リビングデッド

常夏の炬燵

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異世界編

第四話

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『あれ?』

『どうした、アンナ?』

暫く森を歩いたところでアンナが声を漏らした。

『この感じ…魔力?やっぱりボロって人は魔族なのかもしれません』

『やっぱりそうか…』

『いや、違う…これは魔物の気配…!エドさんと同じ種類の魔力です!』

『魔物?…これは、ザンゲも関わっていそうだな』

『ですね…どうします?今のところザンゲの気配は感じませんが…』

『行こう…何かわかるかもしれないからな…』

『わかりました』

その後、アンナの案内ですんなりと研究所を発見した。
その研究所は真っ白の扉以外の装飾のない綺麗な長方形だった。
窓もなく、かなり頑丈な作りになっている。

『…本当にここか?』

『そのはずです』

『…入ってみるか…』

『私はもう隠れていますね』

『ああ』

扉を潜ると、リビングの様な部屋に出た。

暫く部屋を見渡していると、奥の階段から誰かが降りてきた。

「あー…誰です…?…お…?おぉ…?」

気だるそうにしていたと思えば、ナナシを見て目を輝かせていた。

「まさかこんなに早く見つかるとは…!壮絶な記憶!素晴らしい!」

「お前か?みんなの記憶を奪っているのは?」

「うん、そうだよ」

「目的はなんだ。なぜ他人の記憶を奪う?」

「あー。まあ、いいか。どうせ記憶を貰うんだ教えてやるよ。僕の望みを叶える為だ」

「望み…?」

「そう、究極の体を手に入れるためさ」

「究極の体…」

「その為には、三種の記憶が必要なんだよ。不純物のない純粋な記憶、反対に綺麗なものを見たことの無い漆黒の記憶。そして、お前の持つ安心のない壮絶な記憶だ」

「それで?究極な体で何をするつもりだ?」

「決まってんだろ。あいつを殺す為だ。その後でこの世界を手に入れる!これが俺の目的だ」

「あいつ?」

「お前には関係ない。その為にお前のその記憶…貰った!」

「ッ…!」

その瞬間顔に手をかざされる。そして目の前が真っ暗になった。

「はい頂き。残りは漆黒の記憶のみだ」

「…?」

「はい、もう帰っていいよ。君は用無しだ」

「ああ…」

ナナシは言われた通り研究所を出た。

『…シさん!ナナシさん!』

「誰!?どこ!」

『今から事情を話します!』

そう言って、アンナは今までの経緯を話した。

「…」

『信じてくれますか?』

「わからない…だが、なんか…本能かわからないが…お前が嘘をついてるようには思えない。実際、俺にはここまでの記憶が一切無い…わかった!俺は何をすればいい?」

『記憶を無くしても根本的なものは変わってませんね。安心しました!とりあえず、あなたには、さっきの人を倒してもらいます』

「倒す…」

『難しければ拘束するだけで構いません。手で触れられなければ記憶は奪えないことはわかりました』

「拘束って…どうやって」

『はい、例えば接着銃などで…』

暫くして、作戦会議を終え、研究所へと足を運んだ。

「あー?なんだい?また戻ってきたの?」

ボロが階段から降りてきた。

『まだ…もう少し引き付けて…』

「あー?ん?なんか変だな…?あ!まさか!?」

ボロがアンナの存在に気づき、勢いよく向かってきた。

『今です!』

アンナの合図で接着銃を撃った。
ボロは床に接着され身動きが取れなくなった。
そして、ナナシはショットガンを作り、ボロの顔に突きつける。

「俺やみんなの記憶はどこだ?」

「に、二階の棚に置いてある!お前のは机の上だ!頼む!殺さないでくれ!」

「その判断は記憶を取り戻した俺がする」

そう言って、もう二発接着銃を発砲してから2階に上がった。

棚に光の玉が三十個程置いてある。これは、ここに調査に来た者たちの物だろう。そして、机には二つの光の玉が置いてあった。

「これが俺達の記憶か?」

『恐らく…ほら!ここに壮絶な記憶と札があります!ナナシさんのはこれですね』

ナナシのものと思われる、光の前には壮絶な記憶と言う立て札が立てられていた。

「…記憶が無いせいか、文字が読めないな…」

『ナナシさんがいた世界とは文字が違いますからね…私は解読魔法で何とか読めますが』

「そういう事か…」

『まあ、ナナシさんは日本語もほぼ読めませんが』

「そうなのか?…それで、どうやって…記憶を戻すんだ?」

『記憶を額に当てて、目を瞑ってください』

「わかった…」

すると、ナナシの額に光が吸い込まれた。それと同時に酷い頭痛に襲われた。

「ぐっ…!あぁ…っ!」

『ナナシさん!?』

そうか!ナナシさんのここまでの約三百年以上の記憶が一気に脳に送り込まれてるんだ…

暫くすると、頭痛は治まった。

「記憶が…戻った?ボロはどうなった?」

『ボロは下にいます』

ナナシは一階に降りた。

「どういう状況だ?」

地面に引っ付いているボロを見てナナシは困惑する。

『ナナシさんがしたんですけど…覚えてないんですか?』

『ああ、何も』

「頼む…許してくれ」

「…本当に反省しているのか?」

「してる!してるから!もう、記憶を奪ったりしない!約束する!」

『アンナ。これ、どうやって解除するんだ?』

『え!?いいんですか!?』

「記憶を返してくれるなら見逃してやる」

「返す!返すよ!」

『どうするんだ?』

『はぁ…わかりました。武器を消す時と一緒です。念じれば消えます』

『そうか』

そうして、ナナシはボロの拘束を解いた。
次の瞬間、ボロはナナシに飛びかかった。

「ガハハ!嘘に決まってんだろ!もう一度お前の記憶を…」

そこまで言うと、ボロの首が斬られた。

「…は?」

「そんなことだろうと思ったよ」

「貴様…俺を騙したな…」

「騙したのはお前だ。本当に反省しているのなら、俺はお前を見逃していた」

「ちくしょう…許さねえ…絶対に…絶対に絶対に絶対に絶た…」

ボロを爆破し、無言で階段を上った。

『これが、リリィのものだな?』

『はい』

「他の記憶は…」

『えっと…結構几帳面なんですね…それぞれの記憶に持ち主の特徴が書いてあります』

『よかった。とりあえずリリィの記憶だけ持っていこう。この数は流石に持ち運べない』

『ですね、リリィさんが記憶が戻ったとなれば村も国に伝えるでしょうからね』

『じゃあ、明日の夜を待つか』

『今、渡しに行かないんですか?』

『夜遅いし、俺が急に現れてリリィの記憶を取り戻したと言っても、家族は信用出来ないだろうからな』

『それもそうですね…明日を待ちますか』

そして、時が経った。
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