ヘタレ転移者 ~孤児院を救うために冒険者をしていたら何故か領地経営をすることになったので、嫁たちとスローライフを送るためにも頑張ります~

茶山大地

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第八章 ヘタレパパ

第二十七話 雑煮とおせち料理

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 一号に餅を搗かせまくったあと、片づけをしてリビングに戻る。


「なあ兄ちゃん、あのもちつきって自動でできる魔道具作れるんじゃないのか?」

「作ったところで誰も使わんだろ。俺たちだって年に一回だけだぞ」

「でもなー、大変なんだよなもちつきって」

「まあわかるんけどな」


 クレアが淹れてくれたお茶と蜜柑を堪能していると、アイリーンがどたばたとリビングに入ってくる。


「閣下、申し訳ありません。寝過ごしてしまいました」

「休暇だから気にするな。というか丸一日以上眠れるようにクリスが強めに睡眠魔法をかけたんだけどどうして起きられたんだお前」

「気合です」

「いやいや、魔法適性の無いアイリーンじゃ魔法に抵抗できないだろ」

「睡眠魔法なんて気合で何とかなりますよ。多分」

「……アイリーンはここ最近は休暇のたびにうちで寝泊まりしてるけど、魔法適性が生えたりして無いよな?」

「えっそんなことがあるのですか?」

「ここで生活してると魔法適性が出やすいんじゃないかって仮説があるんだよ」

「ああ、そういった報告も受けていましたね。孤児院に住む皆さんが魔法適性持ちだったと聞いております」

「通いの託児所組で魔法適性持ちが出たのもアンナだけだったしな。いやまて、アンナは母親が職員に内定したときからここに母親と一緒に住んでるから寝泊まりはしていたことになるのか。怖い」

「家屋と土地の調査を行った際の報告書も頂きましたが、特に異常なしと」

「調査した魔導士協会の連中にもそういわれたんだけどな。まあ気にするのはやめよう。眠れなくなるから」

「遺体などは無かったと聞き及んでいますが」

「怨念的なものがあるのかもしれん。だからもう忘れよう。怖いから」

「放置はできませんので調査は継続させていただきますね」

「任せる」


 夜眠れなくなるのでさっさと忘れようと蜜柑の皮を剥き、房から白いスジを取る。それはもう一心不乱に。


「お兄ちゃんのヘタレ」

「ヘタレ関係なく物理的に対処できない存在って普通に怖くね?」

「私たちはここにずっと住んでて特に何もなかったしね」

「エリナたちは魔法適性が生えちゃっただろ。さすがにエリナとクレアの潜在魔力は大きすぎるから元々の素養があったのかもだけど」

「あっ、そんなことよりそろそろお昼ご飯の準備をしないと遅くなっちゃうよお兄ちゃん!」

「そんなことで済ませるエリナの心の強さがうらやましいけど、その通りだな。アイリーンは昨日の晩飯前から強制的に眠らせてたから腹減ってるだろ」

「食後に眠ってしまうとどうしても色々気にしてしまいますので……。お手数をおかけします閣下」

「気にすんな。エリナとエマの相手を頼む。エリナ、アイリーンを頼むぞ。決して仕事をさせるなよ」

「任せて!」

「閣下は私をどういう人間だと思っておられるのですか?」

「ワーカーホリック」

「……」


 俺の一言にしょぼーんと落ち込んだアイリーンをスルーして厨房に向かう。
 自覚なかったんかあいつ。
 
 今日の昼はあらかじめ用意してあったおせち風の料理に今朝搗いたばかりの餅を使った雑煮、磯辺焼きなどを作る。
 今朝の磯辺焼きは。搗きたての餅を海苔に乗せて醤油を付けただけの磯辺焼き風だったからな。一号が頑張った餅でしっかり正統派磯辺焼きを作ってやろう。


「兄さま、おぞうにの味付けですけどどうしましょうか」


 すでに厨房で昼食の準備を始めていたクレアが味付けについて質問してくる。
 異世界本で写真は見せたけど、味については口頭でしか説明してなかったしな。


「雑煮って各地方で色々あるから、これっていう定番があるわけじゃないんだよな。なんだったらクリームシチューに餅をぶち込んで『これがうちの雑煮だ』って言い張ってもいいわけだし」

「なら味付けは私に任せてもらえますか?」

「そうだな。すでにクレアの料理の味がうちの味だし、クレアの作る雑煮をうちの雑煮にしよう。鶏肉と餅が入ってりゃ文句言わんだろあいつらも」

「わかりました!」


 醤油ベースでも味噌ベースでもクレアに任せておけばばっちりだろ。
 ふんふんとご機嫌で雑煮を作るクレアの横で、一号の作った餅焼き網でどんどん餅を焼いていく。


「お汁粉はおやつの時間に出すか」

「そうですね、餡子とずんだ餡はおやつの時間にしましょう」


 昼飯に甘い系を除くなら甘醤油も外すか。甘醤油っていうかみたらしだしな。


「年末に寮生や託児所組に持たせた保存の効く食べ物を詰め合わせたおせち料理作ったけど、マジックボックスもあるしあまり意味ないんだよな」

「年末年始に家事の負担を減らすためでしたっけ?」

「火を使う機会を減らすとかもあったようだけど詳しくは知らん。あと縁起の良い食べ物を詰め込むんだけど、ファルケンブルクには海産物がほぼ無いから燻製肉とかそんなのばかりだけどな」

「でも特別感が出ていいと思いますよ兄さま」

「ま、そうだな。来年以降辞めちゃうかもしれないけど」

「兄さま、味を確認して貰えますか?」


 そう言ってクレアが小皿で雑煮を差し出してくる。
 受け取って口に入れると、カツオ節のいい香りが口中に広がる。亜人国家連合から輸入した顆粒状のカツオ出汁を利用しているが、あれでここまで良い味が出せるのか。


「凄く美味いんだけど、なんで日本の味をここまで再現できるんだよお前は」

「愛だと思いますよ」

「愛が重い」


 ま、雑煮のベースはこれでいいだろう。軽く焼いた餅を乗せたら完成でいいだろう。
 おせちはそのまま出すだけだし、餅も焼き終わったのでリビングに持っていく。





「ではいただきます」

「「「いただきまーす!」」」


 クレアの挨拶が終わり、ガキんちょどもが一斉に


「兄ちゃん兄ちゃん!」

「また来たな……。なんだ一号」

「いそべやきうめー!

「そうか。俺の分ひとつやるから席に戻って食え」

「このいそべやきにはマヨネーズが合うと思うんだけど!」

「気のせいだ。席に戻って食え」

「ちぇっ。兄ちゃんマヨラーなのにつれないのな」

「だから一緒にするなっちゅーに」


 俺から磯辺焼きをゲットした一号はほくほく顔で自分の席に戻る。
 なんあんだあいつ。
 もしエビを出してたら絶対に「エビってマヨと相性がいいぞ兄ちゃん!」とか言い出しそうで怖い。
 実際滅茶苦茶合うしな。俺はエビチリよりエビマヨの方が好きだし。


「閣下、今日の食事もすごく美味しいです」

「あおういやアイリーンは今年初めての食事か。ま、いっぱい食え」

「ありがとうございます」


 アイリーンの魔力測定もしたほうが良いな。基本休暇の時しか滞在しないからすぐには影響でないだろうけど。
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