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奇襲

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 深夜三時。

 ようやく仕事が終わった。

 エルヴィンは椅子で伸びをした。

 宰相セシリアも、肩を手で揉む。

 二人とも若いので、疲労困憊という程ではないが、少しばかり疲れた。

「セシリア、ご苦労だった」

 エルヴィンはセシリアを労い、戸棚からワインと銀杯を二つ取り出した。

 疲れの取れる甘いワインを二つの銀杯に注ぐ。

「さあ、飲め」
「ありがとうございます、陛下」

 青髪の魔族の美女は、両手で銀杯を押し頂き、コクリと頭を下げた。

 そして、無表情のままコクコクと両手で飲んだ。

(相変わらず、少し子供っぽいな)

 とエルヴィンは宰相セシリアを見ながら思う。

 セシリアは魔族でエルフと同様に不老長命の種族だ。

 それゆえ、セシリアの年齢は36才だが、外見は12歳程度に見える。

 実際、小柄で、身体の均整が取れており、手足は長いが胸は小さい。

 小学生の新体操選手のようなスタイルをしている。

 顔は可愛いし、美少女だが、無表情で人形のようだ。

 だが、理性は高く、知能は天才的である。

 知的な美女の頭脳に、子供の肉体。

 そして、所作は時々、子供っぽい。

 いや、実際はいつも子供っぽい。

 本人はそれを気にしているから、エルヴィンは絶対に揶揄しないが……。

「陛下、何か私に失礼な事を考えませんでしたか?」
「いや、そんな事は考えていない」

 エルヴィンは真顔で噓をついた。

(鋭いな) 

 とエルヴィンは苦笑した。

 セシリアの前ではなるべく、注意しよう。

「いつも、セシリアには世話になってばかりだな。感謝している。お前の勤労がなければ我が王国は機能不全になっていただろう」 

 俺は本心から言った。

 セシリアが、いなければ行政が遅滞していただろう。

 この青髪の魔族の美女の天才的頭脳がなければ、ヴァリス王国は成り立たない。

「いいえ、陛下の恩為に働く事が私の喜びです」

 セシリアは顔にわずかな微笑を浮かべた。

「何かお前の功労に報いたいのだが、何か望みはあるか?」
「おねだりしても宜しいのですか?」

 セシリアが、わずかに小首を傾げる。

 十二歳の外見で、子供のような仕草をするとやたらと可愛い。

「ああ、何でも言ってくれ。出来る限り望みを叶えてやる」
「左様ですか、では陛下の子種を下さいませ」

 セシリアが、人形のような顔のまま言った。

「……意表を突かれたな」

 俺は苦笑してワインを飲んだ。

「奇襲成功、してやったりです」

 セシリアが、薄い胸をそらした。 

「言質を取られた俺の負けだな」

 俺は、肩をすくめて銀杯をおいた。




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