某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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ある魔女の話~過去と未来③~

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「あぁ、アメリア。あの子は先に来ているよ。いつものとこさ。」
「…あぁ…。」

一緒に掃除をしてからというもの、ジークは暇さえあれば図書館に入り浸るようになっていたようだ。
『ようだ』というのは、あたしも決して毎日ここに通っているわけではないので、
管理のおばあちゃんの話による情報だからだ。
あまりにも通う日が多いせいで、いつしかあたしが図書館に行くと、ジークが来ているかどうか、
あたしが来なかった日の過ごし方など、聞いてもいないのに教えてくるようになってしまった。
本に興味があるなら好きにしたらいいし、別にあたしに伝えなくても…。

「あ、先輩!今日は来てくれたんですね!」
「別に来る来ないはあたしの勝手でしょ、約束したわけでもないし…。」
「そうですけど…。アハハ…。」
「…。」

『いつものとこ』、それはあたしが入り浸っていた専門書を多く保管している区画だ。
少なくとも、本に興味を持ち始めたての人間が手に取るような分野ではないと思う。
こいつは何だってここに来るようになったんだか…。

「…先輩、これどういう意味ですか?」
「…通常、水と油は混ざり合うことはないけど、条件さえ合えば混ぜ合わせることができる…って、これ料理本?」
「エヘヘ…。俺、勉強苦手だから、いきなり薬の本読むんじゃなくて、似たようなのないかなって思って。
 いろんな材料を混ぜ合わせるのって、料理みたいじゃないですか…?」
「…。」
「…ごめんなさい。」

時折、こうやってジークの質問に答えることはこれまでもあった。
それは読んでいる本の難しい漢字の読み方だったり、学校から出された課題の解き方だったり、様々。
それにしても、今日は料理本について質問してくるとは…。

「…いや、なかなか目の付け所は良い。」
「え!」
「料理は科学だと表現する人もいるらしいし、確かに薬の作り方と似ている部分はあるとあたしも思う。
 何となくでもそういったところに気がつくってことは、いい線いっているんじゃない。」
「はいっ!」
「…だから静かにしてったら…。」

すぐ声が大きくなるこいつの癖にこめかみを抑えてしまう。
いよいよこいつの後ろに、勢いよく振られる犬のしっぽが見えてきてしまいそうだ。

「…先輩、薬屋さんで働くって、本当ですか?」
「…どこで聞いたの、それ。」
「…。」
「まぁ、隠すことでもないけど。本当だよ、来週から。」
「じゃ、じゃあ、ここにはもう来ないんですか…?」
「…どうだろう。来たいとは、思うけど…。」

あたしは先日15歳になった。15になったら働きに出る。前々からお母さんと話し合って決めたことだ。
うちは決して家計に余裕があるわけじゃない。少しでも生活の助けになればと思うのは自然なことだと思う。
…何より、今まで頑張り続けたお母さんに、早く楽になってもらいたかった。
幸い、働かせてもらえる薬屋はお母さんが薬草を卸している薬屋で、
あたしが専門書を読み漁っていることも知っている。
我が家の事情を知っているから、仕事をしながら薬の勉強をさせてもらうことができる、
最高の職場と言えるだろう。

「さすがに今までと同じような頻度では無理だと思う。…何で?」
「…ここに、俺一人じゃ…。」

確かに、多少読書が様になってきたとはいえ、専門性の高い本を一人で読み解くのは困難だろう。
…学校の勉強は、お友達にでも教えてもらえばいいでしょうけど。

「…薬学や植物についての本、簡単なものをこの辺りに寄せておこうか?」
「そういうことじゃなくて…!」
「…違う?」

読みやすい本がすぐに見つけられるように配置しておこうと思ったけど、どうやらそういうことではないようだ。
いくらなんでも、一週間でそれなりの知識量になるまで教えるなんて無理だと思うけど。
…あたしの代わりに教える人を紹介するなんて、それこそ無理な話だが。

「…全く来なくなるわけじゃないから、その時でいいなら、教えるけど…。」
「本当ですか!」
「うん…。」
「約束ですよ!俺、毎日来ますから!先輩がいつ来てもいいように、ずっと待ってます!」
「別に、そこまでしなくても…。」

寂しそうな表情から一転して、明るい表情で料理本をめくりながら、料理は科学かぁ…、とブツブツ呟いている。
そんなに薬学に興味があるなら、折を見てこれからお世話になる薬屋の店長に話をしてみてもいいかもしれない。
薬作りに興味がある後輩がいるって。
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