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帰る場所
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「単刀直入に聞きます。手紙は受け取りましたね?内容も確認したはずです。
それを読んだ上で、どう思いました?」
「…。」
「…分かっているとは思いますが、あの手紙はユイさんから預かったものです。
もしあなたがまだ生きていて、物資を受け取りに来たら渡すようにと。」
「…俺が死んでいるとは、思わなかったんですか?」
「もちろん、その可能性はありました。我々も被害なしにこの作戦が終えられるとは思っていませんからね。
…きっと、ユイさんも現実を理解しておられたと思います。」
「…。」
「それでも手紙を書いたんです。その意味が、お分かりですね?」
俺は皆に黙ってこの戦場に志願した。反対されると分かっていたから。
レイやアレックスは、もしかしたらついて行くって言ってくれたかもしれないけど、やっぱり止められただろう。
何より、俺のわがままにこれ以上付き合わせることもないだろうし。
…ユイさんにだって、俺は何も伝えていなかったのに。
「手紙の内容は聞きません。そんな野暮なことしなくても、大体の内容は分かりますし。」
「…なんかやだなぁ。」
「内容は聞きませんが、こうして呼び出したのは他でもありません。
あなたに釘を刺しておくためです。」
「あなた、この戦いが済んだら、彼らから離れて行くつもりではありませんか?」
「…。」
「沈黙は肯定と取ります。…念のため呼び出しておいて正解、と言ったところですかね。」
ため息をつきながらぶつぶつと文句を言っている王子を見ながら、
そんな態度も様になるもんだなぁとぼんやりと考える。
…王子が言っていたことは概ね正しいと言わざるを得ない。
だって俺は、皆に何も言わずにここに来た。それって、皆を信じられなかったってことだ。
そんな奴が、どんな顔して帰ればいいって言うんだよ。
「…俺に、皆のところに帰る資格なんて、ありませんから。」
「やれやれ…。正義の味方気取りだと思ったら今度は悲劇の主人公ですか。
ここまで安っぽい劇だと、逆に見事と評価してしまいそうです。」
「っあんたに、あんたに何が分かるって言うんですか…!」
「止めておきなさい。その言葉は『本当は分かってほしい』という気持ちが透けて見えます。
使う言葉はしっかり選ぶことです。」
「…。」
「…外野が口出すことではないと思いますが、
あなたは仲間にここまでさせておいて、知らん顔で逃げるつもりで?」
「…え?」
『ここまでさせておいて』?いったい何が言いたいのだろうか。
「今回の作戦、当初全軍で魔獣退治にあたる予定でしたが、
急遽先行する部隊と後から物資と援軍に入る部隊とで分かれる形に変更したのは、
ユイさんたちの進言があったからです。どうしてそうなったのかは、分かりますね?」
「…。」
「始めから全軍で対応すれば、初動はかなり優位に進むでしょう。
しかし、魔獣の正確な数が直前まで把握しきれない以上、長期戦になることは避けられません。
物資の消耗、士気の低下を最小限にするための演出が不可欠です。
そこに関して、ユイさんたちから部隊を大きく二分することを提案されたのです。」
「…それが、俺に何か関係ありますか?」
「…先行部隊は、想定通り魔獣と戦う部隊、つまりはあなた方ですね。
先行部隊がある程度魔獣を倒して数を減らすことができれば、物資を運ぶのも楽になります。
我々後行部隊は、最小限の労力で物資を運んで合流することができます。」
「はぁ…。」
「もちろん、先行部隊はかなり過酷です。
その部隊の生存確率を上げるため、我々後行部隊の物資調達と管理には細心の注意を払う必要がありました。
誰がその重要な部分を担ったか。お分かりですね?」
「…。」
「始めから全勢力で向かってしまうと舞台全体の統率が取れにくく、隊列が伸びてしまい戦力を発揮しきれません。
結局効率は悪い。なのに消耗は激しい。だから不満が蓄積して士気が下がる。悪いことばかりです。
正直部隊を分けることもリスクがないわけではありません。
ですが、ユイさんたちは自分たちが責任を負ってでも、この作戦を実行させたかった。
あなたがいたからです。」
「あなたを生きて帰させるために、彼らはリスクを負ったのです。」
「これは国を挙げての事業ともいえます。
あなた方何でも屋からの持ち込みが発端だとは言え、国お抱えの兵士を動員させているのです。
これが失敗しようものなら、国民からの不満が噴出することが目に見えています。
そもそも、兵士ではない冒険者を動員させて人員を補充することにも反対派がいましたから、
下手をすれば現政権は失脚させられるかもしれませんねぇ。
どのような方法でかは、考えたくもありませんが。」
「俺たちは…。」
「もちろん、あなた方はあくまで報告や提案をしただけ。最終決定は我々の側です。
しかし、そう割り切れる人間ばかりではないんですよ。
この事業に関われば関わるほど、責任は重くなるし与り知らぬところで敵を作ってしまいます。」
俺が勝手に離れてから、皆はどんな気持ちで動いていたのだろう。
この作戦が絶対に成功する保障なんてない。もちろん皆全力で取り組んではいるけれど。
後行部隊が到着する直前、俺は確実に死を覚悟したし、
あの場にいた人間は『もう終わりだ』って思ったことだろう。
そんなギリギリの作戦を提案するなんて、どんなに怖かっただろう。
もし失敗したら、ユイさんはそれを考えない人じゃないし、
その失敗の先に何が待っているか、それに気づかない人でもない。
恐ろしい目に遭う可能性があると知りながらも、この作戦に関わり続けた。
「今運び込まれている物資の多くは、何でも屋の人脈を辿って集められたものです。
素晴らしい品ぞろえです。彼らの信頼が形となったと言えますね。
これは作戦の成功確率を底上げしてくれているでしょう。我々はみな助けられています。
…ですが、彼らが本当に助けたいのは誰か。」
「…。」
「もう一度、聞きます。
彼らがこんなに働きかける本当の理由、お分かりですね?」
俺の場所は、まだあそこにあるのだろうか。
それを読んだ上で、どう思いました?」
「…。」
「…分かっているとは思いますが、あの手紙はユイさんから預かったものです。
もしあなたがまだ生きていて、物資を受け取りに来たら渡すようにと。」
「…俺が死んでいるとは、思わなかったんですか?」
「もちろん、その可能性はありました。我々も被害なしにこの作戦が終えられるとは思っていませんからね。
…きっと、ユイさんも現実を理解しておられたと思います。」
「…。」
「それでも手紙を書いたんです。その意味が、お分かりですね?」
俺は皆に黙ってこの戦場に志願した。反対されると分かっていたから。
レイやアレックスは、もしかしたらついて行くって言ってくれたかもしれないけど、やっぱり止められただろう。
何より、俺のわがままにこれ以上付き合わせることもないだろうし。
…ユイさんにだって、俺は何も伝えていなかったのに。
「手紙の内容は聞きません。そんな野暮なことしなくても、大体の内容は分かりますし。」
「…なんかやだなぁ。」
「内容は聞きませんが、こうして呼び出したのは他でもありません。
あなたに釘を刺しておくためです。」
「あなた、この戦いが済んだら、彼らから離れて行くつもりではありませんか?」
「…。」
「沈黙は肯定と取ります。…念のため呼び出しておいて正解、と言ったところですかね。」
ため息をつきながらぶつぶつと文句を言っている王子を見ながら、
そんな態度も様になるもんだなぁとぼんやりと考える。
…王子が言っていたことは概ね正しいと言わざるを得ない。
だって俺は、皆に何も言わずにここに来た。それって、皆を信じられなかったってことだ。
そんな奴が、どんな顔して帰ればいいって言うんだよ。
「…俺に、皆のところに帰る資格なんて、ありませんから。」
「やれやれ…。正義の味方気取りだと思ったら今度は悲劇の主人公ですか。
ここまで安っぽい劇だと、逆に見事と評価してしまいそうです。」
