1 / 36
1.完璧超人のお楽しみ
しおりを挟む
ビルが立ち並ぶ、都内のとある一角。
オンラインを中心とした宣伝・マーケティングを請け負う会社の、営業部が入る白を基調とした真新しいオフィスにて。
件のやり取りは、大勢に見守られながら執り行われていた。
「ええ。……ええ。はい。もちろん、仰る通りです」
ごくりと。緊張に唾を呑みこんだのは誰だっただろうか。
『第一グループ』と札のかかる列のとある席で、男が一人、スマートフォンで通話をしている。
男が話しているのは、第一グループが新規に開拓した取引先の重役だ。最近、営業努力が実って仕事を受注できたのだが、メインで窓口をしていた若手がミスをしてしまったのだ。
相手は完全におかんむり。朝一で急ぎ謝罪に伺ったものの、とりつく島もないと言った状況の中。満を持して、この男が火消しに投入されたわけだが--。
固唾を呑んで皆が見守る中、男は冷静に、涼しげな切れ長の目でゆっくり瞬きをする。
「はい、ぜひ。お忙しい中、大変恐縮ですが……。っ、本当ですか。ありがとうございます。では月曜11時に」
タンっと画面を叩き、通話を終える。
それから男は、はらはらと見守る同僚たちを振り返った。
「問題ない。ONDフーズ、部長が会ってくださるそうだ」
「ま、マジですか!!」
「丹原さん、さっすがー!」
わっと歓声が上がる中、一人の社員が半泣きで縋りついた。今回の件で、ミスをしてしまった若手だ。
「丹原さん~! すみません、俺、俺……!」
申し訳なさと感謝の気持ちで、半泣きの社員は声を詰まらせる。けれども丹原と呼ばれた男は、軽く手で制した。
「誰にでもミスはある。大事なのはどう挽回するかだ。ここから期待しているぞ」
「っ! は、はい!」
声を詰まらせ、後輩社員はきらきらと尊敬の目を丹原に向ける。
颯爽と次の仕事にうつる丹原に、少し離れた場所にいる同僚たちは感心した。
「相変わらずだねー……。丹原さん、今日もキレキレ」
「はちゃめちゃ仕事できて、取引先の信頼も高くて。後輩の面倒見もいいし、上の受けも抜群! 加えてあの美形でしょ。ほんと隙がないっていうか、無敵っていうか」
「この間も得意先の社長からお見合いの誘いが入ったって。本人がやんわり断ったみたいだけども」
「受けちゃえばいいのに! どう考えても勝ち組じゃん」
「うまく行かなかった時に遺恨が出来ちゃうのが嫌なんだって。律義だよねえ」
「あー……。すっごい丹原さんっぽい、それ」
やー、でも、と。噂話に花を咲かせていたふたりは顔を見合わせる。そして、同時に肩をすくめて笑い合った。
「あの人、仕事以外になにか楽しみあるのかね?」
さて。
そんな風に同僚に話のネタにされているなど露知らず。
それから小一時間ほど経った昼休憩。
社内のカフェにひとり現れた丹原は、お決まりの窓際の席を陣取る。手に持つのは通勤途中に買ってきたサンドイッチと、カフェで購入したホットコーヒー。
すらりと長い足を組んで、椅子に背を預ける。コーヒーを片手にスマートフォンの画面を眺める涼しげな目は真剣そのもの。
株価でもチェックしているのでは。世の中の情勢を調べているに違いない。クロスワードパズルをしているのかも。実はネットでお悩み相談でも受けてるのでは……。
好き勝手に予測しつつ、周囲の共通認識は「昼休憩中の丹原に声をかけるべからず」。それほど彼が熱心に画面を眺めているからだ。
――だから、同僚たちは思いもよらなかった。
クールな仮面の下で丹原が思い切り動揺していることを。マグカップを持つ左手が小刻みに震えていることを。
「うっ……」
小さく呻いて、顔の下半分をぱっと手で覆い隠す。ごろごろと転げ回りたい衝動を必死に押し込めながら、丹原は内心で叫んでいた。
(ポニーさん、今回の更新も神展開すぎるだろう……!)
