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第七章 ヘタレ学園都市への道

第六話 蜜柑勝負

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 肉屋で鶏つくね団子を回収しに行ってくると言うと、エリナとサクラも何故かついてきた。
 まあいいかと、サクラが肉好きで大量に食うのも分かったので、ついでに豚バラ肉も追加で購入して帰宅する。


「ただいま!」

「ただいま戻りましたっ!」

「兄さま、姉さまたちお帰りなさい!」


 今日のお出迎えはミコトと手をつないだクレアだけだ。
 炬燵を設置して以来、ガキんちょどもは出迎えるという行為をしなくなった。クリスやシルもガキんちょどもに捕まっているんだろう。
 ま、出迎えなんていちいちしなくてもいいんだけどな。


「さくねー! さくねー!」


 クレアとつないだ手を放してミコトがぽてぽてとサクラの方へと向かう。


「わわっミコトちゃんただいまですっ!」

 するっとマフラーを解いたサクラがしゃがみ込んで、歩いてきたミコトをキャッチしてハグをする。


「さくねー! おみみ!」

「はいはい。どうぞっミコトちゃん!」


 サクラが頭をミコトに向けてけもみみをもふりやすいようにすると、ミコトがきゃっきゃともふって超絶ご機嫌だ。
 なるほど、ミコトが一日足らずで懐いたのはこれが原因か。


「兄さま姉さま、おこた暖かいですから早く温まってくださいね。すぐにお茶を持っていきますから」

「ありがとークレア」

「いつもありがとなクレア」

「いえいえ。サクラ姉さま、ミコトちゃんの相手をしてもらってすみません。痛かったらやめさせますので言ってくださいね」

「クレアちゃん大丈夫ですよっ! ミコトちゃん、さくねえと一緒におこた行こうねっ!」

「あい!」


 サクラがミコトを抱っこしてリビングに向かう。こいつ適応早いな、すっかり家族の一員じゃないか。
 俺たちも体が冷えているので、早速リビングに行って炬燵に入る。エリナが「お兄ちゃん、マフラーを外すね」とマフラーを解いたのでマジックボックスに収納する。


「はい、兄さま、姉さまお茶が入りましたよ」


 俺とエリナの前にお茶を置き、蜜柑が盛られた籠を置くと、クレアはエリナとは逆の俺の隣に座る。
 エリナは妊婦なので、カフェインの摂り過ぎは良くない。なので家でお茶といえば今はホット麦茶かカフェインレスのハーブティーなのだ。


「ありがとークレア。お兄ちゃん、みかんの皮を剥いてあげるね!」

「あ、姉さまずるいです。私も兄さまにみかんの皮を剥いてあげたいです」

「じゃあどっちのみかんが美味しいかお兄ちゃんに判定してもらおう!」

「わかりました! 負けませんよ姉さま!」


 なんかしらんが俺の両脇に座る嫁のバトルが始まった。


「むむむ 糖度計測あまいのどーれだ!」

「あっクレアずるい! 何その魔法⁉」

「兄さまのために甘いみかんを探す魔法を考えました!」

「ずるいずるい! クレア私にも教えて!」

「この勝負が終わったら姉さまにも教えてあげます」

「えっなにその才能の無駄遣い」


 むむむと手のひらを光らせたクレアが蜜柑を一つずつ吟味していく。エリナも負けじと蜜柑を一つ一つ手に取って、少し揉んでは、柔らかいのを探している。


「これです! 糖度が十三を超えてます!」

「これかなあ、柔らかくて皮が浮いてるから多分甘いと思う!」


 糖度十三超えの蜜柑ってプレミアムな高級ブランド品にしかなかったんじゃなかったっけ。というか数値の基準が俺の世界と同じではないと思うが。


「じゃあ皮を剥いてお兄ちゃんに食べてもらおう!」

「わかりました! 熟成もっとおいしくなーれ!」

「ちょっとクレアさっきからずるいよ!」

「魔法を使ってはダメだって言われなかったですよ姉さま」


 なんなのこの子。容赦なさすぎない? あと魔法の才能ヤバいだろ。
 エリナが負けじとひたすら蜜柑を揉む。揉んだら甘くなるって良く知ってるなこいつ。


「はい兄さま!」


 クレアは揉むことなく、白いスジのみ取り除いた状態で俺に渡してくる。
 変な魔法を二度もかけられた蜜柑にちょっとドキドキしながら一房口に入れてみる。


「うわ……滅茶苦茶甘いぞこれ……。と言って腐りかけの蜜柑みたいに酸味が無くなってるわけじゃないから、すごく美味い! すごいぞクレア。正直魔力の無駄だと思うけど!」

「わー! 兄さまありがとうございます!」

「むー! お兄ちゃん次はこれ!」


 エリナの差し出す蜜柑も白いスジが完全に取り除かれている。この世界の白いスジは随分と嫌われてるのな。一房手に取ってみると、ひたすら揉んだせいか人肌になっている。まあ食うけど。


「うん。甘いし美味い。でもクレアの勝ちだなこれは」

「わーい! 姉さまに勝ちました!」

「クレア! さっきの魔法教えて!」

「いいですよ姉さま」


 早速クレアは蜜柑を手に取り、エリナの横に移動して魔法を教えている。「いいですか姉さま、糖分は一定の波長の光を吸収するんです。つまり……」「えっごめんクレアもう一回最初から」「いいですよ。波長によって……」とか言ってるけどなんなの、非破壊糖度計の概念を把握して魔法を使ってるの? 十一歳児だぞあいつ。異世界本で糖度計の知識をつけたとしてもそこまで理解できるんか?

 もう良くわからんので考えるのを放置してサクラを見ると、ミコトに尻尾をもふられていた。
 他のガキんちょどもは婆さんに計算を教わっているところだ。エリナとクレアよりガキんちょどもの方がしっかりしてるじゃないか。
 いや一応今はエリナがクレアに魔法を教わっているのか。無駄な知識だけど。
 
 クレアとエリナの選抜した蜜柑をそれぞれ半分食べた後、残りをサクラとミコトに渡して、俺は厨房へと向かう。
 そろそろおやつを作らないとな。

 厨房で大量のラスクを作る。一週間分くらい大量に作ってマジックボックスに収納したので、今週はいちいち揚げなくて済む。便利だなマジックボックス。

 揚がったばかりのラスクが盛られた器をリビングに持っていくと、ちょうど授業が終わったのか、教科書類の片づけを始めていた。


「おーいガキんちょどもー、おやつだぞー。片づけが終わった奴から手を洗って来いよ。寒いからって適当に洗うなよ!」

「「「はーい!」」」

「いい返事だぞガキんちょども!」


 テーブルにラスクの盛られた器を並べていると、エリナがぽてぽてと近づいてくる。


「お兄ちゃん! はいみかん!」

「お、魔法を覚えたのか?」

「んー、難しかったけどなんとなくね!」

「兄さま、飲み物を用意してきますね。今日はココアでいいですか?」

「エリナはカフェインをあまり摂ると良くないから牛乳を多めに入れてやってくれ」

「はい兄さま」


 エリナが差し出してくる蜜柑を受け取る。


「ってこれ冷凍蜜柑か」

「そう! 果糖は凍らせると甘くなるってクレアが言ってたから!」

「十一歳児とは思えん知識量だな。たしかに昔そう教わったことはあるけどな」


 皮を剥いたあとで凍らせてるから、そのまま一房分バリバリはがして口に入れる。


「甘いし美味すぎる。ちょうど半分凍った状態で蜜柑シャーベットみたいだ。すごいなエリナとクレアは」

「わーい! お兄ちゃんに褒められた!」

「せっかくだからいくつか凍らせてガキんちょどもにも食わせてやれ。あまり大量に食わせるなよ。体が冷えるし腹を壊すかもしれんからな。あとガキんちょどもには白いスジそのまま食わせたほうが良いかもしれんぞ。あれには食物繊維が豊富に含まれてるから体に良いし」

「わかった!」


 エリナは蜜柑の盛られた籠から蜜柑をいくつか取り出すと「糖度計測あまいのどーれだ!」と選別を始める。「うーんこれかな熟成もっとおいしくなーれ!、そして皮を剥いてー冷却クーリング!」と冷凍蜜柑を量産していく。すごく無駄を無駄遣いしている光景を目の当たりにしてしまった……。
 まあいいかと冷凍蜜柑製造機と化しているエリナを放置して、クレアのところに行ってココアの準備の手伝いをする。
 
 優秀な嫁たちなのは良いんだけど、なんかちょっとズレてるんだよな……。

 ココアを用意してリビングに置く。
 そういえばサクラの生活用品を揃えないとな。


「サクラ、お前着替えとか生活に必要なものは持ってきてるのか?」

「少しですが持ってきてありますっ!」

「犬小屋を要求してくる価値観だから信用ならん。あとでお前の買い物に行くからついてこい」

「はいっ!」

「お兄ちゃん私も行く! 女の子の服とかお兄ちゃんは買えないでしょ?」

「そうだな……、今日は何度も外に出てるし寒さとか心配だが、エリナの体調が良いときはなるべく体を動かしたほうが良いかな。まだ報告してない人に報告したいんだろ?」

「うん! さすがお兄ちゃん、私のこと理解しすぎてるね!」

「当たり前だろ」

「えへへ!」


 サクラの服ね。普段着以外にも農作業用の服も必要だし、登城用の服も必要か。
 肉屋に注文した品物を回収しに行くついでに服屋に行けばよかったな。
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