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ある悪ガキの話~キョウダイ➁~
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「こちらで、お待ちください…!くれぐれも、部屋の外には出ないように、お願いします…!」
「あ、あぁ…。」
「部屋の中も、歩き回らないでくださいね…!」
「分かった。」
「そして何より、物音をたてないようにお願いしますね…!」
「難易度高すぎだろ。」
ヒソヒソと小声ながらも、心して大人しくしているようにと散々釘を刺された。繰り返し注意されるもんだから、最終的には辟易としながらも頷いておく。その反応を見て、若い門番は周りを確認しながらも依頼人を呼ぶためにどこかへ去っていった。
依頼人を呼んでくると、若い門番が部屋を出てからどれくらいの時間が経ったか…。部屋の中を歩き回るな、物音をたてるなと言われたもんだから、今の時刻すら満足に把握できない。この部屋にたどりつくまでも、あちこち角を曲がって来たからそれなりに時間がかかっているはずだ。
とりあえず、信じられないくらいふかふかなソファに腰を下ろしたまま、見える範囲で部屋の中を見回してみる。兎にも角にも、豪華な部屋だなって感じ。少なくとも、オレが今まで見てきた調度品の中では最高級なんだろうなってものばかりが置かれている。机に揃えられた筆記具たちは控えめながらも質が良さそうだし、本棚に納められている本も格式高そうな装丁がされているし、壁に掛けられた絵画はどのくらいの価値があるかは分からないが豪華な額に入れられている。
「ったく…。どんだけこの部屋にいればいいんだ。いつ来るんだよ、その依頼者。」
一つ一つの物は良いだろうに、何とも居心地が悪い。最高級品の詰め合わせ、のようなこの空間は、オレにとってはかなり苦痛だ。早いところ用事を済ませて、隣の部屋で寝ている奴のいびきが聞こえるくらいの安宿に帰りたい。
こんな部屋を根城にしている奴なんて、オレたち庶民を何とも思っていないような奴に決まっている。
何度目か分からないため息を薄く吐き出した時、部屋のドアが急に開かれた。
「おわ!?」
「いやーすみません!なかなか会議が進まなくて。あなたが、何でも屋の方?」
「…レイだ。代表のユイは来れない。代理でオレが。」
「そうでしたか。」
うんうんと頷きながら、入ってきた男はオレの向かいのソファに腰を下ろす。慣れたように部屋を歩く姿は優雅なものだ。…オレとそこまで変わらないような年頃だと思うが、頭のてっぺんからつま先まで、どころか骨の髄まで高級品の空気感がしみ込んでいるような雰囲気すら感じる。オレの苦手なタイプだ。
「ところで、この後何かご予定ありますか?」
「え、いや、特には…。」
「では少し私に付き合っていただけませんか。ちょっと時間を潰しておきたくて。」
「はぁ…。」
何だよ。依頼人はまだ来ないってのかよ。ここはその依頼人の部屋かと思ったが、もしかしてただの控室か何かだったのか?そんな部屋にまでこんなにたくさんの高級品が置かれているなんて、城の奴らってのは相当景気がいいんだな。
オレとしては、早いところ用事を済ませて帰りたいところだが、依頼人が来れないんじゃ仕方がない。こいつの機嫌を損ねるのも得策ではないだろう。ここは従っておくのが無難だな。
「さてどうしますか…。何か面白い話でもありませんか。」
「え、オレの?」
「えぇ。」
何だよその無茶振りは。正直早々に従ってしまったことを後悔し始めてしまっていたが、どうにかして適当に時間が潰せないかと頭の中の引き出しをひっくり返す。とはいえそう都合よく思い浮かぶはずもなく、さして考え込むことすら意味を持たなくなってしまう。ニコニコと笑みを浮かべながらこちらを見ている若い男に少し苛立ちを感じながらも、もうどうにでもなれと口を開く。
「じゃあ、とある悪ガキの昔話でも、話しましょうか…。」
「あ、あぁ…。」
「部屋の中も、歩き回らないでくださいね…!」
「分かった。」
「そして何より、物音をたてないようにお願いしますね…!」
「難易度高すぎだろ。」
ヒソヒソと小声ながらも、心して大人しくしているようにと散々釘を刺された。繰り返し注意されるもんだから、最終的には辟易としながらも頷いておく。その反応を見て、若い門番は周りを確認しながらも依頼人を呼ぶためにどこかへ去っていった。
依頼人を呼んでくると、若い門番が部屋を出てからどれくらいの時間が経ったか…。部屋の中を歩き回るな、物音をたてるなと言われたもんだから、今の時刻すら満足に把握できない。この部屋にたどりつくまでも、あちこち角を曲がって来たからそれなりに時間がかかっているはずだ。
とりあえず、信じられないくらいふかふかなソファに腰を下ろしたまま、見える範囲で部屋の中を見回してみる。兎にも角にも、豪華な部屋だなって感じ。少なくとも、オレが今まで見てきた調度品の中では最高級なんだろうなってものばかりが置かれている。机に揃えられた筆記具たちは控えめながらも質が良さそうだし、本棚に納められている本も格式高そうな装丁がされているし、壁に掛けられた絵画はどのくらいの価値があるかは分からないが豪華な額に入れられている。
「ったく…。どんだけこの部屋にいればいいんだ。いつ来るんだよ、その依頼者。」
一つ一つの物は良いだろうに、何とも居心地が悪い。最高級品の詰め合わせ、のようなこの空間は、オレにとってはかなり苦痛だ。早いところ用事を済ませて、隣の部屋で寝ている奴のいびきが聞こえるくらいの安宿に帰りたい。
こんな部屋を根城にしている奴なんて、オレたち庶民を何とも思っていないような奴に決まっている。
何度目か分からないため息を薄く吐き出した時、部屋のドアが急に開かれた。
「おわ!?」
「いやーすみません!なかなか会議が進まなくて。あなたが、何でも屋の方?」
「…レイだ。代表のユイは来れない。代理でオレが。」
「そうでしたか。」
うんうんと頷きながら、入ってきた男はオレの向かいのソファに腰を下ろす。慣れたように部屋を歩く姿は優雅なものだ。…オレとそこまで変わらないような年頃だと思うが、頭のてっぺんからつま先まで、どころか骨の髄まで高級品の空気感がしみ込んでいるような雰囲気すら感じる。オレの苦手なタイプだ。
「ところで、この後何かご予定ありますか?」
「え、いや、特には…。」
「では少し私に付き合っていただけませんか。ちょっと時間を潰しておきたくて。」
「はぁ…。」
何だよ。依頼人はまだ来ないってのかよ。ここはその依頼人の部屋かと思ったが、もしかしてただの控室か何かだったのか?そんな部屋にまでこんなにたくさんの高級品が置かれているなんて、城の奴らってのは相当景気がいいんだな。
オレとしては、早いところ用事を済ませて帰りたいところだが、依頼人が来れないんじゃ仕方がない。こいつの機嫌を損ねるのも得策ではないだろう。ここは従っておくのが無難だな。
「さてどうしますか…。何か面白い話でもありませんか。」
「え、オレの?」
「えぇ。」
何だよその無茶振りは。正直早々に従ってしまったことを後悔し始めてしまっていたが、どうにかして適当に時間が潰せないかと頭の中の引き出しをひっくり返す。とはいえそう都合よく思い浮かぶはずもなく、さして考え込むことすら意味を持たなくなってしまう。ニコニコと笑みを浮かべながらこちらを見ている若い男に少し苛立ちを感じながらも、もうどうにでもなれと口を開く。
「じゃあ、とある悪ガキの昔話でも、話しましょうか…。」
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