オンラインを中心とした宣伝・マーケティングを請け負う会社の、営業部が入る白を基調とした真新しいオフィスにて。
件のやり取りは、大勢に見守られながら執り行われていた。
「ええ。……ええ。はい。もちろん、仰る通りです」
ごくりと。緊張に唾を呑みこんだのは誰だっただろうか。
『第一グループ』と札のかかる列のとある席で、男が一人、スマートフォンで通話をしている。
男が話しているのは、第一グループが新規に開拓した取引先の重役だ。最近、営業努力が実って仕事を受注できたのだが、メインで窓口をしていた若手がミスをしてしまったのだ。
相手は完全におかんむり。朝一で急ぎ謝罪に伺ったものの、とりつく島もないと言った状況の中。満を持して、この男が火消しに投入されたわけだが--。
固唾を呑んで皆が見守る中、男は冷静に、涼しげな切れ長の目でゆっくり瞬きをする。
「はい、ぜひ。お忙しい中、大変恐縮ですが……。っ、本当ですか。ありがとうございます。では月曜11時に」
タンっと画面を叩き、通話を終える。
それから男は、はらはらと見守る同僚たちを振り返った。
「問題ない。ONDフーズ、部長が会ってくださるそうだ」
「ま、マジですか!!」
「丹原さん、さっすがー!」
わっと歓声が上がる中、一人の社員が半泣きで縋りついた。今回の件で、ミスをしてしまった若手だ。
「丹原さん~! すみません、俺、俺……!」
申し訳なさと感謝の気持ちで、半泣きの社員は声を詰まらせる。けれども丹原と呼ばれた男は、軽く手で制した。
「誰にでもミスはある。大事なのはどう挽回するかだ。ここから期待しているぞ」
「っ! は、はい!」
声を詰まらせ、後輩社員はきらきらと尊敬の目を丹原に向ける。
颯爽と次の仕事にうつる丹原に、少し離れた場所にいる同僚たちは感心した。
「相変わらずだねー……。丹原さん、今日もキレキレ」
「はちゃめちゃ仕事できて、取引先の信頼も高くて。後輩の面倒見もいいし、上の受けも抜群! 加えてあの美形でしょ。ほんと隙がないっていうか、無敵っていうか」
「この間も得意先の社長からお見合いの誘いが入ったって。本人がやんわり断ったみたいだけども」
「受けちゃえばいいのに! どう考えても勝ち組じゃん」
「うまく行かなかった時に遺恨が出来ちゃうのが嫌なんだって。律義だよねえ」
「あー……。すっごい丹原さんっぽい、それ」
やー、でも、と。噂話に花を咲かせていたふたりは顔を見合わせる。そして、同時に肩をすくめて笑い合った。
「あの人、仕事以外になにか楽しみあるのかね?」
さて。
そんな風に同僚に話のネタにされているなど露知らず。
それから小一時間ほど経った昼休憩。
社内のカフェにひとり現れた丹原は、お決まりの窓際の席を陣取る。手に持つのは通勤途中に買ってきたサンドイッチと、カフェで購入したホットコーヒー。
すらりと長い足を組んで、椅子に背を預ける。コーヒーを片手にスマートフォンの画面を眺める涼しげな目は真剣そのもの。
株価でもチェックしているのでは。世の中の情勢を調べているに違いない。クロスワードパズルをしているのかも。実はネットでお悩み相談でも受けてるのでは……。
好き勝手に予測しつつ、周囲の共通認識は「昼休憩中の丹原に声をかけるべからず」。それほど彼が熱心に画面を眺めているからだ。
――だから、同僚たちは思いもよらなかった。
クールな仮面の下で丹原が思い切り動揺していることを。マグカップを持つ左手が小刻みに震えていることを。
「うっ……」
小さく呻いて、顔の下半分をぱっと手で覆い隠す。ごろごろと転げ回りたい衝動を必死に押し込めながら、丹原は内心で叫んでいた。
(ポニーさん、今回の更新も神展開すぎるだろう……!)
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
書籍化の打診が来ています -出版までの遠い道のり-
ダイスケ
エッセイ・ノンフィクション
ある日、私は「書籍化の打診」というメールを運営から受け取りました。
しかしそれは、書籍化へと続く遠い道のりの一歩目に過ぎなかったのです・・・。
※注:だいたいフィクションです、お察しください。
このエッセイは、拙作「異世界コンサル株式会社(7月12日に電子書籍も同時発売)」の書籍化の際に私が聞いた、経験した、知ったことの諸々を整理するために書き始めたものです。
最初は活動報告に書いていたのですが「エッセイに投稿したほうが良い」とのご意見をいただいて投稿することにしました。
上記のような経緯ですので文章は短いかもしれませんが、頻度高く更新していきますのでよろしくおねがいします。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる