某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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ある冒険者の話~相棒⑦~

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数日後、アイラは娘を連れて本当に村を出た。
村の人間のほとんどは心配しながらも、2人の幸せを願って見送った。
俺はその中に入ることはできなかった。
俺にとって、彼女たちの行動は眩しすぎたのだ。
アイラは傷つきながらも未来を見ているというのに、俺だけが思い出にすがっていることを自覚してしまった。
そんな状態では合わせる顔がなかった。

アイラたちが村を出てから数日後、俺はジェズの仕事場だった工房に来ていた。
ジェズの仕事道具は運び出したみたいだが、持ち出せないような大きな機材や家具はそのままだ。
だが、いつも火が入っていた窯がうっすらと埃をかぶって静かにしている姿を見て、
ジェズはもう死んだのだと、やっとその事実を腹まで飲み込んでやることができた気がした。

「…行くか。」

工房を後にした俺の手には、狩りに出るには少しばかり大きな荷物。
そしてジェズの形見である剣。
俺はこれから、ジェズを殺したような化け物どもを倒してまわる旅に出る。
猟師ではなく、冒険者としてやっていくのだ。
俺のかつての相棒の形見を、これからの俺の相棒としてやっていくことになるのだ。

―――

そうして、俺は10年ほど冒険しながら化け物、後に魔獣として解析されていくやつらを相手にする生活を続け、
ウィルの坊主と出会ったあの国を挙げての作戦に参加することになったのだが…。
その時に相棒であったあの形見の剣が折れてしまったのだ。
幸い、すずらんとの出会いもあってその後使う武器には困らなかったわけなのだが、
相棒への思いは時間を経ても燻り続け、折れた剣を手元に置き続けていたのである。
俺の夢。自分が死んだときにこの剣を墓に立ててもらうこと。
いつの頃からか、そう思いながら生きてきたが…。
この剣の最期が、そんな終わり方でいいのだろうかと思うようになっていた。
それは年を取るとともに大きくなり、つい先日、行動に移し始めたばかりだ。

「長年一緒に戦ってきたとはいえ、こいつを最後まで俺に付き合わせていいもんかと思ってな…。
 俺ももう年だし、戦いに出ることはないだろう。ここらでケリをつけるのもいいだろうさ。」
「そうですか…。」
「それでだ。店長に頼みたいことってのは、ここからなんだが…。」
「何でしょうか。我々にできる事なら、協力いたしますが。」
「ありがたい。早速で悪いが…。」

すずらんの店長に頼みごとをしてから数日、早くも本命と思われる情報を得ることができた。
聞くところによると、ギルド「冒険者」の連中も情報集めに加わっていたらしい。あいつらめ…。
店長に頼んだのは、「30代くらいの女性の鍛冶屋を探してほしい」という話。
武器や防具を扱うすずらんであれば、それを作る職人集団とも関わりがあるだろうから、
30代、しかも女性で鍛冶屋を営んでいるとなるとそう数は多くない。
いずれは行き着くことができるとは思っていたが…。
正直、こんなに早く情報を得ることができるとは思っていなかったので、
情けないがちょっと二の足を踏んでしまっている。
女性鍛冶屋を探すようになったのは、俺が先日故郷である村に帰ったことから始まる。
さすがに俺が村から出てから30年ほど経過して顔ぶれも少しずつ変わっており、
お姉さま方の人数も減っていたが、有力な情報を得ることができたのだ。

ジェズの娘は、どこかの町で鍛冶屋になったらしい。

死ぬ前に、相棒の墓参りでもと思っての帰郷だったが、こんな話を聞くことができたのも何かの縁だろう。
長年聞かなかったあの母娘の話。
諦めかけていた俺の夢が変わった瞬間だった。
そう、俺は店長に頼んでジェズの娘に会ってみようと思ったのだ。

「…とは言ったものの。」

どんな顔で会えばいいというのだろうか。
まず俺はどんな立場で会おうとしているんだ?ただの客?それとも父親と旧知の仲だったと話すか?
今更ながら、どう声を掛けたらいいか様々な第一声のパターンがぐるぐると頭の中を回っている。
ジェズの娘と思わしき女性鍛冶屋が見つかったと聞いて、早速訪ねようと来てみたはいいものの…。
すでに工房の前で小一時間は唸っている状況だ。
人によっては不審者に見えるだろう。奇跡的にあまり人通りがなくて良かったと思う。
いつまでもここにいても始まらない。
深く言いを吸って気合を入れると、その勢いのままに女性鍛冶屋がいるという工房へのドアをくぐっていった。
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