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ある冒険者の話~相棒⑤~
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ジェズの形見の剣を受け取った次の日。
俺は早速森へと出発した。
普段であれば、できるだけ大きな獲物を狙うのだが、今回狙うのはウサギのみ。
ジェズの発言を信じる以外、あいつの仇への手掛かりはない。
ジェズの遺体の状況を考えれば、とてもじゃないがウサギによる怪我とは思えないが、
死の間際に口走ったのが「化け物」だとか「猛獣」とかじゃないのは、
むしろ真実味が増しているように感じられてしまう。
小動物向けの罠を準備しながら、まだ見ぬ生物へを想像する。
どうやって、息の根を止めてやろうか。
―――
「…これで3体目…。」
森に入って数か月。もう正確な日数は分からなくなってしまっていたが、そんなものだろう。
猟師としては日にちの感覚をなくすなんて、死活問題にもなりかねない。
自分が思っている以上に、俺は冷静じゃないのかもしれないな。
初日から罠を数か所に仕掛けているが、現状ジェズを襲ったと思われるような生き物はかかっていなかった。
かかるのは普通のウサギをはじめとした小動物。
初めのうちは食料にしたりしていたが、食料に余裕ができてきたため比較的元気な個体は逃がすようになっていた。
しかしここは弱肉強食の世界。少しでも弱っている者から命を落とす。
逃がした個体も、長生きすることはできないだろうとは踏んでいたが…。
「噛みつかれた跡、出血量の多さ…。」
おそらくこいつも俺の罠にかかって逃がした個体だ。
そういった個体が死んでいるのを見るのは、これで3体目となった。
出血の量に対して、噛みつかれた跡はそこまで大きくはない。
実際この周辺はこの個体の血液が広範囲に付着している。噛みつかれてからしばらく動くことができたという証拠。
思えば、ジェズが負傷しながらも自力で村まで戻ることができたのは、そういうことだろう。
今死んでいるこいつは、息絶えてからそう時間は経っていない。
襲ったやつは近くにいるかもしれない。手早く仕掛けをして、獲物に近寄ったところを仕留めてやる…!
「…。」
仕掛けをしてから、念のため手ごろな木の上に登って周囲を警戒する。
風もなく辺りは静かだ。息を殺して、その時を待つ。
しばらく目を凝らしていると、茂みが揺れているのが見えた。
風は吹いていない。そこに、何かがいる。
そいつは周りを警戒しながらも茂みから顔を出した。
姿や大きさは確かにウサギの様な見た目をしている。ただ、その口元は真っ赤な血で濡れている。
あいつだ…!
体が燃えるように熱くなっていくのが分かる。
あいつだ!あいつが殺したんだ!ジェズを殺した!!
唸り声を上げそうになる口を押える。あいつにばれたら元も子もない。押し殺せ…!
必死に耐えたおかげか、奴はこちらに気づいた様子もなく、少しずつ罠が仕掛けられている獲物へと近づいていく。
もう少し…。もう少し前だ。もう一歩…!
『バシャン!』
仕掛けが作動して奴は咄嗟に逃げようとするも、罠は奴の足をしっかり咥えて離さない。
ウサギのそれとは思えないようなギィギィと不気味な鳴き声を上げながらもがいてる。
それを確認して、俺は静かにボウガンを構えた。本能が告げている。
「アレに近づくな」と。
呼吸を整えて、息を止める。一つ瞬きをして、矢を放つ。
矢は罠に囚われていた足に突き刺さる。奴は痛みに呻き、敵を威嚇するように牙をむき出しにする。
すでに構えていた2本目の矢を放つ。今度は腹に刺さった。
もがいていた動きもここからでは確認できなくなり、木から降りて慎重に近づく。
奴は深々と矢が刺さりながらも、近づいてきた俺に敵意をむき出しにしてシューシューと威嚇している。
生きている。
好都合だった。
ジェズの形見となった剣を抜く。
障害物が多い森の中でも取り回しがいいように刀身が短く作られている。
こいつで、ジェズの仇をぶっ殺す。ジェズの恨みを…!
奴の顔面にめがけて、形見の剣を力一杯振り下ろした。
骨を砕く手ごたえ、飛び散る赤、纏わりつく匂い…。あたりを静寂が満たしていく。
俺の復讐は、これで一つの幕を閉じたのだった
―――
村に帰ると、すでに季節が移り替わろうとしていた。
皆俺が死んだかもしれないと思っていたのか、悲鳴を上げて村中に知らせに走る人もいたくらいだ。
まぁ、よく分からない生き物に襲われたばかりの森に入ろうとするなんて、
冷静に考えれば正気の沙汰とは思えないのは確かだ。
村の人たちとの会話もそこそこに、診療所のじいさんに会いに行く。
今回仕留めた「大物」を、見せてやらなきゃな。
「…じいさん、いるか?」
「ザギル!生きとったのか!森に一人で行くなんぞ、正気か!?」
「そんなことはどうでもいい。…こいつを見てくれよ。こいつを仕留めるために、俺は森に行ったんだ。」
「何っ…!」
無造作にテーブルに投げ出した袋を、じいさんは恐る恐る開ける。
その中に入っているのは、仕留めたジェズの仇だったものだ。
「こいつが…。」
「少し見た目は悪くなっちまったが、こいつで間違いないだろうぜ。
ウサギの様な見た目だが鋭い牙を持ち、噛まれた動物は皆出血多量で死んでいた。…一緒だ。」
「…。」
「こいつを研究するってんなら、使ってくれや。」
「…あぁ。」
「…じゃ、俺はこれで。」
じいさんは少し呆然としているようにも見えたが、俺にはまだ用事がある。大事な用がな。
診療所を出たその足で、今度はジェズの家へと向かった。
俺は早速森へと出発した。
普段であれば、できるだけ大きな獲物を狙うのだが、今回狙うのはウサギのみ。
ジェズの発言を信じる以外、あいつの仇への手掛かりはない。
ジェズの遺体の状況を考えれば、とてもじゃないがウサギによる怪我とは思えないが、
死の間際に口走ったのが「化け物」だとか「猛獣」とかじゃないのは、
むしろ真実味が増しているように感じられてしまう。
小動物向けの罠を準備しながら、まだ見ぬ生物へを想像する。
どうやって、息の根を止めてやろうか。
―――
「…これで3体目…。」
森に入って数か月。もう正確な日数は分からなくなってしまっていたが、そんなものだろう。
猟師としては日にちの感覚をなくすなんて、死活問題にもなりかねない。
自分が思っている以上に、俺は冷静じゃないのかもしれないな。
初日から罠を数か所に仕掛けているが、現状ジェズを襲ったと思われるような生き物はかかっていなかった。
かかるのは普通のウサギをはじめとした小動物。
初めのうちは食料にしたりしていたが、食料に余裕ができてきたため比較的元気な個体は逃がすようになっていた。
しかしここは弱肉強食の世界。少しでも弱っている者から命を落とす。
逃がした個体も、長生きすることはできないだろうとは踏んでいたが…。
「噛みつかれた跡、出血量の多さ…。」
おそらくこいつも俺の罠にかかって逃がした個体だ。
そういった個体が死んでいるのを見るのは、これで3体目となった。
出血の量に対して、噛みつかれた跡はそこまで大きくはない。
実際この周辺はこの個体の血液が広範囲に付着している。噛みつかれてからしばらく動くことができたという証拠。
思えば、ジェズが負傷しながらも自力で村まで戻ることができたのは、そういうことだろう。
今死んでいるこいつは、息絶えてからそう時間は経っていない。
襲ったやつは近くにいるかもしれない。手早く仕掛けをして、獲物に近寄ったところを仕留めてやる…!
「…。」
仕掛けをしてから、念のため手ごろな木の上に登って周囲を警戒する。
風もなく辺りは静かだ。息を殺して、その時を待つ。
しばらく目を凝らしていると、茂みが揺れているのが見えた。
風は吹いていない。そこに、何かがいる。
そいつは周りを警戒しながらも茂みから顔を出した。
姿や大きさは確かにウサギの様な見た目をしている。ただ、その口元は真っ赤な血で濡れている。
あいつだ…!
体が燃えるように熱くなっていくのが分かる。
あいつだ!あいつが殺したんだ!ジェズを殺した!!
唸り声を上げそうになる口を押える。あいつにばれたら元も子もない。押し殺せ…!
必死に耐えたおかげか、奴はこちらに気づいた様子もなく、少しずつ罠が仕掛けられている獲物へと近づいていく。
もう少し…。もう少し前だ。もう一歩…!
『バシャン!』
仕掛けが作動して奴は咄嗟に逃げようとするも、罠は奴の足をしっかり咥えて離さない。
ウサギのそれとは思えないようなギィギィと不気味な鳴き声を上げながらもがいてる。
それを確認して、俺は静かにボウガンを構えた。本能が告げている。
「アレに近づくな」と。
呼吸を整えて、息を止める。一つ瞬きをして、矢を放つ。
矢は罠に囚われていた足に突き刺さる。奴は痛みに呻き、敵を威嚇するように牙をむき出しにする。
すでに構えていた2本目の矢を放つ。今度は腹に刺さった。
もがいていた動きもここからでは確認できなくなり、木から降りて慎重に近づく。
奴は深々と矢が刺さりながらも、近づいてきた俺に敵意をむき出しにしてシューシューと威嚇している。
生きている。
好都合だった。
ジェズの形見となった剣を抜く。
障害物が多い森の中でも取り回しがいいように刀身が短く作られている。
こいつで、ジェズの仇をぶっ殺す。ジェズの恨みを…!
奴の顔面にめがけて、形見の剣を力一杯振り下ろした。
骨を砕く手ごたえ、飛び散る赤、纏わりつく匂い…。あたりを静寂が満たしていく。
俺の復讐は、これで一つの幕を閉じたのだった
―――
村に帰ると、すでに季節が移り替わろうとしていた。
皆俺が死んだかもしれないと思っていたのか、悲鳴を上げて村中に知らせに走る人もいたくらいだ。
まぁ、よく分からない生き物に襲われたばかりの森に入ろうとするなんて、
冷静に考えれば正気の沙汰とは思えないのは確かだ。
村の人たちとの会話もそこそこに、診療所のじいさんに会いに行く。
今回仕留めた「大物」を、見せてやらなきゃな。
「…じいさん、いるか?」
「ザギル!生きとったのか!森に一人で行くなんぞ、正気か!?」
「そんなことはどうでもいい。…こいつを見てくれよ。こいつを仕留めるために、俺は森に行ったんだ。」
「何っ…!」
無造作にテーブルに投げ出した袋を、じいさんは恐る恐る開ける。
その中に入っているのは、仕留めたジェズの仇だったものだ。
「こいつが…。」
「少し見た目は悪くなっちまったが、こいつで間違いないだろうぜ。
ウサギの様な見た目だが鋭い牙を持ち、噛まれた動物は皆出血多量で死んでいた。…一緒だ。」
「…。」
「こいつを研究するってんなら、使ってくれや。」
「…あぁ。」
「…じゃ、俺はこれで。」
じいさんは少し呆然としているようにも見えたが、俺にはまだ用事がある。大事な用がな。
診療所を出たその足で、今度はジェズの家へと向かった。
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