平和の狂気

ふくまめ

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自己防衛、大事

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「んじゃま、今後ぼちぼちサンドルに向かいながら行商して資金繰りってことで。」
「…はい。」
「…。」
「あらら、あんまりご納得いただけてない感じ?」
「お前の言っていることは理解できる。…だがそう上手くいくか…。」
「そんときゃそん時。頭使うのが苦手な奴がどんなに頭捻ったってわかりゃしねぇよ。」
「…。」
「無理だと判断した時にまた考えりゃいいのさ。少なくとも、俺様はそうやって生きてきたんだぜ?何だかんだ、なるようになるもんよ。」
「…そう、ですね。行動しなければ、見えてこないこともありますよね。」
「そうなのよー!メアリちゃん、不安かもしれないけど、俺様がちゃーんとエスコートするからねー!」
「は、はぁ…。」

今後の方針がある程度固まったのが嬉しいのか、ロランさんはかなりテンションが高い。…いや元からだろうか。向けられる笑顔にどう返したらいいものかと、あいまいな返事になってしまう。

「んじゃ、今夜の見張りはギルの野郎にお任せして、俺様達はゆっくり休もうぜー!」
「ふざけんな。」
「ふざけないでください。」
「んもー、ちょっとした冗談じゃないのよー。」
「冗談でもやめてください。いくら町が近くにあろうと、魔物に出くわさないとは限らないんですから…。」
「俺様こう見えてもベテランよ?そこんところも抜かりないって。」

警備が敷かれている大きな街があるような地域ならいざ知らず、地方の街道なんかでは魔物を見かけることは珍しくない。大人しい小動物程度の大きさの魔物だったらそこまで脅威ではないかもしれないが、まかり間違ってドラゴンのような大型で凶暴な魔物に遭遇してしまったら…その時点で人生終了だ。
ロランさんもその部分は心得ているようで、冗談を言いながらも荷物の中から取り出したのは水の入った小瓶。

「両翼に十字架…。本物の聖水だな。」
「もちろんよ。金をかけるべきところにはしっかりかける男なの、俺様。これがなきゃ、魔獣が怖くて一人旅なんかできやしないからなぁ。」

その分値が張るのが痛いけど、と言いながら私たちの野営地の周りに振りまいていく。この聖水は自身に害なすものを退ける力があるとされている。主に魔物を寄せ付けないために使用されることが多い。これは教会の聖職者が祈りを込めて作っているもので、ロランさんのように町を行き来するような人たちにとっては必須。非常に需要も多いため、高価で売買され偽物も出回っている。本物には両翼を携えた十字架、という教会を示す紋章が彫られているのだが、それも真似るものも多く闇市で手に入れる際は注意が必要だ。…そもそもそんなありがたいものを闇市で買おうというのもどうかと思うが、教会で直接購入する際もかなり高価なので何とも言えない。
とにかく、旅の必需品と言っても過言ではない。そんな存在を、私もギルさんも持ち合わせていなかった。

「メアリちゃん、よくここまで無事だったね。女神さまの加護でもあるのかな?」
「いえ、単に旅をしている団体に同行させていただいただけです。優しい方々にお会いしまして。…そういう意味ではご加護があったと言えるのかもしれませんね。」
「なるほどねー。人数いれば誰かが聖水持っているかもしれないし、魔物も大人数がまとまっていたんじゃ狙いづらいだろうからね、いい判断したよ。…んで、ギルの野郎は何となく予想つくけど?」
「聖水はもともと持ち合わせていなかったが、使うと野生動物も逃げてしまうだろう。それだと食料確が保しにくくなる。」
「はい、野生児ー!だと思いました!」
「本当、よく生き残れましたね…。さすが英雄。」
「大型の魔物には会わなかったしな。」
「そもそも聖水なしで行動するって判断しねーのよ、普通は!…ま、魔物は対策できても盗賊なんかの人間まで防ぐことはできねぇだろうからな、順番で番をするぞ。メアリちゃんも、非常に心が痛むけど、これだけはお願いね!」
「もちろんです!何かあれば、ギルさんを起こせばいいんですね。」
「そうだな。」
「あのメアリちゃん、俺様でもいいのよ…?…まぁ基本的には宿をとっているんだが、今回はな。」
「あと寝るときロランさんは少し離れてください。」
「露骨過ぎないメアリちゃん!?でも冷静な判断ができてて素晴らしい!」

結局、ロランさん、ギルさん、私の順で見張りを交代しながら一夜を過ごした。慣れない環境に緊張してなかなか仮眠をとることができなかったので、今後はぜひ宿をとっていただきたい…。朝起きてすぐにぎゃんぎゃんと元気に喧嘩をしているギルさんとロランさんを見て強く思った。
私、この二人の旅に同行して体力大丈夫だろうか。
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