ヘタレ転移者 ~孤児院を救うために冒険者をしていたら何故か領地経営をすることになったので、嫁たちとスローライフを送るためにも頑張ります~

茶山大地

文字の大きさ
86 / 317
第六章 ヘタレ領主の領地改革

第十話 エリナ時間

しおりを挟む

「という訳でエリナ時間を作ろうと思う」

「お兄ちゃんいきなりどうしたの? また発作?」


 ガラス窓から差し込む朝日で目を覚ました俺は、エリナにいきなり心配された。
 防犯のこともあるし、増築部分も含めて全て鎧戸からガラス窓に変更したのだ。
 と言ってもクレアの防御魔法を突破できる術者って限られてるんだけどな。


「違う違う。今後嫁さんが増えたら毎日こうやって一緒に寝られなくなるだろ? だからエリナと一緒にいる時間を増やすんだよ」

「お兄ちゃん! 嬉しい!」


 がばっと着崩れたメイド服のまま抱き着いてくるエリナ。
 着崩れている上に、露出度が高い服だからほぼ裸みたいなもんだし、今もがっつり出ちゃってるんだけどな。は? 全部脱がすわけ無いだろアホか。


「と言っても狩りの時間くらいしか思いつかないから、他に色々考えてエリナ時間を作ろうって話なんだよ」

「でもねお兄ちゃん、私は凄く嬉しいけど、出来ればクレアたち他のお嫁さんのことも大事にしてあげて。私はお兄ちゃんがそう言ってくれるだけで十分だから」

「俺がエリナを特別扱いしないと、他の嫁が遠慮するからっていう理由もあるんだぞ」

「そうなの?」

「クレアは元々エリナとは姉妹みたいなもんだし、常にエリナを立ててるだろ」

「うん! クレアは良い子で可愛いよね!」

「クリスはエリナやクレアの前じゃ大人しいけど、城で会議する時なんかすげえベタベタしてくるんだぞ。滅茶苦茶俺の匂いを嗅いでくるし」

「そういえばあまりお兄ちゃんにくっついてるクリスお姉ちゃんって見たことなかった」

「王都に行く時の馬車の席順だってエリナとクレアに配慮してたし、お前たちが宿屋で順番を決めてローテーションしてる時くらいだぞ、くっついて来たのは」

「そうだね、クリスお姉ちゃんとシルお姉ちゃんが遠慮してたから、『順番にお兄ちゃんの横に座ろう』って言ったの私だし」

「シルは常にエリナやクレアより俺にくっつこうとしないだろ? 料理中だって台所の隅で正座してるだけだし」

「そうだね、シルお姉ちゃんはお兄ちゃんの近くにはいるけど、ちょっと遠慮してる感じはするね」

「アホだからちょっと甘やかすとすぐに調子に乗ってくっついてくるけどな」

「でもそういう所も可愛いってお兄ちゃんは思ってるんでしょ?」

「まあな。で、だからこそ、エリナとはちゃんと別に時間を取って仲良くしてるから、他の時間帯はエリナに遠慮しないでいいぞって言ってやらないと」

「じゃあその時間は私がお兄ちゃんを独占しちゃっていいの?」

「そうそう。じゃないとあいつらずっと遠慮したままだぞ」

「なんか悪い気がするけど……」

「これはエリナが他の嫁に気を使わないようにする為でもあるんだから、めいっぱいエリナ時間を堪能しろ。俺もエリナに甘えるし、エリナも存分に甘えて来い!」

「わかった! ぎゅー!」


 ぎゅー! と抱き着いてくるエリナ。半裸なので色々大変だ。


「まだ朝の支度にはちょっと早いかな?」

「まだゆっくりできるね、今も私の時間?」

「もちろんだ」


 えへへ! とエリナは俺をベッドに押し倒してくる。「いっぱい甘えちゃうね!」と言いながら口を塞がれたので、エリナの好きにさせる。
 やっぱこいつ可愛い。





 朝っぱらからメイド服の脱がせ方をエリナと勉強したあとは、露天販売の準備だ。
 仕込みは昨日のうちに済ませているので、簡単に火を通したりする程度だが、量が多いので俺とエリナはひたすら厨房に籠る。
 一号たち男子チームは、料理を運ぶ役と、工作品を並べる役で分かれている。


「じゃー私はパスタを茹でながらパスタソースを温めちゃうね!」

「おう、俺はサンドイッチを作っておく。ハンナとニコラが向こうの厨房で作ってるタマゴフィリングを持ってくるまではひたすらテリヤキチキンサンドだな」

「というかエリナは可愛いんだから売り子をやれよ」

「私なんかよりお姉ちゃんたちの方が大人気だよ?」

「たしかにあの二人が厨房に回っても戦力にならないからな。クレアと婆さんは店頭で販売予測しながら在庫調整とか考えてる頭脳役だから外せないんだよな」

「それに私まであっちに行っちゃったらお兄ちゃんが寂しがるでしょ」

「それもあるけど手が足りないのも正直なところだな」

「こっちはすぐ終わるから、終わったらお兄ちゃんの方を手伝うね!」


 昨日クレアが仕込んだテリヤキチキンを軽く温めてからマヨネーズ、レタスと一緒に予め耳を落としておいた食パンで挟んで斜めにカットする。
 ひたすら同じ工程を繰り返してテリヤキチキンサンドを作っていく。
 カツサンドでもあまり作業工程は変わらないかな? トンカツの仕込みが大変なだけで。


「露天販売用の建物欲しいよな。そうすると露天じゃなくて普通に弁当屋さんになっちゃうけど」


 作業の手は緩めずに、隣で料理しているエリナに話しかける。
 まだまだクレアが仕込んだテリヤキチキンが残っている。さっさと終わらせないと。


「アランたちも毎回工作品を出したりするの大変だしね」


 大鍋でパスタを茹でているエリナが、ちゃぶ台のようなものを二人掛かりで運び出して入る男子チームを見ながら言う。


「あいつら調子乗り過ぎだぞ。もう露天販売所の一角は家具屋じゃねーか。しかも最近陶芸まで始めたろ? 大量のグラタン皿作ったのはグラタン食いたいっていうアピールかあれ」

「とか言って焼き窯とか作ってあげたり陶芸の本を買ってあげたのはお兄ちゃんでしょ」

「やりたいことは何でもやらせる主義だからな。しかしあっという間に技術を習得しやがる。恐ろしいわ」


 厨房の食器棚には大量のグラタン皿が並べられている。それも二回りほど大きいやつだ。
 色んな皿があるぞと、ちょっと奮発して異世界本の皿特集みたいな本を買ってやったんだが、どうせグラタンの写真を見て張り切ったんだろう。
 異世界の本を見せるのはあまり良くないかも。何しろ美味そうな写真が大量に載ってるからな。高かったし。


「ふふふっ」

「なんだよ」

「お兄ちゃん大好きだよ!」

「俺もエリナのこと好きだけど、なんなの急に」

「凄く優しいところ!」


 何も言えずに、「こほん」と咳払いだけで答えた俺は、引き続きテリヤキチキンサンドと格闘する。


「あとねー、照れ屋なところ!」


 耳が熱くなって行くのを感じながらも、手は休めない。早くハンナとニコラはタマゴフィリングを持ってこいよ。
 夜じゃないと主導権を握れないんだよ。握れてたっけ? 握れてないような気がしてきた。


「ま、一号たち専用の販売所と弁当販売所は作ろう。今の内ならいくらでも空地はあるしな」

「ふふふっ」

「うっさいアホ嫁。さっさとパスタは終わらせてこっちを手伝え。タマゴサンドやらポテサラサンドやらがまだ手付かずなんだからな」

「えへへ!」

「あのさー、兄ちゃんたち。朝からいちゃつくのは良いけど俺たちの見えないところでやってくれよ」


 家具やら工作品を並べ終わった一号が、弁当を受け取りに厨房に入ってくる。


「夫婦の空間に入ってきたのはお前だろ一号。とりあえず出来た分のテリヤキチキンサンドを持って行け」

「また変なこと言い出すのな兄ちゃんは」

「うっさい。でも今日の晩飯はハンバーグに加えてグラタンを作ってやるからな」

「おー! 兄ちゃんありがとう!」

「わかったからさっさと持って行けって。クレアが待ってるだろ」

「おう!」


 一号がテリヤキチキンサンドの詰まった箱を、嬉しそうに持っていく。
 あいつの好きなピザっぽくなるようにトマトソースを大量に使ったグラタンにするかな?


「やっぱりお兄ちゃん優しい!」

「うっさいアホ嫁」


 その後は、タマゴフィリングを持ってきたハンナやニコラが顔を真っ赤にして逃げ出したり、弁当を運びに入ってくる一号に何度も突っ込まれたりしたが、初日からエリナ時間を作れたようで良かった。

しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...