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第一章
探し物
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「――君、今、何て言った」
低く告げられた声に、巴は身体を強張らせる。やはり、己の意志を伝えたのは、怒りを買うだけだったのだろうか。どうしても言わなくてはと発した言葉は、彼らの神経を逆撫でしてしまったのだろうか。視線を伏せ、左右に揺らしながら、ええと、と、巴は口を開く。
「友達、を」
「違う、その前だ」
告げられた言葉に、今度は巴が目を見開く。どういう意味だろうか。咄嗟に自分の言ったことを思い出して復唱しようとする。
「……え? え、ええと」
「フクロウが、どうって」
――フクロウ?
此処に辿りつく前に手当をしたフクロウを思い出して、ルナと巴は顔を見合わせた。
「え、と、怪我をしてたの。ルナがハンカチを巻いてあげて、そうしたら、飛んでいっちゃったけど」
「……この森に、フクロウはいないはずだ」
「そんなはずないわ。亜麻色の羽、蒼い瞳のフクロウ。結構大きくて、このくらい……」
「……っ」
ルナの言葉に、イーゴがガタンと椅子を倒して立ち上がり、声を荒げた。
「どこで見かけた?!」
「き、金色に光る木があるあたり……」
巴がそう言うやいなや、今度はヘドニが立ち上がる。椅子にかけてあったマントのようなものを羽織りながら、イーゴに声をかけた。
「僕が行こう。イーゴはここに」
「……ヘドニ、頼んだ」
「も、もう飛んで行ってて、いないかもしれないけど」
その巴の言葉が終わる前に、バタンと荒い音をたてて扉が閉まる。未だ揺れている扉を見つめながら、イーゴは再び席についた。
はあ、と息を吐いて、呼吸を整えている。落ち着こうとしているのは、目に見えてわかった。
「……いや、怪我をしていたんだろう。それに、あのフクロウはそう長くは飛べないはずだ」
「知ってる子、なの?」
「……ああ」
少し戸惑うような、困ったような顔つきで、イーゴはぽりぽりと頭を掻いた。会って少ししかたっていないが、彼のこのような表情は珍しいのではと思う。先ほどの二人の慌てた様子から静かに様子を見守っていたルナも、ふうんと物珍しそうに様子を眺めている。
「ヘドニも、真っ先に飛び出すあたり、心配だったんだろうな」
素直じゃないなあ、と笑うイーゴは、どこか今までの表情とは違っていて。そこまでにあのフクロウは大事な家族だったのだろうか。
まじまじと見つめる巴の視線に気が付いたのだろう、イーゴはにこりと微笑むと、巴に問いかけた。
「ヘドニもいないし、今のうちに色々聞いておこうか。君の名前は?」
「巴。日之宮、巴」
「トモエ、ね。——なあ、ミズシナ、って言葉、聞いたことないか?」
「みず、しな?」
聞いたことのない単語に、巴は首を傾げる。食べ物だろうか、地名だろうか。それとも。その様子を見て、イーゴは首を振った。
「いや、知らないならいい。兄や姉、弟か妹は?」
「ううん、一人っ子」
「へえ、一人か。……どんな気分なんだろ、兄弟がいないって」
ふむ、と考え込んだイーゴの姿が、先程までいたヘドニと重なる。二人で掛け合いをしている時は、とても楽しそうに見えた。自分にも、ああいった兄妹がいたら、変わったのだろうか。
「どんな気分、とかは、考えたこと無いですけど……お二人は、双子で、楽しそうだなって思いました」
その言葉に、イーゴは一瞬目を丸くして、その後に大声を上げて笑い始めた。
「——双子だ、って、誰が言った?」
え、と、巴もルナも思わず声を上げる。目の前でにやりと人が悪そうにほくそ笑むイーゴは、隣でそっくりに笑っていたヘドニと、どう見ても同じ顔だ。
「じゃあ兄弟じゃ……」
「いいや、血のつながった兄弟だ。正真正銘な。でも双子じゃない」
そうして楽しそうに、意地悪そうに笑う彼を見て、ふと有名ななぞなぞを思い出した。クラスの同級生が、楽しげに話していた気がする。
——太郎くんと次郎くんは、同じ生年月日で両親も同じですが、双子ではないと言います。なぜでしょう?
あの問題の答えは、確か——。
「——三つ子?」
「正解」
返ってきた答えに、ルナは目を見開いて大きな声を上げた。
「み、みつご?!」
「まあ、普通は双子と思うよなあ」
「もう一人は? やっぱり、貴方に似ているの?」
「君らが無事に目的を果たそうとするなら、会うことになるかもしれないな」
曖昧にはぐらかされた答えに、巴は少しばかり目を吊り上げる。自分からヒントを出しておいて、そんな言いぐさは無いだろう。そう言い募ろうとして、先にイーゴが口を開いた。
「もっと好きに聞いたらいいだろうに」
「……え?」
「会ったばかりのトモエは、随分猫を被っていたみたいだな」
「あ……」
ルナはイーゴに詰め寄る
「巴に変なこと言わないでくれるかしら」
「別に言ってはいないけどね」
「すみません、わたし、失礼なこと言って」
「失礼? ボクは一言もそんなことは言ってないけど」
そう言ってにやにやとイーゴは笑みを深める。どんどん墓穴を掘ってしまっているようで恥ずかしくなり、巴は顔を真っ赤にして押し黙った。そんな巴の様子に、イーゴは
「なるほど、そういうことか」
「何のことよ」
嘲笑に近い笑みを浮かべて、イーゴは言った。
「ルナ、君は随分トモエを表面しか見ていないらしい」
低く告げられた声に、巴は身体を強張らせる。やはり、己の意志を伝えたのは、怒りを買うだけだったのだろうか。どうしても言わなくてはと発した言葉は、彼らの神経を逆撫でしてしまったのだろうか。視線を伏せ、左右に揺らしながら、ええと、と、巴は口を開く。
「友達、を」
「違う、その前だ」
告げられた言葉に、今度は巴が目を見開く。どういう意味だろうか。咄嗟に自分の言ったことを思い出して復唱しようとする。
「……え? え、ええと」
「フクロウが、どうって」
――フクロウ?
