リビングデッド

常夏の炬燵

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魔族編

第三十七話

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……違う…違う!
何を言ってんだ俺は…!俺の役目は耐えることじゃない!奴を食い止める事だ!

目的を履き違えるな!

俺がやらなきゃ!俺が…!

拳に力を込め、薙ぎ払う。

「ッ…!」

急な反撃に怯む魔族。

俺は…まだ負けていない!

だが、視覚も聴覚も嗅覚もない。
多少の気配は感じるが、位置は掴めない。

状況は以前と変わらなかった。

だが、ナナシは諦めなかった。
飛ばされても立ち上がり、我武者羅に暴れ回る。

何度も何度も立ち上がった。

「グオアアアアアアアッ!!!」

しつこく食い下がるナナシに魔族は苛立ちを覚えた。

そして、ナナシの左の胸を拳が貫いた。その状態で、更に振り回し投げ飛ばす。

それでも立ち上がるナナシ。

肘打ちで右腕が折られ、腹を蹴られ、地面に倒れる。
そして、両膝を砕かれた。

こいつ…だんだん知恵を…このままじゃまずい…このままじゃ…!

今の俺に何が出来る…?

耐えることしか出来ないのか…?俺にはやつが暴れるのを阻止できないのか…?

俺は…たった一日も戦うこともできないのか…!

違うだろ!さっき否定しただろ!俺は、やられる為に、ここにいるんじゃない!

戦え!立て!

今がどんな状態かなんて関係ない!

俺が…やるんだ…!

ナナシの覚悟が更に強くなる。

その時、ナナシの体が青い光に包まれた。

『名無し…さん…?』

『誰だ…?』

『やっと、お話出来ましたね。私はあなたの体にいる。妖精のアンナです』

『もう一つの…魂…?』

『はい。色々と説明したいこともありますが、まずはこの状況を何とかしないとですね…』

アンナが言った通り、ナナシは今も魔族の攻撃を受けている。

『どうするんだ…?』

『一旦名無しさんをこの空間から出します』

『は?』

そうして、ナナシは地球のオアシスがあった場所に戻ってきた。

『戻ったのか?何故そんなこと…』

『わかっています。ですが、こんな状況じゃ戦えないでしょ?』

『回復できるのか?』

『はい、少し我慢してくださいね。テンカさん程は回復魔法は上手くないので、いつもより痛いかもしれません』

『大丈夫だ。やってくれ』

そうして、酷い痛みに耐えながら、治療を終えた。

「あの魔族は…?」

『まだあの空間で暴れています。と、言うより、名無しさんを探してますね』

「そうか。それで、お前は?」

『私は神様の力で名無しさんの精神の奥深くに封印されていました』

「そうなのか?」

『はい、どうして戻ったのかは、定かではありませんが、恐らく名無しさんの強い魂力ソウルエネルギーによって、封印が、解かれてのでしょう』

「そうか…他にも聞きたいこともあるが、今はあいつを食い止めないと」

『…ですね。気をつけてくださいね』

「ああ、もう、あんなヘマはしない」

そうして、ナナシは異空間に戻った。
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