「っあんたに、あんたに何が分かるって言うんですか…!」
「止めておきなさい。その言葉は『本当は分かってほしい』という気持ちが透けて見えます。
使う言葉はしっかり選ぶことです。」
「…。」
「…外野が口出すことではないと思いますが、
あなたは仲間にここまでさせておいて、知らん顔で逃げるつもりで?」
「…え?」
『ここまでさせておいて』?いったい何が言いたいのだろうか。
「今回の作戦、当初全軍で魔獣退治にあたる予定でしたが、
急遽先行する部隊と後から物資と援軍に入る部隊とで分かれる形に変更したのは、
ユイさんたちの進言があったからです。どうしてそうなったのかは、分かりますね?」
「…。」
「始めから全軍で対応すれば、初動はかなり優位に進むでしょう。
しかし、魔獣の正確な数が直前まで把握しきれない以上、長期戦になることは避けられません。
物資の消耗、士気の低下を最小限にするための演出が不可欠です。
そこに関して、ユイさんたちから部隊を大きく二分することを提案されたのです。」
「…それが、俺に何か関係ありますか?」
「…先行部隊は、想定通り魔獣と戦う部隊、つまりはあなた方ですね。
先行部隊がある程度魔獣を倒して数を減らすことができれば、物資を運ぶのも楽になります。
我々後行部隊は、最小限の労力で物資を運んで合流することができます。」
「はぁ…。」
「もちろん、先行部隊はかなり過酷です。
その部隊の生存確率を上げるため、我々後行部隊の物資調達と管理には細心の注意を払う必要がありました。
誰がその重要な部分を担ったか。お分かりですね?」
「…。」
「始めから全勢力で向かってしまうと舞台全体の統率が取れにくく、隊列が伸びてしまい戦力を発揮しきれません。
結局効率は悪い。なのに消耗は激しい。だから不満が蓄積して士気が下がる。悪いことばかりです。
正直部隊を分けることもリスクがないわけではありません。
ですが、ユイさんたちは自分たちが責任を負ってでも、この作戦を実行させたかった。
あなたがいたからです。」
「あなたを生きて帰させるために、彼らはリスクを負ったのです。」
「これは国を挙げての事業ともいえます。
あなた方何でも屋からの持ち込みが発端だとは言え、国お抱えの兵士を動員させているのです。
これが失敗しようものなら、国民からの不満が噴出することが目に見えています。
そもそも、兵士ではない冒険者を動員させて人員を補充することにも反対派がいましたから、
下手をすれば現政権は失脚させられるかもしれませんねぇ。
どのような方法でかは、考えたくもありませんが。」
「俺たちは…。」
「もちろん、あなた方はあくまで報告や提案をしただけ。最終決定は我々の側です。
しかし、そう割り切れる人間ばかりではないんですよ。
この事業に関われば関わるほど、責任は重くなるし与り知らぬところで敵を作ってしまいます。」
俺が勝手に離れてから、皆はどんな気持ちで動いていたのだろう。
この作戦が絶対に成功する保障なんてない。もちろん皆全力で取り組んではいるけれど。
後行部隊が到着する直前、俺は確実に死を覚悟したし、
あの場にいた人間は『もう終わりだ』って思ったことだろう。
そんなギリギリの作戦を提案するなんて、どんなに怖かっただろう。
もし失敗したら、ユイさんはそれを考えない人じゃないし、
その失敗の先に何が待っているか、それに気づかない人でもない。
恐ろしい目に遭う可能性があると知りながらも、この作戦に関わり続けた。
「今運び込まれている物資の多くは、何でも屋の人脈を辿って集められたものです。
素晴らしい品ぞろえです。彼らの信頼が形となったと言えますね。
これは作戦の成功確率を底上げしてくれているでしょう。我々はみな助けられています。
…ですが、彼らが本当に助けたいのは誰か。」
「…。」
「もう一度、聞きます。
彼らがこんなに働きかける本当の理由、お分かりですね?」
俺の場所は、まだあそこにあるのだろうか。
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