此処に辿りつく前に手当をしたフクロウを思い出して、ルナと巴は顔を見合わせた。
「え、と、怪我をしてたの。ルナがハンカチを巻いてあげて、そうしたら、飛んでいっちゃったけど」
「……この森に、フクロウはいないはずだ」
「そんなはずないわ。亜麻色の羽、蒼い瞳のフクロウ。結構大きくて、このくらい……」
「……っ」
ルナの言葉に、イーゴがガタンと椅子を倒して立ち上がり、声を荒げた。
「どこで見かけた?!」
「き、金色に光る木があるあたり……」
巴がそう言うやいなや、今度はヘドニが立ち上がる。椅子にかけてあったマントのようなものを羽織りながら、イーゴに声をかけた。
「僕が行こう。イーゴはここに」
「……ヘドニ、頼んだ」
「も、もう飛んで行ってて、いないかもしれないけど」
その巴の言葉が終わる前に、バタンと荒い音をたてて扉が閉まる。未だ揺れている扉を見つめながら、イーゴは再び席についた。
はあ、と息を吐いて、呼吸を整えている。落ち着こうとしているのは、目に見えてわかった。
「……いや、怪我をしていたんだろう。それに、あのフクロウはそう長くは飛べないはずだ」
「知ってる子、なの?」
「……ああ」
少し戸惑うような、困ったような顔つきで、イーゴはぽりぽりと頭を掻いた。会って少ししかたっていないが、彼のこのような表情は珍しいのではと思う。先ほどの二人の慌てた様子から静かに様子を見守っていたルナも、ふうんと物珍しそうに様子を眺めている。
「ヘドニも、真っ先に飛び出すあたり、心配だったんだろうな」
素直じゃないなあ、と笑うイーゴは、どこか今までの表情とは違っていて。そこまでにあのフクロウは大事な家族だったのだろうか。
まじまじと見つめる巴の視線に気が付いたのだろう、イーゴはにこりと微笑むと、巴に問いかけた。
「ヘドニもいないし、今のうちに色々聞いておこうか。君の名前は?」
「巴。日之宮、巴」
「トモエ、ね。——なあ、ミズシナ、って言葉、聞いたことないか?」
「みず、しな?」
聞いたことのない単語に、巴は首を傾げる。食べ物だろうか、地名だろうか。それとも。その様子を見て、イーゴは首を振った。
「いや、知らないならいい。兄や姉、弟か妹は?」
「ううん、一人っ子」
「へえ、一人か。……どんな気分なんだろ、兄弟がいないって」
ふむ、と考え込んだイーゴの姿が、先程までいたヘドニと重なる。二人で掛け合いをしている時は、とても楽しそうに見えた。自分にも、ああいった兄妹がいたら、変わったのだろうか。
「どんな気分、とかは、考えたこと無いですけど……お二人は、双子で、楽しそうだなって思いました」
その言葉に、イーゴは一瞬目を丸くして、その後に大声を上げて笑い始めた。
「——双子だ、って、誰が言った?」
え、と、巴もルナも思わず声を上げる。目の前でにやりと人が悪そうにほくそ笑むイーゴは、隣でそっくりに笑っていたヘドニと、どう見ても同じ顔だ。
「じゃあ兄弟じゃ……」
「いいや、血のつながった兄弟だ。正真正銘な。でも双子じゃない」
そうして楽しそうに、意地悪そうに笑う彼を見て、ふと有名ななぞなぞを思い出した。クラスの同級生が、楽しげに話していた気がする。
——太郎くんと次郎くんは、同じ生年月日で両親も同じですが、双子ではないと言います。なぜでしょう?
あの問題の答えは、確か——。
「——三つ子?」
「正解」
返ってきた答えに、ルナは目を見開いて大きな声を上げた。
「み、みつご?!」
「まあ、普通は双子と思うよなあ」
「もう一人は? やっぱり、貴方に似ているの?」
「君らが無事に目的を果たそうとするなら、会うことになるかもしれないな」
曖昧にはぐらかされた答えに、巴は少しばかり目を吊り上げる。自分からヒントを出しておいて、そんな言いぐさは無いだろう。そう言い募ろうとして、先にイーゴが口を開いた。
「もっと好きに聞いたらいいだろうに」
「……え?」
「会ったばかりのトモエは、随分猫を被っていたみたいだな」
「あ……」
ルナはイーゴに詰め寄る
「巴に変なこと言わないでくれるかしら」
「別に言ってはいないけどね」
「すみません、わたし、失礼なこと言って」
「失礼? ボクは一言もそんなことは言ってないけど」
そう言ってにやにやとイーゴは笑みを深める。どんどん墓穴を掘ってしまっているようで恥ずかしくなり、巴は顔を真っ赤にして押し黙った。そんな巴の様子に、イーゴは
「なるほど、そういうことか」
「何のことよ」
嘲笑に近い笑みを浮かべて、イーゴは言った。
「ルナ、君は随分トモエを表面しか見ていないらしい」
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