スローライフに憧れる伝説の王子

猫の手も借りたいおじさん

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159話

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第百五十九話:「封庫の扉、沈黙の芯へ」

迎賓館の宴が静かに終わる頃、
ノブたちは誰とも言葉を交わさぬまま、密かに一つの扉へ向かっていた。

鍵を得た者――エルザ。
魔導補佐と結界管理――セシリア。
そして、そこに呼ばれた理由すら不明な観測者――ノブ。

---

場所は中央政庁区の地下第二層、
“設計上存在しない”はずの、旧記録庫封印区画。

錆の浮いた鉄柵。
煤で覆われた錠前。
魔素干渉を遮る亜鉛板の重層扉。

エルザが鍵を差し込み、回転させた瞬間、
空気が“音を立てて変わった”。

「……この場、“誰も”視認していないわけがない。
けれど、それでも彼らは“開けさせた”。」

セシリアが呟いた言葉に、ノブは静かに応じる。

「つまり、中を“俺たちに見せたうえで”どう扱うかを見ているんだ」

---

内部は、文書ではなく映像記録式の保管庫だった。
沈黙の帳の中、魔晶管が一斉に光を帯びる。

1本の帯――リオス卿の最後の記録。

「共和国は分岐点にいます。
ジーミン党は、安定を名目に“可視化されない中枢”を形作ろうとしている。
対して旧王族派は、過去の記憶と罪を、“選別する形”で取り戻そうとしている。そして私は気づいたのです。両者には“奇妙な共通点”がある。『民意が不要になった時、国を誰が握るか』という問いに、
どちらも“答えを持っていない”こと――

---

映像の最後、リオス卿はカメラの向こうに語りかけた。

「……この記録を読む者が、“外”の者であるなら。
どうか、私たちが何に目を伏せ、何に恐れ、何を守れなかったのかを、
ただ静かに見届けてください。そして可能であれば、“私たちには無かった選択肢”を。」

魔晶の光がすっと消える。

長い沈黙のあと、
ノブはポケットから手帳を取り出し、表紙だけを見つめていた。

「……これは、俺たちの国の問題じゃない。
でも、“俺がここに来たこと”が、
この国にとって“予定外の真実の目”になるのなら――」

エルザとセシリアが黙って頷く。

---

民の意志を捨てた民政国家。
王を求めぬ王族の亡霊。それらすべてを知りながら、
それでも真実だけは、誰かが“閉じない”でいなければならなかった。

ノブは目を閉じ、深く息を吸い込む。

「さて――見せてもらったからには、
次は“どう答えるか”が、俺の役割ってことになるな」

(次話へ続く)
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