさせた。
「何してんだリカ! 棒立ちすんな!」
「じゃあ!」リカが歯を食いしばる。「あなたの背中に乗る! シジル作る!」
「クールダウン終わったのか?」
「完全じゃないけど、二個はいける!」
「じゃあ外すな!」
セリカがさらに石板を飛ばし、ハンはワイヤーで回避。背中にはリカ。
ソラが優雅に言う。
「お手伝いしましょうか。うちの友に、少し見せたい技があるの」
「やれ」
ソラが瞑想姿勢を取る。
「ジュゲン魔法士:音楽の調和」
空気がねっとり遅くなり、巨大な音符が弾丸のように飛ぶ。
「はっ――?」
音符が二人を叩き飛ばし、金網へ激突させた。
シズルが旗を上げる。
「得点! パパチーム、2点!」
ザリアが歯噛みする。
「最悪……!」
オマリロがちらりと振り返る。
「……ふむ」
「今だ!」ソレンが叫ぶ。「全火力、オマリロへ!」
一斉攻撃。
オマリロは手に弓を形作る。
「ジュゲン魔法士:天翼弓」
黄金の矢が放たれ、攻撃を紙のように裂いた。
(厄介だ)ソレンが目を細める。(本気を出すしかない)
「彼を引きつけて」ソラが命じる。「私とセリカは子どもを潰す」
「了解」
ソレンが城壁を出現させ、その上に立って空中へせり上がる。
「ジュゲン後備者:罠のタレット!」
壁の両端に砲台が出現し、狙いを定める。
「冗談でしょ!」リカが叫ぶ。
「撃て!」
巻物弾が雨のように降る。一本がオマリロの足元に落ちる――が、オマリロはそれを杖で弾き、金網へ叩きつけた。
リカは手のひらにシジルを生成する。
〈生成シジル:吸収(サイフォン)〉
握り潰す。
「ハン、近づけて!」
「任せろ!」
セリカが手を壁へ叩きつける。
「ジュゲン魔法士:軸砕きの報復!」
地面の棘が螺旋状に伸び、ハンとリカに迫る。リカは背中から跳び下り、正面で受ける。
反発の衝撃が返り、セリカが金網へ吹き飛んだ。
「クリーン!」シズルが宣言。「2-1!」
「よし!」ザリアが思わず叫ぶ。「戻せる!」
セリカはすぐに体勢を戻す。
「……すみません、母上、父上。油断しました」
「いい」ソレンが笑う。「すぐ終わらせる」
ソラが再び瞑想しようとした瞬間――オマリロが刃を形成し、空中の壁ごと真っ二つに斬り裂いた。壁が崩れ、砲台が消える。
ソラが後転し、口を開いた。
「ジュゲン魔法士:音楽の狂気!」
轟音の音波が走り、三人が滑って押し戻される。オマリロは刃を地面へ突き刺して耐えるが、ハンとリカは場外へ滑り出た。
「4点目!」シズルが叫ぶ。
「交代!」サリナが合図する。
オマリロが杖を向ける。
「子ども。時間だ」
指されたのはノノカ、ソウシン、ザリア。
「任せてください、サー!」ザリアが叫ぶ。
「私がね」ノノカが前へ出る。「私は落ちません」
「友オマリロのために勝つ!」ソウシンが手を叩く。
三人がリングへ入った瞬間、ソレンが笑った。
「楽になるな」
ザリアが槍を形成し、投げる。だがソレンの柱が巻物を撃ち、攻撃は飲み込まれた。
「くそっ! 動きが読まれた!」
「基本すぎ」ノノカが鼻で笑う。「見てな」
ノノカは首に触れる。
「ジュゲン操運者:呪いのスキル強化!」
〈強化付与:現在のパーティメンバーに200%〉
「は!?」ザリアが顔をしかめる。「私たちは!?」
「スターに回す」ノノカは平然と言う。「勝つため」
巻物を回避し、セリカの石板もバク転で躱す。ソレンが小さく頷く。
「いい動きだ、ノノカ」
ノノカが得意げに口角を上げた――その瞬間。
「ジュゲン魔法士:音楽の狂気!」
ソラの音波が叩きつけられ、ソウシンが咄嗟にザリアを抱えて場外を防ぐ。ノノカだけが金網へ激突した。
「5-1!」シズルが叫ぶ。「続けて!」
「きっさまあ!」ノノカが怒鳴る。「今のは汚い!」
「現実へようこそ」ソレンが肩をすくめる。「セリカ!」
「ジュゲン魔法士:忘却の石槍」
無数の杭が飛ぶ。ソウシンが二人を引っ張って回避。
その最中、ザリアがノノカの腕を掴んだ。
「いい加減、見栄張るのやめろ! 集中しろ! あんた、別に大したこと――」
「触るな!」ノノカが振り払う。「あんた、何を“やった”のよ」
「お前よりはやってる!」
「家族が攻撃してくる!」ソウシンが慌てる。
「今じゃねえ!」二人が同時に叫ぶ。
ソレンは首を振る。
「……あれだけ鍛えたのに、この程度か。撃て!」
砲撃のような巻物が二人を直撃し、力が乱れて金網へ吹き飛ぶ。
「7-1!」シズルが宣言。「交代!」
リカはオマリロの袖を掴み、震える声。
「サー……どうすれば……」
「必要なことをする」オマリロが淡々と言う。「女たち、ベンチ」
ノノカとザリアは一瞬、言葉を失った。オマリロの杖先がサイドラインを指す。
「座れ。まだ早い」
——
0
あなたにおすすめの小説
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
世界最強の七賢者がお世話係の俺にだけはデレデレすぎる件
Y.
恋愛
国の頂点に君臨し、神にも等しい力を持つ『七賢者』。
火・水・風・土・光・闇・氷の属性を極めた彼女たちは、畏怖の対象として国民から崇められていた。
――だが、その「聖域」の扉を一枚隔てた先では、とんでもない光景が広がっていた。
「アルトぉ、この服脱がせてー。熱いから魔法で燃やしちゃった」
「……アルトが隣にいないと、私、一生布団から出ないから」
「いいじゃない、減るもんじゃないし。さあ、私と混ざり合いましょう?」
彼女たちの正体は、私生活が壊滅的にポンコツで、特定の一人に依存しきったデレデレな美少女たちだった!
魔法の才能ゼロの雑用係・アルトは、世界で唯一「彼女たちの暴走魔力に耐えられる」という理由で、24時間体制の身の回りのお世話をすることに。
着替え、食事の介助、添い寝(!?)まで……。
世界最強の7人に取り合われ、振り回され、いじり倒される。
胃袋と心根をガッチリ掴んだお世話係と、愛が重すぎる最強ヒロインたちによる、至福の異世界ハーレムラブコメ、開幕!
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる