156 / 317
第八章 ヘタレパパ
第三十八話 三日月宗近
しおりを挟む刀鍛冶を紹介すると言ってからのシバ王がおかしい。
巻き尾をぶんぶん振りながら、長髪に隠れていた耳もパタパタとせわしない。
ゆっくり歩く俺の三歩後ろをついてきているのだが、先ほどからハッハッハッと呼吸音がうるさいし。
「なあシバ王は日本刀は持ってないのか?」
「マジックボックスに収納してあります。武器を携帯したまま閣下とお会いするわけには参りませんでしたので」
亜人国家連合の連中はそのあたりはしっかりしてるのな。
ここの旧領主やラインブルク王なんかは帯剣したままでも謁見するような危機管理ができてない馬鹿揃いだったけど。
「日本刀があるのに地竜は素手で仕留めたのか?」
「閣下、地竜の鱗は竜種でも最強の固さを誇っております。刃が通りませんからやむなく素手で仕留めました」
「ああ、そういやそうだな。俺が地竜を仕留めた時は日本刀に魔法を纏わせたが、親父の打った日本刀なら多分地竜の鱗すら切り裂くぞ」
「なんと! まさかそんな……。いえ、閣下はドラゴンスレイヤーの称号をお持ちと聞きました。すると本当に日本刀で?」
「親父から銀貨八百枚で売って貰った習作の日本刀に、中級の雷魔法を纏わせて抵抗なく地竜の鱗を貫通して脊椎まで斬れたからな。本気で打った日本刀なら魔法の補助が無くても問題なく斬れるんじゃないか?」
「おお! しかし某はこちらの通貨をあまり持ってはいないのです。亜人国家連合の貨幣はあるのですが」
「交易が始まってまだ一年も経ってないから外貨がお互いに少ないんだよな。外貨両替も最近中央庁舎で小規模で始めたばかりだし」
「両替しても足りなければ、宝石や宝飾品などは身に着けてるものがあるので、それをこちらで売れば何とかなるかもしれません」
為替レートは今のところ利鞘で儲けようとする人間が出ても困るから、亜人国家連合から持ち込んだ宝石かなんかを売ってこちらの通貨を手に入れたほうが割が良い程度には調整してある。売却益から税金も取れるしな。
もっと流通量が安定すれば為替レートも安定すると思うんだが。
「今回は俺からシバ王への返礼ということでプレゼントするから気にしないでくれ」
「それはあまりにも恐れ多い!」
「地竜の素材だけでも金貨百枚はくだらないんだ。親父の店の日本刀は玉鋼を使ったものでも金貨十枚程度だし、俺のミスリルを使った特注品でも金貨十五枚だぞ。むしろこっちが得してるんだから気にしないでくれ」
「しかし……いえ、ありがとうございます。閣下のご厚意に甘えさせていただきます」
また土下座でもするのかとゲシゲシする体制に入ったサクラをちらりと見たシバ王はあっけなく陥落する。
サクラがいると話が早くていいな。
いやまあ金貨一枚で日本円で百万円くらいの価値があるから、金貨十枚で一千万円相当のプレゼントってだけでも恐ろしいんだが。
地竜の素材だけでも一億円はあるから、お返しとしては足りないくらいな気がする。
地竜の鱗すら切り裂く名刀が手に入ると知ってシバ王の呼吸がより激しくなる。過呼吸になるんじゃないか?
なんとか倒れる前に武器屋にたどり着いたので、早速中に入る。
「ういっす」
「来たな。日本刀を買いに来たんだな?」
「おう。今日はこいつ、シバ王に合う日本刀を買いに来た。玉鋼を使った本物をな」
身長百九十センチを超えるシバ王を親父の前に引っ張り出す。
「シバオ? 柴男? おお、亜人か。良い体してるな。手を出してみろ」
「は、はい」
シバ王は恐縮しながら手を親父に見せる。
柴男じゃなくてシバ王な。と突っ込みたくなったが、まあここの親父には肩書は関係ないしシバ王も気にしてないっぽいから良いか。
「親父どうだ? こいつに合いそうな日本刀はあるか? なければ作刀依頼をしたいんだが」
「いや、ちょうどいいのがある。待ってろ」
そういうと親父は店の奥に消える。
「良かったな。ここの親父の見立てなら問題ないぞ」
「はい、緊張してきました」
「そういや今使ってる刀。親父に見立てて貰ったらどうだ?」
「そうですね、こちらでどれくらいの価値があるか気になりますね」
そういうとシバ王はマジックボックスから自身の愛刀を取り出して、着流しの帯に落とし差しにする。
随分刀身が長いな。太刀、いや大太刀サイズはありそうだけど拵えは打ち刀拵えにしてるのか。
「待たせたな」
親父が奥から日本刀を手にして戻ってくる。
持っている日本刀はシバ王の愛刀と同じく大太刀サイズだ。
「おお! これが地竜の鱗さえ切り裂く名刀を打った鍛冶師の日本刀!」
「おお、わかってるじゃねえか柴男! まあ抜いてみろ」
「はっ」
もう完全に柴男って親父は呼んでるな。
イントネーションがおかしいのを気にせず、懐紙を咥えたシバ王は大太刀を抜刀して刀身を眺める。
「刀身三尺六寸一分。玉鋼で打った本物だ。拵えは打ち刀だが、希望があるなら太刀拵えにするぞ」
「刀身一メートル超えか。刃文は浅い湾れに互の目、逆足。備中青江派の特色の上に三日月形の打ちのけかよ……。天下五剣の三日月宗近そっくりじゃねえか親父」
「お前さんやっぱり今度一緒に酒を飲まないか? もう成人になったんだろ? 」
「うちは未成年だらけだから料理で使う以外のアルコールを置いてないし、俺も飲んだこと無いんだよ。というか刃文ってそんな簡単に似せられるのか? どうやってんだ親父」
「企業秘密だ」
恒例となっている親父との会話の最中、シバ王は刀身に見とれてさっきから微動だにしていない。
サクラは先ほどから興味深そうに店内に置かれている武器を眺めている。
「サクラもついでに武器を買うか?」
「私の得意な武器はナックルダスターなのでここには置いてなさそうですっ!」
「犬人国って拳で戦うのが好きなのか」
ナックルダスターってメリケンサックだよな。
鉤爪みたいなのなら親父も喜んで作りそうだけどな。あとは手甲みたいなやつか。
サクラの十五歳用のプレゼントとして、少しおしゃれな服と社交界でも使えそうなドレスを用意したが、鉤爪とかも追加したほうが良いかな?
「どうだ柴男」
親父に声をかけられて意識を取り戻したシバ王は、慌てて納刀する。
「素晴らしいです! こんな美しい日本刀は見たことがありません! 是非お譲り頂きたいのですが!」
「金貨十二枚。びた一文まからんぞ」
「代金は俺が出すからな親父。シバ王、拵えとか細かな希望は今やって貰え」
「打ち刀拵えで問題ありません。この長さでも腰に差せますから」
「あとはシバ王の佩刀を見て貰おうか」
「あっそうですね。これです」
慌てて腰に差した日本刀を親父に鞘ごと渡す。
シバ王の日本刀を受け取ると、早速抜刀して刀身を見る親父。
「ふむ。悪くはない。悪くはないが鉄の質が良くないし、鍛え方も足りてないな」
「亜人国家連合ではこれでも質が良い方なんだろ?」
「ええ、我が国でも有数の刀鍛冶が打った逸品なのですが」
「どうだ親父。亜人国家連合に何振りか輸出してみないか?」
「うーむ。できれば使い手を選びたいところだが」
「たしかに合う合わないはあるだろうしな。美術品として扱われるのは親父としても本意ではないだろうし」
「その通りだな」
「でしたら国に帰ってこの店を紹介いたしましょう」
「客が多く来ても対応できんぞ」
「わがままだな親父。まあでも何か考えておくわ。親父と亜人国家連合の間で需要と供給が満たされればいいわけだろ?」
ファルケンブルクじゃあまり日本刀は売れないんだよな。
シルが騎士団の連中に一期一振影打を見せびらかした影響で、騎士団の連中には多少は売れてるらしいけど……。
騎士団の連中って貴族の子弟だったり縁戚だったりするから売れるんであって庶民には高額過ぎるしな。
亜人国家連合に輸出してもどれだけ売れるかわからないし、なんかいい方法はないかね。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる