海の小舟と君と僕

ふくまめ

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自己紹介

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さて、現状を確認しよう。
僕、こと良太は、大学の同級生龍治に誘われて、
高校からの同級生である瞬介を含むオトモダチと松島を訪れていた。
楽しげな雰囲気は陰キャには耐えられず、飛び乗ったのは観光用のフェリー。
カモメと戯れながら現実逃避をしていたら、本当に現実離れした状況となってしまったのだ!

「ふーん、大変だねぇ。」
「大変だねぇ。じゃないです!僕たち、現状遭難しているんですよ!?」
「そうなの?」
「そうなんです!いや、これは、えっと何でもないです…。
 とにかく!僕たちだけで何とかここから岸までたどり着かないと。おーい!誰かいませんかー!」
「まぁ落ち着いて。とにかく座って、話でもしよう。」

イケメンさんは慌てる様子もなく、その長い足を器用に折りたたんで小舟に座っている。
その様子に一人で慌てているのも恥ずかしくなってきて、大人しく反対側に座る。
お互い小舟の端に座っているものの、如何せん大して広くもないので向かい合う形になってしまう。
普通こういうシチュエーションといったら、恋人とのデートでしょ。
何が楽しくて野郎と向かい合って座らなきゃならないんだ。
しかも相手の見た目が、海外の俳優ですって言われても納得できるくらいのイケメンであることも、
輪をかけて腹が立つ。
逆恨みであることは認めよう。

「…ところで、お兄さんはどうしてこんなところに?僕は、さっきお伝えした通りですけど。」
「うーん。俺は何て言うか、生態?性質?っていうのかな…。まぁそんな感じ。」
「はぁ…。」

性質?性分ってことかな…。旅行が趣味、とか?
見た目海外の人っぽいし、ここまで流暢に話してくれているけど、やっぱり完璧な日本語ではないのかもしれない。
日本語って海外の人からしたら難しいって聞くし。
そんなこと言っても、僕にしてみれば英語習得なんて最難関技能だけど。

「あ、僕良太って言います。お兄さんの名前、聞いてもいいですか?」
「名前、名前ねぇ…。どう呼んでもらっても構わないけど、そうだなぁ。…ロイ、ロイって呼んでよ。」
「呼んでよって…。」

ニコニコと返してくるイケメン、ロイさんは何を考えているかよく分からないな…。
海外の人のテンションってこんな感じなのか?イケメンは僕の考えの範疇から逸脱しているのか?
…単純に本名というか、愛称がロイってことなのかな。
まぁ本人がそう呼ぶようにって言うんだから、深く考えずに従うことにしよう。

「ロイさん、この状況でよく落ち着いていられますね。」
「君が慌てる姿は見ていて面白いね。飛び立つ練習をする雛鳥みたいで。」
「答えになっていませんけど。…僕をバカにしていることは分かりました。」
「まさか。俺は面白いことが好きなのさ。君に興味があるんだよ。」
「はぁ…?」

何だこの人。本当に危機感とか、ないのかな。結構まずい状況だと思うんだけど…。
僕は周囲に人がいないか、救助要請ができる手段がないか気が気じゃないっていうのに、
ロイさんはまるで家の庭先で日向ぼっこしているかのように伸びをしてリラックスしている。
イケメンは何をしても様になるなぁ、許すまじ!
苛立ちを押し殺しながら、改めて自らの状況を確認し直す。
この小舟に乗っているのは、僕とロイさんの2人のみ。
小舟に備え付けられているのは手漕ぎ用と思われるようなオールだけ。
緊急時に使用するような道具や非常食は見当たらない。
周囲は広いようだが、遠くは靄がかかったように見え辛く全貌は分からない。
実に静かで物音もなく、人がいるような気配もなし。
そして何より、この状況に陥ってしまった理由に全く心当たりがない。
…ますます絶望的な環境であることが確認できただけだったな…。

「まぁ俺たちが慌てたところで、何できるわけでもないし。
 考えても仕方がない。良太君、何か面白い話でもしてよ。」
「はぁ?」

肩を落としている僕に対して、ロイさんは肩をすくめて見せる。
本当に能天気な人だな…。
しかも面白い話しろって、芸人さんでも嫌な話の振り方でしょ。僕ただの一般人なんですけど?
面白い話なんてそうそうあるわけないでしょうに…。

「…そういうロイさんは、何か話のネタでもあるんです?」
「俺?そうだなぁ…。俺の故郷の話、とか?聞く?」

あるのかよ!イケメンはそうやってみんなの注目さらっていくんですよね、知ってた!
すんなりと話題が出てきたことを僻みながらも、時間が潰せれば何でもいいと、半ば自棄になりながら頷く。
それを見てロイさんはにっこりと笑って口を開いた。
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