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1.突然の婚約破棄

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「アイラ。君との婚約を破棄する」

 突然の宣告に少し驚く。
 
「私はこの娘と生涯を共にする」

 殿下の横にピタリと寄り添う可愛らしい女性。
 わたくしとは違うかれんで庇護欲をそそられる少女だ。
 男性なら守りたくなってしまうのかしら。

 そんな事が許されるのだろうか?
 国の王子の妃ともなると何人も候補がいるのだろう。
 今は婚約だけなので正式に決まるまでは、殿下の自由と言えなくもない。
 しかし仮にもわたくしの様な公爵家の令嬢を振るなら、それなりの期間も必要なのでは?

 惚れた腫れたで決められるほど貴族、王族の結婚は単純ではないことは殿下も分かっているはず。
 それにもかかわらず押し通すというならば、わたくしにも考えがあります。

 殿下の事は一番わたくしが分かっていると自負しております。
 急に出てきた小娘に負ける気などサラサラありません。
 手に入れられないのであればいっその事……。


「殿下、ようこそお越しくださいました」

 わたくしは殿下のグラスに果実酒を注ぎながら言う。
 
「本当にいらして下さるとは思いませんでしたわ」

 渋い顔をしながら殿下は答える。

「私が一方的に婚約破棄をしたのだからな。しかし来るのは今回だけだ二度はない」
「ええ、結構ですわ」

 二度目などあり得ない。
 これで全てを終わらせるつもりなのだから。
 わたくしの家ではもしもの時の為にある薬を持たされている。
 
 それを果実酒に入れてある。
 もちろん果実酒はわたくしのグラスにも注ぐ。
 貴方にだけ飲ませる訳にはいきませんからね。

「最後に殿下とご一緒出来るなんて光栄ですわ。どうぞお飲みになってください」

 わたくしは殿下にグラスを渡す。
 緊張による手の震えなどない。
 令嬢としての教育と覚悟が身体を指先までコントロールする。
 
 しかし殿下は飲むのを躊躇う。

「臣下に毒見をさせても?」

 王族としては普通の事なのでしょう。
 でも元婚約者にそんな事を言うなんて。
 しかも三人も護衛を連れて来るとは。

 しかしわたくしは動揺など見せない。

「殿下はわたくしが果実酒に何か入れたとでも、おっしゃりたいのですか?」

 殿下は答えないで果実酒が注がれたグラスを見つめる。
 随分と慎重なのですね。
 
「ああ、その可能性は高いと思っている……」

 ご名答。正解ですわ。
 それぐらいの慎重さは王族として必要ですわね。
 しかし飲んで貰わなければ困る。
 わたくしはグラスを口に近づけ言う。

「わたくしが怖いのですか?」

 挑戦的な事を言っても殿下は口を付けない。

「悲しい事ですわね。では、わたくしが先にいただきましょう」
「!?」

 グラスを傾け一口、更にゴクゴクと飲み干す。

「いかがでしょう。これで安心していただけましたかしら?」

 わたくしはニコリと最高の微笑みを見せる。
 体の中に起こっている変化を殿下に悟られないよう、気丈に振舞う。
 さあ、殿下早くお飲みください。
 わたくしの体に変化が現れる前に。

「さあ、どうぞ」

 決して急かさず優雅にグラスを勧める。
 殿下は問題無しと判断したのか。

「ああ、いただこう……」

 どうやら騙されてくれたみたいですね。
 さあ、早く、早く飲んでください。

 殿下はグラスに口を付け飲み始める。
 ごくっと静かな部屋に響く。

 飲んだ! 飲みましたね! わたくしの勝ちですわ。

「うっ! お、お前! 何を飲ませた」

 殿下の体には変化が起こった様だ。
 ふふ、もう少しで楽になりますわ。

「おい貴様! 殿下に何を飲ませた!」

 辺りは騒然となった。
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